もっと、あらすじが読みたいきみへ

2019年5月12日 (日)

『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン:センチュリー』(アラン・ムーア / ケビン・オニール、ヴィレッジブックス 2019/1/31)

 最近の私は以前に増して本質論者だ。
 元号も変わったことだし、もう虚飾と見栄っ張りとかどうでもいいでしょ。今回採り上げるムーアの新作なんか、“虚構と現実のミクスチャー”だし、〝高度な知的冒険精神”に満ち溢れているのかも知れないけど、そう言ってなにかが解決するのか。アフリカに小学校をつくれるのか。
 もう、重要なことしか言っちゃダメよ。そういう気持でやっていこう。
 そしてね、何もしない人は地球にいないのも同じ。それがわかってるから、私はまた記事を書くんだと思うよ。

【あらすじ】

 小学生の頃に吸血鬼に噛まれた山田は、不死の存在となり、耳鳴町の歴史を裏から支えるミッショネーターとして活躍している。同じく有史以前から生き続けている両性具有の藤原と、能登温泉郷にある長寿を保証する炎の泉をアフリカ探検中に浴びて、寿命が延びた年寄りと共に、世界の破滅を招くアンチクライストの誕生を阻止するため、今日も過酷なミッションに立ち向かうのであった。

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2018年10月 7日 (日)

ミケル・ブレネ・サンデモーセ『ラグナロク オーディン神話伝説』(2013年、ノルウェイの森プロ)

 あらすじこそがすべてだ。
 どんな感動的な名場面があろうと、役者が畢生の名演技を見せようと、私の脳内ではすべてがあらすじに変換される。それは余分なデティールを削ぎ落す作業。皮を剥ぎ、肉を削り、映画の骨を抉り出す。
 ま、簡単に云うと単純化して面白がってるだけなんですが。意外と映画の本質はそこにある。例えばこの映画。

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 いっけんポスターだけ取れば『グーニーズはグッドイナフ』に、『ハムナプトラ』に、『ナイトミュージアム』にも見えますが、中身は実はノルウェー産の『アナコンダ』であるという。この矛盾。詐欺じゃん。

【あらすじ】

 北欧の田舎にキャンプに行った佐藤さん一家。きれいな大自然の空気を満喫しながら、がんがん山奥へ分け入っていく。いい景色だ、空気もうまい。こいつはビールも進むぜ。

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 「こらー、あんまり山奥行っちゃダメよ、パパ」
 優しい奥さんの止める声も聞かず、ずんずん奥へ奥へと分け入っていく。

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 「うわー、こりゃすごい森だ。昆虫どっさりいそうだなー」
 素直な感動に目をキラキラ輝かせながら感慨を漏らす佐藤さん。
 小学生の息子が冷静にどつく。
 「おやじぃ~、こんな海外の僻地まで来て、それかよ~!」

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 とても穏やかな佐藤さん、さらに国境のない自由な世界にイマジンを飛ばす。呆れる家族はガン無視するが、ふと気がつくと帰り道がわからなくなっていた。
 おまけに急激に天候も悪化。降り出す激烈な雨にあわてて近所の洞窟に避難することに。洞窟の中は当然まっくら。心細くなり泣き出す家族。
 
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 「おーーーい、助けてくれーーー!」
 「うぇーん、うぇーん、うぇーん」

 と、そこへ忍び寄る黒い影。

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 「てめーら、俺の縄張りを荒らすなよ!北欧伝説の秘宝は、基本的にオレが独り占めだかンな!!」
 それは、いい歳こいて独身で、ガラシャツ着て缶チューハイ飲んで、古代ノルウェー王が洞窟の奥に隠した宝を探す、どこの国にもいるごくつぶしの汚いヒゲオヤジだった。
 抵抗する気もなく、「まぁまぁ、落ち着いて。話し合いましょうよ」とか言ってる佐藤さんに銃を突きつけ、素早くこの世とララバイさせようとした瞬間。

 「ガーーーーッ!!ぐぎゃるるるーーー!!!」

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 襲い掛かる超巨大な、へび。
 「ひぇーーー!」へびの嫌いな佐藤さんは悲鳴を上げ、無駄な抵抗をしようと猟銃を向けた悪いおやじは丸呑みに。おやじが大蛇に丸呑みされる映画は、全部無条件に『アナコンダ』。

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 なんとか逃げ出した佐藤さん一家に、なおも執拗に迫るへび。ドリフのコントみたく、呪われた沼地に張り渡したロープから落っこちそうな佐藤さんを、奥さんが救いに来ました。

 「あなたー!頑張ってー!まだ家のローンは残ってるのよー!」

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 しかし敢え無く呪われた沼にドボーーーン。せっかくの努力がまったく役に立たないこともある。
 迫る巨大な大蛇のあぎと。佐藤さん夫婦の運命ももはや風前の灯かと思われましたが、そこへ、子供たちが子へびを捕まえ交渉に。

 「おまえの子供は預かっている。返して欲しくば三千万円用意しろ」

 大へびだって子供は可愛い。しかたなく、へび銀行伝説の森支店に現金を引き出しに行っているあいだに、佐藤さん一家は無事脱出。子へびは交番に届けましたとさ。

【結論】

 観る価値のない映画にもいろいろあるが、そのひとつに既に観てしまっている映画というのがある。すでに観ていて、まったく面白くなかったものを再度観直すくらい無駄な行為はない。やめましょう。

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2017年9月 3日 (日)

ジーン・ウルフ『書架の探偵』 ('17、早川書房新 ハヤカワ・SF・シリーズ)

 字が大きい、読みやすい。でも単価高い。新SFシリーズ。
 柔道の世界選手権ハンガリー・ブダペスト大会第6日は2日、男子100キロ級でジーン・ウルフ(東海大)が、初出場で金メダルを獲得した。
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 昔から書籍というのは溜まる、黴る、埃りの元凶、なんか臭い等いろんな困った問題を孕んでいたもんだが、Kindleっての?クラウドっての?兎角しゃらくさい電子書籍化により、収納スペースの問題も簡単に解決。フォントサイズだって、字体だって表示選択さえすれば自由自在だ!すげぇぜ、21世紀テクノロジー。
 でも、そんな便利な時代の趨勢になんか意地でも乗るもんか、という奇特な御仁達がいる。行く先々で笑われ嫌われ疎まれたって、本はあくまで紙だし音楽はCDで聴く。そういうアナログかつ面倒な皆さんのために地方自治体が公共サービスとして、作家本人の貸し出しサービスを始めましたよ、というのがこのお話。ウルフ84歳。でも金メダル、やるもんだネ!

【あらすじ】
 1988年、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制するための「メディア良化法」が制定される。法の施行に伴い、メディアへの監視権を持つメディア良化委員会が発足し、不適切とされたあらゆる創作物は、その執行機関である良化特務機関(メディア良化隊)による検閲を受けていた。この執行が妨害される際には、武力制圧も行われるという行き過ぎた内容であり、情報が制限され自由が侵されつつあるなか、弾圧に対抗した存在が図書館だった。
 実質的検閲の強行に対し、図書館法に則る公共図書館は、「図書館の自由に関する宣言」を元に「図書館の自由法」を制定。あくまでその役割と本の自由を守るべく、やがて図書館は自主防衛の道へと突き進んだ。これ以降、図書隊と良化特務機関との永きに渡る抗争に突入していくことになる。

 ・・・って。いや。もう。
 ありえんわな、こんな被害妄想丸出しの陳腐きわまる筋書き(笑)。
 ウルフ先生に失礼やぞ。


 そう、かつて俺は『ニンジャスレイヤー』第一巻が我が国に初紹介された際、歴然たるお笑いとして取り上げ、そこへついた「サイバーパンクのバックボーンうんぬん」というレスに対し、「おっしゃる通り、お見事たいした見識」と書き込み、そこで打ち止めにした。
 ここで宣言するが、あれは真っ赤な嘘である。そんなもんあるかボケ。一丁前な口利くんじゃねぇよ小僧。百年早いわ。どたわけが。
 もっともらしい、聞いた風な意見しか垂れへんクズども、お前らはもう本を読まんでよろしい。貴様らとは完全に決別することにした。つまらん一銭にもならんご託ならべよってからに。ドアホが。勝手に地獄の底まで落ちやがれ。具体的に落下せい。太陽フレアで全員皆殺しや。死ね死ね死ね死ね。くたばりやがれ。
 という、やたら威勢のいいスカスカの決意と共に、以下真の『書架の探偵』あらすじを記すことにする。金で頼まれたわけでもないのに、よくやるよ俺も。

【真のあらすじ】
 期日までに本を返さないと「図書館警察」がやってくる。なんで来るのか知らんが。まぁええやないか。そもそも「図書館警察」ってなんやねん。実態不明やん。まぁ、気にすんな。名前格好ええんやし。そう、アメリカの子ども達の間でまことしやかに伝えられるこの都市伝説は、不気味なポスター(叶姉妹共演、コミケ出店)と冷酷な司書(声・佐野史郎)と共に確かにこのジャンクションシティ市立図書館に棲み着いているのだ。あぁこわい。
 ある日図書館を訪れたサムは、やがて図書館警察に追われながらも自分の恐怖に立ち向かう。それは産まれたがすぐ惨殺された無念の水子の怨霊であった。
 って、恐怖が個人的すぎるしそもそも図書館と関係ないやん。

 う わ。
 筒井ヤスタカ並みの白々しさで申し上げるが、また違う本のあらすじを書いてしまった。あと筒井を中田某みたいに表記するのはやめろ。しかしこれまた読む気の失せるあらすじやなー。
 と、ここで気になった、よそ様の記事を引用です。 https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12151-13691/
 「小池栄子(36)をめぐって、8月9日発売の『週刊新潮』が旧所属事務所との深刻な金銭トラブルを報じている」というのだが、「イエローキャブ社が破産したころ、ネット上に小池のヌード疑惑画像が流出したことがあった。バスルームの床に全裸で寝そべり、乳首がピンコ勃ちしている画像や、左乳房をモロ出ししている画像など複数が流出し、一時ネット界が騒然」などという、信憑性疑わしいというか露骨に嘘やんそれ、レベルのどうでもいい情報を書き連ねた末、以下怒涛の結論となる。
 「金銭問題も一気に解決! 圧巻の爆乳“つるべ落とし”ヌードお披露目か!」
 注目ポイントは最後のビックリマークですな。期待しすぎ。本当ごっつ見たいんやろね、この人。小池の乳首。そこは伝わりました。

【本当のあらすじ】
 「バベルの図書館」と呼ばれる(主人公は「宇宙」と呼ぶ)その巨大な図書館は中央に巨大な換気孔をもつ六角形の閲覧室の積み重ねで成っている。閲覧室は上下に際限なく同じ部屋が続いており、閲覧室の構成は全て同じである。
 閲覧室の壁の内、4つの壁には5段の本棚がそれぞれに設置されており、各段に32冊ずつ本が収納されている。
 残りの壁はホールに通じており、そのホールを抜けると別の閲覧室の回廊に続いている。ホールには左右に扉があり、それぞれ立ったまま眠る寝室とトイレになっている。また螺旋階段が設置されており、それを使って上下の閲覧室に行くことができる。明かりはランプという名の果実がもたらしている。
 司書たちはそこに住み、そこで生涯を終える(死体は換気孔に投げ捨てられる)。

 この図書館の本には次のような特徴がある。
 全て同じ大きさの本であり、1冊410ページで構成される。さらにどの本も1ページに40行、1行に80文字という構成である。また本の大半は意味のない文字の羅列である。また、ほとんどの本は題名が内容と一致しない。
 全ての本は22文字のアルファベット(小文字)と文字の区切り(空白)、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。
 そして同じ本は2冊とない。
 
 ・・・はい。人の書いたものを出典を明確にせず適当に参照にしながら切り貼り編集していくのはホンマに楽ですなー。
 (みなさん、実のところこうして記事書いてはりますのん?)
 
いちいち『伝記集』、本の山から引っ張り出さなくて済みますもんな。そうか、バベルの図書館に同じ本は二冊とないんやなー、遺伝子配列みたいなもんかなー、とあらためて感心。いや、それどころか。ボルヘスはんは「ここに宇宙のすべてがある」、といいますか、「これぞ本でできた宇宙そのもの」なんやー、と壮大な結論に至るわけなんですが。
 はて、ホンマに面白いんかここの蔵書の本。小池栄子ヌード写真集は勿論、小池百合子写真集(京唄子の帽子付き)も絶対なさそうやけど、それで果たして宇宙のすべて網羅されるのやろか。マンガは?図説は?五味太郎の絵本は?相田みつをの人生訓は?
 あー、わかってま。ボルヘスは活字の人ですからな。宇宙は本で出来てて不都合ないんですわ。記憶の人がフネスなのと同じく確かなことですわ。で、ボルヘスからジーン・ウルフに話を繋げるっちゅーね(笑)コレあざといわ。確かにあざとい。
  そしたら、以下曖昧で意図的に虚偽の記述を含んだあらすじを紹介しますね。でもね、ウルフの本当に面白いとこは、筋立てじゃガジェットじゃおまへん。記述法の根幹、どう読ませるか。どう読まれるか。書いてる人は何者で、読むのは一体誰なのか。実はそのへんの関係性にすべての勝負を賭けとります。やつは本気なんだす。

【酷いあらすじ】
 お父さんは、実はドラえもんだった!
 そんな衝撃の事実を知ってしまったのび太は、自分が女でしかもスネ夫である真実に気づく。急いで逃げなければならない。ジャイアンがバットを持って襲ってくるぞ。頼りにならない相棒は暗記パンを食べすぎて、丁寧語しか喋れない人造人間18号。こんなんで果たして話がまとまるのだろうか。と思ってたら以外としっかり読後の満腹感。ゲームオーバー。
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 ・・・ふぅ、今回かなり際どい部分までお話してしまいましたで。こういう本は何も知らずに騙されるのがよろしい。その上であらためて、上記センテンスのでたらめさを味わってみて欲しい。あぁ、既に読んだ方。えろうすんません。

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2017年7月29日 (土)

ロバート・E・ハワード『征服王コナン』 ('50、ハヤカワ文庫SF2)

 「日本でよかった」「乗客に日本人はいませんでした」と言うが、本当にそうなのか。
 この国は大陸と途絶された島国だ。われわれの中に無意識裡に、遥か海原を隔てる距離のギャップを、空想的かつ魅惑的なロマンに置換してことほぐ極めて卑しく面倒臭い心性が育っていないと誰が断言できるだろうか。
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【あらすじ】
 キンミヤ焼酎をぶら下げて東北からやって来た蛮人コナンは、都会の荒波に揉まれながら成長し、やがて歌舞伎町の帝王として近隣諸国に覇を唱えるに至る。
 これを面白く思わない葛飾区の王トラサンは、亀戸王の甥リョウサンと錦糸町の領主JRAと共に結託し、高野山より盗み出した空海のミイラを復活させ、一気に新宿区制圧を目論んだ。
 具体的には、かかるとチンコがくさる病気が流行する。
 感染源不明の恐るべき古代病は通称梅毒と呼ばれ、風俗街のどぶ板裏側付近を徘徊する最底辺売春婦たちを媒介として、幾多の都市を壊滅状態に追い込んでいく。これぞ現世に復活した空海上人が放つ恐るべき呪力だ。想像を絶するペニスの腐れ具合とそれが放つ強烈な臭い、呪術パワーのあまりの威力に戦慄する三悪人ども。
 そうして兵の士気が低下した歌舞伎町国境付近の峠を越えて、トラサン軍の精鋭部隊一千が突如奇襲。豪華シャンペンやフルーツをほしいままに掠奪。女とみれば強姦、男とみれば吊るし首。交番燃やしてワイワイガヤガヤやりたい放題。まさに悪のスターツアーズ。
 王国に垂れ込める怪しの気配を敏感に察した帝王コナンは、まァこれ、やくざ者の性(さが)っちゅうんですかなァー、自ら事態解決に打って出る。無数に唐草模様の天幕を並べたトラサン軍と神田川を間に挟み一触即発の睨み合い。いつ合戦の火蓋が切られるかヒヤヒヤ緊迫する状況下で、呑気にお気に入りのルーマニア・ビール(缶入り)をグビグビ飲んでいたコナンの天幕を暗黒の影が覆う。
 「おまえ、何者だァーーーッッ?!」
 「赤胴ッ、鈴之助だ!」
 そんなバカな。
 すかさずナンチャッテおじさんに酷似したポーズを繰り出す黒い影。
 「今お前の飲んだビールにな、カエルの小便を混ぜておいたぞ」
 「へ?」
 七転八倒苦しみだす歌舞伎町帝王、慌てて駆けつける家臣たちの目の前で、影はケロケロと不吉な嬌声を上げながら消え失せてしまった。「むむ・・・・・あれは一体・・・?!」
 その翌日。まだ消えない小便の毒にもがき苦しむ王を休ませるため、軍を率いて影武者というかそっくりさんが出陣。こいつがあっさり敵の妙計(具体的には落とし穴)に引っかかり、五千を越える歌舞伎町軍がなんと全滅。新宿区全域は葛飾区の支配するところとなってしまった。
 生け捕りにされたコナンは亀戸王の甥リョウサンの砦に運ばれ、やいのやいのと責められるが、宮廷に勤める一流風俗嬢の手引きで見事脱獄。体調が万全でないとボヤキながらも見張りの大猿を素手で引き裂いて殺し(!)、憎っくきリョウサンの顔にべったり墨を塗る(バトミントン真剣勝負の罰ゲームとして)。その後砦を脱出し、駅前の薬局へ。
 購入した毒掃丸の効力でようやく生気を取り戻した帝王コナン、怒りと屈辱にぷるぷる震えながら政権奪還をミトラに誓うが、それよりなにより現在の状況では己が生命すら危うい。比較的足の速いタクを駆り、旧王党派が熱心な抵抗を続ける荻窪方面へ逃亡。途中練馬の農園主を助けて大根を貰ったり、おばちゃんと下町情緒について語り合ったり、庶民派の一面を見せつけながら、さらに西へ。やがて三鷹から国分寺一帯の領主を務めるかつての家臣ボレボレと再会。
 「これは目出度い」「よくぞご無事で」
 国王生還を祝し居酒屋一休において豪華な酒宴が催されるも、なお浮かぬ顔の元国王のところに、すり寄ってこっそり耳打ちする者が。
 「王よ、裏口に使者が参っております」
 「なにやつじゃ?」
 「それがその、誠に申し上げにくいのですが、前王が国家に仇を成す邪教と認定され、全国的に弾圧されまくった唯一無二神バカモン教の最高司祭・トルケマーダとか申す者で」
 「そりゃ怪しいな。斬れ」
 命令を受けたボレボレの配下が出ていくと、居酒屋お勝手口でチャキンチャキンと剣戟の響きがしばらく続いていたが、やがて髪を茫々にふり乱した黒衣の男が入ってきた。
 「ふーーーー・・・あんた、なにしてくれますのん。あやうく死ぬとこやったんやで」
 国王は興味なさげに、血糊のベットリついた剣を仕舞う闖入者を眺め、
 「フン。多少は使うようだな。・・・して、おぬし何用じゃ?」
 「われわれは寺院を築くことも大っぴらに信仰することも禁ぜられ、今は帝国の闇に住まう者。しかし、火のないところを燻し狩り立て、見つけるなり獄門磔をかましていた前王に比べれば、王よ、あなたはまだしもわれわれに寛大だった」
 「ふむ、おぬしらの教義はよく知らんが、衣装が黒なのがカッコいいぜ」
 「???」
 無意味すぎる回答に侵入者はしばし絶句したが、気を取り直し、
 「と、ともかく、その恩義に報いるため、王国を襲う真の敵の正体をお教えしようと思い参上したのだ。われわれの調査網は完璧だからな!帝国一だ。TDB以上だよ!」
 「それ帝国じゃん!」
 
「やかましい・・・・・・!!よいか、よく聞け!!
 おぬしの命を絶たんと奸計を廻らしている男の名は、実は空海!」
 「・・・・・・。」
 
完璧知らなかったらしい。

【解説】
 
裏切りや陰謀、想像以上にしぶとく人外に遭遇する危難に遭っても絶対死なぬ主人公。すぐ脱ぐヒロインと、邪悪すぎて笑ってしまうレベルの悪漢。極端な者しか出てこない物語がだらだら、だらだら続いていく感覚は、もはや爽快さとは無縁の快感。
 この本、中学以来の再読だが意外と面白かった。ベタなマンガよろしく王道な要素がてんこ盛り。その後の小説や数々のゲームに置いて転用・援用・濫用が繰り返され、すっかり有名になってしまった“剣と魔法”ジャンルの基本ガジェットは既にここ出揃っている。アーリマンだの、クシュだの、ケチャだの、実在する神話や神々の名前を無断で登用して勝手に使いまくる手法も、既にあなたにはお馴染みだろう。
 それに対するエクスキューズが、

 「こちらの方が時代は古いんだから(なんせ、ホラ幻想の超古代)、現実に流通している名前の方が後出しでパクリなのだ。
 ドン臭野郎め、わかったか!!!」


 と盗人たけだけしいところも、また実に中二病っぽい。
 予想外に緻密に組み立てられた古代世界ハイパーボリアは、なんか世界観光地図を適当にパッチワークして誤解と妄想で膨らましたキナくさい代物であるが、ヘビがサービス精神旺盛なまでにクソでかい、とか特筆すべきポイントはある。そいつらが街中を勝手にうろつき、運の悪い通行人を晩飯代わりにパクッと丸呑みにしてしまうとか、そういう行き当たりばったりな社会構造のいい加減さ、デタラメさ加減はなんかいいよね。あるか、そんなバカな都市。
 ヒロイックファンタジーというのは相当キテる、精神的にいびつでヘンなジャンルの代表格なのであるからして、くだらないものは絶対にくだらない、という断固たる批判精神を持って、各場面必ず突っ込みながら楽しむべきだと思う。
 ある意味劇薬。ハワードみたく母親の死に絶望してリムジン内で猟銃自殺したりしないよう、くれぐれも根を詰めすぎないように各自注意されたし。

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2017年2月12日 (日)

クレイトン・ロースン「世に不可能事なし」 ('58、『密室殺人傑作選』ハヤカワミステり1161)

(昼食時間の会話)

 「レーコさん、レーコさん」
 「はいはい」
 「先日土曜ワイド劇場がなくなるって報道があったの、知ってますか?」
 「えーーーーー!なんでーーー?」
 「テレビのサスペンス枠が大好きなレーコさんにはショックですよね。
 テレ朝の編成が四月からの改編として発表したんですが、土曜枠をなくして日曜の午前中に持って来るんですって。その名も日曜ワイド」
 「ダサ~~~~~~」
 「ね?日曜ワイドってどう見ても東芝だろ!この枠では過去の名作の再放送や人気シリーズの新作をお届け、ってことになってるそうですが」
 「悲しい。生きてる意味が希薄になりそう」
 「いや、それはないと思いますが。体裁のいい予算減らしなんでしょうね。しかし、もう40年続いてたんですってよ、この枠」
 「そうでしょうね。あたし、そういや気がつくと、ずーーーっとずーーーっと観てたし」
 「若くして結婚され、倦怠期を幾度も繰り返し、流浪の果てに無関心へと辿り着いた現在のレーコさんにしてみりゃ長い、長いお友達ですよね。山村紅葉。このあと、どうすんだろ?」
 「(笑)」
 「そもそも、殺人・強姦・窃盗・詐欺といった我が国の社会派ミステリー一派は、おやじの娯楽としてスタートした筈なんですよ。だから、ハダカもあれば乱歩もあった。天地茂の眉間の皺もあったワケです」
 「ふーん・・・・・・」
 「70年代の松本清張や水上勉、森村誠一などの社会派大作映画化ブームに、新興角川映画の横溝ミステリーがガップリ四つに、クラーーーッシュ!そこへ『鬼畜』やら『復讐するのは我にあり』やら、もっぱら緒方拳独走態勢による実録路線(『仁義なき戦い』ビハインド)が雪崩れ込み、ライトな80年代テイストがハートカクテルに合流するという。
 端的に言って、ネタの供給過剰が発生!」 
 「たしかに、昔の方がワケわかんなかったかも知れない」
 「そういう無茶苦茶な混沌が整理されていくのが、80年代後半から90年代にかけて。気がつくと、バブルは崩壊していて、ワイド劇場は女性向けのソフトな枠になってました~~~」
 「そうか、あたしはその頃から観てるのかなー・・・(遠い目)」
 「その後の主流はキャラクター系とかですね。「赤い霊柩車」とか「法医学教室」とか。あと高橋秀樹の十津川警部とか。サラリーマン出張のお供の京太郎がまさか女子人気を獲得するとは。でも最近の窓際太郎とか確かに面白いですけど。あれ、一種の超人モノなんだよね(笑)」
 「お約束がいいのよ、なんかベタベタで」
 「そうすると、ヘンなもの、珍奇なものが出にくくなる。こっちは怪奇とエロスが専門ですから。たとえば、ヘンテコ具合で言うとクレイトン・ロースンなんかは・・・・・・」
 「なにそれ?」
 「昔ハヤカワから出た、密室トリックばっかり集めた『密室殺人傑作選』ってのがあって、チョイスもなかなか乙で、通好みも初心者にも楽しめる一冊。何回読んでも面白いブラウン神父の「犬のお告げ」とか、何回読んでもどこが面白いのかわからないアブナー伯父の「ドゥームドゥーフの謎」とか古典的なものから、“フレデリック・ブラウンだろ、これ!つーか、星新一かよ”なショートショート「時の網」、うっかり“いいね!”ボタンをクリックしてしまいそうなバカ系パロディー「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」などなど、中味の濃い内容になってます。おすすめ。お買い得。
 基本、密室での殺人ってバカっぽいでしょ?
 だからいいんだよ。で、このお話は・・・・・・」

【あらすじ】
 魔術師にして探偵という、胡散臭さ満点のジイさんが密室殺人の謎に挑む!被害者は変わり者の大富豪、第一容疑者は火星人。空飛ぶ円盤で飛来して、こめかみに銃口を押し付けて一発ぶっ放すと、四次元の断面を使って煙のように密室から消え失せたという。かつて、これほど胡散臭い話があっただろうか?!胡散臭さのチャンピオンシップだ!
 例によってさっぱり役に立たない警察が手を焼いているのを尻目に、現れた手品のおじさんは極めて常識的な指摘を行った。

 「いや、無関係な犯人が旅費を使って他の星からわざわざ来んでしょう。動機とかまったくないし。だいたい、使い方も知らんのに銃なんか撃てる訳がない。
 いちばん怪しいのは、なんといっても、なんでかこの密室の中で全裸で気絶して倒れていた秘書なんでは?」
 
 驚愕する一同。で、よく調べてみると本当に犯人はこいつだったのです。
 (完)

 「ふーーーーーーん・・・・・・」
 「どうです?言い忘れましたが、この密室からは凶器とおぼしき銃が発見されない。全裸で倒れている秘書には当然隠すポケットがない。では、どうやって射殺できたのか?」
 「うーーーん、なんでしょう?わからない・・・・・・」
 「このトリックも手作り感満載で好感が持てるんですが、証拠を探す最後の下り、シンプルな心理試験もいい感じなんですよ。
 ・・・どうです、読んでみます?」
 「あたし、テレビの方が」
 「ギャッフン・・・!!!」

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2016年3月12日 (土)

ジェリィ・ソール『半数染色体』 ('52、ハヤカワSFシリーズ3089)

  処女の軍団が人類を侵略する!それも地球規模で!
 刃向うやつらは皆殺しだ!

 
 「エッ・・・なんだって処女が?!」
 「物凄く弱そう!史上最弱の侵略者じゃないのか?」
 「そもそも処女って人類の一員なんでは・・・?!」

 諸君、温かいリアクションの数々どうもありがとう。
 週刊プレイボーイかスポーツ新聞の風俗面にしか載らない地球侵略テーマの隠れた傑作、それがジェリィ・ソール先生の処女長編『半数染色体』である。先生は他にも、「錠剤飲んだらタイムスリップ!」という薄っぺらい危険ドラッグテーマの問題作『時間溶解機』なども手掛けておられる。
 
※(後日記事を読み直してみて)この記述は明らかな間違いを含むが、まぁ、いいじゃないか。どうせ儲からないんだし。
 本書の解説で福島正実も、アイディアはともかく小説としては「安手のアクションもの」とバッサリ。たしかに一冊読み通してみても何も心に残らない内容スッカスカな本書ではありますが、あらすじだけ追ってみると典型的なペーパーバックスタイルで結構楽しめます。
 キーワードはこれ。
 
「処女はスランだ!!」

【あらすじ】
 仕事ばっかしやりすぎで、くたばりかけた30代新聞記者が、チンコの腫れる病気で入院し、ふと「自分の人生見つめ直してみようかナ?」って気になる。なんて、そんなの、どこにでもあるお話だヨネ?
 上司は無茶振りばかりで気に喰わないし、まかされてる記事もコラムも全部腐臭がしていて心底ロクでもない。恋人もいない、友達もいない、たまに行った風俗店じゃ謎の奇病をうつされる。ま、抗生物質一発で治りはしますが。人生虚しい。趣味のガンプラづくりに充分時間を割くことができない。たまには「北斗の拳2」だって打ちたい。これじゃあストレス溜まって一年間休職しようかって気にもなるもん。って、ま、休職期間中なにする具体的なあてもないんですが。

 そんな人生の空白期間に陥った微妙な若造トラビスが、入院先の病院で不審な急患に遭遇。救急車で担ぎ込まれたじいさんは、全身灰色のまだらになって意識不明の重体だった。
 
皮膚が灰色て。一体どんな病気だ。
 興味深くウォッチしてたら、真夜中の緊急病棟に忍んできた謎の美女にじいさん、いきなり殺されかける。コートにサングラスの金髪女は、あやしい注射器を取り出し、既に瀕死状態の老人にさらなるとどめをくれてやろうとしていた。親切設計すぎ。
 よし、美女との格闘なら望むところだ。手加減なしにボコらせてもらおう。ぼこぼこ。亀田並みに切れ味鋭いネコパンチの応酬に美女はたちまちキャッと悲鳴を上げて逃げ出すが、行きがけの駄賃とばかり、ハイヒールのかかとで思い切り向う脛を蹴り上げていきやがった。オー、イテテ。

 
「トラビスさん!あんた、夜中になにやってんですか・・・!!」
 騒ぎを聞きつけオールドミスの准看護婦が飛んできた。
 「どうもこうもあるかい。おい、いいからブサイク、今すぐあの女を捕まえるんだ!この状況がわからんのか!
 
ええい、この、どんくさブスめが!ブスブス!ドブス!肥溜めにはまって死んじまえ!!!」
 「なんですって・・・!!!キーーーッ、くやしい!!!」

 さっぱり話が前に進まないのだった。
 
 傍らの低次元バトルのショックが決定打となり、じじいは敢えなく絶命。その死骸は、全身の体組織が灰色に焦げてるとしか形容しようがない、異様極まるものだった。しかも臭い。思わず鼻を抓みたくなる、異様な臭気を放っている。
 「・・・んー、こんなへんな死に方、ボク、見たことないですよ。病原菌もウィルスも検出されないし、全身がローストされ壊死してるとしか表現しようがなくて・・・」
 鉛筆舐め舐め、検死のインターンが言う。
 「おたくら、どこで保護してきたんだよ、あんなじいさん?見たところ完全に気がふれているようだったが・・・」

 「実はまちかどで、全裸で踊っていたんです」
 「んーーー、やっぱり!さては新種の麻薬でも嗅がされたんだろ。チクショウ、オレの新聞屋(ブンヤ)魂が騒いできやがった。
 
こいつは新手の、巨大な陰謀の匂いがするぜ!!!」
 ・・・・・・そうかな?
 インターンは冷静に机上のメモ用紙を摘み上げて手渡した。
 「これ、担ぎ込まれたとき、じいさんがうわごと言いながら書きなぐっていたんですが。意味、全然わからんですよ」
 乱暴に丸円が描かれ、棒線が四方に伸びている。円の中央には謎の言葉。<23X>。
 「なに、これ?」
 黙って首を振るインターン。トラビスも沈黙するしかなかった。

 「とりあえず、あの女を見つけて締め上げれば万事解決だ!」
 退院したトラビスは、『太陽にほえろ』並みの安直な推理をもとに老人が発見されたエリアで聞き込み調査を開始。女に関する情報はサッパリだったが、新たなる灰色に変色して死亡したじじいを発見。今朝方自宅の布団で壊死したそうで、いや、もう臭いわ臭い。鼻をつまんで泣きじゃくる家族連中。やはり、これは伝染病か何かなのだろうか?うわ、感染したらやだなーーー。
 さっそく近所のスギ薬局に飛び込んで3D除菌マスクを購入。厳重な防疫体制で町に出たら、またしても目の前を堂々と横切る、全身灰色でプスプス焦げてるおやじ。やばい、大量発生だ。
 そう、ともかくこの一帯では、おっさんとじじいがジャンジャン変色して死んでいくのだった。今日わかったこと。

 ・被害者は男ばかりである。
 ・年齢が高いほど症状の進行が早い。

 高齢者ほど優しくないなんて素敵。具体的な手掛かりがつかめないまま、謎だけ抱え込んでアパートに戻ってきたトラビスを、奇声を発する所轄の刑事が襲う。すわ感染者の襲撃かと思ったら振りかざした警察手帳は本物。マジ?


 「ワリャーーー、まだ気づかんのか、コラ!!ワリャーーー!!」
 「・・・えっ?なにがじゃ、コリャーーー?!」
 相手の鋭いカンフーに対し必死の防戦に努めるも、腰が引けている。
 
「実は、死亡者の発生ポイントは、つなぐと円を描いておったんじゃー、ワリャーーー!!
 となればその中心点に何かがあるに決まっておるじゃろーーーが、このドタワケめが、ワリャーーー!!」

 
 「え・・・なんでボクに、そんなに親切に教えてくれるんですか?」
 急に素にかえったトラビスが問い詰めると、相手はごま塩頭をポリポリ掻いて倒れた家具やら食器やらを片づけ出した。
 
「いやー、わしの名前はセツメイ警部。取扱説明署の者だ。森羅万象すべての出来事を解説できる特殊能力を持っておる」
 「・・・わ、うざ~~~」
 「この記事、執筆に一か月以上かかっているのに、さっぱり終わりが見えてこないので、残念ながらわしが登場となってしまったのダ。わしが来たからには、もう安心。解けない謎などないですし、やまない雨なんかないですよ。ナイジェリア。光あれ。
 よし、早速現場に急行するゾ!ワトソンくん」
 「いや、ワトソンじゃねぇし!そもそも、あんた、まったく呼んでねぇし」

 ということで、二名体制で、ツー・マン・セルで、円環を描いてるという感染者の発生ポイントの中心へ。
 適当にタクって行ってみると、そこは、黒沢清の映画に出てきそうな怪しげな廃工場だった。生産ラインを停止して長い時間が経っていそうな鉄工所。すべてを埋め尽くす埃りの山にまみれて、旋盤もベルトコンベアも不気味な沈黙を保っている。
 が、よくよく見ると白くなった床の上に最近歩き回ったらしき無数の靴跡がある。

 「む、こりゃ、ピンヒールの跡だな。かかと12cmで、色は赤じゃ」
 ペロっと埃りを舐めて、警部が言う。
 「なんで、そんなのわかんだよ?!あんた、どっかおかしいんじゃねぇの?」
 「いや、それが、そのヒールを履いているとおぼしき若い女性がさっきから向かいの路地からこっちを窺っておるのダ。むむッ、なにかバッグをまさぐっておるゾ。
 って、あッ、危ない!!」
 いきなりトムソン機関銃で狙撃された。別名シカゴ・タイプライターともいうアレね。外人さんたら、洒落た名前をつけはるわね。突如飛んできた銃弾の雨に右往左往するふたり。
 懐から拳銃を抜き出したセツメイ警部ではあったが、ひと声叫ぶと床に転がった。まさかの死んだふり。表から見えない角度で必死にトラビスに合図を送るので、ええい、仕方ない。ままよ、と起重機の影に倒れ込む。
 
「・・・ヤ・ラ・レ・タ・・・!!」
 嘘くさい断末魔の絶叫を上げる警部。
 しかし、この原始的すぎる猿芝居に乗せられたのか、銃撃は止んだ。コツコツと近づく靴音。銃把を握りしめた警部は、まだ死体のふりを続けながら出を窺っている。
 女は工場の中に入ってくると、フロアの隅からなにやら黒い包みを引っ張り出し、しばしジッと眺め入る。
 「・・・あ、あれ・・・?」
 (シッ、黙れ!!)
 それは、病院で瀕死の老人にとどめをさそうとしていた、あの金髪女だった。
 警部のゼスチャーに促され、トラビスが息を止めすぎ青くなり赤くなりしている間に、女はテキパキ仕事を片付けた様子で、すたすたと建物から出て行ってしまった。
 慌てて追いかける二名、床に置かれた黒い包みにふと目をやると。グルグル捲きにされたコードの束が。油紙にくるまれた細長い筒が数本。コチコチ刻む秒針の音。
 
「うわわわ!!!」
 「思いっきり、爆弾じゃん!!」

 ふたりが出口目指してダッシュ全開でまろび出るが早いか、哀れ廃工場は跡形もなく消し飛んでしまった。

【解説】
 その後の調査で、謎の黒い包みは男をダメにする放射線の発生機であることが判明。この科学的に怪しい装置が町中に仕掛けられ、一斉に作動するさまはまるで同時多発テロ。

 これは男社会壊滅を目論む狂気のおばちゃん科学者による犯行だった。
 どういう意味だなんて聞かないで欲しい。おばちゃんは、人工生殖により処女の軍団を増産。男性に恐るべき奇病を発症させる放射線を放つブラックボックスを世界中の都市に仕掛けて、二十世紀文明の崩壊をたくらむ。問答無用の勢いだ。
 いちおうの犯行動機は、男社会の産んだ不合理。え?
 男性優位社会の齎したさまざまな惨禍の例証として、やはりここで出てくるのが息子を戦争で失くした喪失感と怒りであるが、個人的過ぎ。少々弱い。弱すぎる。民間でやるにはいささか規模がデカすぎる計画(いったい世界中に何個の装置をバラまけば足りるのか?)の規模もアバウトなら、来たるべき未来に処女が世界を支配する根拠も薄すぎ。
 
処女といえども、普通に人間である。
 それを勝手に優性人類扱いするのは、無知蒙昧や偏見からきた逆差別といえよう。処女懐胎といえば勿論キリストであるが、ここではマリアがマリアを産む。しかし、それって宗教家以外の一般にとって、どんな特殊な意味があるというのか?ま、珍しいけど。
 いっそクローニングでおばちゃん(非処女)を量産すりゃいいのに。おばちゃん、秘密研究所を設立し、世界各地に武器と量産型処女軍団を輸出する、この物語最強のキャラ。ガタイよくって、冷酷非道で、ブサイクで、おまけに武道の達人だし。捕えた生き残りの男達をガンガン処刑してくれます。ひとりイルザ状態。いや、イルザはひとり。
 ここに表出しているのは、「人工生殖」という科学技術に対する無意識的な恐怖心なのだろうけれども、いかなる手段を採ろうと、人として生まれた者は人であり、それ以外ではない。宇宙人が異種交流試合を挑みに英国の片田舎へやって来る、ウィンダム『呪われた村』とは違うのだ。


 謎の暗号<23X>とは、お察しの通り、染色体の本数をしめす記号で、46本あるXY染色体の組み合わせにより性差を決定する通常の人間に比べ、半分の染色体数で単性生殖を実現する夢のシステムであるのだが、
それって果たしてなんかメリットあるのかな?物凄く効率悪い無駄な研究している気がするんですが。
 しかも、このシステムを開発したのが冒頭で灰色に変色して死亡した耄碌爺いであり、おばちゃん科学者の実は亭主でもあったという。100%夫婦喧嘩ですよ、コレ。近所迷惑な話だなぁ。そんな人類滅亡はイヤだ。
 
 男性が多数死亡しわずか数ページで無秩序化した社会では、処女の武装集団が登場し、警察や政府機関をまんま乗っ取り未熟な統制を謀る。が、しかし主人公トラビス含め放射線の影響をまったく受けない連中がいた!
 よくよく調べてみましたら、実は放射線はAB型の血液を持つ連中にはまったく効果なかったんでした。チャンチャン。全然ダメじゃん!新発明。
 最終的には、おばちゃん科学者の娘である金髪女とトラビスがなんでか偶然デキてしまいまして、誇り高き優性人類が「イテテ!」と処女を喪くしちまって、トロンと瞳を潤ませて、おしまいです。

 そうか、一回ヤッちまえば、処女でもなんでもなくなるんだ。
 ということで、男たちが平和な日常を、腐りきった男性社会を取り戻すため、大義名分を掲げて世界中で処女をバンバンヤリまくって終幕。レイプ公認主義。事件後、世界各地で出生率が異常に急上昇。性差別を無くすつもりがとんだ逆効果でしたとさ。めでたしめでたし。

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2014年4月13日 (日)

東史郎・小川保雄『悪少女②』 ('79、日本文芸社ゴラクコミックス)

 「悪い。
悪すぎるぜ、悪(ワル)少女!!!」


Photo

 ホラ、悪い。」

 「確かに。」
 古本屋のカウンターに肘を突いて、怪奇探偵スズキくんは溜め息をついた。
 ガラス戸の向こうは春先の穏やかな日差しが落ちている。先週まで咲き誇っていた桜は根こそぎ風に攫われて葉桜となり、淡い緑の影を残すのみとなってしまった。空気は乾いて日陰はまだ肌寒い。それでも宴会し足りない集団が一升瓶を持ち込み公園に集う、浮かれた季節、町は気ぜわしげに行きかう者達の活気で満ちている。
 「絶対に笑かしに入ってますね、コレ。そもそも全然少女じゃねぇし。しかしボクは決して甘くないですよ!」

 「ところがどっこい。すっとこどっこい」
 今回のおやじは珍しく自信に溢れているようだ。「予想以上に楽しい物件だったんだよ、これが。テレンス・マリック『地獄への逃避行』とかさ、ま『丑三つの村』とか、殺しまくり実録モノに見識を持つ人にお勧めです。」

 「間口狭すぎ。いますか、そんな人?」

 「意外と大勢いるんだよ!
 まして殺人鬼の設定は、高校生で年齢は18歳。ギリでアウト。『タクシードライバー』『プリティベイビー』に連なる未成年売春モノとして観ることだって可能だし、情夫がダメヤクザなことからくる覚醒剤ダメぜったいジャンルへの言及もある。要は、負の因子の集大成。これが面白くならないワケがない!」

 「・・・あんた、そんなもんばかり観過ぎて露骨に人生棒に振ってますな~。
 では、怖いもの見たさに野次馬根性でゴー!」

 「ゴー!!!」


【あらすじ】

 地元ヤクザにレイプされ情婦として連日売春を強制される、もと清純派女子高生・風見火子(ひのこ)。名前が劇画チックに軽くやばいですが、乙女薄幸、愛したヤクザは交通事故であっさり死亡。疼くまんこを抱えて場末のアパート(和室6畳)に引きこもりの自堕落な生活を送っております。
  (と、ここまでが前巻までのあらすじ)

 今日も今日とて窓枠に凭れ物憂げにタバコをふかす火子のもとへ、死んだヤクザの舎弟分・室伏がフラリと訪ねてくる。
 また売春家業に戻らないかと、かき口説きに来たのだ。

 「どうだい、あんたさえよけりゃ、組の世話になってみちゃあ?
 第一、身体がこんだけ火照っちゃ一人や二人の男じゃ我慢できねぇと思うがな!」

 背後から薄いブラウスの胸元に手を突っ込み、まだ未成熟な固い乳房を揉みしだく世界の室伏。さすがハンマーで鍛えた鋼鉄の筋肉は本物。
 無抵抗となり、カタナ傷のある幅広い背中に指先を這わせる火子。

 「あんた、この傷は・・・?」

 「出入りで、と言いてぇところだが実は違う。昔しつこい女がいてな、ザックリ斬られた。ソッコー逃げ出したんで、なんとか無事でした。」

 なんか残念な感じ。前の情人(イロ)より格下感は否めない。ファーストクラスからエコノミーへ。だが操るには好都合。素早く脳内ソロバン弾いた火子、

 「なる!アンタの情婦(イロ)になるわ!!!」

 「おぉ、こりゃたまんねぇ。高校生にしちゃ熟れてやがんなー!!」


 献身的な愛人志願に感極まった室伏、ドクドクと内部で射精。世界記録をメーター越え。
 ほくそ笑む火子は、この運命的な日から残念ヤクザのマインドコントロールを開始する。標的は全世界の破滅。あたしを残念な運命に落とし込んだ世間に、考え付く限り最大級の嫌がらせを続々仕掛け、いっぱい殺して殺して殺して復讐してやるのだ。行き着く先はどうせ破滅だから、中出しされたってまったく平気。ノー・フューチャーってホント無敵。ジョニー・ロットンさんありがとう。

 股間から白濁液をダラダラ溢しながら高笑いする女子高生に、胡乱な視線を向けながら、それでもジゴロを気取りたいハンマー投げ選手、

 「おぅ、じゃ気晴らしにドライブでも行くべぇ~」

 と、あくまで知能は低かった。

 黒塗りのカローラで出かけた先で、高校時代(※現在、自主退学決行中)の友人である三年B組角田友子を見掛けた火子は、甘言を弄し車中へ誘い込む。室伏に命じ人気のない河川敷にこっそり停車させるやレイプ。先刻中出ししたばかりだというのに、さすが下賎なスポーツ選手、体力が違う。

 「あ!イヤ!イヤ!助けてー」

 救いの手を求めジタバタ足掻く友子を足蹴にすると、諸葛孔明張りの冷徹な計算で今後の方策を定める。前情人のコネクションがある東北の鄙びた温泉旅館街までハイウェイをかっ飛ばし、地元のゴロツキどもに泣き叫ぶ級友を売り飛ばす。軽く人身売買。血も涙もない処置とはこのことだ。

 「おいおい、あの女、半年もしないうちにヤクとおマンコの両責めでボロボロになっちまうぜ・・・」

 帰路、ニヒルにタバコ咥えて呟く室伏に、火子、自らの経験則を踏まえた名台詞で返す。

 「女はしぶといものよ。
 どんな風に生きたって、生きることだけは忘れないわ!」


 根性面で彼女に遥かに劣る三一ヤクザは、黙ってハンドルを握るしかなかった。

 その後二名は一攫千金に味をしめ、再び火子の女性クラスメイト3名を一気に拉致。廃工場を舞台に華麗なる性の狂宴を繰り広げるも、その後が作戦的に杜撰すぎ。東北への長いロードの途中で尿意を催したとセーラー服からズロース降ろし集団連れションの最中に(室伏曰く「最高の眺めだぜ」)、ちょっとの油断で大脱走されそうになる。
 ここ一番意を決した火子、
 「拳銃貸して、室伏!」
 怯えるヤクザの腕からもぎ取ったリボルバーで、卑怯にも背後からズキュン、ズキュンと劇画撃ち。これは酷い。
 二名はたちまち仰け反り仕留めるも、撃ち損ねた一名が対向車線のクルマを止めようと必死に両手を大きく振るのを目にするや、
 「当てて!迷わず当てるのよ!」
 と、ドライバーへ即時轢き逃げを指示。
 思わずビビった室伏がアクセルを踏み損ねると、最大限の罵りが飛んだ。
 「ヘタレ!!!人間のクズ!!!山崎邦正!!!」
 生き残った運のいい少女は親切なドライバーに辛うじて救われ、悪辣な殺人カップルは尻に帆を掛けひたすら逃亡する他なかったのだった。

 ホテル・アンダルシア。
 闇夜に輝くネオンサインは淫靡なピンク色。18世紀無敵艦隊の威容を偲ばせる。
 この、どう見ても悪の巣窟にしか見えない大人の隠れ家で、小悪党二名は熱い素肌を絡ませていた。はふぃはふはふ。噛んだり吸ったり舐めたり、忙しい。
 室伏は、スポーツ選手にあるまじき血管注射をキめて白目を剥いてテンパっている。

 「ぐげげ、ロッシュの限界が見えるようだぜ~!うっくっ、こりゃたまらんぜぇぇぇ~~~」

 熱い肉棒を受け入れる火子は冷めた態度で、クールに天井を見つめながら、

 「・・・殺しとけばよかった。
 やっぱ、あのとき、完全に息の根を止めておけばよかった・・・」


 なにやら物騒なことを口走っている。
 それが逃した標的のクラスメイトのことなのか、覆い被さり間抜けに腰を使い続ける男のことなのか。知らず室伏は薬物的に過度の怒張を果たした逸物を抜き取り、二三度手早くしごきまくると、ドプドプと女子高生の腹の上に射精してしまった。三回目。この男、隙あらば精子ばかりをそこらに撒き散らしている。

 警察では生き延びた少女の事情聴取が続いていた。

 「えーーー?!
 マジ、ムカつく。マジ。ムカつく。
 ゲロきもち悪い。」


 取調官はアタマを抱えていた。

 「だってキミ、それだけしか言わないんだものなァ~!もっと犯人の手掛かりになりそうなこと、喋ってくんないと、本官、逮捕しちゃうぞォ~~~」

 少女はなおも白痴のように繰り返した。 

 「マジ、ムカつく。マジ。ムカつく。」

 ---闇の中。
  「・・・とにかくお金が要るわね。
 それにもっと銃が欲しいわ。」

 火子は男の胸に指を這わせながら呟いた。傍らに横たわっていた室伏の身体がビクリと震える。薄暗い室内には饐えた甘い香りが漂っている。

 「おい、一体なにをやらかす気だよ?」

 女は鋭い視線を向け、

 「室伏、そろそろ腹を括ったほうがいいんじゃない?
 さっき逃したコ、今ごろ警察に駆け込んでるわよ。私達の顔写真が新聞に載るのも時間の問題。いまさらガタガタ言ったってしょうがないんじゃない。」

 「・・・おまえ・・・」

 「もう私達はおしまいよ。誘拐、暴行、監禁、人身売買、売春、そのうえ傷害に殺人とくれば死刑とまでいかないかも知れないけど、終身刑は免れないでしょ。」

 室伏、あらためて事態の重大さに慄いた。
 確かに。
 「おい・・・じゃ、これからどうするんだ・・・?」
 
 「あんた、本当に銀バッチつけてるヤクザの幹部なの?」
 火子は鼻で笑って、
 「逃げるのよ。決まってるじゃない。それともあんた、刑務所入りたい?」
 
 黙りこむ室伏。
 その目前で違法物質の溶液を収めた細い注射器を摑み上げ、向き直った火子、大声で叫んだ。

 「さぁ、飛ばすわよ!悪の果てまで!!!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 「むむむ・・・ないでしょ、これ。酷すぎ。」

 ここまで記事を読んできた“薬物ダメぜったい”でお馴染み怪奇探偵スズキくんは、思わず突っ込みを入れる。

 「ちょっと急速に堕ちすぎですよ。読んでないけど、第一巻では100%生娘だったに違いない女子高生がヤクザ幹部相手にに殺人教唆とか、東北にクラスメイトを売り飛ばすとか、現実にそこまでいきますか、わずか数十ページで?!」

 「貞操観念に関するハードルが現代と比べ物にならないほど高いんだよ。ヤクザに何発もやられた娘は自暴自棄になり、なんでもしでかすってことなんだろ。」
 おやじは投げ遣りに説明する。
 「・・・にしても、狂って血に飢えとるよな~~~、劇画は。」

 「飢え過ぎ。
 逃走資金が必要、もっと銃が必要って完璧にテロリストの発想じゃないすか。 」

 「さすがだ、スズキくん。いいところに気がついたね。
 この時点で、このマンガは思春期売春モノの仮面をかなぐり捨て、虐殺カップル逃亡モノと化すのだ!
 したがって、本番はこれからだ!!!」 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  

 峠のドライブイン。遅い朝食をとっていたふたりは、流れるニュース番組の画面に思わず釘付けに。
 『・・・東北自動車道、××SA付近で発生した銃撃事件で被害者の一名は依然重態、一名は駆けつけた救急車内での死亡が確認されました。
 唯一通りがかった乗用車に救助され無事だった女生徒の証言から、犯行にはクラスメイトの18歳A子が重大な関与をしているものと判明。警察では逃げた車の持ち主、神奈川県に住む暴力団構成員・室伏狂市(36)と共に、その行方を追っています・・・』

 流れる二名の拡大顔写真。

 「ゲッ、人権無視かよ!」
 「ひどい!日本の警察報道にモラルはないの!」

 マスコミの圧倒的な暴力を目の当たりにして勝手に憤るふたりだったが、一緒にそのテレビを観ていたおばちゃん、カウンター向こうに凶悪犯罪者が並んで飯を喰っているのに今更ながら気づいたから堪らない。ヒィッと竦み上がり床に尻餅をついちゃった。
 「あっ・・・!あっ・・・!」
 慌てる室伏を尻目に、冷静に拳銃を構えた火子、
 「とっとと金を出せ。ババァ。」

 レジから奪った札束二三十枚をかかえて駐車場を走りながら、

 「ふっはっ、おまえ、すげぇな!全然度胸あんじゃんよ!」
 室伏は完全に呑まれて、中学生みたいなコメントしか出てこない。
 「あんた、呑気すぎ。
 もう顔(メン)も割れちゃってるし、そこらに非常線張られまくってて、捕まるのも時間の問題。」
 急速発進したカローラは山を降り出した。
 「どこへ・・・?!」
 ハンドルを握る室伏は最早火子の言うがままだ。
 「前にも既に言いましたが、頭の悪い室伏クンのために先生がもう一度だけ説明しましょう。こんなチャチな拳銃、」
 くるくると指先でリボルバーを廻す火子。
 「なんかじゃない、もっと強力な火器が必要です。一発で人間の頭なんか吹っ飛ばせるやつ。なまじ目撃者なんかつくるからマズイのよ。消してしまえば問題ありません。
 それから、高飛びするには資金が必要。金さえあれば飛ばない飛行機はありません。
 
ボギーもカサブランカから脱出したじゃないの。あの故事に見習って、あたし達も明日への逃亡を図るべきなのよ!
 どんな虫ケラだって生きる権利は正々堂々と主張していいんだわ!それがあたし発、世界へ贈るメッセージ。

 ドゥ・ユー・アンダースタン’、ミスターオオヒラ?!
 ドゥ・ユー・アンダースタン’?!」

 気勢を呑まれた室伏、小声で「はい。」とだけ言った、

 その後、農協を襲撃したふたりは、遂に巨額の札束の山を手にする。農協には世界の富の50分の32が集まると謂われている。フォートノックスより堅牢な農業信用金庫の特殊合金製の鉄扉を破壊し、重たい金塊を次々と運び出そうと企てるも室伏、持病の腰痛で敢え無く断念。札束をボストンバックいっぱい詰め込み往復リレーで手を打った。
 ルパン・カーの如く札ビラで膨れ上がった黒カローラを飛ばし、次に二名が向かった先はどこの市内にも一軒や二軒はある銃砲店。銃器屋のあるじは“鉄砲おやじ”として地元小学生から畏れられている。全身をガンベルトで隈なく固め、アクセサリーには空の薬莢、3時のおやつにガンパウダーを生で貪り食うという、とてつもない狂人だ。
 そんなおやじを手刀であっさり片付けると、壁に掛かったライオンの首(サファリの成果)には目も呉れず、アサルトライフル・マシンガン・ウージー軽機関銃をがんがん掴み取る。
 「バカね、室伏!弾丸がなくちゃ幾ら銃があったって同じよ!」
 堅実派の火子は、ガラスケースをこじ開け、銃弾の詰まった重たい箱を続々放り投げる。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 「ちょっと待った。」
 
ガバと伏せていた顔を上げ、スズキくんが食いついた。
 「なんで昨日まで処女だった女子高生が銃火器の取り扱いにやけに詳しいんですか?まさかサバゲーかましてた、ってんじゃないでしょうね?」

 「細かいことはいいんだよ!」
 おやじは机を叩きまくりながら叫ぶ。
 「父親が自衛隊の殺人教官だったりでもいいし、兵器会社の社長の娘かも知れん。あるいは若くして秘密組織に誘拐され四十八種の殺人技と性技を叩き込まれた設定だってありうる。エンターティメントなんてデタラメかましてなんぼだろーが!」

 「・・・あんた、かましすぎですけどね。」

 「ウサギにツノと書いて兎に角、こっから飛ばすぜ、悪のハイウェイ!嬉しい限りだ!」

 「記事の進行ももう少し早いとありがたいんですが。季節もG.W.を過ぎましたよ。」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 
大量の銃器を手に入れた二名は、行きがけの駄賃とばかり店の床に灯油を撒いて火を点ける(余罪に放火が追加)。マッチ一本走る火線は積み上げられた弾薬にやがて導かれ、周囲を揺るがす大音響と共に猛烈に爆発。ガラスの破片を夜空にとび散らせ建物が根こそぎ吹っ飛ぶ頃には、犯人を乗せた乗用車は町を抜けるルートを加速している。
 背後に上がる真っ赤な火の手をサイドミラー越しに眺めながら、少女は乾いた笑いを漏らす。

 「火子だけに、真っ赤な火の玉。アハハハ!!!」

 さすがに呆れる室伏だったが、最早このキチガイ女に全面的に頼る以外、進路を定めることができない。完全に依存症体質が全開だ。
 夜道をひた走り、追っ手の来ないところまで。幹線道は避けて適当な山へ逃げ込んだ。

 「このクルマは既にマークされてると見て間違いなし。」
 火子は冷静に言う。
 「そりゃ、そうだろ。」
 「ということは、逆に安全ってことだわ!このまま行くわよ!」

 拍子抜けした室伏、 
 「・・・そうなのか?」
 「根拠がない自信でもなけりゃ逃亡者なんかやってられないわよ。さぁ、このあたりは人も来ないし、射撃訓練でもして夜明かしよ。一定時間経過すればいつまでも非常線封鎖なんてやってられないわ。」
 「・・・やけに詳しいんだな・・・」

 そのまま二名は奪った武器の検品と試し撃ちに時間を費やし、くたびれると媾って山中に潜伏を続けた。主な食料品としてはカロリーメイト※註などである。
 ※註・大塚製薬から発売されている栄養調整食品群の商品名。不運にも火子のハンドバックに常備されていた。
 再び日も暮れて、そろそろ安全も確保されたと勝手に判断した二名は薄暗い農道に慎重にクルマを出し、適当な番号の割り振られている県道をどこかに向かって走り出した。
 背後で鎌のような月が口を開けて笑っている。
 
 「あはは、はは、ごらん。月も笑ってらァ~。はは、愉快ね。最高よ。いい夜になりそうだわ~。
 
ね、どこか、高いところに行きたいわ、室伏!」


 「はァ・・・?」
 この女の気まぐれに振り回されるのに、いい加減うんざりしている室伏、胡乱な声を出す。
 「ビルもツリーもここにはねェぞ!」

 「世界貿易センタービルも、ドバイの白い巨塔も所詮は人の手の造りしもの。どこか甘いわよ。※註2真の男らしさを求めるなら、やはり天然モノ。大いなる自然が鍛え、風雪に晒されながらも逞しく生きる、そうアレよ!」
 ※註2・おおきな御世話である。
 都市の明かりも届かない、闇の彼方を指差す。
 
 「山よ・・・!おぉ、大いなる山の王よ!」
 

 さすがに室伏、ちょっと呆れて、
 「おいおい、連載長過ぎてキャラ設定すっかり変わってんじゃんよ。ついてけねェよ!」

 「富士山へ。富士山へクルマを飛ばしてちょうだい!」

 そう叫ぶと、シートに深く身を埋め黙った。完璧なガイキチ女である。

(つづく)

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2014年2月23日 (日)

村形順子・木村知生『魔獣戦士タイガー①』 ('84、秋田書店少年チャンピオンコミックス)

 ひとめ見て大バカだとわかるマンガに、あれこれ解説を加えて揶揄する必要などまったく無い。
 だが、そのバカさ加減がなんらかの有益な可能性を含むものであること。また世間一般に流通するカッコよさというものがいかに薄っぺらく、厚顔無恥で押し付けがましく、どマヌケと紙一重の危うい存在であるかということ。これらを証明する資料としては、第一級の説得力を持つであろうことは間違いない。
 ま、証明してどうするというのも確かですが。

 今回採り上げるのは、怒るとトラになる男の物語である。

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【あらすじ】

 怒るとトラに変身する特異体質の持ち主タイガー!正直過ぎるネーミングに脱力だ。発表当時にして既に「古い」「ナウくない」と揶揄されるようなセンス。『コブラ』にでも触発されたのか。いかしたバンダナ、ノースリーヴの袖口が三角に切れ上がった変なピチT着て肩で風切り、新宿のディスコにいきなり参上だ。
 鳴り響くミュージック、乳房を放り出し踊り狂う不細工ねーちゃん。タトゥーにピアス。グラサン、リーゼント。
 場末の安い近未来感覚が爆発する画面に、早くも拙者の腰は砕けそう。
 そんな無残な喧騒を抜け、70年代ヒーローの特権・ガニ股でそぞろ歩き、正面鏡張りのいかれたドアを開けた。
 
 「よく来たわねタイガー、こないだの返事を聞かせて貰うわ!」

 VIPルームに君臨する悪の女王・麗華様と対峙するタイガー、鼻くそをほじりながら、

 「・・・んぁ?なんだっけ?!」

 この男、相当頭が弱いようだ。
 怒りに駆られる麗華様だったが、そこはSMクイーン歴13年、だてに歳は喰っていない。
 美しく引かれたアイラインをキュッと絞らせ、

 「あなたを悪華団の副官に指名した件よ!」

 でた。
 誰が見ても分かる悪そうな集団。しかもさりげなく(でもなく)自身の名前も織り込み済み。

 「あぁー・・・。それなら断る。」

 鼻くそ、ピンと指で弾き。不敵に笑った。
 悪。ダメ、ぜったい。
 タイガーの持つ男らしい心情をこれほど見事に綴ったシーンがかつてあったろうか。って、いまわれわれはこのマンガを読み始めたばかりですが。ヒシヒシと迫る、もうダメになりそうな予感が素晴らしい。開巻わずか4ページ目なのに。

 麗華様の勧誘をあっさり撥ねつけたタイガーは、階下のレストランで店員に小便を掛けられ虐待されていた乞食を助ける。店内で小便してはいけません。
 徹底した正義の人であるタイガーは、風紀紊乱けしからん店員を鉄拳制裁。ボコボコにしてあっさり片付け、乞食の被った大きなトチロー風味の麦藁帽子を外すってぇと、これがなんとまぁ、80年代アニメ風美少女。
 首から下は劇画風ナイスバデーだが、顔はもろ幼女という、作者の決定的な画力のなさが生んだデンジャラス物件。
 
 「お・・・おれは、おまえを抱きたい!」

 正直すぎ。
 社会的地位を脅かしかねない危険な欲望のカミングアウトに躊躇無い、おおらか過ぎる性格のタイガーに、一同思わず苦笑。そして展開する、くんずほぐれつのベッドシーンには床慣れした佐藤師匠も思わず赤面だ。・・・ってマジか?話が早すぎるぜ!
 52階の高層ホテルの部屋。シャワーを浴びて、月明かりだけが照らす薄暗い部屋で。
 ずぽぽ。
 本当に挿れてる。
 ずぶぶ。
 本当に挿してる。
 ぬぷぷ。
 出し挿れ、もはや自由自在。下半身の魔術師。

 いいのか、タイガー。下半身は26歳だが顔は12歳そこそこの女だぞ。っていうか、なんなんだこのマンガは。やりたい放題か。

 タイガー自身を心行くまで放出し、満足の喫煙を果たすタイガー(事実)。濃厚に漂う少年マンガにあるまじき大人の気配に、突如として襲い掛かる卑劣極まる悪華団。
 ほっ。
 
 「ぴょーーーッ!」
 「ぴょーーーッ!!」
 「ぴょーーーッ!!!」


 近未来の悪は掛け声すら独特だ。
 黒覆面に網タイツの悪党軍団をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。完全武装の忍者集団を怒りにまかせて素手で叩き伏せてしまった。
 その間巻きつけたタオル一枚の顔だけ幼女は、ヒロインの特権として悪の魔の手に攫われていってしまった。ホテルのフロアを全力で叩きくやしがるタイガー。最低あと2発はやれたのに。回数制限が妙にリアル。
 その、極限までせつない怒りがタイガーの奥底に眠っていた変身能力に火をつけた!

 ぶぼぼぼぼ。
 薄いTシャツを引き千切り、上半身が巨大なトラの姿となり、暴れだすタイガー。ホテルの壁を破壊しTVを窓から放り投げ、来日したレッドツェッペリンを彷彿とさせる凶行を繰り返して彼女を探し求める。

 「ちくしょう!!!
 オレは、幼女が好きだーーー!!!
 幼女しか興味がねぇんだーーー!!!」


 心からの、血の叫びだ。
 行く手を阻む卑劣な悪華団はトラの牙の餌食となり瞬殺。ヒグマを思わす強力パンチは忍者の邪悪な顎を砕き割った。強い。この男、無意味に強すぎる。
 どこまでも邪悪な麗華様は、麗華銃殺隊を繰り出し、重機関砲の一斉掃射でタイガーの進攻を止めようとしたが、大人の女性にいっさい興味を示さない正直すぎる性欲エネルギーの暴発の前にはまったく太刀打ちできず、顔面を握りつぶされ、首を捥がれて殺されてしまった。

 あきれた幼女好きのタイガー、敵を皆殺しにしヒロインが幽閉されている拷問室に駆けつけると、彼女はやり殺されて死んでいた。

 「しまったーーーッ!!!
 敵にも、同じ病的趣味を持つやつがいやがったのかーーーッッ!!!」


 正義の怒りで地面を何度も殴りつけるタイガー。ロマンを求める旅はまだ始まったばかりだ。

【解説】

 熟女でもなく少女でもなく、幼女が好き。
 そんな異常趣味を全力でバックアップする、G.I.ジョーの如き心強いマンガの登場に拍手喝采だ。
 このあとタイガーは砂漠に潜むニューハーフにあったり、本物の幼女と友達になり真剣交際を告白したり、あきらかに性的に異常なアドベンチャーに本気で挑んでいく。その間、人間を真っ二つにちぎったり、股間の持ち物を大きくしたり縮めたり。そうして少しずつ大人の階段を登っていくタイガーの活躍に次週もご期待ください!

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2013年10月 9日 (水)

竜介龍司『もう逃げられない!』 ('87、立風書房レモンコミックス)

 アトランティスのことは言わないで。

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 幼馴染みのあの娘。近頃ちょっと気になるあの娘が、アトランティスの生き残りだったら、きみならどうする・・・?
 100%どうでもいい疑問を投げかけるこの本は、普通の審美眼を持つ編集者なら絶対に出したくない類いの本だ。つまりは穴埋め。代用原稿。背景も人物も台詞もありえないぐらい酷い。低レベル。話はひとり勝手で説明不足で、気分だけでなにかが成立した気になっていた悪しき80年代の空虚さを浮き彫りにする。
 オレは、「80年代がイカシてた」だなんていまさら平気で抜かす、超呑気な連中のケツの穴目掛け、この本を束にして全力で詰め込んでやりたいと日々真剣に思う。
 そういう価値ある一冊だ。

【あらすじ】

 オレの隣の家に住む女。同じ高校に通うあの女。片親だけどカワイイ彼女。
 余談だが「片親は片親を呼ぶ」という都市伝説は本物で、同僚の女はれっきとした片親であるが、派遣の面接に何度か立会い、採用した女は見事全員片親であった。彼女は履歴書は持たされていない。上司の横から流し見するだけ。なのに3人も4人も片親の連中が集う。世に片親は多いのか。片親育ちには独自のアトモスフィアが立ち籠めるのか。片親を廻る謎は深い。
 そんで、そんな主人公二名の通う高校にある日局地的な大地震が起こり、校庭に巨大な楔形の地割れが出現する。「これは怪しい」と内部に侵入してみると、古代の墳墓ようだ。並んだ棺のひとつには王冠をかぶった白骨死体が。保存状態よすぎ。

 途端、立ち眩みを起こす校長(ババア)。
 「コレは、もしや、13年前の・・・・・・。」
 読者には何がなんだかサッパリわからない。保健室に担ぎ込まれた校長先生、腹心のちょっと色っぽい眼鏡の女教師を呼び寄せると、秘密を打ち明けるつもりらしく、重々しい口調で話し掛ける。
 「藤崎先生・・・お願いがあります・・・。」
 緊張する女教師。
 ここで唐突に場面が転換し、以降校長と女教師は物語の本筋にはいっさい関与してこないため、この場で何が語られたのかはまったく闇の中。素晴らし過ぎる。13年前なにがあったのか。なぜ校長は気絶を・・・?それを思うと夜も眠れなくなりそうだ。
 
 ちなみに場面がどこへ転換したのか。主人公オレと彼女の下校風景である。これがマンガ史上空前絶後の凄まじい帰宅部描写なのであって、思わずページ捲る手を止めて唸ってしまった。現物をご覧いただこう。

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 1ページまるごとブチ抜きで、夕焼け。ビル街。うろつきまわる不審な人々。やしの木。パームツリー。え。
 何か読み違えたかと思って次のコマを追っかけると、

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 やっぱり生えてる。海に突き出た逆コの字状の物体は突堤だろうか。不自然すぎる形状だが。しかもその真横に海坊主がいますなー。
 此処ってハワイ?いや待て、ワイハに海坊主はないよな。岐阜か?いや岐阜には海ないよ。
 
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 しかし、きみたち、呑気にはしゃいで帰宅している場合じゃないと思うぞ。学校の真下に古墳があるのは充分問題だが、事態はなにか最早それどころでない。とてつもない違和感を感じないのか?この現実に?世界に?
 きみたちが住んでる街はファミコンのカセットの中にしか存在しないし、そういやきみたち自身も異常に存在感が希薄で、まるでゲームの登場人物みたいじゃないか。
 『オホーツクに消ゆ』とか『ポートピア殺人事件』みたいな。
 これはなんだろう。われわれは立ち止まり途方に暮れる。この世界には奥行きというものが存在せず、万事は書き割りであり、明るくいい加減な空虚だけが降り積もっていく。 
 ひとつ確信を持って言えるのは、コレ、物凄く入り込みにくいタイプのマンガだってことだ。ちょっと画期的なレベルかも知れない。

 既にあらすじを語ることを放棄している気がするが、もう少々強引に続ける。
 借用だらけのイメージの夥しい羅列がストーリーの骨格を成しており、それ以上には何もない。
 物語性の徹底放棄という意味では既に前衛文学の閾。

 
 以下作中に起こる出来事を簡単に記述してみよう。 
 
 先ほど海坊主が描き込まれていた沖合いでは、釣り船にゾンビが出現し、ランチを食い荒らして海中へと消えた。喰うなら人間ではないのか?なぜマグロとか丸齧りにする必要があるんだ。鮮魚好きなのか。(ちなみに、おかしらはズッポリ喰っていたが尻尾残し。真の魚好きとはいえない。)
 続いて、T型フォードに乗った死神運転手※註が暴走し主人公たちを轢き殺そうとする。からくも逃れるオレと彼女。運転手は彼女を見知っているらしく、ニヤリと笑うのだった。
 ※註・死神運転手はダン・カーティスの映画『家』からまるまる無断借用。素晴らしい姿勢である。
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 港町の廃屋では死霊の群れが大量発生、浮浪者を食い殺して市街地へ進撃を開始する。その間、ヒロインは自宅に戻り入浴し、巧妙に乳首を隠した全裸姿を披露。
 校長と女教師が再登場し、長かった恐怖の回想が締め括られる。戦慄する女教師。校長はいつの間に臨終間際の床に就いている。校長が何に脅え心臓を弱らせていたのか結局いっさい語られなかった。
 その夜。校庭に開いた遺跡の内部に、よりによって真夜中に潜入を図る高校の不良たち3名。石室に勢揃いした死神運転手と死霊軍団と正面衝突し、瞬時に踊り食いの憂き目に遭う。この世ならぬ者たち、彼らは常に飢えているのだ。
 遺跡調査D.B.オレガー研究所。
 唐突に登場するオレガー博士。どこの国の人間なのか、遺跡を調査してどうしようというのか目的不明の怪人物だ。明らかに知能が低そうな湘南大学に籍を置く男が、遺跡に描かれた古代文字を解読して貰いに現れるのが博士の自宅である。
 
 「こ、これはアトランティアではナイデスか・・・!!!」

 特撮映画に出てくる誰かわからん外人俳優のように喋るオレガー博士。
 「え・・・?なんですか、ソレ?」
 「一説には古代アトランティスの文字とも言われているのよネ!」
 「ア・ト・ラ・ン・テ・ィ・ス・・・?!」

 あーあー(泣)。

 ここでオレガー遺跡研究所は、死神運転手の唐突な襲撃を受け、殴り飛ばされた博士は頭にこぶをつくる(事実)。湘南大学が作成した古代文字に関するメモ帳を一息で灰にすると、運転手は悠然と立ち去っていったが、それ単なるメモ帳ですから。どんな重要性があるのか教えて欲しい、逆に。
 
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※不法侵入する死神運転手。身長3メートルぐらい。研究所の窓の高さは推定5メートル越え。「ガシャン」という描き文字に大友克洋の影響が感じられるが、それにしても雑な流線だ。

 その頃、750Ccで単身峠を攻めていたオレは、男の車から強制排除された、完璧夜の女にしか見えない不良少女でクラスメイトのアツコと偶然出くわす。
 「ホラ、あんなコのことなんか忘れてさ・・・ネ、風見くん・・・」
 露骨にモーションかけるアツコを無視して走り去るオレ。そうか、オレの名は風見というのか。初めて自分の名を認識し何事か決意した風のオレだったが、どうせ碌なことではない。
 早朝5時。
 彼女の家の窓を叩くオレ。ロマンチック皆無、遺跡の探求に誘いに来たのだ。そんな理由で朝早くから起こされても、文句ひとつ言わない素敵な彼女。明らかにどうかしている。
 バカとキチガイは朝飯も喰わず校庭に空いた古代遺跡の入り口へ。遺跡の壁に触れたキチガイの脳裏に幼少期の記憶か幻覚かよくわからない風景がよぎる。
 大空を舞うB-29。風船を差し出すピエロ。超適当な造形の未来都市。迫力皆無の死人の群れ。不足し過ぎな描写力のため、もう現代っ子の骨みたくポキンポキン折れてる。イメージの必殺パンチがすべて空を打つ。ちょっと見事なくらい無駄骨。
 結果、何が解ったかっつーと、

 13年前、この街に米軍輸送機が墜落。乗務員は全員死亡したが、護送されていたアトランティスの生き残りである彼女とその母親は助かった。
 その墜落場所が、なんでか、彼女の父
アトランティス王の墓がある学校の校庭だったのも不思議なら、町中の人間に謂われない迫害を受け彼女の母親が死亡したのもまた不思議。
 彼女は近所のおやじのご好意により、野良イヌを拾ったが如く育てられていたのだった!

 なにが衝撃って、ピエロ未来都市死人の群れも、ましてB-29※註もいっさい関係ない!
 ※註・と書いて遅まきながら気づいたのだが、もしやアレ米軍輸送機の描写だったのか?え、ええッ?!時代設定が全然わからない!メガフォースを呼べ!
 なんだこれ?しかも校長藤崎先生も全部不要じゃないか!一貫してすべて伏線を回収する気がない姿勢は、読んだ者すべてに深い絶望と後悔を与える。だいたい、どこにどう隠れていたんだアトランティスの生き残り?なぜ米軍が回収を?骨だけになった王は死んでいるの?生きているの?ここ、どこ?

 だが逡巡している暇はない。アトランティスと敵対する勢力である古代レムリアが不死のゾンビどもを使ってアタックをかけてきているのだ!(アトランティスが海中に没して数千年、この人達はよっぽど時間があるのだろう。不死だし。)
 ゾンビに憑かれたオレガー博士がチェインソーを振り回し、『死霊のえじき』の如く壁を突き破って現れる無数のゾンビの手!
 死神運転手
が牙を剥き、アツコはゾンビに操られ顔面を断ち割って物体Xのように内部からエイリアン似の第二の口を伸ばす!
 面白そうな、借り物要素満載!
まさに運動会の秋にはうってつけ!
適当すぎる超能力が開花する、驚天動地の結末を見逃すな!!!


【解説】

毎度誇張と捏造に塗れた『神秘の探求』であるが、今回はマジですから。本当にこういう話なのである。頭痛い。

物凄くスカスカの画面と描写力の無さは、たぶん子供が小遣い稼ぎに集団で描き飛ばしたからなのだろう。
 (これまた空前絶後に気持ち悪い)あとがきのクレジットによれば、作画グループ最低8名はこの大犯罪に関与している計算になるのだが、全員20歳以下の未青年であることを祈る。
 ちなみにこの作品の結末の意味不明さは、かの日曜洋画劇場をパニックに陥れた名作『宇宙からのツタンカーメン』に匹敵すると思われる。なにも解決しない、どころか全然別の話を読まされた気になるところが見事だ。
 それでいて、作者の小僧どもの、

 「どう・・・?いい話だったでショ?」
 
 とでも言わんがばかりの知たり顔がページの向こうから垣間見えてくるようで、堪らなく不快だ。誰か何とかしてくれ。
 もう逃げられない・・・!!! 

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2013年8月18日 (日)

関よしみ「マッド・サマースクール」 ('96、講談社)

 「・・・なに、ぬるい記事掲げてるんすか?!マッカートニー関連とか、単なるアクセスカウンター稼ぎでしょ?」

 ちょっと見ないうちに体型が倍々増し、元気いっぱい成長期真っ盛りのスズキくんは喫茶店のぬるい水をお代わりしながら切り出した。
 おやじ、目を白黒させている。

 「いや、本当に好きなんだけど・・・」

 「必要ないです。やらなくていい。
 そういうのはもっと上手い他の誰かに任せておいて、あんたはもっと差別的で非人道路線のコアな記事を書くべきです。例えばこの数ヶ月間、ボクがクトゥルー神話を渉猟して稼いだ豆知識を披露しましょうか。いいですか。
 ラヴクラフト、才能無いですよ!
 確かに名作といわれる作品は面白かったですけど、ハズレは本当酷い。同人誌作家レベル。ワンパターンだし描写力も欠如。でも確かに、作品集一巻につき2,3個当たりはあります。でもそっちはほんの一部、スカの量が膨大すぎ」

 「・・・そうなの?」

 「そこはね、もう、ネットで広く言われてる通りなんですよ!圧倒的に世間が正しい。あと、翻訳者による当たり外れも大きい。大瀧は・・・まぁまぁかな。昔の訳者が酷すぎるからなー」

 「キングに於ける白石朗みたいなもんか?」

 「やっぱり深町眞理子先生が最高ですよね。そうそう、あんな感じ・・・」

 スズキくん、喋りながらピザに食いついた。チーズがだらり糸を引く。

 「ともかく。モグッ。もっと読み応え皆無で、一般性の無い記事を至急アップすること!あんたのクソブログの価値なんて、他になにがあるって言うんだ。グブッ」

 「そうさな・・・」

 おやじは顎を捻る。

 「今年の夏は屋台も吹っ飛ぶ異常な酷暑だったから、やっぱりアレかなー・・・
 しかし、このクソ暑い最中に読みたくないマンガNo.1なんだよね、正直」

 「・・・って、なに、日和って『デボネア・ドライブ』なんか読み返してるんですか?!さわやか、ほっこりですか?井上ひさしのほっこりひょうたん島ですか?!逃げたらいかんぜよ。
 熱には熱を。残酷には残酷をもって対処すべし!

 だいたい、あんた、関よしみマッドシリーズの全作レビュ-完遂が自分に課せられた使命である、と常々熱く語ってたじゃないですか!
 やるならいつ?今でしょ!」

 「どんだけ悲願なんだよ!!
 ・・・って、ま、確かにそれ実際言ってましたが。テヘ

 「三条友美の物真似したってダメですよ。さっさと書いてください!」

【あらすじ】

 高層ビルの姿も蜃気楼に歪む猛烈な酷暑。年寄りはジャンジャンくたばり、猫は溶けて車の陰にへたり込む。最高気温は連日40度に届き、夜になっても下がらない。太平洋上に広がる巨大な高気圧から流れ込む風は猛烈な熱気を運びて、死の町と化した都会の街路を吹き抜ける。
 殺人的な猛暑の中でも、やはりクーラーを持たない人は一定数いるもので、効果的な冷房対策(図書館等公共施設に行く・自室にこっそりビニールプールを張るなど)を講じないかぎり、熱中症で死亡したり発狂して暴れ出したりする。

 「ちくしょォーーーッ!!!
 テメエらだけ、涼しけりゃいいのかよ、コノヤローーー!!!」


 強烈な熱風を路上に吐き続けているエアコンの巨大室外機に向かって繰り返しバットを振るい続ける男。
 ネックのところに無理やり針金ハンガーを通したのでよれよれになってしまったTシャツに、薄汚れて黄ばみばかりが目立つジーンズを履いて、ぼさぼさの蓬髪を振り乱している。
 男の構えたバットが室外機のフェンス部に命中するたび、ガツンガツンとやたら大きな音が響くのだが、頑丈なのだろう、熱風を吐き続ける憎っくき羽根はなかなか停止しようとない。それとも男が余りに非力なのか。
 
 人々はそれを遠巻きに見ながら、近づこうとしない。

 堪りかねた近所の誰かが通報し警官が駆けつけるまで、男は延々と炎天下で孤独な一人芝居を演じ続けた。

 「いややわー・・・ホンマにィー・・・」

 女子高生の段原詳実(ひろみ)は、汗を拭き拭き溜息をついた。その名の通り腹がだんだん。でもマスクはそんなに悪くない。おさげがチャームポイントの、関先生描くいつもの平均的主人公キャラだ。
 それは、遂に合格した東大受験専門合宿ゼミナールへ向かう途中に偶然目撃した事件だった。
 のちの報道で、事件を起こしたのがそれほど歳の違わないクーラーのない部屋に下宿する浪人生だったことを祥実は知らされる。なんて悲惨な。蟻かよ。
 
 この世の覇者を目指すなら、やはり東大だ。
 
 拳法やるなら少林寺、と同じ単純な理屈であるが、それでは極真の立場はどうなるのか。東大出身といえばやはりヌード。そういう考え方だってある。
 ともかく、東大に合格しなければ絶対ダメだ。
 空手をやってもヌードになっても意味がない。政治家も官僚もみな東大。そのうえで空手をやったり、ヌードになったりしているではないか。
 東大最強。
 偏差値無限大

 そういう凝り固まった考えの両親に強力にバックアップされ、祥実は東大合格者を多数輩出している名門「久保ゼミナール」の、超強化夏季合宿特訓48手を受講する決心をしたのだった。

 「諸~君、がんばってましゅかァ~~~!?」

 超高層ビルの最上階に集められた、闘志に燃える受験戦士たちを待ち受けていたのは、意外やくたばり損ないの耄碌ジジイの腑抜けたあいさつだった。
 なに、こいつ。

 「わたしはコーチョーの久保社長でぇ~っす。ハッピー?」

 ハッピーなわけがない。

 「今日から二十日間、みなさんにはこのビルにカンヅメになってもらいま~しゅ。
 缶詰いうてもツナ缶やおまへんで。
 わかりまっか?ドゥ・ユー・アンダースタンド?」


 笑う者はなかった。
 
 「ま、ここで、あんじょう勉強しくさって、成績メキメキあげたって~や。
 とにかく、他人を蹴落として、蹴落として、蹴落として、蹴落として蹴落として、蹴落として蹴落として蹴落として、蹴落として蹴落として蹴落として蹴落として、この世の覇者に勝ちあがるんや!!!
 ええか、世の中っつーのはな、勝つやつと負けるやつしかおらへんねん。
 それはな、つまり、東大に行けるやつと行けないやつの差っちゅーことやねん。

 ・・・わかるな?」


 誰もが固唾を呑んで頷いた。
 いつしかアホの言葉を真剣に聞くモードになっているのだから、東大という文字の催眠効果は真におそろしい。ヌードにもなるワケだ。

 「よし、ほな、目的はひとつ、全員レッツ・ラ・ゴーや!いてこましたれ!
 ・・・ただし、言っとくが。」


 ジロリ、目を剥いた。

 「隣の生徒諸君も、にいさんも、ねぇさんも、じいさんも、ばあさんも、みぃ~んな、みぃ~んな、実は敵なんや。
 敵が一人減れば、それだけあんさんの合格率が増します。マシマシ、っちゅーこっちゃ。
 そこんとこ、よろしく。」


 登壇を終え、よろよろ立ち去る久保社長を塾講師たちが出迎える。 

 「さすが、大社長!」
 「名演説!よっ、この成り上がり!」


 東大進学を煽り立てる連中の、はてさて何パーセント東大出身であったのか。この社長に講師たちも怪しいもんだ。
 事実は厳秘とされ一切公表されていないが、恐ろしく危険な数字が出てくるだろうと思われる。だって、東大出身者はこの世の覇者なワケだから、東大東大とわざわざ啓蒙活動に勤しむ必要ないんだもの。むしろ秘匿に走る方向だろう。ね?
 しかし、三流私大出の彼ら、教育産業の片棒担ぎにもちゃんと生活がある。養うべき家族だってある。喰ってく為なら何でもするさ。

 でも、食い扶持稼ぎのために、純真な子供の頭に公然とデタラメなプロパガンダを一方的に刷り込むのは、やっぱりよくないと思うなぁー。

 
祥実は極めてリベラルな考えの持ち主だった。
 でも、それはソレ。やっぱ、勉強はちゃんとしなきゃ。
 
 その日から地獄の特訓が始まった。
 昼夜を惜しんで国語・算数・理科・社会・ザ・ムーン。
 最新のセキュリティーシステムにより24時間管理されている巨大ビルは、自家発電装置を備え冷暖房フルオートの超省電力設計。素晴らしい。だが、ご自慢の発電装置の調子が例によって悪いことは、配線工事に来たビル管理会社の下請け工務店の方々しか知らないのだった。
 生徒は全員外出禁止で、食料品の調達は教師がやる。校長がケチだから。
 「どんだけ経費削減だよ!」
 「まったくもって、ホントにおかしいザマス!」

 今日も今日とて不満たらたらで買い物袋をたくさんぶら提げてエレベーターに乗る先生方一同を、真夜中の落雷が襲った。
 「アギャーーー!!!」
 「うわわ、髪の毛が全部アフロに!!!」
 
ガックン、停止するエレベーター。墜落。
 地上階の底面に強く叩きつけられた脆い函の中では、しばらく教師たちの苦しげな呻き声が聞こえていたが、やがて静かになってしまった。
 
 落雷の影響はビル全体に及び、全館停電が発生していた。

 非常用の自家発電装置は、もちろん前フリ通りうまく作動せず、たちまち上昇し始める室内気温。夜間とはいえ真夏の都会だ。温度もなかなか下がらない。むしろ蒸し風呂。
 深夜飽くなき受験勉強に明け暮れる生徒たちも、すぐ異変に気づいた。
 「暑い~!暑いぞォ~!」
 「チクショウ、こんな劣悪な環境のためにオレは金を払ったのかよ!納得いかねェ!!」

 別にお前自身が払ってるワケではない。親だろ。
 騒ぎ出した受験エリートを尻目に、祥実は目端の利きそうな四浪の男と行動を共にし、脱出ルートを探る。こういう時の浪人は苦労しているだけに打たれ強い。人間すべからく浪人たるべし。しかし。
 ない。
 どこにも逃げ場がない。


 もう諸君、薄々お気づきと思うが、用意周到な関先生、この場所を都会の只中に出現した絶海の孤島のように扱っている。あるいは砂漠の只中か。このバラード的というか、NWSF的なアイディアに拍手喝采だ。無理やりな脱出不可能状況というのは、ディッシュもよくやるニューウェーブ一派の定番。誰に向けての解説だコレ。

 合宿所に充てられいるフロアは、33階。ビルの最上階。
 屋上への出入り口は、名目はセキュリティ対策、その実死にたくなるのを防ぐため、出入り禁止。厳重に施錠されご丁寧にも巨大な南京錠が掛かっている。 
 昇降用のエレベーターは停電により不通。
 階段はあるにはあるが、途中まで降りると巨大な鋼鉄扉に遮られそれ以上進めない。その先にはかの久保社長の経営する関連企業のオフィスがあり、学生の出入りは固く禁じられているのだ。開閉にはセキュリティカードの認証が必要。
 ところが、現在はお盆の真っ最中。
 この会社も当然、休業。

 地方出身者ばかりで構成される東京は、お盆時期は帰省ラッシュの影響で人間がまったくいない。殊にオフィス街の集中する此処丸の内近辺は、野良猫とカラスが車に撥ねられたイヌの屍骸を漁っているばかり。人間なんか誰も歩いてやしない。過疎の村よりまだ酷い局地的人口偏差だ。

 残る脱出ルート、それでは窓はどうかと言えば、鉄線入りの強化ガラス。嵌め殺し。なんでまたそこまで。異常に頑丈な特注品で、対爆ガラスかよというくらい硬くて、現代のもやしっ子が全力で怒りの鉄拳を叩き込んだくらいじゃビクともしない。罅(ひび)ひとつ入らない。ダイヤモンドは傷つかない。
 ちなみに外界との架け橋、換気ダクトはどれも細すぎ。防犯対策か。幼児ならともかく、高校生ぐらいの体躯ではとてもすり抜け出来そうにない。お見事な袋小路。

 「ウワ~、四面楚歌だわ。こりゃ。」

 あれこれ試した末、四浪のボサボサ頭が思わず嘆いた。
 祥実がすかさず喰いつく。

 「あ・・・四字熟語!それ、どういう意味だっけ?」

 「四方八方から、楚の国の歌、ソングが聞こえてくるっちゅー奇怪な状況ですよ!」

 「たのしい感じ・・・?うれしい、大好き・・・みたいな・・・?」

 「そうそう!曹操!」

 熱心jな祥実は手帳にすかさずメモるのだった。

【解説】

 脱出不可能な超高層ビルの最上階に閉じ込められた15名の受験戦士たちは、酷暑と渇きでヘロヘロになりながらガンガン死んでいく。
 残された烏龍茶を奪い合い、スーパーパワフル湿気取りの容器に溜まった水を啜る。果ては絶望の余り階段から身投げした仲間の血塗れの死体を眺めて、

 「そうだ・・・人間の身体の70%は水分だったっけ・・・」

 と、人の生血を啜る浮世の醜い鬼みたいなことになり、桃さんに退治されたりする。最低状況への追い詰めかたは相変わらずジャック・ケッチャム張りに冴えている。下関市在住ですけど。
 他の作品だと最後の最後にようやく救助隊が駆けつけたりして、ともかく主人公だけは半死半生で助かったりする場合もあるのだが、今回の関先生はそんな優しい気持ではない。
 偏差値社会が本気で憎いからだ。
 イデオロギーを盲信し、他人を蹴落とすことに何の躊躇いも持たない鬼畜どもなんか、全員死んでしまえ。


 かのウディ・ガスリーのギターには、「このマシンはファシストを殺す」毛筆で大描きされていたそうだ。
 関先生の単車の側面には、「このマシンはエゴイストを皆殺しにする」「略してエゴい奴らは皆殺し」とか割と本気で書いてありそう。そして本当に轢いてそう。
 およそ地上に人間が存在する限り続く、エゴとの無限闘争は関先生の作品に於ける一大テーマである。

 ・・・やがて盆明け、都会に久方ぶりに潤いの雨が降る。地方から戻ってきた人々は「明日から仕事だ」と例年続く憂鬱モードに突入。雨を見ている。
 そんな時間も、しばし。
 すぐに回復し晴れ渡った夏の青空のした、母と子はビニール傘を畳んで歩いていく。アスファルトの歩道に出来た水溜りを爪さきで跳ね上げ、子供は楽しそうにしている。
 15人の少年少女(と、エレベーターで圧死した教師6名)が死に絶えた後の超高層ビルの上には美しい虹が架かり、キラキラと輝いている。
 見上げた親子は、最上階の窓に張られた「タスケテ」「デラレナイ」という張り紙を見つける。

 慌てて携帯を取り出し警察に電話する母親の横で、子供は不思議そうにしている。 

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