Jポップ墓堀り

2018年8月21日 (火)

眉村ちあき『目尻から水滴3個戻る』('18、レーベルじゃないもん)

 5月後半くらいですよ、発売直後くらいに買って来てから、ずっと聞いてます。

 これって、完璧にモンドミュージックである。
 モンドの定義って難しいけど、要は既存の世界にとってまったく異質な存在であることでしょ。相容れない価値観の産物。タィニー・ティムだって何だってそうだ。聞いたことないもの。馴染みのないもの。違和感バリバリのサウンドと歌唱。目的がわからん。聴くこと自体が未知との遭遇でありうるような音楽。
 ここで展開されるのは、一応ベースは私たちの知っているJポップにルーツを持っていながら、どっかで聞いた感のあるフレーズやリズム、メロディを断片的に雑多に積み上げていって、無理やりツギハギしまくって、うまく整理できなくて(あるいは最初から整理する気もなくって)バランスもパースも歪んじゃってる音楽である。
 音質も、これがまた、程よく悪すぎでね。あなたなら絶対ミックスしたくなると思うよ。音潰れてて、なんか楽器のチャンネル振り分け悪くてエフェクトかけすぎで、ハイレゾってなに?って調子でね。曲によってボリュームレベルが露骨に違うとか。きびしいでしょ。
 普通そんな系列だと、リピートには耐えない、実験音楽臭が漂う嫌味なものになってしまうはずなのに、異様に力強く歌われる、覚えやすいキャッチ―なサビメロに回収されて、なんか最終的に丸く纏まってしまう。尋常でない。
 そして、あらたまって細部が気になり出してきて、「なんだ、この異様な据わりの悪さは?」って気になり出したら、もうダメ。どんどん気になり気になり出して、結局何回もリピートする破目になっちゃった。

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↑(ジャケットだって立派にモンドだ)
 
 配信をメインに考えているようなので、次のアルバムがいつ出るのかわかりませんが、素晴らしいですよ。フランク・ザッパの『フリーク・アウト』並みに素晴らしいんじゃないですか。ザッパさんが考えてたのはつまりこういうことでしょ。間違いなく、フリークで、アウトしてますよ。眉村が日本のスージー・クリームチーズと呼ばれても驚きませんよ。
 面倒なこと考えなくていいのは素晴らしいことだ。

【全曲解説】

1.ナックルセンス
 イントロはなぜかCDのクリーニング音から始まります。一種のカバーですね。「ナックルセンス」自体は普通にいい曲なんですが、お経化されたヲタ芸ミックス(“タイガー、サイバー、ファイヤー・・・”ってアレ)から続く、サビメロの壊すぎてる歌唱が異常だ。
2.リアル不協和音
 バンドっぽい、なんとなくジェファーソンエアプレイン感満載の名曲。アコギで宇宙で小舟を漕ぐ「Wooden Ship」みたいに、無駄にスケールでかいサイケデリックチューン。
3.コカ・コーラのスリッパ壊れた
 あの、これアーティスト本人が実際に履いてるんですよ、コカ・コーラのスリッパ。余談ですが、若い女の子(20歳)がスリッパ履いてるのって、実に高円寺、阿佐ヶ谷って感じしません?曲は相対性理論「三千年」に適当にインスパイアされたAメロから、まったく違う方向(ネコ方面)に流れていく中央線ソングブック。 
4.スーパーウーマンになっちゃったんだからな
 昔つきあってた男(フラれた)に小声で捧げる(ミックスレベルがこの曲だけ異様に小さい)、ピー音が何か所も入る正直すぎるラブソング。「♪なんだかんだで、あたしはキミしか、好きになったことないんだから♪」が泣ける。正直すぎるのも考えものだ。この世界は不誠実すぎるから。
5.どっこいトゥモロー
 舞台は地上の悪が集う魔界・北千住である。イントロのギターが爆音に聞こえるように注意深く設計されている。北千住の西口で少女は死んだのだ。血反吐を吐いて死んだのだ。思い切り残虐なチューンでありながら明快で力強い。どすこい感がある。
6.東京留守電話ップ
 極めて宇多田ヒカルに聞こえるように祈りを込めて創られたナンバー。スキャットと抒情的なシンセの重なりはそんな路線だが、歌詞は歴然と違う次元に存在している。
 「♪うんこを生み出した人の生きざまなんで、知ったこっちゃないけど
  うんこが、うんこであるための、うんこの生きざまを~♪」

 実はここにリンカーンの奴隷解放宣言と同質の精神が息づいているのだ。うんこをちんこに変えても意外と成立するので、キミもやってみて。
7.I was born in Australia
 名曲。オーストラリア生まれではないのに、そう主張する理不尽さに満ちた曲。しかし翻って、アメリカ生まれをやたら連呼するかの有名な例の曲が不可解不可解千万に思えてくる。「で?アメリカ生まれだからって、それがどうした?!おぅ?この野郎」
 一回目のサビだけが凝った歌詞違いで、「♪楽屋泥棒の常習犯♪」と歌われる。実に心憎い構成である。聴き手の意表を突く以外にまったく意味がない。
8.ちゃら(CHARA)
 これはすごい。CHARAの物真似を披露する(だけ)の曲のタイトルが、CHARAなのである。正気を疑われても仕方あるまい。しかも眉村自身がご丁寧にもCHARA本人にメールを送り、許諾を求めたという。CHARAサイドがガン無視したことは言うまでもない。
 (CHARAにとって)困ったことに、これは実はいい曲だ。物真似パートでは歌っている本人も途中笑っちゃって、歌にならなかったりしているが、力強いサビがすべてを吹っ飛ばす!音楽の力である。
9.ツクツクボウシ ~チッコロチッコロVer.~
 プリティーな楽曲である。ムロツヨシが好きになる。デスメタルボイスからの壮絶早口言葉大会には、一休さんも激おこプンプン。プロモクリップには友達2名が出演しているが、この人たちも本物のキチガイである(※褒めている)。レジェンド小日向由衣の名曲「モップは何も語らない」には一聴の価値がある。
10.宇宙に行った副作用
 とうとう宇宙に行ってしまった。ロカビリーライクなキメから、月亭八方のボヤキ節に瞬間シフトする切り返しが見事。「♪マッソーブルージー♪」がなんだか全然わからんが。「ライク・ア・能年」が脳裏に灼き付いてしまう。のーねん。
11.メソ・ポタ・ミア
 この題名を理解する鍵は、句読点の位置にある。メソもポタも可愛いじゃん?でも合体すると四大河文明になります。これは、ホラあれだ、富貴と信仰が虐殺に化けてしまう『黒死舘殺人事件』と同じトリックだ。しかも曲調はアイリッシュ、ケルトダンスがアメリカ行った系で、そこにハイサイおじさんの沖縄がなだれ込む。ワールドミュージックのミクスチャーだ。中村とうよう『ミュージックマガジン』だ。この一曲でソウルフラワーユニオンの眉間に風穴を空けてしまった。

そして本編終了後、まさにフリークアウトなエンディングがついてきますので、お聞き逃しなく!
 くどいようだが、眉村が日本のスージー・クリームチーズと呼ばれても驚きませんよ俺は。

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2015年12月23日 (水)

校庭カメラガール『Ghost Cat』 ('15、tapestok Records)

 かつてわれわれは「今年のベスト」を選んでいた。なんとまぁ、真剣な態度で、はかなく一年が過ぎゆくことを惜しみ、必死の抵抗空しく年の瀬が近づいてくるにつれ、仲間達とどこかの家に集まって、ああでもない、こうでもないと夜が更けるのも忘れて熱心に語り合ったものだ。
 そういう場に登場する、悪しき慣習が「今年のベスト」だ。
 今年最高の一本の映画。今年もっとも感動させられた小説。よく聴いた音楽エトセトラ。しかし。

 ちっぽけなお前の選ぶベストに果たしてどんな意味があるのか。そもそも、お前に高みから一年すべてを総括する権利などあるのか。

 人はこうした冷徹な客観視が齎す思考にほんの少しだけ大人になって、「ベスト」を選ぶことを自ら望んで放棄するようになる。日常は平坦な連続だ。思わぬ行き止まりが来るまで、我慢の限界を越えてどこまでも無限に連なっていくように見える。リングワールドの底面積よりも長い長い退屈な、心底退屈なスロープ。そこに厳密な頂点などありはしない。起点も終点も見失われた連続性。あっけなく終わりになるというのに、途中を辿っている間は気づきもしない。
 
 そんなくだらない循環思考に釘を刺す意味で、私の「今年のベスト」を選ぼうと思う。校庭カメラガールのファーストアルバム『Ghost Cat』だ。美しいね。実に美しい。

 現在のコウテカ(※このように略すのですね)は、なんでか六人編成となっているので、ファーストは4人編成での唯一のアルバムということになる。一見地味そうにみえて実は中毒性の高いトラックに、明確なJポップ的サビメロが炸裂。あぁ王道、と称賛すべき堂々たるつくり込みが素晴らしい。アイドルポップばかり聴いている今年の私からのお勧めだ。

 ・・・いやーーー、でもね。
 とか言っといてなんですけど、そもそも、「コウテカって本当にアイドルなのか?」という重大かつ根本的な疑惑があるんですよね。だって、ファーストのジャケットなんてパステル基調のコラージュですよ、人体模型の骨とかの。小鳥も宇宙もあって、かわいい猫ちゃんのイラストなんかもありますが、本人達がまったく映ってない。骨は、頭蓋骨・肋骨・頸椎・肩甲骨・尺骨・手根骨・・・とやけに充実してますけど。
 アルバムの見開きでようやくメンバー横並びのポートレイト出るんですが、これがまた、顔半分をカラーマジックで塗りつぶす、という底意地の悪い加工がわざわざ施してある(笑)。これってさぁ、ぶっちゃけ、『ミート・ザ・レジデンツ』ですよ。ビートルズの顔写真にマジックで落書きしてある伝説の極悪ジャケット。あれ、よく出せたよね。基本あれと同じ発想。嫌がらせだよね、凄いよね。
 メンバー名の表記もホント酷くて、公式ページの紹介に従えば、4名の名前は、
 「もるも もる、しゅがしゅ らら、ましゅり どますてぃ、ののるる れめる」・・・ですよ!
 もはや記号論レベルになってるワケですよ。現在の私はハッキリ言いまして、聴き込み完了なので、ボーカルパートはどの声がどのメンバーのものか即答できます!(特徴がハッキリしてるので分類しやすい。)
 いや、そういう問題ではなくて。
 これはすべて狙った結果でこうなってるんですよ。

 現在のアイドルシーンというのは、ホントなんでもありでね。業界を牽引している、まず集団ありきで、ユニットがあって、シャッフルユニットまであって、さらにソロが派生するという伝統的な方法論がありまして。ここでの力関係は以下の図式にあらわせますね。

 企業>集団>個人

 では、そこから取り零れた金のない連中はどうするか。そりゃ自分たちで運営すればいい。いっさいの制約がなくていい。これがいわゆる地下アイドルという方々の方程式ですね。この構造って実は先の図式の正反対な裏返しなの。

 個人>集団>企業

 どうです、民主主義として素晴らしいでしょ?われわれが学校で習った個人の権利ってのは、こういう図式でしたよね、確か?実態は欠片もないけど。輝かしき個人の勝利。
 ただし、きみが千葉のジャガーでもない限り、個人の動かせる資本力なんてのはたかが知れてるワケでして、宣伝広告費はまったくかけられないから、どんないい音楽・パフォーマンスやったって、一般に浸透し受け入れられるまでには、絶対死ぬ思いしますけどね! 
 だから、構造としては個人偏重主義を掲げてているにも関わらず、グループという集団を組織しなければ大企業とは互角に渡り合えない。大資本を背景とした連中は必ず集団で襲ってきますから。つまり立場的には常に空爆を受けてる反政府ゲリラみたいなもんですよ。今年はこういう対立の図式が目立ったね。

 話がだいぶ脇道に逸れちゃいましたけど、コウテカの立ち位置は、だから個人偏重なアイドル業界へのアンチなんですよ。アイドルなんだから個人が尊ばれるのは当然の筈なんですが。匿名性への固執。そのくせタワレコでストアライブやってる矛盾。このへんがキテるよね。
 ・・・とここまで書いたところで、職場の若手から以下のタレコミがありました。

 「アメリカでディック『高い城の男』がドラマ化されてるらしいんですけど、知ってました・・・?」

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2014年12月23日 (火)

ももいろクローバーZ『バトル・アンド・ロマンス』 ('11、スターチャイルド)

 年の瀬が近づくと、怪奇探偵スズキくんの周辺は急に慌ただしくなる。
 出入りの業者が増えるし、掛かってくる電話の件数も飛躍的に上昇する。自分の子供を認知して欲しい母親の行列は引きも切らず、新宿4丁目の事務所を十重二十重に取り囲んでうざったいったらありゃしない。

 「これは普段のボクがヒマなのでは決してなく、日本という国の悪しき習慣なのです」

 革張りの椅子に座って書類に判を押しまくりながら、スズキくんは読者に説明する。今日のいでたちは英国産三つ揃いのスーツに、緋縅付きのよろいにかぶと。全天候型球場の如く、不測の事態(米不足)にも万全の構え。
 57階のオフィスルームは外窓側が全面ガラス張りのため、燦々と陽光が降り注いで眩しいかぎりだ。

 「年末進行っていうのは、ホントもういい加減なしにしていただきたい。
 ・・・っていうか、積極的になしの方向で!ひとつ、よろしくお願いしまーーーす!」

 秘書がお茶を持ってやってきた。

 「依頼人がお見えよ、所長」

 濃いつけまつげでばちりとウィンクする。
 官能的なヒップラインをタイトなダークグレイのスーツにつつんで、胸のボタンは張り裂けんばかり。豊かな金髪は無造作に束ねられ背中に零れ落ちている。

 「あらら、ジェーンちゃんじゃないスか。ゆうべのカラオケは楽しかったでやんすよ~」

 C調に声掛けしながら読者にくるりと向き直ると、
 「元・監察宇宙軍パーサー、ジェーン・ペンティコスト。言わずと知れたアーサー・バートラム・チャンドラー『銀河辺境への道』の筆おろしヒロインでやんすが、彼女がなんで再就職口としてボクの事務所を選んだのか。話せば長いことながら、本筋にまったく関係ない話ですから、ここはあっさり省略するでやんす。悪しからず」

 「なにクッ喋ってるのよ。さっさと仕事して!」

 ベッドの中では甘えた子猫ちゃんでも仕事はきわめてカッチリ派の秘書は、てきぱきと異様に散らかったデスクの上を片付け始める。
 土人のおめん、吹き矢、自動ハエ取り器、ファラオの肖像画12枚セット、大判の『異色昆虫図鑑』、紙巻きだが吸うと危険かも知れないハーブ、ねんど、匠の謹製彫刻刀、ロングドレス仕様のこしみの、脛あて、バイキングの破城槌。よくもまぁ、これだけデタラメに散らかせるものだ。

 「さて、さて」
 気を取り直したスズキくん、汚い指でファイルを捲りながら、
 「本日の依頼人は、文京区にお住まいのAさん四十五歳。吊革に掴まりながらサルの群れが踊るのを模写するのが得意とおっしゃる一風変わった中年男さんでやんす。
 ・・・って、ホントかよ?!」

 ドアを開けて依頼人が入ってきた。
 吊革を片手に持っている。

 「いやー、その、いちおう前振りがあったんで、こんなもん持って参りましたけどねー。吊革なんか持って模写するだけで無理!もう絶対、無理!」

 男はいきなりジェーンちゃんの尻を撫で始め、強烈なビンタを浴びてひっくり返った。
 スズキくんは地の底から響くような重々しい声で言った。

 「・・・あんた・・・。
 さりげなく近所の粗忽者を装っちゃいるけど、正体は古本屋のおやじだろ・・・?」

 頬をさすりながら立ち上がった男、

 「き、貴様、なにを証拠に・・・?!」

 「青銅の魔人、実は二十面相。宇宙怪人、実は二十面相。鉄人Qはさすがに違うのかなーーー?と見せかけ、これまた実は二十面相。
 すべての事件の背後に二十面相あり。
 この理論を応用するなら、貴様の正体は、あのおやじ以外ありえない・・・」

 急に飛び出してバッと仮面を剥いだ。

 「・・・でやんすーーー!!!」

 おお見よ、白日の下にさらけ出されたその顔は、紛うことなき中年男の下品な狒々面ではないか。なんということでしょう、それはあの恐ろしい古本屋のおやじの顔だったのです。スズキくんは背筋がゾクリと凍りつく思いでした。

 「ケッ。」
 開き直った古本屋のおやじ、不逞不逞しく三白眼でにらんで磨き上げられたフロアに唾を吐く。
 「ちくしょう、バレちまったんじゃしょうがねぇ。とりあえず、オラ、ちょっとねぇちゃん、酒持って来いや~!!!」

 「もうイヤ~、ジャパニーズ・お下劣、イヤ~~~」
 ジェーンちゃんが半泣きである。よく見ると調子に乗ったおやじ、背後に廻って思い切り豊満な乳房を揉みまくっている。

 結構本気なその指の動きに眉を顰め、スズキくん、
 「わかりました。もう結構。あんた、今日は事件の捜査を依頼にきたんでしょ?フランス書院的行動原理に基づいて秘書の秘所嬲りにいらしたワケではないのでは?」
 ギクリとしておやじが動きを止める。

 「さらに読みを進めれば・・・」
 スズキくんは冷静に続けた。
 「今回の記事が唐突に柄でもなく、ももいろクローバーZを取り上げているだけに、ここは彼女達のメジャーデビュー曲『行くぜ!怪盗少女』に引っ掛けまして、“あなたのハートいただきます!”ってな方向で、最後に真犯人が指摘されてオチがつくんでは・・・?」

 「な、なにを根拠に、このクソガキめが・・・?!」
 おやじ、怒りにぶるぶる震え出した。
 「それでは、普通にアイドルに突然かぶれ出したおっさん、すなわち高年齢性奔馬狂アイドルヲタそのものではないか。誇り高き『神秘の探究』をなめんなよ。犯行動機はもっといい加減、かつ下品だ!」

 「それでは、あなたはご自分が犯人だと認めるんですね?」
 
 「あぁ、そうとも。
 このブログ内において捲き起こる、あらゆる下品な怪事件の裏におやじあり。今日も今日とて相原コージの記事に、最底辺レベルの嫌がらせコメがついておったが、これもすなわち、おやじの犯行。
 警視庁サイバー課がIPを洗えば、どこぞのネットカフェだか、小学生の個人端末がヒットするんだろうが、それを誘発したお下劣思考は元をただせばおやじ内部に起因する。

【過去記事参照】相原コージ『Z(ゼット)』 ('13、日本文芸社)
http://gyujin-information.cocolog-nifty.com/sinpinotankyuu/2013/06/z-13-dc8e.html

 ・・・それにしても、本当に酷いな。さすがにめげるわ!」
 
 世慣れた怪奇探偵は軽く手を振り、笑いながら、
 「いやいや、こんなのは児戯に等しいお遊びですよ。ネット上になら殺人予告だろうが、個人への中傷だろうが、なにを書き込んでもいいんだと思い込む幼稚な人間は後を絶たない。いっけん規制がないように見えて本当はすべてが見張られている、ってことすら積極的に知ろうとはしない。実はそれがネット社会というお化けの正体なんです」

 「中井英夫か(笑)今回はやけに推理小説めくな。
 相原の記事に関しては、【グロ注意!】とでも書いて張っておけば勘弁して貰えたってことなのかな?ひょっとして、それがネチケット(死語)ってやつなのか・・・?」

 「単純に、“不快には不快を”って発想なんでしょう。懲罰思想がハムラビ王以前だ。いいんです、そんな話は。もう。
 それよか、あなたはいったいどういう動機で、ももいろクローバーZのCDを購入されたんですか?
 相手はメジャー過ぎですよ。紅白三回出場、全国で大人気ですよ。全盛時にピンクレディーの『サウスポー』のレビューを書くようなもんですよ?」

 「いや、ヌケるのかと思いまして・・・」
 おやじは悪びれず、言い放った。
 「こんなに人気があるのは、こりゃきっと全国の若い衆がヌケてヌケてしょうがないのかな~、などと勝手に思い込みまして・・・」

 「はァ・・・???何考えてんですか、いい歳こいて」

 「うん。完全に勘違い。さっぱり抜けやしない」

 「そりゃそうだ」

 「
で、結論として申し上げますが、そもそも具体的に精子が出てしまいますってぇと、コレはもう普通のアイドルの領域ではないわな~、と。それはAVアイドル、もしくは人気風俗嬢の閾ではなかろうかと」

 「・・・あんた、落語家さんですか?」

 「ま、結論としてはちっともヌケなかったワケなんですが、グループ内のメンバー離脱に東日本大震災復興を絡めて書かれた(!)シングル『Z伝説』には、なんか泣けてきまして・・・」

 「・・・エッ?極悪人のあんたが?
 実は、涙腺あったんだ?」


 「はぁ、実はふたつほど。
 いやね、聴きゃわかるんですが、この歌、非常にわかりやすい特撮戦隊モノのパロディー形式なんですよ。Dさんなんかが、昔からお得意の。普通にやったら非常に薄っぺらい、仮面ノリダーの主題歌ぐらいのインパクトしか与えられない楽曲なの。もちろん、あたしもこの手は昔から大好きですけどね。エキセントリック少年ボーイとかね。系列があってね。
 で、一方でコレ、メンバー自己紹介ソングの伝統も踏襲してる。おニャン子会員番号の歌とかさ、RCサクセション『よォーこそ!』でもいいんだけどさ。要は、万事がノベルティーソングだってことなんだよね~」

 「あぁ、そこは理解できます。ミュージカルの楽曲なんかにも共通しますけど、楽しくてわかりやすくて人懐っこい感じ。恥ずかしい歌詞も素直に聴けて、つい感動してしまったりしますね」

 「そうそう、そういう聴きやすい軽い形式にのせて、震災とか重い現実を歌うもんだからさ、“♪やまない雨なんてない~”とか、浅薄で類型的な筈の言葉がよりによって輝いちゃってるの。で、勢いよく被せて、一生懸命な、お子様の声で“ぜったいあきらめない!”とか叫ばれるとさ、あぁ、俺も明日っから頑張ろっかな、って素直に思いますもの」

 「明日からってとこが、中年のリアルさだ(笑)」

 「これはスタッフが相当確信犯だったんだろうと思いますよ。言葉の方向性、全部が全部、限界までメーター振り切っちゃってますもん。いまの暗すぎる世相に敢えて希望を歌うんだったら、中途半端は絶対よくない、すかしてちゃダメだ、とにかく全力で全部見せきらないといけない。ゆえに振付けも思い切り全開だ!みたいな。
 でも、必然性のある全開っぷりなんだよ

 「確かにプロモの振り、異様に激しいですもんね。センターの子なんかエビぞりハイジャンプまでキメてる。えらい。惰性で生きてる連中は全員反省。丸坊主」

 「つまりは、可愛い女の子集団なのに、見事に男っぽいんだよ。歌詞含めて。
 軟弱化が極まった昨今の男子よりよっぽど男気にあふれていると思う。実際、“熱い熱い熱い思い、俺達は!”って歌ってるし。この逆転した男気にやられる男は意外と多いんじゃないかな。一方で、バラード系は純情系で。この倒錯度合いが実に2010年代って気がするね」

 言葉をちょっと切って、おやじ、唇を歪めて笑うと、
 「ま、これだって“夢に向かって普通に努力できた人たち”のためのアイドルなんだけどね。
 裏街道の人には、裏街道の人専用のキリストが必要になるんだ」

 「唐突に、でかく出ましたね。もしかして、伏線・・・?」

 「そう!毎度おなじみ・・・・・・!」
 
 (次回につづく)

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2014年11月16日 (日)

『初音ミクsingsハルメンズ』 ('10、ビクター・エンタテインメント株式会社)

 「会田我路って本気で少女が好きなんだなぁ~」と、変わらぬ熱意の総量に慄然とする今日この頃であるが、いや無駄口はいい。今回はボカロP(※Pはペニスの意)のお話である。私の周辺にもPと化した人物がいるぐらいなので、国民全体に占めるP人口は昨今相当に高いと思われる。まったく無駄なことをする。

 コンピューター・ミュージックに対する批判というのは大昔からあって、要は生理的に不快だ、せっせと打ち込む暇があったら楽器練習しろ、といったような本質的に言いがかりに近い悠長なレベルのものなのだが、人声を模したクリプトン社のソフト「初音ミク」に対する言い知れぬ不愉快感はこれとちょっと違う。

 キャラクターデザインが嫌だ、だいたい髪型が変だ、コンセプトがいちいちむかつく、といった原初的レベルではなく、どうもデジタルが人間を模倣するときに生じる根本的な“違ってる感”に原因があるような気がする。(そういう意味では不自然な楽曲ばかりが並ぶハルメンズを歌わせるというのはアイディア勝ちだ。)
 事情がややこしいのは、わざと人間の声を機械っぽく加工するソフトまで一般に普及していることであって、音楽業界におけるメカ声はZAPの昔からまったく珍しくないとはいえ、ここまでメカだらけだとなると、甲児くんも乗るメカに困る事態に。しかし、コンピューターが歌っちゃまずいっていうんだったら、ゲーム業界はどうするんだ。ニセギターニセ太鼓の立場は?あれはFFⅥだったと思うが、主人公がオペラ風の曲を歌って進む展開があったぞ。8ビットや16ビットの時代に比べれば初ミクって進化しましたなぁー、確かに。

 ドラクエは現実に冒険していないからダメだ、という批判が成り立たないのと同様に、本当に歌っていないからダメだと初ミクを貶めることは決してできない。
 できないが、でもなんかムーブメント自体が異様にむかつく気がするのは、私の知り合いも同じくで、音楽業界的に負け犬の人間に対して甘い一発逆転のドリームを囁く蠱惑を秘めているからじゃないのか。売女め。
 お前ら、親切心から言っとくぞ。そこに夢はねぇ。

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2013年5月30日 (木)

パラダイス・ガラージ『ROCK'N ROLL1500』 ('95、TIME BOMB)

 「知らないと損をする!」級の傑作として、パラダイス・ガラージのデビュー盤を取り上げておきたい。2008年にボーナス2曲追加して再発がでているが、私が何も知らずに買ったのはオリジナル盤。
 当時の定価1,500円(税込)。中古価格1,300円(税別)だったから、明らかにプレミアム。

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 そもそも、なんでこれを知ったのか説明すると、ズボンズとかゆらゆら帝国なんかの参加しているオムニバス「Ricetone Cycle vol.1」というのがありまして。コレ、QUATROが出してたりしまして既に充分時代を感じさせる遺物なワケですが、ま、先日中古価格500円で入手しまして。
 いまさらながら結構面白くて連日聴いているうち、収録されてるアーチストの個別盤を探してみようという気になりまして。で、ズボンズのデビュー盤とか聴いてみて「あぁ、つくづくつまらねえー!」と激しく思い、それでも懲りずに次に手にしたのがこの盤だった、と。

 で、ちょっと感動しました。やりたいこと、やってて気持ええ。

 宅録なんですよ。TEACのカセットデッキまわしてやってる。その他レコーディング場所もカラオケボックスとか、スタジオはスタジオでもスタジオ・ペンタだったりしまして。
 漂うノイズの感じまでが、なんか強力に既視感のある音風景(サウンドスケープ)。くぐもった音がまた、カセット特有の籠もりかたをしてまして、「やっぱカセット最強、くたばれデジタル!」っていまさら改めて思いました。
 
 内容だって、輪をかけてひどい。
 「・・・インポだって、やりたいんだよ!」
 「インポにもセックスさせろ!」

 と、選挙運動並みに、冴えない男がぼやきまくる最悪なコラージュだとか、紙箱をドラム代わりに女言葉フォークで歌い上げる「海を知らない小鳥」だとか、レジデンツ風のバックトラックに乗せて「♪ブルー、ブルー、ブルース・リー」とか、明らかにオルタナ、「哀愁のヨーロッパ」それはサンタナ、いっけんデタラメ風に見えて実はちゃんと小技が効いている。実力のほどが窺われます。
 意図的に普通にやってる名曲「移動遊園地」やら「家族旅行」を聴けば、誰でもそれは納得でしょ。(ここで佐藤師匠はYOUTUBEでパラダイスガラージ「移動遊園地」をチェックされたし) 

 なによりびっくりしたのが、このアルバム、ライナーにでっかく手書きで、

 「dedicated to 佐野元春」

 と、堂々とさらしてある!
 しかも、別の資料によりますと、彼の(※申し遅れましたが、パラダイスガラージは個人のユニット名)いちばん好きなアルバムは、『VISITORS』である!そんな無茶な!
 (いちばん好きなプリンスのアルバムは『LOVESEXY』ってのも危険すぎ。『BORN IN THE U.S.A.』ってのも)
 こんなに堂々と、そんな恥ずかしくて死にそうになるシロモノにオマージュを捧げる人は初めて見た。その点は明らかに素晴らしすぎるので、松山千春『起承転結Ⅱ』を同じくフェイバリットに挙げている事実は、この際だから忘れてあげよう。

 さぁ、聴け。
 なんでもいいから、恥ずかしくて死にそうになるものを。

 いい加減、本音で話そうじゃないか。
 オレとおまえ、手遅れになる前に。

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2013年4月23日 (火)

ハナヨ「献上」 ('00、BeatRecords)

 金属音ゴリゴリもありますけど、ピアノもありますのよ。インダストリアルノイズをバックにしてゲンズブールの「アニーとボンボン」が飛び出したりもします。ジャケットにこっそり鉤十字が入っているのも見逃せません。あと、「君が代」のカバーもやってるんですよ。
 うわ。痛い記号の羅列ですね。でも基本ポップです。タイトル実はジャムのラストと同じですし。立ち位置が似たアルバムとして、スネークマンショーのセカンド「戦争反対!死ぬのは嫌だ」が挙げられます。「ホテルニュー越谷」のカバーバージョン 収録!というのはデマですけど。やって欲しかった。

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2013年4月13日 (土)

カーネーション「夜の煙突」 ('84、ナゴム)

 しつこいぐらいに言い続けないと、わたし達は忘れる。それはもう平気で忘れてしまう。
 だから、ただの紹介記事だろうが多少の意味があるのだと思う。
 すなわち、「これは名曲である」と一方的に決めつけ立ち去ること。重要なことはなにもない。通り魔がとおったようなものだ。
 世の中のブログの大半はこうした記事でできている。

 しかし、記憶のいい加減さでは国際秘宝級の自信があるわたしは、「夜の煙突」をはじめて聞いたのがいつだったか、すっかり忘却の彼方に追いやってしまっている。これでは思い出話はできそうにない。
 はてさて、あれはいつだったろう。森高千里が「煙突」をカバーしたとき、既にその存在を知っていたのは確かだ。とすると'89年より前か。みんな、今より金を持っていたよなー。

 さて、これはどういう曲だったのか。
 もっともおどろくべきは歌詞の簡素さ・ミニマルさであって、三行ぐらいしかない。ちょっと具体的に記述してみようか。
 (作詞・直江政太郎)

 ♪ボクは夜の煙突・・・

 というイントロの繰り返しがあって、

 ♪とんかち叩いて働いた あとの愉しみは
  ポッケに隠れている きみとデート


 これが、一応Aメロですわな。

 で、いったんブレイクしてからサビへいくんだけど、まずはサビと同じ進行で、しばらくキーボードのリフレインがのるの。
 このタメのつくりかたに、じつはこの曲の成功の秘訣があるような気がするよ。
 サビは、かの有名な、

 ♪はしごをのぼる途中で 振り返るとボクの家の明かりが見える
 
 という、すばらしいメロディーに追っかけコーラスの連打。完璧。
 そして、Cメロにあたるブレイク部分、
 
 ♪雲がかくれた ズックを捨てた

 ここまで。
 以上のパーツくみあわせで、この曲の構成要素はすべて。
 あとは適確な器楽演奏アレンジと、熱気のこもるボーカルと。おどろくほどの高揚感を生んでいる。
 名曲って、じつに効率いいんですよ。

 あと、これはあくまで耳で聴くための歌詞だよねー。
 以上の言葉だけ目で読んでみても、なんにもわかりませんもの。だから、じつさい聴いてみてくださいね。
 
 わたしたちはなにかを見つけ、かってに名作よばわりし、それからすぐに忘れてしまう。
 だから、こうした記事も多少は意味があるのだと思う。
 なにもかも忘れてしまう、わたし達のために。

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2012年1月28日 (土)

ムーンライダーズ『Dire Molons TRIBUNE』 ('01、DREAM MACHINE)

 考えてみれば、相手もいつの間にか老人だったのである。

 ムーンライダーズの無期限活動休止を最初聞いたとき、実は全然ピンとこなかったのであるが、今回の記事を書くにあたり、サーチをかけましたら、鈴木慶一のブログに行き当たり、そこで事の真相を垣間見た気分になりました。

 記事の内容自体は、ほとんど時候の挨拶的なもので、わずか5、6行で終了してしまう(!)。ま、でも、芸能人のブログってのは全般そんなもん。いいよなー。
 問題は、そこにつけられたファンや関係者諸氏のコメントである。
 「お疲れ様でした!」
 「お疲れ様でした!」
 「お疲れ様でした!」

 ねぎらいの嵐なのだった。

 よく知らないが、大企業の会長とかオーナーとか重鎮に対するコメントってのは、そんな感じなのかも知れない。
 飯を喰っても、女を抱いても、階段を昇ったって、「お疲れ様でした!」なのだろう。
 オムニ社クラスの大企業の社長になれる奴は一握りだが、もし寿命が百歳越えればきみだって立派に待っている世界だ。
 チャンスは、誰にでもある。

 さて、ムーンライダーズがこれまでの活動で何を成し遂げてきたというのか?
 的確に説明できる人は少ないが、やはり最も驚くべきなのは、売れなければ淘汰されて当然のメジャーなフィールドにおいて、かくも中途半端に有名なスタンスでバンド活動を継続してきたことだろう。
 これには、さすがに類似する例が他に見当たらない。(海外ならありそうだけど。)
 たいていは、途中でポシャる。
 「ムーンライダーズにはなりたくないですね」発言をしたフリッパーズ・ギターがまばたきするより速く、秒殺されたのが典型だろう。(この発言を受けての鈴木慶一のコメントは、「なれるもんなら、なってみな!」子供の喧嘩か。)
 しかし、この大物感のなさは貴重だ、と常日頃思っていたのだが、どうやらそれは私の勘違いだったようだ。
 立派に尊敬もされれば、なにかと引き合いに出される存在だったのだ。
 ほら、アレですよ。アレ。古くは江口寿史に「青空百景」の名前が。最近だと、岩井だエバゲリのマンガだなんだかんだで。
 詰まるところ、妙に業界評価の高い人達という結論になるようだ。つまらんな。身震いしそうだ。
 まぁバンドを百年も続けていれば、いろいろ尾鰭もつくんだろ。そういうことだ。

 で、あたしの考えるムーンライダーズのベストなんであるが、この方がた、シングルヒットは一切無く、アルバム単位で作品を延々リリース続ける活動をメインにしていたので、やはりアルバム単位で考えたい。
 (但し、いい加減がモットーの私はまだラストアルバムを聴いていないから、そのつもりで。『TOKYO7』がいまいちだったので、まだ買っていないのである。)
 しかし今更『火の玉ボーイ』や『ヌーヴェル・バーグ』を挙げるのもどうかと思うので、もっともいい加減なアルバムはどれか、という観点で選ばせて頂いた。
 (ちなみにもっとも重厚なつくりのアルバムなら、『ムーンライダーズの夜』である。)

 で、輝ける第一位が『Dire Molons TRIBUNE』ということになる。

 これ、好きなんですよー。いい加減で。
 だいたい、題名が「バカ新聞」ですよ。適当すぎるフリークアウトを遂げたイントロから、「ラウンドミッドナイト」を小唄風味でセッションしてると、聴いてる奴が寝ちゃう凄いエンディングまで、誰も言わないけど、これ、名作だと思いまーす。
 曲の題名までアバウト過ぎで、「静岡」、「俺はそんなに馬鹿じゃない」とか、真珠の飛沫をあげてるスイマーが泣きそうな方向性で、素晴らしい。
 「静岡」なんて、「新茶を淹れてあげる~」だぜ。

 剥けてるネ。
 完全に剥けてる奴の言いそうなセリフだ。


 あぁ、そういう意味では、歳喰ってからの方がいいもん出来る人達ってのも、あっていいじゃん!なんか口調変わってますけど。
 この人達の消滅は、なんか、アルバム単位でモノを考えるのも、そういう時代も限界に来ているひとつの証拠なのかも知れない。
 

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2011年12月 4日 (日)

パフューム『JPN』 ('11、徳間音工ジャパン)

 血は信じられる。恐怖は信じられる。
 ならば、パフュームはどうか。実のところ耳當りのいい適度な音楽に過ぎないのでは?過剰に放射線物質を含んだか細い雨が降るしきる街に私は出かける。すべてが濡れそぼち震えている。空に光は見えない。不自然なほどでかい人間が道幅いっぱいに拡がって歩いている。吐き気を誘う臭いがさっきから流れているように思うのは、錯覚だ。感覚器官が狂い始めているのだ。明滅するネオン。人工的な汚染が進む。
 かわいいもの。美しいもの。
 そんな胡散臭いだけの存在に何かの価値があるのか。私の知っている最高にかわいい音楽は例えばシャーマン兄弟のペンになる「トゥルーリー・スクランプシャス」だ。映画『チキチキ・バン・バン』の挿入歌。前半は姉と幼い弟、本物の子供二人が歌っていて、ま、本物だからこれが可愛いのは当然として、相乗効果というのは怖ろしいもので、ヒロインの結構いい歳のおばさんが声を張り上げて歌う後半まで可愛くなってしまう。曲がいいんですよ。ジャズの根っこが生えてはいるものの、異常に覚えやすいメロディーの親和力と普遍性。アメリカの夢は誰の夢?ってね。
 たぶん、きみがCDを買い続けている限り、J-POPの時代は終わらないだろう。
 それがいいことであれ、悪いことであれ。私は人がなぜ作品を買い続けるのかを知りたいだけなのだ。がっかりするに決まっているのに。それについて語り、議論をし、最終的に仲間達は離れていく。永久に続くものがあるとすれば、それは一条の光芒。瞬間的なきらめき。逆説的だが、本当にもう、ただそれだけ。
 
 意外と律儀な性格の私は、せめてもの罪滅ぼしに楳図かずお『闇のアルバム2』を同時に購入するのだった。

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2011年9月18日 (日)

大友裕子「死顔」 ('79、YAMAHA)

 真夜中。
 電話口で、Y氏がその名前を思い出したのは偶然だった。

       ※

 『なんか、ガキの頃TVで観たんだよね。確かに。
 “♪死んでもいいと思~っ~た~”って、すげぇ歌い上げる曲があってさ。印象に残ってる。』

 「そんなバカな。やべぇじゃん。放送できないよ、ソレ。」

 私は、この男特有の冗談だろうと一笑に付した。
 深夜の電話で、バカ話はつきものだ。私はタバコに火を点けた。

 『いや、ホント、ホント。子供ごころにも、イヤなものを見た記憶が鮮明に焼き附いたから。
 歌手の名前は、たぶん、大友とかなんとか・・・』

 「オートモ・・・」

 私の脳裏に『ロボコップ3』のメカ忍者が映っていたとしても、誰に責められようか。
 パソコンの前で電話していた私は、そんな訳はないと思い直し、即座にキーボードを叩いた。

 「検索キーワード。“大友”“死んでもいいと思った”・・・あーーーッ!!!」

 『出た?』

 「ホントに、で、出やがった・・・!」

 そこに現れたのは、チリチリにもチリチリ度数が濃すぎるパーマをかけ、冥界から来たような不吉極まる黒い衣裳を纏って、積み木くずしが更に激化したような化粧、デスペレイトなアイラインに濃すぎるルージュを引いた、やさぐれきったおっかない女の肖像だった。

 「完全に伊藤潤二のマンガだな、こりゃ・・・。」

      ※

 大友裕子。
 1959年東北出身。19歳、東北学院大学一年の’78年、ヤマハのポプコンで優秀曲賞。自作自演のシングル「傷心」でメジャーデビュー。
 
 「ま、これが例の“死んでもいい”ソングなワケだが・・・。
 暗い歌ならゴマンとあるけど、この曲の破壊力が妙に強力なのは、大友さんのドス黒い押し出しまくるボーカルスタイルによっているものと推察されるな。」

 『酒焼けか。もっと、ヤバイもんかも。(含み笑い)』

 「でも、この頃の歌い手さんには、こういうパターンってあったでしょ。若い女のキャピキャピ声なんて、'80年代のアイドル歌謡以降の話で。
 それ以前は、決して表沙汰に出来ない御法度だった。」

 『しかし、改めてすげぇ19歳だわ。
 “傷心”のB面、“ワイルド・ガイ”っての、すげー気になる(笑)。』

 「“ガイ”っつー響きが、いいよね。現代じゃ絶滅してるもん、“ガイ”って奴は。
 で、彼女はこの“傷心”で世界歌謡祭にも出場し、最優秀歌唱賞を獲るんだよね。デビューから数ヵ月後。いきなり世界の頂点です。」

 『完璧にシンデレラ。但し、地獄出身。』

 「そこだけ、デーモンと同じなんだ(笑)。
 歌詞だけ読むと、“あなたのためなら死んでもいいと思った”って、本来ならイイ話の筈なんですけどね。なんで、こうドス黒い印象を残すのか。」

 『類似品とは本気度が違う。いわゆる“本気汁”が出てる。本当に包丁で刺しそう、ってことだね。実際、店で買ってきてると思うね。』

 「で、満を持して発表されたセカンドシングルが、“手切れ金”です。」

 『・・・天才!』

 「うむ。この連鎖は凄い。凡人には真似出来ないセンスが感じられますよ。これも、自分で作詞・作曲してるワケだし。
 事務所の押し付けプロデュースじゃないでしょ。何処を狙ってるんだか、最早よく解らんし。
 この時期、太田さんはプリンスを飛び越えてスライの域に到達していたのかも。」

 『おいおい、太田さんじゃねーよ!』

 「(無視して)“手切れ金”はちょいとアップテンポで、R&B色のあるブルージーな感じの曲です。ま、ファンキー色はアレンジャーの仕事でしょうけど。
 歌メロがベタなニッポンというか、フォークのバカども(R)出身なのが節回しの端々から聞き取れます。ただ、この人、歌謡曲の作家ではないので、キャッチーなサビとか出てきません。そこが音楽的には惜しいのですが、女の人生的にはオッケー牧場だったことがのちのち判明します。」
 
 『で、その次が最高傑作として孫子の代まで語り継がれる、問題作、“死顔”だね。』

 「死に顔!!なんて不吉なんだ!!」

 『例によってバラードパターンなんだけど、作詞のスキルがフル活用されてる。
 一番“♪心に映る、あんたの死に顔”、二番“♪鏡に映った、あたいの死に顔”ときて、三番“♪窓に映る、ふたりの死に顔~”だからさ!!』

 「死体の三段活用!!思いっきり心中しとるやないか!!」

 『まさにリアル天国への階段。プラントも号泣。』
 
 「でも、このへんで、たぶん、太田さんの中で何かが終わったんでしょうね。
 案外、気が済んじゃったのかも。
 その後、包丁とか剃刀とかの重要な要素は影を潜めて、次にテレビに出てきたときには、白いドレスとか着ちゃってますからね。しかも黒い喪服の上から着込んだような不自然さ加減がなんともマニアックで。
 アレッ?っと思ってたら、1982年結婚して芸能界を引退です。」

 『よかったよ。旦那に感謝することだね。』

 「受け止めてくれた男の愛に乾杯!素手で核燃料棒を鷲摑みにするような、真に勇気ある行動だ!フランスを代表して敬意を表するぜ!」

 『この記事の恐ろしいところは、簡単にYOUTUBEで検索して確認できちゃうとこだね。』
 
 「とにかく、“傷心”“手切れ金”“死顔”の三曲はマスト!この記事を読んだきみは、ダウンロードして、いますぐデスクトップに保存!
 いつでもいや~な気分になれるゾ!!これぞ、リアル負の遺産だ!!」 
 
 『でも、太田さんじゃねーから、間違えんじゃねーよ!!
 シューーー、ヤッッ!!!』

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