マンガ!マンガ!!マンガ!!!2

2017年12月 2日 (土)

いけうち誠一/原作・中岡俊哉『マクンバ』(『呪いの画像は目が三つ』) ('85、立風書房レモンコミックス)

 眠れぬ夜、真夜中に思わず「マクンバ!」と叫んだ経験ならだれだってあるだろう。
 人生、山あり谷ありクロード・チアリ。人の一生には「マクンバ!」あり。われわれは呪いを離れては生きられないし、呪詛と憎悪は世界の共通言語。愛と平和に満ち溢れた、優しい無色無臭のクソくだらねぇ世界に、一滴の朱色の飛沫を迸らせる。ザッツ・ミーニング・オブ・ライフ。そう、呪いこそが人生だ!

 あ、そやそや、申し遅れましたが、
「マクンバとはポルトガル語で呪いを意味する。」 マクンバ!

 ということで、今回採り上げますのは、業界では超有名な事故物件。しかも多重衝突事故がさらなる連続追突事故を呼ぶという、究極吟醸仕上げ、極うま、神レベルでの謎の負の連鎖。倫理的に、論理的に、道理的にどう考えたって問題を含まない、無難かつ甘いページなどまったくもって存在しない不思議。奇跡が生んだ、怪奇コミック界神秘の中の神秘。なんでやねん、と疑う心をドブに捨てて全身全霊、本気でかかって読みに来い!そう、きみの努力は、報われないこと保証付きだ!では、いくぜ!

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 どうや、この挑発的な呪われた表紙!
 内向きにかけられた“お多福”の暖簾を背景にぐつぐつ煮えたぎったおでんを口に含む、おちゃめな、思わず張り倒したくなるような男。寄り添う究極の美少女は、これまた水色の髪に緑のヘアバンドという、ロンドンサイケを連想させる配色センスが最悪のセレクション。描かれたおでんのつゆが、こいつが煮しまり過ぎてて目に染みて、老舗の焼き鳥店が使う壺入りの醤油だれにまったく酷似・・・って、違う!

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 そうそう、これこれ。ゴメンなさいね。
 どうです、キミの中にもう読みたくない気持ちがフツフツと沸いてくるでしょう?
 背景にある巨大な目も完全に死んでて嫌だが、血を吹く花嫁が特に嫌だ。嫌すぎる。そしてなにより、下段でダッシュする青春真っ只中のチルドレン四匹。人体パースが微妙に寸ずまりに歪んで狂って、これまたダルな気分にさせられる。
 あと、ここではいけうち先生たちの名前が鮮烈な赤いフォントで印字されておりますが、
 赤インクで、赤チョークで名前を書かれた人は、100%死ぬんだからね!
 
おいおい、気をつけろよ!


 で。
 まずは、いけうち誠一先生について。高校卒業後、白土三平に師事しアシスタントを務める。講談社で賞を獲って「別冊少年マガジン」でデビュー。
 打者をガンにする魔球、その名も「病魔球」が登場する野球マンガ伝説の名作『あらしのエース』(’75、立風書房ダイナミックコミックス)やら、かつらが怖い!死者の人毛より作りし恐怖のかつら!永遠の代表作『呪いのかつら』(’82、廣済堂恐怖ロマン)、

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 あるいは本書のようなマイブーム・イズ・オカルト精神世界な著作の数々を経て、80年代よりおやじ臭漂うゴルフマンガの世界へと進出。現在はゴルフマンガ界の巨匠に成りおおせてしまうという、まさに変幻自在のダイナマイトマジック!変わり身こそが人生よ。

 というところで、ニュースです。
 東京・六本木の路上でごみ収集車を盗んだとして、23歳の男が警視庁に逮捕されました。男は「朝の混んだ電車に乗りたくなかった」と供述しているということです。
 https://news.nifty.com/article/domestic/society/12198-113462/
 ちなみに盗んだ収集車は運転しにくかったのか、飽きたのか、3キロ進んで路上に放置したんだそうで。
 こりゃアホです。誰が見たって完璧なアホです。そんな無駄なことしてないで、さっさと電車に乗って帰ればいいと思います。美化委員の人は車を盗まれないよう注意をしてください。以上で学活を終わります。

 つづきまして、「白石麻衣、女性写真集で歴代最高の年間売上」ということにつきまして今季国会で話し合ってみたいのですが、
 https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12173-oric2101620/
 ハテそうだっけ、宮沢りえの例のやつはもっと売れてなかったっけ、と思いましてサーチしてみましたら、なんと155万部売れてた。すげぇ。そんなに売れなくていいよ。
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50272
 じゃあ「女性ソロ写真集の週間売上としては歴代最高」という白石に関する記述はどうなっとるのか、そもそも白石って誰やねん、白石まこ?それは違う。この記事、よくよく読み直してみますと、前段に「2008年の当ランキング集計以来、女性写真集としては歴代最高の年間売上記録」という記述がある。よりによって2008年かよ、数字集計のマジックやわー。
 人類の歴史ってのは10年ぐらいの幅しかないんかい!底の浅い数字を振りかざすのもえぇ加減にせいよ!
 てな感じでこういう輩が多いんですわなー、最近。
 ということで本法案は可決となりましたー。

 ・・・しかしあきらかに私の記事は無駄が多いな。本論に入ります。今回の眼目は、「マクンバ」の提示する呪いの数々を列記することにある。呪いのカウントダウン、全部尽くしだ!
 しかしその目的を完遂するためには、「マクンバ」全編をちゃんと読み込まねばならない。それがどの程度有意義な時間だというのか。実に残念だ、その役がきみじゃないなんて。

■第一話、よみがえる呪い 
 
 すべての呪いには、科学的かつ強引な根拠がある。簡単に申しますと、因もあれば果もあるというやつ。卵が先か、ニワトリが先か。それが果てしなく複雑怪奇に巡り廻って、どっちが先だかわからなくなる。親子丼ができあがる。それが呪いだ!
 
呪いの1、歯がァ~黒くなる~呪い~

 創立50周年を迎える東京都下の青木中学。古くなった講堂の取り壊し工事という平凡な事態から、想像もせぬ呪いの連鎖の幕があく。
 もともと講堂には呪いがかけられているという噂はあった。そのため、老朽化しても建て替えられることなく、今日まで使用されてきたのだ。安全施策上いかがなものかと思われる学校側の弱腰すぎる姿勢に父兄からの批判が殺到し、遂にリフォーム大作戦が貫行されることとなった。比較的怪しくない土建屋と契約し、テントが張られ、作業員がつるはし片手に構内に入った。
 その日から恐怖は始まった。
 腹痛、かぜで休む生徒がいきなり急増。ノイローゼでブツブツ呟いていたかと思うと、自殺する者まで出た。解体工事を行っていたイラン人は落下してきた建物外壁の下敷きになり死亡。すべて不幸な事故である。しかし、このへんの定番的な呪いの連打はまだ甘かった。
 工事が始まってから、歯がだんだん黒くなる男子生徒。
 毎日磨いても磨いても黒ずみが取れない。歯医者もお手上げ、ホワイトニングも効果なし。すぐ真っ黒くなる。しかし、これっていったい誰が得をするのか。呪った者に果たして利益はあるのか。それすら不明のままに事態は深刻化し、気が付けば完全お歯黒状態に。 
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(※画像は勘違い。これは鋼鉄の入れ歯である。)

 お歯黒、ある意味おしゃれな気もするが、本人にしてみりゃ深刻だ。常にマスクを着用し、人前では水も飲めない。まさに現代医学では解明できない原因不明の奇病。
 「だが、俺にはわかっている・・・・・・」
 呪いの連鎖を追う女主人公に対し黒い歯を見せつけて男は言う。「これは呪いだ!あの講堂の呪いなんだ――ー!!!」
 ・・・って、話が飛躍しすぎ。そもそもなんで講堂の呪いとわかったの?
 「わからない・・・わからなすぎる・・・あぁ、おそろしい!!!」
 

呪いの2、歳がァ~やたらとイッてしまう~呪い~
 
 これは本当に怖いかもしれない。荒れ狂う恐るべき講堂の呪いの牙は、女主人公のマブダチにも向けられた!
 昨日まで女子中学生だったのに、朝起きてみると腰が痛い。全身妙にグッタリ疲れてるような気がする。髪を触ったらゴッソリ抜け落ちた。しかもそれが白髪。アレ、おかしいナ?と思って鏡を見たら、そこに映っていたのは、80歳だか90歳だかの見知らぬのバァさんの顔だった。
 「ギィィヤァ~アァ~~~!!!」
 老人パスもらわなきゃ。優先席にだって座れる。近所でゲートが打ち放題。
 しかし待てよ、両親より年齢イッちゃってるじゃない?別の意味での扶養家族。あたしの青春どうなるの。思春期、パンチラ、初体験。こんなんじゃデートにだって行けないし、処女膜だって破れない。更年期どころか軽く閉経期越えしてるし、妊娠の危険はないとして、中出しオールオッケーとしてもまだ割に合わない。おつりがくるよ。
 「う、ギィィヤァ~アァ~~~!!!」
 登校拒否しか選択肢がなくなった。泣く泣く打ち明ける親友の無残な姿に、主人公はひたすら戦慄するしかなかった。確かに酷い話だが、どのへんが講堂の呪いなのか。

呪いの3、皮膚がァ~うろこ状になってェ~溶ける呪い~

 解決篇。以上の呪われたあらゆる因果関係は、すべて主人公の先祖(武士)が悪いと判明。意外や講堂は悪くなかった。それが一番の衝撃だ。唖然とする関係者一同。犠牲となったイラン人の冥福を祈る工事現場監督。
 「一体、どうしたらいいの・・・?私自身の先祖が原因だっていうのに、呪いのパワーは私へ向かうのではなく、無目的に拡散し、罪もない周りのみなさんを傷つけていってしまう。果てしない繰り返し。なんて、おそろしい・・・・・・」
 「目には目を!呪いには呪いを~!」
 そのとき、突如現れた三つ目玉の呪いの精(だれ?)が叫んだ。
 「おまえ自身の秘められた呪いパワーを解き放て!
 実はそういう家系なんで、ゲーム序盤戦から、かなりプロフェッショナルな呪いをかけることができます!
 呪ってる相手を逆に呪い殺して、呪いと呪いの相殺処理を狙うのじゃ!貞子VS.貞子じゃ・・・!!!!」

 精霊はちょっと間違っている。
 先祖代々受け継がれた悪しき因果の撲滅を願って、自室に引きこもり一心不乱に祈祷を開始する主人公の少女。座禅して精神統一春秋戦国、一心不乱に呪いのパワーを放ち続け、遂には人相は変わり、髪はぼさぼさ、皮膚はうろこ状になって溶け始める!それほど、呪いの力は強力なのだ!数十時間に及ぶ壮絶すぎる死闘に疲弊し、遂には意識が遠くなっていく主人公。
 (ダ、ダメだ・・・・・・もう死ぬかも・・・・・・・)
 一夜明けて、ふと我に返ると、呪いのうろこは消えていた。溶けかかっていた筈の皮膚も元通りになっている。
 「あーっ、よかった!皮膚は本当に溶けたわけじゃなかったんだ!
 想像を絶する呪いのパワーに、ちょっと疲れて幻覚を見てたのね!めでたし、めでたし」

 そのころ、真冬の上野駅。急激に老け込んだ愛娘を連れて、実家である東北行きの各駅停車に乗り込む親子の姿があった。
 目的地は恐山、お祓いである。

■第二話、狂恋の黒ネコ

 さてさて、こんな調子で全編延々とやっていくのかと思うと、早くもちょっとしんどくなってきておりますが、まぁいいでしょう。裏技ならある。読者諸君は安心して地獄についていらっしゃい。
 ドサクサで、さっき閃いたオレ作のオリジナル呪いを書きとめとく。

呪いの4、尿道がァ~やたら狭くなってェ~困るゥ~呪い


 たんなる病気じゃん!!!
 尿道が毛細血管並みに細くなっちゃうわけですよ。おしっこに時間がかかります。平気で一時間ぐらい頑張らなくちゃいけない。ガブガブ水を飲んだりするのも、後々を考えると非常に危険。あ、男性のみなさんは射精時に注意が必要。激痛で死ぬかも。
※これは尿道狭窄症という病気です。病院に行きましょう。

呪いの5、黒ネコをォ~媒介としてェ~彼女ができるゥ~呪い

 ま、このネタ振りの前段階として、「町で見かけた黒ネコがァ~なぜか、家に棲みつくゥ~呪い」ってのがある訳です。普通にイヤでしょ?
 この黒ネコ、見るからに凶悪な面相の持ち主でして、どう見てもやばい。ただ歩いてても酷い事件を巻き起こす。例えば、こんな感じ。

呪いの6、黒ネコにィ~進路妨害されたタクシーがァ~子供を轢き殺して暴走しィ~電柱に激突して運転手が死亡するゥ~呪い

 最悪すぎる。
 さて、クラストップのマドンナ西城寺亜希子にあろうことか一方的に懸想したブサイク、キモメン番長が、家に棲みついたナゾの黒ネコに指を噛まれ、なにか血の契約的なものが成立。われわれ読者には明確な因果関係が明かされぬまま、その後クラス一の美女はブサイクとの交際をなぜか快諾、イケてるチャラい彼氏は袖にして、校内、校外で連日連夜の熱烈デート。もちろん、2,3発ハメちゃう。軽い気分でハメちゃう。
 そこまでならまだよかったが、実は彼女、(ま、予想がつくでしょうが)例の黒ネコに噛まれちゃってた。クロちゃんを媒介として、番長の血と西城寺亜希子の血が交換され、なんやようわからん因果関係が発生。これが突発交際が始まった真の原因だった。
 (しかし、この文章が何も説明していないことは、賢明なる読者諸君はとうにお気づきであろう。)
 その結果、事態は誰も思わぬ方向へ進展していく。

呪いの7、彼女のォ~うでにィ~猫の毛がァ~生えてくるゥ~呪い 

 ある日、黒ネコに噛まれた腕の傷跡から、真っ黒い毛が生えてきたのに気づく西城寺亜希子。ひばり系書籍を読み慣れた方なら、もうこの先の展開はわかると思うが、ネコ化しますよ、この女。そして他人に迷惑をかけるのです。

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 いや、こういう方向ではなくて。これもイヤだけど。しかし、いつから日本は公衆面前でのコスプレOKになったんですかね。オレは許可してないよ。

呪いの8、真夜中にィ~彼女がァ~性のストーカーとォ~化してェ~自宅に無断侵入してくるゥ~呪い
 
 (この女、変わったなー。前はもっと可愛く見えたもんだが、顔がきつくなった)
 カラダを許すと図に乗る男性一般の典型として、番長はずうずうしく考える。シチュエーションは、年齢詐称でお泊りした高級ホテルのラウンジ。情事の後にコーヒーでも飲みながら。しかし予算はどっから出てるんですかね。
 (髪もボサボサ。傷は舌で舐める。トイレは砂の上。なんか毛深い)
 番長は考え続ける。これで気づかない方がどうかしている。
 (で、ときどき、ニャーと啼いてツメを立てる・・・・・・。
 ・・・うーん、なんか変だな?)

 だんだん亜希子が疎ましくなる番長。コーヒー代を払わずに帰ろうとする。
 「待って。あんた、あたしを捨てるの?」
 「なに言ってんだよ。そんなんじゃねーよ、ちょっと腹くだってきたから、家に帰ってクソして寝るだけだよ!」
 大きな三白眼で、恨めし気に見上げる亜希子。その視線にゾッとした番長、思わずレシートを摘まみ上げてお会計に向かった。後ろ姿を見つめ続けていた女は、やがて彼の姿が消えると、俯いてなにやらブツブツ呟き始めた。
 「捨てるんだ。捨てる気だ」
 「なにもかもあげたのに。あたしを全部、あげたのに」
 「冷酷野郎。高慢トンチキ。くだらない男。ブサイクのくせに許せない。呪ってやる」
 「呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。ハリル監督。呪ってやる。呪ってやる・・・・・・」


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 その夜。
 本当に腹がくだってきたので正露丸を飲んで寝ていた番長の部屋に、怪しい侵入者があった。締めていた筈の窓がスゥーッと開き、ストンと床に降りた足は不気味な獣毛に覆われていた。
 気配に目覚めた番長、思わず怯えた処女のような声で叫んだ。
 「だっ、誰だ――――――?」
 「ケホホホホ、ホホホホ・・・・・・」

 闇に浮かび上がったシルエットは確かに人間の女だが、真っ黒い蓬髪を振り乱し、纏った白い夜着はボロボロに裂けて、毛むくじゃらの肌がいたるところから覗いている。三角形の両目は爛爛と輝き、異様な狂気を孕んでこっちを睨みつけてきた。
 「お、おまえ、亜希子か・・・・・・?!」
 変わり果てたつかの間の恋人の姿に、声もない番長。
 「・・・こ、ん、ば、ん、ニャーーー!!!」
 亜希子は素っ頓狂な大声を出した。仰向けに倒れ、突き上げた股間を激しく中空にグラインドする。
 「あんたがあんまりツレないもんだから、こっちからワザワザ深夜に出向いてきてあげたわ」
 強烈に腰が突き出され、そこにはないペニスを渇望する。
 「さぁ、狂え。狂ったように、ハメ狂え。ハメてハメて、しごいて出して、抜かず埋め込み、ピストン千回、ズンドコズンドコ、ずんずんずんずん、ズンドコ、学校帰りのミヨちゃんに、飽きることなくハメてハメてハメ狂って、蓮の花咲く、お釈迦様のいる極楽浄土の天国へ行くがいい!」
 あまりの異常事態に、顔面ピクつかせるだけでやはり声も出せない番長であったが、その態度に業を煮やしたネコ女・亜希子、ペッと唾を吐くと、あっという間にガラス窓に全身体当たり、表へ飛び出して行ってしまった。猫だけに相当飽きっぽかったようだ。
 「こ、ここは二階だってのに・・・・・・」
 番長は小声で呟くしかなかった。

呪いの9、憑りつかれた女がァ~生魚をかじってェ~坊主をォ~呼ばれるゥ~呪い 

 真夜中の西城家。
 異様な物音に起こされた母親は、懐中電灯(LED)片手に、軋む階段を恐る恐る登っていく。夫は一度寝ると目が覚めない。こんな時刻に起きている者がいるとしたら、一人娘の亜希子だけ。
 それにしてもなんだろう、このへんな音。おまけになんだか漂う生臭い匂い。
 逡巡しながら彼女の部屋の前まで来た。
 「・・・・・・アキちゃん、いるの・・・?開けるわよ・・・」
 ぎぃーーーーっ。

 部屋の中央に全裸で寝ころんだ、なんだか毛むくじゃらの生き物が、ぴちゃぴちゃ音を立てて生魚を齧っていた。尖った真っ白い歯が、まだ新鮮な魚肉に食らいつき、生き血が床に滴っている。
 母親は声も出ない。
 夢中で魚を食らっているそいつが、うっすら細い目を開けて、こっちを見てニャアとか細く啼いた。背筋が総毛立った。

 「ギィヤァーーーーーーッ!!!
 
警察、警察!いや病院よ、病院!救急車と霊媒師とドクターとヘリを一個師団、いますぐ早急に寄越してちょうだい・・・・・・!!!」


 翌朝、駆け付けた近所の坊主は、腕組みしながら、庭でゴロゴロ転がる亜希子を眺めている。どうやら背中が痒いらしい。回転するたびニャゴニャゴ言っている。
 「こりゃ、そうとう重症の呪いやで」
 齢八十の住職は溜め息をついた。「いまどき、かなわんなー。時代錯誤にも程があるわ」
 「そうなんですか」
 母親はどうしていいやら分からず、心もとない返事をする。
 「古来、ネコ憑きといえば、土中に埋めろだの、煮えたぎった油を飲ませろだの、いろいろ謂われておりますが、わしの坊主力が直感的に指し示すところでは、最も効果ある治療法はこれしかない。・・・・・・では、始めてよろしいかな?」
 「はぁー」
 坊主は手にした竹ぼうきで、亜希子をバシバシ叩き始めた。
 「そぅれ、♪ニャンニャン退散、ニャンニャン退散~♪」
 オリジナルの歌を歌い出した。
 しばらく背中に突然の打撃を受けて苦しんでいた亜希子だったが、よく考えてみれば所詮は箒だ。却って怒りに駆られたようで、牙を剥きグルルと唸り出した。
 「もし、和尚様!なにやら危険でありまする」
 気配に気づいた母親が、時代考証を無視して声を掛ける。
 「ムムム、ケダモノのくせに、一丁前に愚僧を睨んでおるな。・・・バシバシ・・・そういう、年長者への敬意が足らん態度が・・・バシバシ・・・・・科学の現代に動物憑きなどという前時代の遺物を呼び寄せたのだ。退じてくれよう、太田胃散!」
 印を結んだ。
 「アウ、ギャー、テイ、マカ、ゲ、ギョウザ!
 アウ、ギャー、テイ、マカ、ゲ、ギョウザ!
 アウ、ギャー、テイ、マカ、ゲ、ギョウザ・・・・・・!」

 (※注釈、この祝詞はほとんど原作のまんまである。 マカと餃子の力を寿いでいるものと推測される。)
 完全に怒り狂った亜希子、ジャンプすると鋭いツメで母親の顔面を切り裂き、素早く逃げて行ってしまった。
 「むぅ・・・・・・しまった、取り逃がしたか」
 血まみれの顔を押さえてのたうち廻る母親を見ながら、和尚は嘆息した。
 「さても、縁なき衆生は度し難いものよの」

 呪いの10、女子高生アイドルがァ~「妊娠」発表でェ~阿鼻叫喚の地獄が巻き起こるゥ~呪い(しかもお相手は担当マネージャー)

 
あ、間違えた。
 ま、これもどうかとは思うが、さらに凄いのはその後もアイドル続投していく宣言をしたことかな。いまやこれぐらい常識ってことですよ。
 
呪いの11、番長がァ~崖の上に逃げ場を失い~究極のォ~恐怖を体験するゥ~呪い


 (あの女にもらったものを、全部捨ててしまおう)
 恐怖心理に突き動かされるブサイク番長は、降り出した雨の中を彷徨っていた。ぶら下げた袋には様々なものが入っている。
 腕のもげた人形。
 手紙。
 びっしりと抜けた髪の毛の絡まったヘアブラシ。
 ボールペンでグルグリと無数の目玉が書かれたノートの切れ端。
 なんでそんなものを俺に呉れるのか。1ミリも理解できなかったが、捨てるのもなんだか怖かった。そんな弱気な自分にセイ・グッバイ。忌まわしい過去とは決別し、光明の世界へ新たな旅立ちを告げるのだ。そうしないと俺は本当に駄目になる。
 スコップ片手、傘を差した番長がやって来たのは、町外れにある造成地だった。宙にシャベルを突き出して巨大な掘削機が雨に打たれている。安全ロープの下をくぐり、白い防水布を掛けられた鉄杭の小山を乗り越えて、剥き出しの地面が軟らかそうな場所を探した。
 数度スコップを地面に突き刺し感触を確かめると、腰を入れておもむろに掘り始めた。

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 ざく、ざく、ざく。
 左程深い穴は必要ない筈であったが、凝り性の番長は執拗に土を積み上げていく。と、早くも汗だくになり無我夢中の耳奥に、微かな声が聞こえた。
 (・・・ニャーーーッ・・・・・・)
 ガバと顔を上げ、周囲を見廻すが誰もいない。
 気のせいかと思い、再びスコップを穴の底に向けると、そこにギラリ光る眼が。土塊の向こうからこちらを睨んで。

 「へ、ひぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 思い切り情けない声を上げた番長、その場に腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 さて、ここで問題です。
 突然出現した目玉の持ち主は、もちろん“戦慄!ネコ女”と化した西城亜希子なのですが、彼女はどうやって地中から現れることが出来たのか?

 だって、相当ヘンだよ。第一に、番長がどこに穴を掘るかなんてわからない。どの程度深く掘るかも未知数でしょ。位置関係からしてスコップが自分に突き刺さる公算も高い。
 以上の危険性を正確に予測した上で、自ら地面に埋まって待ち受ける。一人じゃ埋まれないから、まぁ共犯者がいたんでしょうな、土かけてもらったりして。ご苦労さん。
 しかし『マクンバ』の著者たちは、そんな風には思考しない。
 ここでわかりますのは、この世の外のものは、現実の物理法則を無視して動いていいという思想の存在です。
 
 幽霊やお化けは物理法則に縛られない。
 自由にどこからでも襲ってよい。

 これは結構重要な問題を孕んでいまして、非現実の存在が果たして実存を襲撃することができるのか。つまり根本的なところで、「幽霊ってさわれるの?」という哲学的と申し上げていい大問題に行き当たる。さわれるなら実体はあるんだろう、ならば地球上の重力やら遠心力やら物理法則に縛られるはずだ。実体があるならいっそ逆襲して傷つけることだって可能だ。
 そんなもの、ハテ、怖いんだろうか?

 だから、この状況に対する合理的説明はひとつしかない。地中から現れ襲い掛かる亜希子は番長の妄想の中にしか存在しない。だから怖いのである。
 おそらく現実の亜希子は、ネコ化した時点で存在を失くし、目撃する人々の妄想の中に生きている。その肉体はいずこかで朽ち果て、それを媒介にこの世の外のものが立ち現われ、語りかけてくる。これを恐怖と呼ばずしてなんと云おうか。
 土の中から現れた亜希子の亡霊に憑りつかれ、恐怖に狂った番長は激しくのたうち廻り、坊主や亜希子の母が見守るなか、(都合よくそこにあった)崖から転落して悲愴な死を遂げてしまう。
 これを笑うことは容易いが、おまえさんにその資格があるのか、あたしはまずそれを問いたい。安全地帯で、塩梅よくかぶりつきから身を乗り出し、他人の悲惨を覗き見る。好奇心と無責任な喜びに満ち溢れた野次馬諸君。あんたは有罪・無罪、一体どっちだ。
 ケヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・・・・・!!!

■第三話、かけた耳

 さて、この記事、まだ続いているとは誰も思わなかっただろうが、まだ続く。

 第二話において悲惨な最期を遂げた番長、その死を悼むかのように降りしきる冷たい雨の中を、ちぎれた片耳を握ってシュミーズ姿の、見るからに強力に呪われていそうな女が独り通り過ぎた。これが新たな悲劇の幕開けだった。

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(グロ注意!と書きたかったが、これ、ちぎれた耳クッキーだそうですよ。よく見ると爪楊枝ついてるでしょ。馬鹿げたものつくるやつってのはどこにもいる。)


呪いの12、結婚を間近に控えた女がァ~ 襲ってきた婦女暴行犯を逆に刺し殺しィ~ 遺体の身元発覚を恐れてェ~ 片耳を切り落とすゥ~呪い~

 あるよね!
 普通にあるよね!そういうことって。
 しかし、片耳に特徴のあるあざがあるからって、わざわざ耳だけ切り離しますかね?まったく無駄な努力なのでは、結婚を間近に控えた女さん?

呪いの13、女がァ~ 結婚相手の富豪の息子所有のォ~プールにィ~ 浮いている片耳のない男のォ~ 腐乱した遺体を目撃するゥ~呪い~

 マジ迷惑。クソマジむかつくー。
 結婚を間近に控えた女はおしゃれなビーチサンダルでガンガン蹴り入れて、浮いてきた死体をプールの奥底に深く押し込んでしまうのであった。
 (その後笑顔でトロピカルドリンクを飲み干して、ついでに富豪の息子のチンポをくわけます。)

呪いの14、以上の脈絡と関係なくゥ~ 殺された男のアパートにやって来た引っ越し屋(※男の死は単なる行方不明扱いとして処理されている模様)がァ~ 部屋に座っている片耳ちぎれたァ~ さらに腐敗の進んだ遺体をォ~目撃しィ~ ビビりまくるゥ~呪い~

 結構気ままにふらつく遺体である。引っ越し屋さんにはお気の毒としか言いようがない。
 なにしろ、この人、まったく本件と関係がない。

呪いの15、待ちわびた結婚式の教会でェ~ 結婚相手の富豪の息子のォ~片耳がァ~ 謎のパワーによって切断される姿を目撃、花嫁はァ~ あまりの事態に急遽予定を変更しィ~ 失神することにした~呪い~

 これぞザッツ予定通り、という気もするな。
 こういうフライングしまくった事態が勃発すると、往々にしてメンタルの弱い漫画家さんなんかは、“それはケメ子の夢でした”とやりがちですが、さすがはいけうち先生、次のページをめくると、片耳に大きな絆創膏を当てた富豪の息子が、元気に朝ごはんのおかわりを要求する日常カットに繋げているのでありました。
 怖いねー!この感覚が怖いねー!まさか来るのかと思ったら、一番人気大本命馬がそのまま来ちゃいました、みたいな、新種の恐怖やねー。これは蒼ざめるね。

呪いの16、結婚式の記念写真ができましたと渡されるとォ~ にっこり微笑むふたりの頭上にィ~ 片耳のもげた腐乱死体が特別出演していましたという~微笑ましいィ~呪い~

 「・・・こ、これは、心霊写真だ・・・!」
 以下心霊写真に関する無駄な解説が入るという。戦慄するふたり。一生の記念になるね。大事にしようね。誰に見せても驚かれるよね。テレビ出れるかもね。奇妙な因果にいっそう愛を固め合うのでありました。

呪いの17、片耳ちぎられた夫がァ~ おわびにハワイに連れて行こうかと誘う~ 呪い~

 この発想、もう呪われてるとしかいいようがない。
 脳が腐って死んじまえ。

呪いの18、さすがにハワイはどうかと思い、テレビを点けて観ていたらァ~ Exile GENERATIONSの正面どアップにィ~ 片耳ちぎれた霊がオーバーラップしてきて、いやんなっちゃうナ~ の呪い
  
 そもそもExile GENERATIONSがイヤである。この時点で呪われているといっていい。あと、韓流ドラマばかり映しているウチのテレビもどうかしてると思う。どこに抗議したらいいのか教えてくれ。嫁は取り合ってくれないんだ。

呪いの19、最終的に全裸になり、シャワー浴びていた嫁がァ~ 自分の体に浮かび上がる悪霊の顔を見て発狂、睡眠薬飲んでェ~ 自殺してしまう~呪い

 無駄であった。
 すべては無駄であった。ハワイに行っとけばよかった。

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■第四話、ただれきった武士の呪い

 第一話において老婆化した少女は家族に付き添われ、呪いを解くため恐山に向かう。
途中の新幹線では、片耳に大きな絆創膏を当てた男が向かいのシートに座っていた。
 筆者は駅弁食べながらガイドブックを読んだ。
 
 「JR大湊線の「下北駅」からは下北交通の路線バスが運行しています。
 便は季節限定の(冬は恐山が閉山する為)1日4便で土日祝日に運行する臨時便も含めると5便となります。
 また夏と秋の大祭開催中はJR大湊線の増便にあわせてバスも計9便に増便されます。
 時刻はJR大湊線の運行時間に合わせており、列車到着後5~10分後に恐山行きのバスが出発する運行計画となっています」

所要時間(下北駅~恐山) JR大湊線下北駅からバスで35分
運賃 800円

 意外と高い。観光地ってこんなもんか。
 で、どの山が恐山なの?
 「恐山は青森県の本州最北の下北半島の中心に位置する標高800m以上の活火山で、山全体が霊場になっています。その正式な呼び名は「恐山菩提寺」で、恐山という名の山は実は存在しません」
 おお、利発な人が出てきたぞ。なんか昔聞いた気がする豆知識だが、心に何度でもインポートだ。

呪いの20、恐山は山ではなくてェ~ 実は寺の名前であるゥ~呪い

 これでよし。

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 さて、以上の脈絡と関係なく、第一話で恐るべき“講堂の呪い”に打ち勝った主人公の女子中学生も三匹の友人達をお供に恐山にやってきていた。
 目的はもちろん、その後もなお襲ってくる先祖の呪いに打ち勝つ方法を探るため。
 大人でもしんどいのに、そんなこと中坊風情にできるのかと問われても困る。本当に恐山まで来ちゃってるんだもの。旅費は親の財布からくすねて調達、しばらく××子の家に泊まりに行くとか適当に誤魔化して、各停乗り継いでやってきたんだろう。ご苦労様。
 エリア一帯が巨大な霊場のテーマパークと化している恐山には、113もの地獄を模したライドが存在し、いたいけな庶民をブイブイ言わせてる訳だが、メインイベントといえばやっぱりイタコ。現実とファンタジーを繋ぐ水先案内人ミッキー某のごとき、主要なマスコットキャラだ。グッズも数多く存在します。(しかも萌えキャラ。嘘だと思ったら検索してみて。例によって現実のほうが俺の記事よりよっぽどバチアタリだ。)

 「おーーーい、イタコが口寄せやってるぞー!」
 「うほほーーーぃ!こいつはチェックだぜ!」


 以上の軽いノリでストリートに出現したフリーイタコのパフォーマンスに早速駆け付ける中学生御一行様。
 「・・・わ・・・わしは、ジョン・・・ジョン・レノンじゃ・・・」
 誰かがリクエストしたらしい。
 「ジョンさん、いまどんなとこにいるんですか?教えてください!」
 「・・・く、暗い・・・真っ暗で・・・なにも見えぬ・・・・・・・」
 まったく役に立たない。
 「あ、それじゃ、すいません、一曲お願いします。“イマジン”歌ってくださいよ!」
 「ならぬ・・・あの世の掟でな、歌って踊るなど、楽しいことは全部禁じられておるのじゃ。・・・だが、そなたがどうしてもと所望するなら仕方がない。ホレ」
 差し出されたイタコハットになけなしの千円を喜捨する観客。イタコはキレッキレの恋ダンスを披露、大受け。

 さすがに馬鹿らしくなって、その場を去ろうとする中学生様御一行に、横合いから不吉な声が飛んだ。

 「待て!そこのおぬし、半端なく呪われておるな!」
 
「エ・・・?!あたし・・・・・・・?!」


 呼び止めたのは、齢百をとうに越えているだろう皺だらけの年寄りだった。さすがにこの年齢では観客受けする派手なパフォーマンスなどできない。つまりは本業で食ってる、本格派の霊媒師のようである。白装束に真っ赤な帯を締め、腰に無数の榊を差し、額に大きな鏡を巻いている。ご丁寧に、宗派無視で七星の宝剣まで持参だ。
 主人公は、さすがに(こりゃヤバい・・・)と蒼ざめる。

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(※レノンさんの通称“イマジンピアノ”のレプリカ。世界平和を祈って購入)

呪いの21、恐山にて本格派のイタコにィ~ 先方から率先してェ~営業をかけられるゥ~呪い

 齢ふりたイタコは、痰の絡んだ嗄れ声で、
 「おぬしの背後にドス黒い因果がとぐろを巻いて、瀬戸の渦潮みたく雪崩をうち、のたくり廻っておるわ!尋常な業の積み重ねではない。つまりは、一代で築ける資産ではない。
 さては、おぬし、エエとこの娘さんじゃな・・・?!」

 「はァ、聞くところによりますと、私の先祖が悪い武士で、その昔あこぎな手口で年貢を搾り取ったとか、領民をガンガン虐殺したとかいいますが・・・・・・」

 「そこじゃ!そこがポイントじゃ!
 親の因果が子に報い、孫子代々にまで影響を与える。メンデル遺伝子の法則じゃ。
 だが、よいか、おぬしは全然悪いことなどしていない。罪なき子じゃ。これまでの人生でも、ハエとかカエルくらいしか殺したことがない」

 「いえ、ネコとかなら・・・・・・」
 ネコかい!中型動物かよ!」
 「あと近所の幼稚園児を砂場に埋めたりとか」

 「殺人鬼やないかい!思いっきり残虐殺人の血統が後世に伝わっとるやないかい!
 おまわりさーーーん!!!」


 「ま、子供の頃の話なんで、砂の掘りが浅くて相手が死ななかったんで、一緒に遊んでた子がその子の親を呼びに行って発覚、えらく怒られたんで、これはギリでセーフ、ノーカウントかな、と・・・・・・」

 「アウトです。
 そういうイリーガル体験を不用意にネットでつぶやいたりすると、炎上のもとだから気をつけよう!
 ・・・・・・(ふと我に返り)・・・まぁ、いい。おぬし自身に大した罪がなくても、先祖の因果で呪われる。不条理も不条理、吾妻ひでおの『不条理日記』じゃ!」
 「はァ・・・?それが言いたかったの?」

 「と、も、かーーー、く!
 おぬしは依然として呪われておるぞ。第一話でうまく呪いをはじき返したつもりであろうが、拡散した呪いは方向を変え、関係ない第三者まで巻き込んでさらにパワーアップ。再び鉾先をおぬしに向け襲ってくるであろう。そこのお前!」

 指さされたのは、実は内心主人公を好きなクソデブ。中学生グループの地味な端役。
 「オレすか?!」

 「確実に死ぬぞ、三日以内。濃厚な死相が出ておる。
 防ぎたくば、これを買え」

 渡されたものは、無数の数珠を連ねた複雑怪奇なオブジェだった。なんか撚り合わせてるのがボサボサの茶色くなった人間の髪の毛みたいに見えますが。

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 「スー~パァ~数珠ゥ~~~!!!」

 老婆は、大山のぶ代のドラえもんみたいな口調で宣言する。
 「数珠に数珠をトッピングし、念の強度を大幅に倍増ししましたー!他社製品の4.6倍!さらに不慮の死を遂げた高名霊能者の遺髪を無断借用!」

 「あかんやん!!」

 「まさに子供が夢に見そうな呪われた逸品!今なら初回限定特典として、霊界の裏がわかるイタコの秘密トークがぎっしり詰まった特選マル秘CDをプレゼント。お申込みはこちら、お近くのイタコまで・・・!」

 もちろん買わなかった。立ち去ろうとする中学生御一行に向かって、イタコは悲痛な声を上げた。
 「わかった、わかった。おばあちゃんが悪かった。最後にひとつだけ言わせてくれい。
 お墓参りは頻繁に、先祖の霊は大切にな・・・!」

 ふたたび関連ワードに行き当たった主人公、突然キレて、振り向くや否やイタコの首を締め上げる。
 「ぐぐぐ、ぐるじいぃぃぃ・・・・・・!」
 「ソレだよ。まさに、ソ・レ。
 待ってたぜ、ババアのその言葉。俺たちが高い交通費払って、この胸糞悪い場所に来たのは、まさにババアからその言葉を聞きたかったからなんだよ!」

 傍らの墓石を蹴り上げる。
 「さんざん待たせやがって。この野郎。男の気を引く売春婦じゃあるまいに。
 てめェ、さっさと吐きやがれ。どうすりゃ先祖の呪いをブッ飛ばせるんだよ・・・?!!」


 「エ・・・ブッ飛ばすんですか?」
 黙って聞いていた主人公の女友達が口を挟む。「それ、ちょっとおかしくないですか?そんなことしたら、かえって呪われちゃいますよ?!」
 主人公は忌々しげに舌打ちし、
 「ケッ!オメェはいつもうるせぇんだよ!この、ブサイク小町。万年オカチメンコが。
 呪われてるのは、オ・レ!他でもない、このオレなんだよ!
 霊障だかなんだか知らねぇが、ある日理由もなく突然呪われてみろよ。メシだってまずくなるし、いい加減、アタマくるじゃねぇかよ。

 そしたら、どうする?ん?どうすンだよ?
 そりゃ呪いの大もとを吹っ飛ばすしかねぇだろうが・・・?!
 それしかやり様がねぇだろうがよ!!!」


イタコはあまりの無謀かつバチ当たり発言の連打に怒りでワナワナ震えながら、
 「この神聖な場所で何を抜かす。歴史を敬わぬ不心得者め。積み重なった因果の雪崩に巻き込まれて死んでしまえ!」
 「ケッ!」

霊場に唾を吐き捨てた主人公、
 「ケタ糞悪いクソ婆ァ、知りたきゃ教えてやるけどよ。こちとら、あやうく死ぬ目にあってんだよ。あんな高熱、3日も続けば普通の奴だったら溶けて死んでますよ。
 先祖の因果だかなんだか知らねェが、俺にどんな非があるってんだよ?学費だって給食費だって、ちゃんと納めてますよ。期日通り。
 霊だかなんだか知らねぇが、そういう、地味に真面目一辺倒にコツコツ生きてきた一介の中学生の生命を、勝手に奪っていいって法律はねぇだろうがよ。あァ、この腐れマンコが!」
 ぐいぐいババァを締め上げた。
 「く・・・・・・苦しい・・・・・・」
 
「死ねや、バカ!!!

 
「・・・わ、わかった。おぬしの怒りももっともじゃ。ここはひとつ、協力しようではないか。実はな、おぬしの呪いには、裏がある」
 「へ?」
 
「おぬしを呪っておる具体的な相手がいるということじゃ。そいつが誰か、わしの力ではとうとう突き止めることができなんだ。しかし、方角と地名だけは読み取れた。
 ここより東南東、××県の落穂村へ向かえ!その方向から激しい呪いの電波が飛んできておるぞ・・・!」


 あっけにとられた主人公、思わず腕の力を緩め、ブツブツ「東南東・・・」などと呟いていたが、
 「それを早く言え、この野郎!」
 
ババァをさらにボコボコに叩きのめしてしまった。
 それから、おもむろに背後に声を掛け、「行くぞ、落穂村!」と呟いた。後ろの連中は「はい・・・」と小声で返すしかなかった。

呪いの22、そんな一行の背後にィ~ 寄り添う~ナゾの黒い影のォ~呪い

 ・・・だれ?この期に及んで新キャラ?
 
■最終話、血戦!血みどろ村

ぴゅーーーんと飛ぶ生首。あがる血飛沫に深紅に染まった破れ障子。その向こうで高笑いする落ち武者の死霊。落ち葉をコンスタントに踏みしめながら、たたたと駆け寄る白装束の若い生娘と、髪振り乱し鉈を中腰に構えた醜い老婆。鬼の面。神社。石段から石段へ飛ぶ晴れ着姿の幼女は、黴の湧いた千歳飴の袋を振り回す。被った手ぬぐいの中から野獣の欲望を滾らせる百姓風情。狂った代官。野武士の群れ。蟹。イカ。山羊。タコ。つるべ落としの井戸には、行列する身投げ人。絶叫は果てしなく暗い森に消えていく。鎌の如く細い三日月は地上の出来事をこれ以上見まいと雲に隠れた。

 「・・・っていう時代錯誤な予想をしながら、ローカル線に乗り、バスを乗り継ぎ、こわごわここまで来てみましたが・・・・・・・」
 主人公(とお供の中学生一行)は峠に立ち、眼下に広がる落穂村の全景を眺め渡していた。
 「こりゃ普通に田舎の村じゃん・・・」

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 前方に広がるのは、山間の猫の額ほどの平地に建てられた、家屋も数軒しかないような侘しい寒村だった。狂った長者の黄金屋敷もなければ、無限に続く葡萄棚も醤油工場もない。そりゃもう、なんの変哲もない普通の家屋が貧乏そうに寄せ集まって、ちいさな集落を形成している。
 ところどころに、草生やした電柱が傾ぎながらニョキニョキ突き出していた。
 
 「いや、そもそも田舎の村にやって来ておいて、わざわざ“普通に村じゃん”というのもどうかと思うよ」
 利発そうな女の子が言う。メガネキャラだ。
 「住人の皆さんに失礼でしょうがよ」
 「これが本当に危険な村なのでござろうか?」
 柔道着を小脇に抱えた体格のいい、碁盤みたいに四角い男が足を一歩踏み出した。途端。バシュッと空気が弾け、巨躯がもんどり打った。「痛ッ!」
 頬が軽く切られていた。押さえた指の間から血が滲む。

 一同、無言になった。
 思わず柔道着を取り落とした男が、それを拾う。メガネの少女が考え深げに周囲に視線を配る。主人公は黒いセーラー服のポケットに入れてきている数珠をまさぐった。
 やがて、異様な雰囲気に堪りかねた主人公の友達が口を開く。

 「なに・・・?今の、なんだったの・・・?」
 「結界ですね」
 メガネの少女が事も無げに言い放った。
 「それも、けっこう強力。普通は、通るときゾクゾク悪寒がするとか、嫌な気分になる程度。さっきのあれは実体化が進んでて、ほとんど目に見える」 
 「エーッ?!」
 「うーーーむ。常時張られてるものでもなかろうに。何者か、われわれの接近を察知しているやつがいるようでごわす」
 「これ、破れるのかしら?」
 メガネの少女がそっと空中に指先を突き出す。チリチリと痛みが走り、慌てて引っ込めた。
 「うわ、きつい」

 打つ手に困って進みあぐねていると、道路の向こうから車が一台やって来て、傍らに停まった。
 無造作に路駐だ。
 「やぁやぁ、ボクたち、クソ大学生だヨ!」
 「Yo,Yo,Yo,Yo、ハイパーYoYo!」

 見るからに軽薄そうな、馬鹿面の男がふたり降りてきた。WiFiでキーが閉まる。男達はいずれも20歳くらい、紺のヨットパーカーを着て金の指輪をジャラジャラ鳴らし、鼻の穴にはピアスを嵌めている。

 「季節はとっくに春を迎え、ご卒業・新入学のシーズンとなりましたー!
 大学というのは因果な商売でしてな、休みが掃いて捨てるほどどっさりある。夏休みは異様に長いし、9月になってもまだまだ授業始まらんし、12月にはさっさと休講続出、2月は受験が始まりもうやっとらへんし。じゃんじゃか休みがもーりもり。さつきがてんこもり状態、ですわ。
 そこでふたりで愉快な旅に出た。卒業はまだ先ですけん、セックスするか旅行にでるか。究極の二択問題を突きつけられてのやむ得ない結論ですねん」
 「Ho-Ho-Ho、おしめ無い子はいねーか?!食っちまうゾー、ZO~ZO~タウーンホームページ!」
 そっくりの見掛けだが、片方は完全には喋れないらしい。

 「SNSやTwitterの拡散情報から、ここが噂の呪いの村らしいと突き止めて、度胸試しに心霊スポット行っちゃう暴走族カップル並みのフットワークの軽さでやっては来てみたのじゃが・・・・・・」
 鼻を引くつかせ、
 「何の異常もないじゃん。詐欺じゃんこれ。こんなんだったら金返せよ!」
 「So-So-So、100%そうかもね!」

 「なんですか、あなたたち」
 メガネの少女が冷徹に言い放つ。
 「あんまり調子コイてると、しまいに泣きを見ますよ」
 「なんだと、オラ!俺たち、慶応大経済学部2年の渡辺陽太容疑者(22)並みに女性に対する扱いには容赦が無いんだぞ、コラ」
 主人公は、呆れて手のひらを宙に向けた。お手上げというやつ。
  
 「ホーーーーヤラ、ホーーーィ!ホーーーヤラ、ホーーー!」
 「セイ、Ho!セイ、Ho-Ho-Ho!」

 ふたりは突如奇声を張り上げ、村へと向かう小道を歩き出した。思わず息を呑む中学生一行。柔道着の男がゴクッと唾を飲みこむ。

 「あ、結界をすり抜けた・・・!」
 踊り狂う頭のいかれた大学生二名は、特に身体に異常を起こすこともなく、手足を激しく乱舞させながら村へとそぞろ歩いて行く。
 「・・・・・・どういうこと?」
 メガネが首を捻る。
 「真のアホパワーを持つ者には霊界の力もまともに働かないのかも。呆れて」
 「そんな安直で都合の良すぎる設定、聞いたことないよ」
 「しかし、現実にああして無事に歩いて行きおるぞ。どういうことだ。・・・えい、イチかバチかじゃ。わしらも」
 柔道着男が踊り出した。
 「♪踊るアホウに見るアホウ、同じアホなら踊らにゃ、そん、そん!」
 女子ふたりは明らかに嫌な顔になったが、考えてみればこの記事も連載を開始してもうじき一年だ。いくら長いとはいえ通常執筆に一年は掛かからんでしょ。一年といえば小学5年生が6年になるぐらいの時間ですよ、ちょっとした会社なら部門で億単位では売り上げてますよ、産まれて死んだトンボが何万匹いるかわからん数字ですよ、そういったやむ得ぬ事態を踏まえ、泣く泣く後に続いた。
 「いーやー、さっさー、いーやー、さっさー、よいよい、よいよいー!」
 「♪足柄山のォ~大将はァ~」

 先ほどまで恐るべき結界を形成していた霊界のパワーは、明らかにひるんだようだ。踊り狂う男女に襲い掛かる節もなく、彼らは極めてご陽気に呪われた村へと侵入していった。

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2017年11月 4日 (土)

諸星大二郎『BOX〜箱の中に何かいる➌』('18、講談社モーニング KC)

 待ちに待った第三巻の最終頁、最後のクイズとその正解に涙がこぼれた。諸星先生の心暖かさに、登場人物の扱い方に、冗談とかでなくホント感動した。
 ありがとう。

 ・・・と、ここで終われば、オレも立派な大人なのだが、やはり違う。
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【あらすじ】
 箱、箱、函、ハコ、山崎ハコ。この作品は、ヴィンチェンゾ・ナタリ『CUBE』辺りを嚆矢とする、いわゆる限定状況ホラーの流れに対し諸星先生がゆる〜く乗っかってみました、という一見新機軸そうで、実は先生、以前も「鯖イバル」でやってましたよね?という出涸らしのお茶をさらに煮て飲むような究極作品だ!
 正体不明の“箱”に招待され、パズル解きのゲームをやらされる9人の男女。ゲームに失敗したら、全身黒づくめの山崎ハコがやって来て殴り殺される。その遺体は“箱”、すなわちクーラーボックスに吸収され、闇に消えていく・・・・・・って、怖すぎるわ、このあらすじ!やめた!

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2017年3月26日 (日)

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』('17、小学館月刊スピリッツ掲載)

 気になるマンガをどうやって探す・・・?
 そもそもいい歳こいて、なんでマンガなんか気になるの・・・?

 人はさまざまな葛藤を抱えて生きている。衣食住が足りればそれで万事解決しそうなもんだが、そうもいかない。「人を殺してみたくて」わざわざ人を殺すやつも出てくるし、親戚の年寄り連中を虐殺した理由が「精神工学戦争」の結果だ、と言い張る42歳だっている。
 最近忙しいんだか暇なんだかわからない私の目下の悩みは、「あぁ、気持ちいい絵を読みたい!」である。言葉にしてみると本当バカみたい。でもしょうがない。

 本気で狂ってる諸君にはお恥ずかしくて到底及ばないが、これはこれでやっかいな精神状態だ。こういう場合、私は隙あらば落書き率が異常に高くなる。「気持ちいい絵を読みたい!」が嵩じて「気持ちいい絵を描きたい!」状態ね。日常に置き換えますと、顧客の電話を取りながら落書き。業者と電話しながら落書き。つまらん会議の合間に落書き。いい大人のくせに。もっと真面目にやれ。給料泥棒金返せ。さすがに誰かと面と向かってだと無理があるので、客先では勿論できないが、幸い私の職業は基本インドアの事務処理なのである。営業要素がある事務処理。気づいた周りの皆さんは、人間のできた方ばかりなので、「あぁ、あの人はあぁいう困った人なのよ。ありえないよね。っていうか、積極的に死ね」と温かく無視してくださる。これはこれで実に恥ずかしい事態なわけです。
 この病が発症したのは、たぶん小学生ぐらいだと思われるから、ずいぶん長い病歴だ。「全然“目下の悩み”じゃないじゃん!」という突っ込みがいま聞こえた気がするが(幻聴)、マジ治んないんすよ、この病気。誰かなんとかしてくださいよ。
 あぁーーーー、気持ちいい絵が見たい。で、検索を繰り返す。またなんか見つける。ブログアップ、って感じなんですよ。
 
 「僕は宮崎駿と吉田健一の影響が強くて」
 と、今回取り上げるこの本の著者はおっしゃる。アレ、吉田健一といえば元イカ天審査員じゃなくて文学者の方じゃなかったですっけ、と思いましてサーチしてみますと、こんな画像が。
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 そうそう、『交響詩篇ユリイカセブン』のアニメーターの方ですね。(私、ユリイカがどんな話か全然ご存知なかったんで、これまたサーチしましたら、スケボーに乗ったロボが大気圏外から滑走してくる画像が出ました。『木曜の男』の翻訳でおなじみの吉田健一先生もいろいろ手掛けてるってことですねー。)
 既にして話が逸れまくっている感濃厚ですので、話を本筋に戻しまして、まず褒めますが、この本、絵が気持ちいいです。細部に到るまでちゃんと考え抜かれていて、パースもきれい。手作りのよさですね。
 この絵を見まして単行本購入を即決したので、別に不満はないっちゃーないんですけれども、話の中味にはいろいろ思うところありまして。まず、あらすじを書きましょうか。誰も私に正確な内容紹介を求めてないと思うんだけど(笑)。ま、いいよね。

【あらすじ】
 (ある種の)アニメが好きだ!(ある種の)アニメのためなら死んでもいい!
 青少年を襲う原因不明の不可解な熱病・若さに憑りつかれ、高校へ進学した主人公・浅草は、同好の士・水崎と出会い、金勘定にたけた友人・金森を巻き込んでアニメ制作に邁進するのであった。既存勢力アニメ研との棲み分け問題を、映像研という曖昧なアチチュードで躱しながら、部を立ち上げ、学校側と交渉し廃屋のような部室も手に入れ、ついでにタップ台もゲットする。そして活動予算獲得のために生徒会へのプレゼン会参加。止め、連続コマ送り、一時停止、フラッシュ効果など作画コマ不足をごまかしごまかし、苦心惨憺で作り上げた作品は以下のような内容であった。

【さらなるあらすじ】
 いつの時代だかよくわからん超未来。たぶん西暦5000年くらいか、超未来都市の廃墟は苔むして緑に覆われ、宮崎駿と地球に優しい感じになっている。最後の巨大産業社会が崩壊してから約1000年が経過、それでも懲りずに人間どもは愚かな利権争いに明け暮れ、大国列強は侵略の覇を唱え辺境の小国・ナンダルシアに侵攻しつつあった。目的としては主に昆虫採集である。彼の地にしか棲息しない幻の蚊トンボは痔によく効くのだ。世界列強の傀儡君主どもは揃いも揃って全員大痔主なのであった。 
 ナンダルシアの王女で、セーラー服にガスマスクの労働運動闘士でもあるペントラ・ポポネスカは、本日もまたまた領空に無謀な侵犯をかけてきた敵国の空中戦闘艦に単身潜入し、テロ的ゲバルト行為に成功、撃ち落とす。しかし、その船は実は難民船で、国を追われた可哀相なダユタラ族の子供やら年寄りやら含む大人数を載せていたのだった。
 (わたしが・・・・・殺したんだ・・・・・・)
 いきなり大量殺人の罪に問われることになった16歳の王女。戦場に響き渡る悲痛なテレパシー。(肩透かしだけどヌケル)(これはれっきとしたオカズビデオです)(清楚な感じの女性で申し訳ないですが、水色水着と黒のアダルティーな下着で暴発してしまいそうになりました)(?)(申し訳ないですが、本能的に硬直化しそれをしごかずにいられませんでした)(・・・!!)(私は巷に流通してるAVというものを自分磨きの際に用いないのですが)(さりげなくその場面まで見てたもののここでいきり立ってしまっていたものをしごくはめに。ほんと久々だったのでかなり気持ちよく出させてくれちゃいました)
 「ナニシテ、けつかるねん!」
 
突然どつく(剣と笑いの道の)師匠ゲーハー。「すっかり違う種類の映像研になっとるやないか!ドアホ」
 「さすが師匠、的確なツッコミ。でも、なぜここに?」
 怒りと苦痛が充満した戦場のボーイズラブは真っ赤に染まり、より具体的には墜落した機体やら、飛び出した少年従者やら、ヤックに子羊に、占いババ様の遺体やらがガンガン燃えている。
 「ウ~~~ン・・・ もう、そんなの、どうでもいいでしょーーー?!」
 なぜか師匠はおネエ言葉でマジ切れだった。「勝手に進め、愛しき風よ」
 パッパカお馬に乗って去って行ってしまった。
 恐ろしい戦争の惨状を目の当たりにしたペントラ・ポポラスカは、しごく手伝い、もとい憎むべき無益な争いに終止符をうつべく、自慢の包丁を振り上げて戦車を一閃まっぷたつ。見事捌いて名を上げた。われわれ城ジイとしては、
 (なんかオカシイぞい、根本的に)
 (くさい、まったく胡散臭いゾ!こたびの戦さ)
 (てか、巨神兵の復活はまだか・・・?!)
 (それにつけても腹減った~)

 とか思いながら、とりあえず「姫君バンザイ」と絶賛の辞を送るしかなかった。気が向きゃ、そのうちやらしてくれるかも知れないし。そう想って死んでいった城代家老の数はもはや数千に及び、城の地下はボロボロになった死骸が死屍累々・・・・・・。
                              (完)
 
 「え・・・コレって、ただのアニパロじゃね・・・?!」
「(完)って、まだ完結もしてねぇし!」
「そもそも、姫君がやらしてくれるのか否か。そこが重要な問題です(深刻系)」

 怒り心頭、こぞって席を立たんとする審査の生徒会諸君!たち。そんな中に賢いやつが一名は混じっているもんで、そいつが場を仕切って御大層な口をきくのであった。
 「待ちたまえ、生徒会の朋友(はらから)どもよ。両耳かっぽじって、よく聞きやがれ。そもそも、アニメの本質とはアニパロなり!」
 「うわ、無茶いいやがる」
 「きみの知ってるアニメ、ボクの愛するアニメ、そもアニメに種類は沢山あれど、その本質はひとつでしょ?セルに描かれるひらひらが、ガバッときて、バカンと爆発。飛び散る閃光、爆風に逆巻く美少女の緑色の髪の毛。要は、どれもこれも小賢しくてアニメ臭い。アニメ臭がする」
 「おお、アニメ臭・・・・・!」一同は感嘆の声を上げる。
 「拡大再生産を繰り返す、(ある種の)アニメの本質とは、よりアニメなアニメ、自己模倣、飽くなき異形化を進化と偽る無限の自己肯定運動に過ぎぬのよ。これ、すなわちアニパロなり!」
 識者のあまりの独断専横ぶりに、全員言葉もない。
 「光子力も原子力も皆同じ。現実に使えぬ力を使って空を飛ぶ。そんなのがドラえもんの与えるアジアの子供への勇気であるとしたら、存在のあまりの貧しさに、拙者めまいクラクラでごじゃるよ~」
 「ごじゃるよ!」はずみで誰か唱和してしまった。
 「そりゃかつてアニメには、早稲田に現役で受かるような壮大な夢があったかもしれないよ。アニメの可能性が真剣に議論の対象になった時代もあったんだよ。でも、もういいよ。ここに描かれるような世界観を“最強の世界”と呼称する勇気は、もう俺にはねぇよ」
 老人が進み出てた。
 「王よ、それはすなわち、かつてあなたはアニメの力を信じておられたということかな?」
 「この現実を変革するパワーとして」
 王は語った。「アニメは存在する。でも、それが新たな創造を生むのではなくて、かつて存在していた感動の再生産に過ぎないとしたら、そんなのは最早ご新規開拓でもなんでもないんだよ。われわれは、そんな茶番に永久に付き合う義理なんてねぇんだよ!」
 「御意。・・・抹殺」
 閃光が走り、大地が炸裂。浮上したツェッペリン型飛行船(実は地球先住民族の残した古代兵器)は軌道上から急速落下する月に押し潰され、粉々に砕け散ってしまった。
 
【追補篇】
 このマンガでの錯綜する物語は常に二重構造をとっており、例えば主人公達の造形は外面女子高生でも、内面としては(最近は比較的小奇麗に化けた)ヤングオタクどもであったりはする。つまり、筋だけ追えばサッパリ面白くも可愛くもないってことだ。
 そうした実体のすり替えが日常風景や学校など建築や室内の造形にいたるまで徹底して及んでしまっているので(なぜか校舎裏に風車がある!)、既に現実は非現実側に向かって半歩以上踏み出しきっており、本来飛翔すべき対象となる空想世界が、現実を凌駕するイマジネーションの凄さという作者の狙った構図の本来持つパワーを逆に減じてしまった、という皮肉があるように思う。
 その過剰さに乗っかれるか否か。好意的な読者であり続けるべきかどうか、読み手は問われることになる。

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2017年2月26日 (日)

高遠るい『みかるんX①』 ('08、秋田書店チャンピオンREDコミックス)

 ここはすべてが都合のいい世界。
  読者にとって真に都合のいいことに、登場するなり主人公のミニスカは捲れあがりそうだ。いたずらな春風が街路を吹き抜けて、長くスラリとした太腿がローアングルからまる見えになる。
 ウ~ン、いゃ~~~ん。
 彼女は小柄でシャイでスレンダーなロリ系ギャル。髪の毛、黒。(詳しくは後述するが、この世界において髪の毛の色はキャラクターの属性を示す重要なファクターである。)
 地方出身者の彼女が新たに通うことになった高校は、新入学の時期であり、つまりは彼女は新入生であり転入生でもあるという、実に甘酸っぱすぎる設定である。
 はァ、はァ、はァ・・・・・・ツバごっくん。
 そして、その舞台設定たるや「うら若き乙女ばかりが無駄にウヨウヨいる恐怖女子高」であって、しかも「完全寄宿舎制からなる神聖な女の花園」でもあるという厳正なる事実は、これはもう、神が定めたもうた絶対意志とでもいうべき、崇高な運命の成り行きであって、さらに、その場所で宿命的な衝撃の出会いをする相棒役の少女が、巨乳でイケイケな行動派ギャル、髪の毛・赤であることは、物語の登場人物が残らずある種類の卑俗な期待値に添ったロールにより厳密に分類され配置される、古代ギリシャより伝来しさんざん使い古された、全国民的美少女コンテストが如き超広域コンセンサスに基づく二律背反黄金律によりまして自動的に算出、決定されていると断言してしまっても、全然まったく徹頭徹尾、問題のある表現ではありますまいよ。
 つまりは、閉鎖世界だ。これがよくある設定であることを作者は知り抜いており、ゆえに私たちもよく熟知している。並行宇宙のように無数に存在する男子禁制の女学園は、往々にして歪んだレズビアニズムのよき温床であって、素敵なお兄様に憧れる無垢な妹キャラの発生母体である。

 かくて、われわれがあっけにとられてシーンの繋がりを、断片的に切り出される情報の連鎖を眺めて観ていくうちに、地球は宇宙からの侵略というわかりやすい脅威にさらされ、少女たちは秘められた能力を発動し、敵を打ち破る。

 これって、なに・・・・・・?

 「あぁ、それって、アニメだよね~」
 そう物分かりのいい方はおっしゃるだろう。確かに、われわれはこういうものを長年観てきた。見せられ続けたといってもいい。あまりに氾濫しすぎて、もうすっかり慣れっこになってしまった。だが、よく見りゃこれって異常の連鎖じゃないのか。あんたら、全員おかしいよ。
 アニメ、もしくはアニメ的なものとは、現代日本に生きる私たちに深く刺さった病根である。
 私はあえて、今更ながらにこれを分析し、ささやかながら治療を試みんと、フト日曜の朝起き抜けの寝惚け眼で思い立つや否やこの面倒な文章を書き始めた。
 こんなことして何が面白いのか。それはもう忘れた。

 わが師匠フロイト・デロイト・ロス・とど松の、精密かつ高度かつ大雑把な分析によると、アニメ的なるものとはふたつのフェイズから成り立っている。
 外的要因と内的要因だ。エイ、わかりにくい。
 
 1)ビジュアルに関連するもの
 2)プロット、ストーリーに関連するもの

 これでどうだろうか。ちなみに「世界観」ってのは2)ね。
 キャラクターってのは1)と2)の混合によって生み出されるもの。「外面が内面を規定する」、もしくは「内面は外面に影響を与える」。これって本物の精神分析の教科書にも載ってましたね確か。意外と学あるね、俺ね。とっても楳図かずお的だよね、ホラ、『うろこの顔』だよ。
 でね、アニメなるものが不愉快である歴然とした理由というのがあって、それがとっても誰かに都合がいいように出来てるからなの。その都合の良さが単なるビジュアルの趣味に留まらず、物語の構造、キャラクターの内面を侵食するとき、限界を越えた人は不快を叫ぶ。が、安直でわかりやすい快楽構造は、それでも観客の内面に忘れがたい傷を残す。
 でも、そんな世界は、本当はどこにもないんだよ。
 もう、ホント、それだけ。

 この関係性を考えるとき、すぐ思い浮かぶのが、例えば押井守『うる星やつら2・ビューティフルドリーマー』なんだけどさ。あれは意図的にやってみせた構造の抽出劇だったんでしょうけど。かなり歪んだ作劇になっちゃってるし、説明不足も甚だしい。
 ネタ元はディック『宇宙の眼』で、ブラウンの『発狂した宇宙』で、根本はホラーなんだ。そして誰もいなくなる系の。だんだん登場人物が消滅していって、最後に主人公がポツンと虚空に放り出される。そして、昏睡状態のガールフレンド。彼女は夢を見続ける。美しい夢を。
 この世界が誰かの夢、妄想だったとして、果たしてその内部に囚われた人間は幸福なのか。
 これね、このテーゼ、本当いいとこ突いてるんだけど、押井はホラ、アニメの側の人だからさ、最終的にその世界を肯定しちゃうわけ。あの世界全体。なんだかんだいっても、結局好きなんですよ、あの人。だからいまだに作り続けてるんでしょうけど。
 俺はイヤだね。やっぱり。 

 ね?
 こんな風に、この文章を早めに打ち切るなんて準備不足、説明不足もいいとこだけど、細かい話はまた今度。さっさと寝ないと明日は、明日の仕事が待ってるしさ。

 もうすぐ三月だなー。

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2017年1月 8日 (日)

白木まり奈『犬神屋敷』('16、ひばり書房)

 正月明けだというのに、深夜勤務をあてがわれた怪奇探偵スズキくんは巨大削岩機を廻し続けていた。直径5メートルものドリルをグリグリ回転させて地下をえんえん掘り進むという、単純極まりなくも、確実に神経をやられる種類のお仕事である。

 「・・・やれやれ、こりゃもう、2017年も初っぱなから確実な不遇が予想される展開でありますが~。しかし。
 何はともあれ、読者皆さん、明けおめであります~~~!!!」

 おめ~、おめ~という大声が暗闇に反響して消えていった。あとにはドリルの爆音ばかり。
 地下坑道には、他に誰の姿も見えない。
 ポツン、ポツンと点る安全灯の黄色い光がかえって物寂しさを煽り立てる感じだ。影の部分、光の届かぬ闇は真っ黒に塗り潰され、いっそう深い。

 「・・・孤独だな・・・・・・」
 耳元でボソッと声がした。
 「・・・ノー・フューチャー、絶望一直線。もう全然ダメって感じだな・・・・・・」

 さすがに連載長いだけあってこの展開を完全に読み切っていたスズキくん、少しも慌てず、削岩機を停止。闇に隠された坑道の端々へ鋭い視線を走らせながら、威嚇に出た。
 
 「フン、今年も性懲りもなく出ましたね、おやじ?
 ここはひとつ、ボクの手裏剣に縫い止められる前に、さっさと姿を現したらどうですか・・・?」

 古本屋のおやじは、フフンと鼻先で笑うや探照灯の明りの中に歩み出た。
 安全第一につきヘルメットを着用しているのは良しとして、片手にダランと斧をぶら下げているのは、さすがにいかがなものかと思われる。
 その斧には、誰のものかわからない血糊が付着していた。

 「フフフフフ、イヒヒヒヒ、ふはッふはッ、アはははははは・・・・・・!!」
 狂ったような哄笑には、正気と狂気の階梯を踏み外した者に特有の嫌な響きがあった。
 「正月からダラダラ、こたつにみかん、こたつにみかんと同じ動きを繰り返しておったら、遂にキレたかみさんから、こいつを投げつけられたわ・・・!」
 真っ赤な血に染まった斧を高くかざす。そういえば、おやじの額がちょっと切れてるようだ。
 「もう、わしには恐れるものなどない!神などなんぼのもんじゃい!
 今年こそ日本の路線バス全線乗り継ぎ旅を完了してくれる。そして、世紀末覇者として、小池百合子と堂々百合りますよ!
 ゆりり~~~ん!!!」(『1986年のマリリン』のメロディで)

 スズキくん、少々慌てて、
 「いや、だから有名人とか実名出しちゃダメなんですよ。余計な面倒多いんだから。
 チェインソー持って宅配業者脅しにいった(自称)ユーチューバー事件を知らんのですか。日本の知能指数はもう急速に下がってますよ、恐ろしいくらい」

 「そんな傾向に歯止めをかけるべく、白木まり奈の新刊が出たぞ。これはもう事件だ。さっそく嫁。じゃない、読め!」
 スズキくん、再びちっとも騒がず、
 「ええ、もちろんボクが今地下を掘っているのは、決して生活費捻出のためばかりでなく、小池都政に対する暗黙のプロテスタントといっていい訳ですが。
 ・・・って、え?なんで、いまさら2016年にまり奈の新刊が・・・???
 しかも、ひばりのロゴ、装丁で・・・???」


【あらすじ】


 50年前に廃村と化した村に、そろって乗り込んだバカマンガ家とふたりのこども。安く行けるリゾートなんぞ他にたくさんありそうなもんだが、敢えて過疎すぎる呪われた物件にホームステイ。さすがセンスあるなぁー。
 並ぶ廃屋群の中でも、いちばん住んではいけないと北九州の狂ったヤンキーでも楽勝で指摘できるであろう、村を見下ろす不吉な屋敷(これが当然タイトルチューンの犬神屋敷)に住み込んだ親子は、案の定、連続して幽霊に遭遇。それも全身血塗れで、脳天に斧をブッ込んだ派手な姿で、絶叫しながら屋敷内を練り歩くというハードコア・スタイル。
 「おとうさん、もういやよ!こんな村、さっさと撤収しましょう!」
 ベタ墨のハイコントラストで、必死に訴える小学生の娘に対し、父親は、
 「幽霊は怨みのある人のところに出るはずなのに、なぜわしらの前に姿を現すのか。これは絶対なんかあるぞ!!」
 と、誤った方向にヒートアップ。
 「わしの友人に心霊にくわしい男がいるから、来てもらおう・・・!」
 これでは全然回答になっていない。ほとほと、あきれかえる娘。
 しかも、そいつは結局来なかった。
                         (完)

 「エ・・・・・・なんですか、コレ?」
 茫然として読み終えたスズキくん、本をパタリ置くと呟いた。
 「ま、要するに諸般の事情により未発表に終わってしまったまり奈先生の長編まるまる一冊が、今回初めて出版された、という記念すべき事態なワケだが・・・」
 おやじはニタリ笑う。
 「コレ、内容は確かにアレだけどさ、別に出来が悪いって程のこともなくて、安心のひばりクオリティーでしょ。ギャラで揉めたってことか知らんけど、作品としては白背でもヒットでも余裕で出せるレベルだよ。水準以上。かえってまり奈先生の作家性の確かさが浮き彫りになってると思う。
 具体的には、屍蝋の入った井戸水に対する的確なフォロー。見事だ」
 「たしかに読んで損は全然ない出来栄えですけど・・・・・・」
 スズキくんは唇を尖らせる。
 「現在、これを敢えてひばりロゴで出す意義ってなんなんですかね?ノスタルジィ?好き者達が夢のあと・・・?」

 「わからんのかね?」
 おやじは確信をもって断言した。
 「すべてのマンガはひばりを指向すべし、という明確なマニュフェストだよ。何が飛び出すかわからないおばけ屋敷。誰が得するのかわからない残虐展開、エスカレーション。こじつけ。悪意ある無理難題。いい加減極まる(毎度の)ご都合主義。
 まだまだ、こうした素晴らしい作品は、出版の機会を偶然逃したまま、歴史の闇にたくさん眠っているのかも知れん。具体的には、引出しに仕舞ったまま忘れたとか、上にマットレスを敷いちゃったとか。
 この本の売り上げがよければ、そうした作品に復刻のスポットがあたるチャンスも出てくるだろうし、そんなどうでもいい作品の集積の中に、実は本当の未来への扉を開く鍵が隠されているかも。
 もう、なんたら賞だの、なんたら大賞には心底飽き飽きだ!死ね!死んじまえ!選ぶ奴も、選ばれる奴も、読んでるそこのお前も。全員、共犯じゃねぇか。
 だから、キミも『進撃』だの『ワンピ』だの、毎週ジャンプを読み続ける惰性行為はいい加減辞めにして、自由なマンガの大地に羽ばたいてみてはどうか、という有難いお誘いなのだよ・・・!」

 斧がビュッと闇に飛んだ。
 髪の毛ひとすじ、スズキくんの傍らをかすめて岩に突き刺さる。ガキッと鋭い音がし、火花が散った。
 「怪奇の未来はこれからだ。わしに附いてくるがいい・・・!!」

 「イヤです」
 スズキくんは削岩機のスイッチを入れて仕事を再開しだした。ガガガガガ。
 「怪奇じゃ喰えないんだ、そんなこと、あんたも充分知り尽くした筈じゃないですか。これ以上、自己欺瞞を繰り返すのは辞めにしたらいかがですか・・・?」
 
 おやじはそれでもニヤニヤ笑いをやめない。
 「それじゃキミは、なんでいまだに怪奇探偵を名乗っているんだね。深夜労働者スズキくんでも、凡人サボーガーでもなんでもいい筈じゃないか。
 それは、いまだにキミが怪奇を好きで好きでたまらなくて、毎晩赤い夢を見て暮らす赤い部屋の住人だからじゃないのかね・・・?」

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2016年10月22日 (土)

ひらのりょう『FANTASTIC WORLD』('16、リイド社)

 素晴らしい。ビューティフルだ。想像力の地平が拡張されていく感覚を味わえる。

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2016年5月 8日 (日)

赤瀬川原平「お座敷」 ('15、河出書房新社『赤瀬川原平漫画大全』収録)

 「なんとなく、漫然と過ごしているだけで、今年のゴールデンウィークもまた過ぎ去っていきますなァー・・・」
 縁側にポツネンと座った怪奇探偵スズキくんは、お茶を啜りながら呟いた。
  「・・・しかし前回登場は年始ご挨拶って、ボクは季節商品扱いですか?」
 5月の空は眩いばかりの陽光に溢れ、遠くで鳥が啼いている。

  「いっけん平穏無事に見えて、ギラリと光るものが出る」
 不穏な気配のおやじは、煙草盆の傍らから低い声で応えた。
 「今はまさにそういう時代だが、事が起こってからさんざん嘆いたって手遅れなんだよ。そこからあとの現実はもう変わってしまってるんだ。二度と元には戻せない。そうして、われわれは否応なしに選択を強いられることになる。今後果たしてこんな状態で続けていけるのかって、遅まきながらようやく真剣になってね・・・」
 「ははァ。震災の件ですか?」
 「うん、それもあるが、世相というのか、今年はなんだか随分と人が死ぬねぇー」
 紫煙を吐いた。
 「わが藩でもこのたび城代家老が一名、詰め腹を切る羽目になってしまった。もちろん家老は家老で滅私奉公、全力を尽くし働いた。しかしそれでも、事態を収束するには意余って力足らず。とうとうおのれの首を差し出すほかなくなった」
 「うーーーん・・・確かに、そりゃ、まぁ・・・・・・その」
  スズキくんは露骨にモジモジし出した。
 「いいんだよ。無理やりコメントしなくても。われわれはテレビからギャラを貰ってる訳でも、新聞から頼まれてる訳でもないんだから。気の利いたセリフをいちいち捏造しなくていいんだ。
 それに、本当に困ってる人は、なんにも言わないもんだよ」
 「はァ・・・」
 「そんな誰もが沈黙を強いられるとき、マンガはなんだか凄く効能がいい。ホラ、例えば、このチラシだがね・・・・・・・」
 
 おやじが手渡したのは、カラー刷りポケット版の小さなチラシだった。
 「ふーん、たこ焼き屋の宣伝じゃないですか。『たこ焼 お好み焼 焼そば』『マヨネーズはお好みでおかけください』『温める際はお皿に移して電子レンジをご利用ください』・・・よくポストとかに入っている安い感じのフライヤーですよね。なんか知らん、また守備範囲広げてきましたねー。
 ・・・で、これがなにか?」
 「中央下に、ゆるキャラ風のたこ焼きキャラがメインとして描かれていて、ま、親子なんだろうね、オス・メス、ガキと三体並んでるんだが、こいつら全員頭髪がお好みソースだ」
 「あ、ホントだ。マヨまでかかってら~~~♪」
 「だんだん楽しみ方わかってきたろ。頭部が食べられるってのは、あんぱんマンテイストのカニバリズムだよ、ちなみに。
 そんな無理やりな批評家目線から全体を検証してみよう。中央に店舗名を大きく配置してあるのはチラシなんだし当然として、その周囲を取り巻く図像がいちいち突っ込みどころになってるんだ。結論からいって、これぞたこ焼き曼荼羅図なんだよ。
 まず角部は、上下段ともそれぞれで左右で対照構造となっている。左下はスカイツリーで右下は富士山なんだが・・・」
 「この富士山、雪とみせかけ、お好みソースかかってますね!(ニンマリ)」
 「うん。そんな小汚い姿の霊峰を背景に、フライ返しを握りしめて立ちはだかる巨大ロボ。頭部がなんだか『2001年』のディスカバリー号みたいですけれども。不自然な角度で棒が突き刺さっている。
 そして、その対照位置では、通天閣似のスカイツリーを背景に、著作権微妙に緩めなゴジラ似の超巨大生物が凶悪な笑顔で元気にたこ焼きを頬張っております」
 「ふーーーむ。ギリでアウトなデザイン。ロボと怪獣って、『パシフィック・リム』じゃないスか!?」
 「その直上は“力(パワー)”をキーワードとする図像の配置がなされており、登場するのは、なんと力士とレスラー。地上最強の組み合わせですよ。逆エビ固めをかけられたレスラーが、嬉々満面としてソース焼きそばを喰っているのもどうかしてるし、化粧廻しの横綱がこの店の女店員から山盛りのたこ焼きを差し入れられて大喜び!威厳のかけらもありません・・・!!」
 「全編ペンタッチとしては、コロコロイズムを感じさせる毒のないバカさ加減に溢れてますね。コロコロ第一世代は全員もういいお歳だし、そこから孫子供の代までコロ遺伝子は万遍なく伝搬している訳だから、万人受け入れやすい。まさにコロコロ化社会の到来(笑)」
 おやじ、さらに身を乗り出し、
 「さてここまでは、曼荼羅図の容易に解析可能な部分だ。対照構造はここから難易度を増すから、そのつもりで。
 中段には親子図が左右に配置されていて、キーワードは世界で一番貧しい大統領もご執心である“経済格差”である!」
 「なるほど、片や親二名子二名の一般サラリーマン家庭、路上でたこ焼き頬張るの図。片や子連れのセレブ夫人がレストラン風テーブルでワイン片手に給仕からお好み焼きをサーブされているの構図。
 これは、もう格差社会の図式そのものじゃないですか!」
 「セレブのマダムに、クソガキだけいて亭主がいないのがやけにリアルだね。しかし、一般家庭サイドでも、お母さん役の筈の人のポーズがやけに気取って他人行儀なのが凄く気になる。中学くらいの自分の娘に、爪楊枝でたこ焼き取ってやるなんて、行動からして怪しいよ。ひとりお出かけショルダーバック装備でフルメイクだし。ピンクのセーターで妙に巨乳を強調してやがるし。これ絶対、保険のおばちゃんだろ?」
 「もしくは後妻ですかね。いっけん平和そうな家庭にも地獄が潜んでいるってことですね~」
 「あとは雑魚キャラと見せかけ、一番の謎キャラのオンパレード。
 画面左上は、UFOを目撃する母と娘です。娘はコンタクティーらしく、人さし指をE・Tポーズで突出し微笑みを浮かべている」
 「それが、画面右下のグレイ風宇宙人2体の画像とリンクしているってことですか?」
 「うん、だんだん、読み方わかってきたな。
 この意味はズバリ、この店では宇宙からの来店を歓迎している、ということなんだよ!」
 「スケール無駄にでかいですね。
 すると、たこ焼きパックを捧げ持つ桃太郎は、時間を越えて、ついでに虚構と現実の垣根を越えての来店を勧誘しているってことか!ずうずうしい」
 「残る画像、空を舞う第一次世界大戦型の複葉機はUFOとリンクしている、と単純に片付ければいいんだが・・・」
 「ミニスカの美人バスガイドと、ミニスカの女子高生二人組の持つ意味は・・・?」
 「そりゃ、単なる作者の好みじゃろ」
 「ぎゃっふん!」

 おやじ、新しいタバコを火を点けた。
 「こういう発想を実際のアートに描き起こす作業が、例えば赤瀬川原平のマンガ作品の背景にあったんじゃないだろうか。
 ・・・時にきみ、傑作「お座敷」ぐらいはもう読んでるな?」
 スズキくん、かぶりを振る。
 「むむー、まったく残念なやつだな。じゃ、没後一年、ちょうどいいテキストが出版されてたから、これ読んどいて」
 おやじが手渡したのは、『赤瀬川原平漫画大全』という黄色い表紙の大判本だった。
 「さっきのチラシはどうしましょう?」
 「そんなの、もう、捨てていいよ。
 悪いがな、赤瀬川のオリジナル作品「お座敷」と、つげ義春「ねじ式」パロディーの古典にして到達点である「おざ式」は、読んでないと息してはいけないレベルの名作なのだよ。わかったね?」

 まったく勝手な、と思いながら、スズキくんは本を開いて読み始めた。彼方で子供のはしゃぐ声が聞こえる。小遣い銭を握りしめ、たこ焼きでも食いに行くのであろう。

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2016年1月11日 (月)

ドリヤス工場『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』 ('15、リイド社)

 「ネットで読めるマンガの単行本をわざわざ金出して買ってるのって、一体どういう人種なんだろうか・・・?」
 古本屋のおやじは呟いた。店内は薄暗く、埃っぽくて独特の異臭がする。正月も十日を過ぎれば町も普段通りの佇まいに戻り、似合わぬ晴れ着を持て余した新成人の輩が安い飲み屋で全員生ビールの祝杯をあげている。
「そりゃ、ボクやあんたみたいな、物好き連中でしょうよ。纏まってから紙ベースで読みたい。つまりは、ずぼらなクチだ」
 古本好きの好青年スズキくんは、座布団の上で落ち着き払ってグビリお茶を飲む。
 「でもね、そういう無駄こそいまの日本に必要。経済活性化のため必要な人材。貴重な少数派ですよ。
 ところで、そんな素晴らしいみなさん、遅まきながら新年おめでとうございます~」
 「・・・うるせえ、そんなの全員スマホにすりゃよかんべ!スマホにしたまへよ!!!」
 ドンとテーブルを叩いた。
 おやじはレジ横に置いたPCで地方競馬ライブを見ながら、せんべいを齧っているのだった。傍らに置いた温風ヒーターが暖かい風を送り込んでくるが、おやじの鼻は見事に真っ赤。風邪気味で機嫌が悪いらしく、声はガラガラ、首回りは茶色いマフラーでぐるぐる巻きだ。
 「スマホなら、なんでも便利でいいじゃんよ!それで万事解決だよ!バカちんが!
 読んで駅から駅まで時間潰し。現代マンガの立ち位置なんて幾多あるアプリのひとつに過ぎないんだろうがよ!」
 「新年早々なにをいきなりMAXテンションで怒ってるんですか?アプリもなかなかどうして悪くないもんですよ」
 「そういや、年始早々きみから携帯ゲームの招待状が届いておったな、ゲーム猿くん」
 「フッフッフッ、紅蜂さん。あなたもなかなかどうしてお上手で」
 「ふっふっふっふっ・・・って、ええい、話が全然進まんわ!だいたい、そのセリフ、どう見てもミスターXのものだし。でも、まぁ、ええわ!
 ドリヤス工場の新刊がようやく出おったな!」
 「遅い。出たのは去年の9月です」
 「あぁ、そうですか」
 
 「年末の冬コミでも新作出してますから、あんたが知らないだけで、工場はちゃんと操業を続けてる訳ですよ。メジャーで出してる本だけが本じゃないですよ」
 おやじは、くしゅんと鼻を鳴らし、
 「もともと水木系の脱力絵柄で最新萌えアニメなんかを解体してみせるのが得意なドリヤスだから、文学ネタもありだろう。あの絵で『テラフォーマーズ』描くだけで優れた批評になっちゃうんだから。これはもう、企画考えた人の勝利。ちゃんと面白く仕上がっているんだが・・・」
 「ボク、原典が題名は知ってても実際読んだことがない作品ばかりだったんで、なんかお得感ありましたよ。普通に面白いじゃないですか、この本」
 「そうだな。しかし、そもそも系列はあるんだよ。
 一番近いとこでは杉浦茂『ちょっとタリない名作劇場』とか、案外ヒントになってるんじゃないかな。『檸檬』だってやってるし。もちろん杉浦先生のことだから内容、無秩序なデタラメだけど(笑)間違いなしの傑作だよ。
 赤塚不二夫なんかもよく劇中で名作パロディやってたよねー。『ロミオとジュリエット』とか『王子と乞食』とかさ。落語ネタも含め、ギャグマンガでは類例数知れず。
 あと、現代作家に古典のマンガ版をガチ描かせる企画なら、誰もがやる『源氏物語』とかさ、冒険的なとこでは永井の豪ちゃんが『神曲』やるとか。本当いろいろあるの。著作権フリーの世界」

 「そういや、『ドグラ・マグラ』もかつて誰かがやったやつありましたね。耽美系少女マンガ絵で、店頭で見かけました」
 スズキくんは呑気に出されたお茶を啜る。
 「ん~、『ドグ・マグ』は、ねぇ~~~」
 「・・・『ドグ・マグ』ぅ?!」
 「あれは、実は小説でしか使えない叙述トリックが全編駆使してあるから、面白いんですよ。同じクリスティーでも『オリエント急行殺人事件』なら映画映えもするけど、『アクロイド殺し』とか『そして誰もいなくなった』とか、もう無理。あれと同じだよ。絵にした途端、嘘臭くなっちゃうんだ。
 ということで、この本で初めてあらすじを知り興味を持ったラッキーなきみは、実際読んでみて。文体癖在り捲りで、叙述くど過ぎる箇所もあるんで、読破するにはすごくすごく面倒で体力いると思うけどさ。でも例えば、少女の屍体解体シーンなんて他で読めないくらいマジやばいっすから。お勧めっすよ。三一書房の全集版では伏字にされてる部分も、創元推理文庫版でならバッチリちゃんと読めるから」
 「はァ~~~、テキストを比較検討してますね。珍しい。
 ・・・でも、ま、あんたの自慢話はまた今度ということにしまして、話をドリヤスに戻しますが」
 「ぎゃっふん!」

 「この本はWebコミックで連載されてた短編の集成なんですね。題名がすべてを語ってる内容で、古今東西の文学作品を脱力絵柄で勝手に漫画化。読者に好評で、現在も連載は継続中です。今回テキストに使用している単行本も三刷りですし」
 おやじ、偉そうにあごをしゃくる。
 「うん、この本の面白さを語ろうとすると、ネタ使いの的確さとかキャラ立てどうこうとかじゃなくって、マンガの叙述そのものに関わる面白さなんじゃないかと思う。
 ぶっちゃけ、マンガって面白いじゃん?」
 スズキくん、無言で頷く。
 「それはいろんな要素を含んでると思うんだけど、そのひとつに話をマンガで語る面白さってのがあるんだよ。よく知ってる話でも、あらためてマンガにしてみると面白い。マンガにする、コマを割ってみる、という行為自体がもう面白いんだ。それが面白くならないとしたら、作者の側に問題があると疑ってみた方がいい。
 この本の中では作者の強力な主張として、意図的に往年のマンガ誌『ガロ』を髣髴とさせる文体を採用しているワケなんだけれども。水木酷似のキャラばかり目立ちますが、背景やらト書きが多用がダブルつげ(義春&忠男)を連想させたり(写植フォントも似てるし、印刷の色味も往年の茶系統を駆使)、ストーリー展開やら脱力度合いが川崎ゆきおの作品にクリソツだったり。せこくて情けない感じがなんとなく杉作J太郎イズムに満ちていたり。出てくるすべてが日本マンガの暗黒潮流なんですよ。ダウナー系の系譜ですよ。路地裏物語ですよ。ハッキリいって最高じゃね?いま日本で一番ガロってますよ。
 こうしたわれわれのよく知る文体を模倣して、さらによく知る話をやっていて、なおかつ面白い。これはとても画期的なことで、オリジナルな発明なワケですよ」
 「なるほど・・・」
 「間抜けな爺さん評論家が、ヒップホップにおけるサンプリングに酷似とか言い出しそうな気もするけど、ハッキリ言って、違います。あれはテクストの抜粋でしょ?ここで使われている手法は、再話(リ・トールド)というやつです。・・・ま、そんな批評用語どうでもいいんだけどね!」
 「確かにどうでもいい話ですね。
 じゃ、ボクは忍術学校の非常勤バイトがあるんでこれで。正月ボケで緩んだアタマに喝を入れる意味で、『暗夜行路』でももう一度読み直しますか」
 「志賀直哉って、山手線の電車に撥ねられて助かった男なんだよ。既にその時点で不謹慎だが面白いじゃん?
 いろいろあるだろうが、今年もひとつ活躍よろしく頼むよ!」
 「へいへい~」

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2015年8月23日 (日)

ジョー・ヒル、ガブリエル・ロドリゲス『ロック&キーVol.1』 ('15、飛鳥新社)

 世にも悪名高きジョー・ヒルが原作のコミックブックを読まされるなんて、今日はなんて運の悪い日なんであろうか!(って、まぁ、しっかり自分で買っておるわけですが。)
 なに、ジョー・ヒルって何者だって・・・?
 きみはよっぽどツキまくった人生を送ってるに違いない。やつのことを知らずに過ごせるなんて。度はずれた幸運に恵まれているとしか思えない。
 西部じゃとっくに有名ですよ。伝説のホワイト・トラッシュ。飲んだビールの大ジョッキで人の頭を殴る男。幼女と幼児を強姦して殺し、死体の皮を剥いで軒先に吊るして、うちわで扇いで涼む人でなし。ど畜生。指名手配犯。無法者、デスペラード。
 そいつがジョー・ヒルってやつですよ!

 ・・・と、三文芝居はいい加減にして、今回のこの本、確かに世評通り面白かった。
 税込4,500円もするんで貧乏人には決してお勧めしないが、ま、このクソ暑いってのに毎日よくもまぁ会社ばっか行ってるような律儀なクソガキどもには、やきとんで一杯の替わりに読んでけ!って程度には推奨できるかナー?!まったく大人って、くだらないことにばかり金使ってるよネ。嘆かわしい。
 でも全編フルカラーで300ページ以上ありますし。鼻に鉤マーク状の影を描き込む、80年代の日本マンガみたいなロドリゲスの作画術は、いまいちながらも丁寧で好感が持てる仕事だし。「ま、いんじゃネ?」って感じですか。つべこべ言わず買っちまえ。

【あらすじ】

 ある日狂ったクソガキがやって来て、親父をぶっ殺して数か月。すべてを忘れ人生をリセットするために父方の実家に引っ越してきたロック一家を、井戸の底の悪霊が襲う!
 まさに死霊悪霊乱れ舞いといった大変な事態なのであるが、悪霊がなんで襲ってくるのかと言えば、そのカギは文字通りこの実家(豪壮なお屋敷)の中に隠された太古の鍵にあるのであった。ちゃんちゃん。
 なら、引っ越さなけりゃいいじゃん(爆)!

 以上だ。
 これでどんな話か解れというのは、ペンギンに高校入試を受けさせるくらい無理があると思うので、細かい説明はしない。
 
しないが、面白ポイントをちょっとだけ解説しておくと、とにかく隙あらば人をぶっ殺したがる大量殺人鬼の出てくる話は、たいてい外すことがないものである。
 ジョー・ヒルの本書を読んでいて直接的に思い出したのは、ニール・ゲイマン『サンドマン』3巻に出てきた少年ホモ殺人鬼なあいつ(名前忘れた)だが、『殺戮の〈野獣館〉』だって本筋とたいして関係ないロリコン親父殺人鬼の大活躍によって面白さを倍加させているわけだし。
 そもそもがレザーフェイスの昔から、得体の知れない、ほっとくと死体の山を勝手に築いてしまう悪い人達ってのは、われわれの精神の間違ったツボをグイグイ押してくるパワーを持ってるもんですよ。ね、そうでしょ、ご同輩?
 そういう悪すぎるやつって、なぜかアメリカではエンターティメントのキャラクターになっていて、ハンニバル・レクターを筆頭にしてとても人気がある。
 アメリカって、やっぱり不思議だ。

 ところで、ジョー・ヒルってのは、キングの息子ですよ。『地獄のデビルトラック』監督の。あ、知ってた?当然だよね。こりゃまた失礼しました~~~

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2015年7月26日 (日)

田川水泡/くまの歩『のらくろファミリー』 ('87、講談社KCワイドコミックス)

 「27年ぶりにセーラー服を着た風間三姉妹ってのは、なんかもう、まるっきり漫★画太郎のキャラですなー!」

 失礼な感想をずけずけ述べながら、古本好きの好青年スズキくんはスポーツ新聞を折り畳んだ。
 異常な猛暑に責め立てられ、街路を行き交う人影も無い。表に出たら、たちまち熱中症のえじきにでもなりそうな、緊迫感に満ちた過酷すぎる夏が続いている。

 「先日全国2か所で、それぞれトライアスロン中死亡した中年男性がいるんだが・・・」
 古本屋のおやじはゆっくり咥えたピースの紫煙を吐き出しながら、
 「ユング先生の言う共時性(シンクロニシティー)ってのは、まさにこういう現象を説明するために編み出された用語なんだろう。意味ある偶然の一致ってやつだよ!」

 スズキくん、ギロリ目を光らせて、
 「・・・ホホゥ。で、そこにいったいどんな意味が?」

 「過酷なスポーツに挑む人はまず両親に相談しろ。両親がいない場合は、先生に相談すること!!」

 おやじは背後の黒板に“※この夏の重点課題”とチョークで大書きし、バンバンと叩いた。

 「無謀すぎる若者が生き急ぎ、思慮深い筈の中年も当てにはならん。老人は線路と道路を間違えるし、酔ってセクハラの挙句に奴隷誓約書を書かせるし。まことこの世は嘆かわしい。名探偵カッレくんにも恥ずかしい。吾輩は背中を十数箇所刺されて殺された町内自治会長にでもなったような心境だ」

 「あんた、最近つくづく時事ネタ好きですなー。
 そういや、ドローンが落ちてきて国会がぼかんぼかんってオチ、二連続で掲載されてましたよ!ネタの使い廻しじゃないですか!更新数も減ってるんだし、ネタの粉飾決算はいい加減にしてください。第三者委員会に査問調査させますよ!」

 「あ。ホントだ。
 実はまったく気づかなかった。遂にこのわしも惚けたかも知れん!・・・って今更感のある疑惑を突きつけたところで、今回取り上げるのは、実はのらくろなんだが・・・」

 「唐突にきましたねー。大昔過ぎる有名マンガですよねー。でも全然読んだことないですよ、ボク」

 おやじ、ここぞとばかりニンマリと笑い、身を乗り出した。

 「よし、のらくろ歴40年のこのわしが、おぼろげな記憶をもとにこれまでのあらすじ含め、解り易く解説してあげよう!
 なにせ、わしは『のらくろ自叙伝』を発売時に買った男なのだから、のら知識はもうカンペキだ!」


 「・・・ウソこけ・・・」

【あらすじ】

 中国四千年の歴史を誇る花果山の麓で、岩がパカっと割れて産み出された無敵の兵隊これが野良犬くろ吉、通称のらくろである。住所不定の野良犬であり、色が真っ黒で鼻づらだけが白いので、通称のらくろ。海に出たらばハナジロという名で通っている。
 時は戦国、世は乱世。バイト先のたこ焼き屋のおやじに薦められたのらくろは、連日おサルとの激しい戦闘に明け暮れる猛犬連隊に二等兵として入隊する。
 日々の過酷な特訓に耐えに耐え、めきめきと軍きってのトップガンとしての資質を発揮していくくろ吉。単身おサルの国に乗り込んでいって豪快に捕虜になるなど、一線越えたアヴァンギャルド過ぎる軍務を続ける。その一方、たこ焼き屋の一人娘お銀ちゃんと懇ろになるなど、恋に仕事に大ハッスル!
 やがてその活動は、連隊の最高司令官ブル大佐(※ブルドック)の目にとまるところとなり(って、まぁ入隊初日から連隊長とは互いにど突きあう仲なのだが)、軍曹、曹長、少尉に大尉と異例のスピード出世を重ねていくも、すでに戦況は我が国敗戦の色濃く、戦時下の東京では紙資源の供給もままならなくなり、遂に1941年ジョンベルーシ・イヤー、無念の打ち切り。俗にいう「のらくろ切ったら戦争負けた」という、例のアレである。
 そこで戦後は油田探しやら喫茶店経営などして、まごまご暮らしたということじゃ。
               (完)

 「・・・って、まぁ書いてあることの90%以上は嘘なんでしょうが・・・」
 スズキくんは珍しく感心している。
 「ちょっとだけ、本当のこともありますね!」

 「失敬な。正直ブロガーとして20万アクセスを誇る弊社の実績を舐めんなよ!何の役にも立たん、読んで気持ち悪くなった、グロ載せんな!と小国民の皆さんも怒り心頭大好評だ!」

 「そんなもんに毎回駆り出されるボクの身にもなってください!頼むから!
 ・・・で、今回取り上げてるこの本ですが、'87年の発行なんですね」

 「フランク・ミラーがバットマンの再起動に成功した『ダークナイト・リターンズ』が'86年、スーパーマンのリニューアル『マン・オブ・スティール』もこの頃だから、日本のDCコミックスと異名をとる講談社(それを証拠に自社コミックスブランド名がKCだ!)としても、自社の老舗キャラを現代に蘇らせる欲望に憑りつかれてもおかしくあるまい。オリジネーターである田川氏ではなく、別の作家を起用するところもとってもアメコミ流儀だよな!」

 「田川水泡が亡くなる間際で、版権が浮いたんじゃないんですか?(※実際に亡くなるのは'89年)」

 「黙らっしゃい!この時期、『のらくろクン』というアニメが放映されていたのも含め、所詮すべて一種の黒歴史。誰もがなかったことにして“のらくろリブート”など忘れ去った。マンガ版の方でも、主人公は実はのらくろではなくって、彼の息子。麻雀好きでしかもW大学中退・・・ってコレ、宇宙飛行士Dさんじゃん!そんなやつが主役じゃダメだろう。
 兵隊でないのらくろなんて、なんの魅力もないし、誰も感情移入なんかできないんだよ」

 「あ、いま、言ってはならない当然の真実を突きましたね。これで安心して記事終われますね。早くてよかった、よかった~」

 「いや、まだドローンが墜ちてきてないから・・・」

 「・・・もういいよ!」

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