ありえざる星

2015年9月23日 (水)

《架空マンガレビュー》『ダウンロードの鬼』('02、日)

 (この奇妙なマンガは、児童向けコミック誌にごく短期間掲載され歴史の闇に消えた。誰も惜しむ者などいなかったのは当然だろう。)

 二宮キンジロー少年は、都立家政の学校に通うごく普通の小学生。膝を擦り剥いたっちゃあ泣き、お小遣いが減らされたっちゃあ泣き、やたらメソメソしているクソガキだ。
 
ときどき、パンツにうんこが付いている。
 それでも今どきの子供だから、自宅にパソコンの一台も持っていて、親がインストールした年齢制限ページ閲覧禁止ソフトの隙間をかいくぐり、怪しいサイトに連日アクセス。エロい動画やら、衝撃事件の映像やら、危険なファイルの入手に血道をあげる熱い毎日を送っている。そのハッキング能力は異様に高く、米国防総省の職員名簿も入手可能。情報界のシャーロック・ホームズの名をほしいままにしている。
 (って、どこが普通の小学生なのであろうか。)

 こんなクソみたいなガキにも仲間がいて、児童コミック界に君臨するドラ原理主義において、その数3名。それ以上でもそれ以下でないところに作者の誠実な姿勢が窺われるが、彼らの能力にはいささか問題があった。
 ミミコ。
 宇宙からの電波を受信するパラボラアンテナを乳首に貼り付けた小学生。下半身はホットパンツ。数百光年離れた異星の住人とも自在にチャネリングすることができる。彼女はいわば宇宙規模の人間無線LAN機器であり、グループの情報収集係である。
 ゴリポン。
 脳細胞が異常に増殖する病気にかかった人間ゴリラ。常人を遥かに凌ぐ記憶野領域を持ち、他人の人格や技能をロードし自在に使いこなすことが出来る、いわばひとりマトリックス。ロード方法は身体的接触であるため、近所ではエロガキ、変質者予備軍として知られる。
 ムツオ。
 高次元空間にひきこもる伝説の餓鬼。学校の裏山で通常世界に首だけ突き出しているところを運悪くキンジローたちに捉まった。無限の空間容量を個人的に使用することができる。(すでに家電ゴミの違法投棄等に使用。)また、空間を捻じ曲げパリと北京を繋げるくらいはお手のものなので、いわば生ける「どこでもドア」として重宝されている。
 
 設定だけとれば、ハリウッドアクション並みの派手な展開が繰り広げられるのではないかと思わず錯覚するだろうが、掲載が児童誌であることから解かる通り、第一話に登場する敵は単なるいじめっ子。人の髪をつかんで引っ張る凶悪ないじめを繰り返すこいつに彼らは敢然と戦いを挑み、脳内を完全に初期化するという悪辣極まる方法で勝利する。身体制御能力を喪失し床に倒れておしっこ、うんこを垂れ流す哀れな子供を前に、彼らD4(※グループ名)が満面の笑みでガッツポーズをキメるラストカットは明らかに様々な問題を孕んでおり、読者に賛否両論の嵐を捲き起こした。
 これを皮切りに、第二話では体罰教師、三話ではセクハラ発言を繰り返す町内会長、以下ストーカー疑惑の用務員、異物混入で学校全滅を謀る給食のおばちゃん、非道な小学生レイプを遂行する隣町の高校番長グループ、大物政治家等々を次々に血祭りにあげていく。

 その容赦ないやり口を、例えば第六話「給食のおばちゃんは大量殺人鬼?!」から引用し詳しく見てみよう。

 この、児童マンガにしてはちょっとだけ凝った時系列構成からなる一篇において、給食おばちゃん・堀口魔須美容疑者(54)は既に警察の取調べ室に拘禁されており、自らが犯した罪を淡々と自白していく。その口調は機械的で、感情の起伏が欠落していて不気味。取調べの刑事も面喰っているようだ。
「私が人を殺したのは、私が完全に狂っており、すべての人間は死ぬべきだという考えに凝り固まっていたからなのです」
 4人の子供の母親でもある魔須美は、ある日神としか呼びようがない至高の存在の声を聞くようになり、そのお告げに突き動かされ無差別大量殺人を計画し始める。いわば、プロデュースト・バイ・神だ。殺戮対象は、誰でもよかったのだが、一番簡単そうということで勤務先の無力な子供に大決定。自分の子供も通っているから、まとめて殺るには都合がいい。元準看護婦の経験を活かし青酸化合物を秘かに入手。Xデーに向けて着々と準備を進める。
「私の計画は完璧でした、あぁ、でも、あの子らさえ、あの子らさえいなければ・・・」
 いつものように薪を背負ってのキンドル読書の帰り道、キンジロー少年は「給食のおばちゃん、不審な行動」と書かれた同級生のツィッターをキャッチし捜査を開始する。「殺人、殺人、殺人・・・」とブツブツ呟きながら職場を出ていくおばちゃんを尾行したところ、書店に入り毒物に関する本を立ち読みしていたというのだ。(実際驚くべきストレートさである)
 おばちゃんとこれまで関わりのあった全人間のリストアップ、出身地和歌山県の卒業生名簿の入手から、現在の近隣住民の特定まで淡々とこなすキンジロー。そして遂に、おばちゃん所有のスマホの通信履歴からおばちゃんがときどき神と通話している事実を知ることになる。敵の黒幕は、神。衝撃の事態に打ちのめされるキンジロー少年だったが、戸惑っている猶予などない。時すでに遅くおばちゃんは既に校舎内に毒物を搬入し終え、その日のお昼のカレーに混入しようと企んでいた!
 ここで取調室に座る魔須美容疑者のクローズアップ。ニヤリと笑った口元がおっかない。
「すべては神のために、すべては神の御心のままに・・・・・・」
 このままでは自分はおろかクラスメイト全員の生命が危うい。便意を催したと嘘をつき教室を抜け出した(授業中でした)キンジローは、D4のメンバーを校舎の屋上に緊急招集。仲間たちもそれぞれ腹痛、生理、借金返済といった事情をでっちあげ、階段を昇り駆けつける。
「今ならまだ警察を呼んだら間に合うかも知れない。毒物という動かぬ証拠がある以上、彼女は間違いなく逮捕され取調べを受けることになるだろう。・・・ミミコ、警察無線に同調し、匿名で事件を通報してくれ!」
 
うなずくミミコ、乳首のアンテナをこすり上げトランス状態に。
 それを横目で見ながら、なおも冷徹な表情を崩さず並んだ仲間たちに話し続けるキンジロー。
「しかし、それでは本当の敵は倒せない。この事件を操っている真の黒幕、それは彼女にあやしい考えを吹き込んだ神そのものだからだ・・・!」
驚愕する一同。
「有史以来、人はしばしば神の声を聞き、聞いた者はそれを至上の命令として実行し、幾多の事件を起こしてきた。
 預言者、救世主、絶対君主、神主から、“八墓明神はお怒りじゃ”のババアに到るまで、神の意思を代弁し民衆を率いて戦った者、神の名のもとに大量殺戮を繰り広げた数多の大国、神の名を騙り人を欺く者。彼らは都度捕えられ、裁判にかけられ、滅ぼされたが、それでも本当の意味で神の声に踊らされた者たちを根絶することはできなかった。
 それは真の原因をつくりだした神の所在場所が不明だったからだ・・・」


「ぼくは、給食のおばちゃんの通話履歴から神のIPアドレスを割り出すことに成功した。
かくなるうえは、神をダウンロードし、ゴリポンにロードする。われわれは神に等しい能力を手にすることができるだろう。
 そしたら、やつのもとへ乗り込んで最終決戦だ!」

 いきなりトンデモないことになってしまった。
 ゴリポンがまごつきながら反駁する。
「しかし・・・神のデータ容量ってどれぐらいあるんだポン?ダウンロードするったって格納先は?受け取って展開するオリの脳の容積だって、常人を遥かに凌ぐとはいえ、やっぱり有限なんだし・・・」
「サイズは既に算出してある。たいしたことないよ、地球の月3個分くらいだ」
 ニヤリと笑うキンジロー少年。後ろを振り返ると、
「ムツオ、ゴリポンの脳内に亜空間ポケットを用意できるかい?」
 無言でうなずく“伝説の餓鬼”。見た目は小学生でも、実年齢は三千歳を越える(彼は有史以前から引きこもりを続けている計算になる)のだから、こんなクソ小学生どもとツルんでいなくてもよさそうなもんだが、そこはホラ、マンガですから。
「邪魔者がいない手頃なパラレルスペース(並行宇宙)を一個丸ごとゴリポンの脳に直結させてデータバンク化する。・・・準備OK?よし、ミミコ、ゴリポンに接続しろ!」
 高速手揉みによる連続刺激でいきり立ったゴリポンの男根が、ミミコの熱くぬめった股間に吸い込まれるまでには数十秒と掛からなかった。

「今だ、ダウンロード、GO・・・!!!!」

 威勢のいい雄叫びと共に、空中に飛び出しアクションポーズをキメる主人公キンジロー少年。(ただし、こいつがやってる仕事は実はこれだけ)
 ミミコは地球を遥か離れた宇宙空間にある神のIPアドレスにアクセスし、順調にデータを吸い出していくが、いかんせん人力による回線接続。データ流入量が細すぎる。少しでも助けになればと必死のピストン運動で、白目を剥き出し腰を突き上げるゴリポンも最早瀕死寸前!

「いかん、瞳孔が開いてきてるぞ!血管拡張剤、投入!」
「心臓マッサージ用意!電気ショック、まだか?!」

 ブラックジャック先生の手術みたいな状況になっている。
四苦八苦しながら神のデータを移し替えていくにつれ、なんだかゴリポンの身体が光り出してきた。

「・・・な、なんだこりゃ?しかも、得体の知れない花の香りが・・・」

 その通り、校舎屋上周辺には芳しく気品高き謎のフローラルが充満し、彼方を飛ぶは迦陵頻伽、いずことも光源が知れない淡い光に照らされて天上の楽園の如き様相を呈してきた。遠くより聞こえる楽の音とハリ・クリシュナの読経。さては今回の神はヒンドゥー方面からお越しになったのか。と思いきや背後に聳えるゴシック風味の大聖堂。隣に鎮座する大仏。どうやら有難ければなんでもよい、という鷹揚な思想が感じられる。神とはそんなものか。

 その後、神と等しいパワーを得たゴリポンは当然ながら暴走し、都市の気温を3℃上げたり、全国紙朝刊の活字を全部“ゑ”で埋めてみたりして悪さを働くが、残るメンバーの必死の説得に理性を回復、人類史上初となる神討伐の使命に燃える。
 熱い一億火の玉となったD4メンバーは神の居城である異空間・江古田へ潜入、虐げられていた江古田人(ぬかみその古漬けを無理やり食わせる等の暴虐行為を受けていた)を解放し神の居城へと迫る。途中この地球とは異なる時間線からやってきた美少女ムーチョ・カカリク(往年の国民的美少女後藤久美子似)と一緒になるが、彼女は実は神のスパイであった。断腸の想いで、彼女をふたつに引き裂くムツオ。空間に断裂を生じさせてなんでも切りきざむ恐るべき技である
 そして、遂に姿を現した神。その姿は寿司屋で勘定を払わずに千年昼寝したリッチー・ブラックモアに似ている。恐ろしい相手だ。

「ポッドキャスト、スキャン開始!」
 キンジロー少年は慌てず、まず相手のファイルを分析し始めた。

「敵は、定義ファイルのアップデートを要求してきています・・・!」

「ダメだ!リカバリーできません!味方のファイルが続々と免疫解除されていきます、555657・・・」

 悲痛な声が飛び交う戦場。周囲ではバタバタと江古田人が倒されていく。脳天から血を噴いて哀れな有様だ。当方の損害状況は片っ端からログが取られ、
あとで料金を請求される。
 イチかバチかで召喚された拡張子変更エディターが神の構造を書き換えて無効化しようとするが、膨大過ぎる作業量に完了までには百億年かかるとの計算を弾き出す。必死のキンジローは、近所で評判の犬殺しを呼び出し背後から神を邀撃する作戦に打って出るが奥様方の評判が悪くて役に立たない。

「ダメだ、犬殺しじゃマジ勝てねぇ・・・」


 ガックリ肩を落とすキンジロー少年。

 もはやこれまで、と思われたそのとき、すっかり存在を忘れられていた神に等しい力を手に入れた男ゴリポンが再起動(実は、彼は江古田突入のショックで長い喪心状態に陥っていた)、凄まじい異臭を放つ神の頬ひげを刈り取ることに成功。すっかり人相の変わってしまった神は怒りにまかせて地球へ小惑星ケレスを落下させる。が、江古田上空でミミコにコントロール回線を乗っ取られ、狙い誤って自らの頭上へ。(申し上げるまでもないが、神は江古田より大きい。)

 
「イッテェェェーーーーーーー!!!
 チクショウ、覚えてろよーーー!!!」


 額に小惑星を突き立てた神は、掲示板に独自のスレを次々立てながら沼袋方向へ逃走していったのだった。


 かくてクラスメートを毒殺の危機から救ったD4の面々(現実世界に戻ると、給食のおばちゃんがポリスに連行されていくところ)、江古田の人々からは心の底から感謝されたが、嘘ついて授業をサボったのがバレて先生には怒られた。

(このマンガがなぜ早々に打ち切りとなったか、あえて説明するまでもないだろう。)

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2011年10月15日 (土)

《架空洋画劇場》 『オレたち、監禁族!』 ('10、米)

 最低の邦題であるが、原題は『Rage in the Cage』といい、Jガイルズバンドの曲名から採られている。

 冒頭、ミニスカートを履いたヒゲ面のおやじ三人が、手に手に日曜大工道具を持ってホームセンターを襲撃する。
 まず、入り口付近に居た警備員が不審訊問しようと近づいて来るのを、背後に隠し持っていたトンカチで殴りつけ、殺害。脳天に一撃を喰らった警備員は床に倒れ伏せ、だらんと伸びた両足は激しく痙攣して、履いたブーツがフロアを小刻みに叩く。
 背後に、小さく女性の悲鳴。
 ホームセンターは、それなりに客が入っているのだが、敷地面積が大き過ぎるので妙に閑散とした印象がある。幾つも幾つも並ぶ商品の陳列棚を尻目に、ツカツカと急ぎ足に進入して行くおっさん達。
 次の犠牲者は、ショッピングカートを押す初老の女性だ。樽のように肥えていて、首が両肩にめり込んで見える。カートは、缶詰やら冷凍食品やらペットフードやらで満載。彼女は派手な花柄のワンピースだが、安いペラペラのピンクで染めてあるので、裕福そうには見えない。成人男性の親指ほどの乳首が布地を押し上げ、存在を誇示しているが、誰が喜ぶというのだろうか。
 ミニスカートのおやじ三人組は、ここで初めて知能を使った連携プレイを見せる。正面から接近する、一番若いメガネの男が、手にした黒いラバーグリップを弄びながら、話しかける。
 「ヘィ、彼女。友達の家で今夜パーティーがあるんだが、行かない?」
 相手の異様な風体(上半身はモトリークルーのTシャツにジャンパー、ミニスカートに黒のストッキング)にびびる女。カートを盾に後ずさるが、退路は既に、別の熊のような大男(余程毛深いのか、ヒゲの剃り跡からさらに荒いヒゲが飛び出している。チェックのダンガリーシャツにミニスカ。着装したストッキングからも、剛毛が突き出している。)により塞がれていた。
 慌てて向きを変え、悲鳴を上げて逃げ出そうとする女の口を、脇の商品棚に隠れていたスキンヘッド男が押さえる。
 「ハロ~~、ベイビィ~~!」
 デイヴ・リー=ロスの下手な物真似だ。
 髪を掴んで顔を持ち上げ、喉首を露出させる(太った女なので、それは辛うじて見分けられる程度の境界地帯でしかない。)と、大型の狩猟用ナイフで、ざっくりと一文字に掻き切った。溢れる鮮血がカメラにかかると、画面が赤に染まる。
 歓声と共に、手に手に得物を持った男たちが、ホームセンター内へ散らばっていく。
 
 ここでメインタイトル。
 ライヒの下手な引用のような、神経質なシンセ多重奏。 

 色を落した画面には、マウスを使った動物実験の映像がコマ切れに流れる。
 報告書レポートの抜粋。
 「199X年、某国アメリカの開発した新薬は、人間の中枢神経に作用し、怒りの衝動を爆発させる効果を持っていた。
 研究結果の転用を危惧した開発責任者は、実験に関するすべてのデータを破棄し、所員を全員を惨殺後逃亡。生まれ故郷のテキサス州ダラスに潜伏するも、やがて、連邦捜査官により発見され射殺された。
 事件は終結を迎え、平穏な日常が戻ったかに思われたのだが。」


 流れるテロップ。
 「-数週間後-」。

 テキサスの派出所。
 本署から急行して来た署長がにがり切っている。
 「マロイ。ルー。ヴィンセント。
 本当に、こいつら三人だけの犯行だというのかね、ホームセンター虐殺事件は?」
 「間違いありません。」
 地元保安官がおどおど答える。「事件に使用された凶器、日曜大工の道具ばかりですが、すべてマロイ宅にあったものです。妻の証言も取れました。」
 「ショットガンでも何でも、大量殺人に適した銃器など、腐るほど入手できる筈だがな。なんでそっち方面へ行かないかな?」
 「さぁ・・・。」
 モジモジしながら、保安官が返答する。「一種の愉快犯かも・・・。」
 「それにしても異常だ。凶器として効率も悪いし、アシがつく可能性もある。殺人者達の肉体に掛かる運動量も尋常ではないだろう。
 狙って、殺害現場を血まみれにしようとでも思い込まない限り、まず使用されることのない道具だよ。」

 「署長、いいですか。」
 先ほどから黙って話を聞いていたFBI捜査官が口を挟んだ。若い女だ。
 「保安官、容疑者三名の結びつきは?」
 「近所の釣り仲間、といったところですな。リーダー格のマロイが近隣の湖にボート小屋を持っていまして、週末などは泊りがけでキャンプに行ったりしていたようです。」
 「潜伏先として、充分有望ね。」
 「現在、私の助手が近在署の連中と確認に向かっております。おっつけ報告できるでしょう。」
 
 「うーーーん・・・」
 苦りきった署長が呟く。「それにしても解らないな。なぜ、3人はミニスカート姿なんだ?」
 誰もが急に無言になった。

 「それじゃ・・・」
 署長は場を取り繕うように、腰を上げた。「解散。」
 
 そして映画は続いていくのだが、俺は途中で寝た。

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2010年1月28日 (木)

「おまえにロックの歴史を教えてやろう」

 ロックの創始者は、チャック・ベリーだとか、エルヴィスだとかいろいろ云われているけど、実は全部違う。

 ロックを最初に始めたのはね、北海道の山本さん。
 山本さんが、熊避けに岩をたたいたのが、始まりです。

 もちろん、北海道の人はみんな、危険な動物を追い払うために、家のまわりに埋めてある石をたたく習慣があるのだけど、山本さんのたたき方は、他とはちょっと違っていた。
 二回連続で岩をたたいて、三回目に竹を割った。

 これが地元で驚異的な大ヒットとなり、たちまちチャートを急上昇。ゴールド・レコードを獲得しました。あ、ゴールド・レコードってのは、人の名前ね。

 その後も、いろんな人がロックを演奏してるけど、結局みんな、山本さんの敷いた路線をなぞってるって感じかなぁー。

 俺は、みんな早く目を覚ますといいな、と思ってるよ。
 岩をたたいて、竹を割るなんて、くだらないことだよ。きっと。

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2009年12月19日 (土)

《架空音楽》『オイルまみれの栄光~逆さ血ミドローズ・ヒストリー1989-1972~』(’99、日)

 いきなり画面一杯に飛び込んでくるのは、警官隊と激しく揉み合う皮ジャンの若者達の姿だ。
 警棒を脳天に喰らって倒れ込む者。殴りかかろうとして、つんのめり画面から消える者。
 奥手に、狂ったように振り回される、白いシーツ製と思しき大きな旗が見える。
 赤いスプレーで乱暴に殴り書きされた文字は、「頭狂☆童夢、建設ラッシュ!」と読める。

 テロップ、「日比谷公園1989年」 が挿入される。

 「そう。誕生するときが来たら終わりだな、って。」
 唐突に、室内で、静かに語る男が映し出される。
 「最初から、メンバー全員で、そう決めてました。」

 ロッカーズ風の皮ジャン。胸のところに、“がんばれ!キッカーズ”と書いてある。
 キーチェインに、髑髏をかたどった栓抜き。
 「あ、これ?どこでも、うまいビールが飲めるでしょ。」
 瓶ビール限定狙いか。

 毛利 年の差カップル(35)。
 
 「逆さ血ミドローズ」ベース。
 解散後の現在は自身のバンド、「マッド・マッド・ハニー・ライダー」を率いて活動中。松戸市在住。左官工をしている。
 「そう、そう、キッカーズは、まさに俺の青春でしたね。」
 照れ笑い。
 「(血ミドローズは?という質問を受けて)え、血ミドローズ?
  あんなの、宗教譫妄のたぐいでしょ。民俗学が真剣に扱う課題じゃないですよ!」

 口角に泡を飛ばして喋りたてると、瓶ビールを飲んだ。やっぱり、らっぱ呑みだ。
 
ソング 「ドクロ人生」 (作詞作曲・アーペーパー)

   ♪ ドクロの~~~、呪いにぃ~~~
     かかった、おまえは~~~、きょうから~~~

      ドクロ人生!!!

     どこへ行ったってぇ~~~、
      ドクロがついて~~来るぅ~~~
         トイレに、立っても~~~、
           証人喚問にぃ~立ってもぉ~~~

     こわい、こわい、こわい!!!
     こわい、こわい、こわい!!!

     楳図かずおの、こわい本!!!

 唐突に、ひげだるまのおっさんが映る。
 深夜、ビルの地下駐車場。遠くにエコーを効かした都会の喧騒が響く。
 おっさんは早歩きで、カメラから逃げるように急いでいる。
 チョコレートの箱を画面にかざし、吠えるように云う。
 「あいつら、絶対最低だよ!」

 テロップ。葉月里緒菜(53)、アイドル。

 
「店を壊して、逃げやがった。事務所に掛け合っても、びた一文寄越しゃしねぇ。ぜってぇ潰してやる!ぜってぇ殺してやる!」

 瞬間、時系列を無視して、画面に毛利が現れ、おっさんの頭をビール瓶でカチ割った。
 ばりん。
 派手に、コンクリートの床に倒れ込むおっさん。
 ニカーーーッ、と笑う毛利。ところどころ、歯がない。

 「逆さの歴史は、日本のパンクの歴史そのものなんですよ。」
 そう語るのは、「日本唯一の爆発パンクマガジン」BoKAAA~N!!編集長、棚田務(46)。
 貧相で、地味な顔立ちだが、とてつもなくド派手な、ラメ入りのダウンを着ている。
 丈の短い袖口から覗く両手には、マオリ族もかくやという、極彩色のタトゥー。
 
 「ウチも、逆ささんの爆破魂には共感しまして。デビューからずっと追っかけているうちに、影響受けて、こっちの編集方針まで変わっていきました。
 発破専門のライターとか、だんだん増えて来て。
 仕掛け花火の職人とか。
 ラーメン屋のバイトも、オカモチ持ちぶらさげて、出入りするようになりまして。
 で、マッドマックスの記事とか、西部警察の特集とか。あと、東映戦隊モノの現場ルポとかね。
 今じゃありきたりだけど、当時そんなことやってたの、ウチだけ。ホント。
 それが嵩じて、腹腹時計の製作法とか、自宅で出来る赤色テロル特集とかいって。
 で、長年やってくうちに、気がついたら、すっかり「爆破」と「パンク」の専門誌になってましたね(笑)。」

 丸の内の大型書店。
 店頭で、雑誌を手にした若者が、木っ端微塵に吹き飛ぶ映像。
 オーバーラップするパトカーのサイレン音。

 「パンクは、ひとつのアチチュードですから。」
 棚田は、傍らの、色の浅黒い若者と肩を組んでみせた。背後に、Xメイニ師のポスター。
 並ぶ機関銃は、本物のようだ。
 「ビバ、権力。イエーーー。」

ソング 「レッツ・ゴー、血まみれ」 (作詞カーセックス・作曲カーオナニー)

 ♪ (デンデレ、デケデケ、デンデケデン) レッツ・ゴー!! 
    (デンデレ、デケデケ、デンデケデン) レッツ・ゴー!! 


    ※画面下、「この曲は、インストゥルメンタルです。」の文字が流れる。

一転、穏やかな農村風景が映し出される。
 彼方から、雲霞の如く飛来する、黒いヘリコプターの群れ。

 テロップ。「ベトナム戦争、末期。」

 稲穂の揺れる水田を、ビール瓶を片手に振り回す毛利が、奇声を上げて駆けていく。
 その前方を、逃げる民族衣装の少女。
 
 毛利 「ホーーーイ、ホーーーイ、ドンジャラ、ホーーーイ!!」
 少女 「ドンジャラって、なんジャラーーー?!」

 感傷的な音楽、高まる。よせばいいのに、素人が演奏してしまったベートーベン。
 そこへ挿入されるのが、本人の肖像画が涙を流す怪奇映像。一台の手持ちカメラのみで全て撮影され、ハイビジョンマスター処理されている。
 しかし、結果として、粒子が粗くなっただけのようだ。

 毛利と第三国の少女が、路肩に積み上げられた藁の山に倒れ込むと同時に、
 カメラ、赤い幕の張られたステージ上にいる中年女性に切り替わる。

 次々と、手品を見せていく女。

 ちら見せ チチ(36)。 職業訓練校に通うかたわら、スナックを経営。先日、ボヤを出し営業停止処分に。
 逆さ血ミドローズ、初代ドラマー。通称、ウメちゃん。

 「ひどい話よ。あたいの綽名なんか、由来が梅川。梅川よ!三菱銀行事件の。
 チロルハットを一回被っただけでそれかよ!って、オールナイトニッポンに投書して、憧れのハガキ職人デビュー。これで、十代にして、早や一流芸能人よ、芸能人。
 スター街道驀進中なるも、徳川中出し禁止令。すったもんだの挙句に、熟考の末、立派なパン助になれましたーーー!!
 人生バラ色、おめでとーーーございまーーーす!!」」

 十円玉に、煙草を通す手品。拍手なし。
 パチパチパチ、と小声で呟きながら、話を続ける。

 「血ミドローズにドラマーは常時、三人居てね、誰が叩いてるのかわからないの。
 だから、大抵、問題なし。お咎めなし。でも、なにもやらないってのも、あたいのポリシーに反するわけ。
 ビッグになりたいかって?ならいでか!!
 
そこで思いついたのが、お猿の電車よ。お猿の立場は、運転しているのか、それとも乗客なのか、実態はまだ解明されていないじゃない?
 血ミドローズを抜けて・・・あたいは、ひとり香港へ飛んだわ。」

 筒状のハンカチに、水を注いでもこぼれません。

 「香港での暮らしは最悪だった。鬼のおやつはおあずけなのよ。サンクス。サンクス。モニカ。説明は以上。
 お返しのカナッペなんか、期待しないで頂戴。
 別れはいつも背中をついて来るもの。宿命。暗い世相の浮世占い。
 彼とは、お互い深く理解しあったし、夜通し線香の匂いも嗅いでられた。知り合ってから、仏壇にお供え物の上がらない日はなかった。でも、万事に潮時ってあるものなのよ。
 あたしは、奥多摩地方の自然を愛していたし、彼は根っからの秩父っ子。
 だから、ふたつの未来は、しっかり結び合わされていた筈だった。
 未来予想図、常に晴れ。降水確率ゼロパー。ゼロパー。
 でも、ダムなのよ、結局。問題はダム。
 すべてはダム問題に集約されると思う、恋愛は。(※財政破綻の比喩的表現と思われる。)
 不要なダムばかり建てまくる行政誘導型の地方財政。
 でも、これはお上も、桜田門もご存知の事実。げへへ。だからって、その程度で、慌てるようなウメちゃん様じゃなくてよ。よろしくてよ。いらっしゃい、新婚さん。
 でも、人面犬?
 まじで?!
 ちょっと、人面犬がどうしたっていうの??」

 画面いっぱい、藁の山。
 突如顔を突き出した毛利、カメラに向かい、大声で叫ぶ。

 毛利 「オレっち、とっても、ビッグだぜーーー!!」
 
少女 「イヤーーーーーーーン

 彼方に、ヒンドゥシュターナ山脈が見える。雲を裾野にたなびかせ、雄大な眺望である。
 「DOSパラ」の看板も見える。秋葉原が近いようだ。

ソング 「はりつけ教祖」 (作詞千秋楽・作曲青いモンゴル狂徒)

  ♪ はりつけ~ら~れて~~~
         また、はりつけ~ら~れて~~~
   (ド、ドゥン!!)
     
        オレは、はりつけ教祖!!

    痛い~、痛い~、痛い~~~
    痛い~、痛い~、痛い~~~


       誰か、クギを抜いてくれ!!!

    痛い~、痛い~、痛い~~~
    痛い~、痛い~、痛い~~~


               オレは、はりつけ教祖!!
                 元祖、はりつけ教祖!!
   
 
画面、再び日比谷公園で警官隊と揉み合う、若者達が映る。
 彼等は、メガホンを片手に口々に何か叫んでいるが、声が割れてしまっているので意味は聞き取れない。
 と、白メットの男がひとり、携帯のライター用オイル缶を取り出し、これ見よがしに宙に差し上げた。
 一層激しい怒号が飛び交うなか、彼はじゃぶじゃぶとその中味をおのれ自身、かぶり始める。
 その動作が合図だったかのように、周りの皮ジャン連中も懐中から取り出したオイルを自分にふりかけ、周りにもばら撒いていく。
 ビルの壁面を走るサーチライト。機動隊の輸送車両が到着する。新聞社のヘリの旋回音がバタバタと聞こえ、野次馬の顔ひとつひとつが、ぶれたカメラアングルを斜めに横切る。
 どこかで、火がついた。
 ボワン、と空気の爆ぜる音。
 キャーーーッ、と叫ぶ女の悲鳴。
 一瞬、フラッシュが焚かれたように画面が明るくなり、フルフェイスヘルメットに皮のつなぎの人影が踊り出す。
 揺らめく炎に包まれ、彼の身体は、右に左に大きくステップを踏む。
 思わず、後ずさる警官隊。
 驚くほど高く上がった火の手は、要所に飛び、数秒を待たずして画面は火の海と化していた。
 倒れ込む、黒い人間の姿。
 逃げ惑う群衆にパニックが拡がり、喧騒はますます激しい。

 彼等が何の目的で争っていたのか、そもそも彼等はいったい何者なのか、最後まで観とおしたが、さっぱり解らなかった。
 以下のテロップと共に、映画は終わる。

 「世界各地の戦没者の霊魂に捧ぐ。」

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2009年11月21日 (土)

《架空映画レビュー》 『モスキート・マン』 (’09、日)

 内藤は、孤独な現代青年。どのくらい孤独かというと、趣味は殺した蛇の生き血を啜ることだというくらいだ。
 彼の棲む粗末なあばら家は、無数の蛇が産卵に向かう、通称「へび沼」への通り道にあたっているので、散らかり放題の部屋のいたるところを蛇がにょろにょろ這っている。

 この設定だけで観客の大半は腰が引けてしまうだろうが、映画の制作者はお構いなしに続ける。

 内藤は毎日ガス屋に勤めており、仕事はボンベの配達。山間の辺鄙な田舎町では、都市ガスなど普及しておらず、各家庭はいまだにプロパンガスを使っている。
 彼の仕事は、トラックに幾本ものボンベを載せ町中を廻り、石段や狭い山道など、百キロを越す重量物を手でかついで運び上げることだ。
 繰り返す過酷な労働によって、内藤の背中は深く湾曲し、ボンベの形状に沿って大きく窪んでしまっている。(明らかに色々とマズい描写であり、一部ボカシが入る。)
 店主は好色なおやじで、辛い配達から帰った内藤をねぎらうでもなく、先刻電話で入った注文を怒鳴りながら伝えると、のれんの奥に消える。やがて聞こえる、嬌声とあえぎ声。おやじは仕事もしないで、昼間から年下の内縁の妻とセックスばかりしているのだ。
 顔をしかめる内藤。
 同僚の猿(役者ではなく、本物の猿が演じている)は、歯を剥き出し唸る。
 キィーーーーーーッ。
 「そりゃそうだけどな」平然と答える内藤。

 この場面が、内藤の狂った精神状態を表現しているのか、それとも実際に猿がなんらかの意味ある言葉を話している設定なのかは不明である。
 (せめて字幕をつけて欲しかった。)

 そんな内藤が、ある日突然、恋をする。相手は町外れの巨大な屋敷に、(実はタニシの化身の)婆やとふたりきりで暮らす、大金持ちの令嬢だ。
 この令嬢は、少し足りないが愛すべき人物として描かれており、手にした小刀で挨拶代わりに切りつけてくる。だが、彼女は盲人でもあるので、気のいい郵便配達も、森番も、(実はタニシの化身の)婆やも、現在のところ無事生きながらえている。
 
 「彼女が、ほんとうに目を見開いたとき」ストーリーの預言者役として登場する寺の住職が、広い台所の片隅でお手伝いの手を握りながら囁く。
 「それが、われわれ全員の最後なのかもしれん。」
 「おしょうさま・・・。」
 「喝ァーーーーーッッ!!ほれ、すりこぎ!!」
 「アァ!」

 令嬢は不治の病に冒されており、余命幾ばくもないという設定である。
 主治医はモノクルに黒い山羊髯を蓄えた、あからさまに胡散臭いフェルナンド・レイ風の色男で、実は、強欲で腹黒い町長の腹心の部下だ。
 映画の中盤、突拍子もないタイミングで、猫がつづけざまに頓死するカットが連続するが(劇場版パンフレットに載っていたスタッフの談話「撮影用に準備した猫を全部殺してしまったもんで、ボクが何軒もペットショップを廻る羽目になりました(笑)。」)、それと前後するように、山羊髯の医者が狂ったように高笑いするカットが繰り返し挿入されているので、あるいは彼が毒を盛った張本人なのではないかと誰もが思うが、こうした映画にありがちなパターンとして、台詞によってその事実が追認されることはない。そう思って観れば、あるいはそう見えなくもないという程度だ。
 しかしその推測に従えば、令嬢を毒殺しようと毎日の食事に砒素を混ぜている人物こそ確実に医者なのでは、ということになるのだが、本作の脚本家は、余程奥ゆかしい性格の持ち主なのだろう、その点についてもこれまた巧妙に言及を避けている。
 第一、本来の黒幕たる町長は、悪党の常として、令嬢が資産として所有する広い山林ばかりか、彼女の肉体もあわせて頂戴せんと企んでいるのだから、医者の行動は明らかに主人の命令に背いていることになる訳であって、作劇の技術としてこうした複雑な性格の人物には慎重なキャラクター造形が欠かせないのだが、本作の脚本家は明らかに才能が不足しているので、医者を浅薄で表面的な暴力に固執する、狂った男としてしか描いていない。(だが、これはこれで成功だ。)
 彼の被虐性を表しているのだろう、場面上の必然とは一切関係なく、登場時には必ず黒い鞭を携帯していて、何気ない日常会話の端々に床を叩いて周囲を威圧する。背景に写っている女優に偶然鞭が当たって、彼女が顔を歪めるのが、編集でカットされずに残っている。

 さて、内藤が重いボンベを背負ってお屋敷を訪れると、おおきな鉄柵の門のところで、駆けて来た子供が突然パタリと倒れて、死ぬ。
 驚く内藤の顔のアップにかぶさって聴こえる、ショパンのポロネーズ。屋敷の令嬢が弾いているのだ。
 (キャスティングディレクター談「目の見えない人に、本当にピアノを覚えてもらうのが大変でした。」)
 心地よい音色に恍惚の表情を浮かべる内藤。だが、油断が命取りになり、バランスが崩れて滑り落ちたボンベは彼の足の甲を直撃。「あぎゃーーーっ!」70年代の香港映画のように飛び跳ねまくり、べたに苦痛を表現する内藤。気づいて窓から顔を出す令嬢。
 この出会いがきっかけとなり、ふたりは結ばれる。(直裁的な表現を好むこの映画の監督は、出会いのカットの次に、内藤に背後から激しく責められる令嬢の苦悶の表情を繋いでしまっている。)
 
 深夜、密かに令嬢を連れ出し、水辺のデートを楽しむ内藤。
 「この沼は、ね」
 流木に腰を降ろしての愉しい語らいの時間だ。「へび沼と呼ばれているんだ。」
 「へび沼?」
 「全国の蛇がこの時期、産卵に訪れる秘密の場所さ」
 「まぁ」恥じらいを浮かべる令嬢。「素敵ね。あたしも産卵・・・させて」
 秋吉久美子ばりの意味不明の台詞に、思わず両目がクエスチョンマークになる内藤だったが、次の言葉を考えるより先に、画面を産卵に訪れた全国の蛇の大群が埋め尽くす!

  ゴオォォォーーーーーーーッ!!
 
 「あぁぁーーーーッ!」
 「内藤さん!」
 暗転、余韻なくカット切り替わると、坊主(寺の住職)が詠む経文が聞こえ、不安定な角度で差された線香数本越しに、数珠を握り、黒い和服姿ですすり泣く令嬢が映る。
 同席している、でっぷり肥えた町長と山羊髯の医者が、お互い顔を見合わせほくそ笑むシーンはまるで未亡人物のAVのようだ。彼等はどちらも相手が気をきかして内藤を始末してくれたものと思っているが、真相は違った。
 猿だ。末席に座り、不貞腐れた表情で煙草をふかしている(VFXを使った合成)内藤の同僚の、あの猿。彼もまた、令嬢の財産をつけ狙う者だったのだ。

 「でも、わたしね・・・。」
 人々の去った墓前にたたずみ、(実はタニシの化身の)婆やに話しかける令嬢。
 「いつの日か、内藤さんはよみがえって、必ずわたしを迎えに来る。そんな気がして、ならないの」

 その頃、墓地の上空には、蛇の生き血の魔力でガガンボと同化し再びこの世に蘇った、内藤の呪われた姿があった!

 「ギィィヤァァァァーーーーーッ!!」

 全速力で降下し令嬢を攫わんとする内藤。その姿は身の丈数メートルに及ぶグロテスクな昆虫だ。背負った透明な空気袋が自在に伸縮し、一気に地上まで舞い降りてくることが出来る。 (このデザインにはスタン・ウィンストンの影響が感じられる。)
 令嬢をかばって息絶える(タニシの化身の)婆や。異変に気づいて駆け戻った町長、医者も倒され、もはやこれまでと思われた瞬間。
 猿が、ガスボンベを転がしながら現れた!
 「これを使え!彼女を頼む!」
 (喋りの部分は、明らかに別の俳優の吹き替えである。それを証拠に口と台詞の動きが合っていない。)
 高速回転するボンベに巻き込まれ、あえない最期を遂げる猿。(一瞬なのでハッキリしないが、轢かれた死体がまだ動いている様子からして、撮影時、本当に猿を一匹始末してしまったようだ。ボディダブルの可能性もあり。)
 嫌というほど見慣れたガスボンベの姿に怯む内藤。寺の住職はもてる最大の力を振り絞り、ボンベの口に火を点けると、慌てて空中へ退避しようとする内藤へ向けて、投げつけた!

 ぼっかぁぁぁーーーーーーーんんんん!!!

 大爆発で見事、四散する内藤の身体。
 スタッフはここで日頃の恨みを晴らせとばかりに、令嬢役の女優に向かって、用意してきた豚の臓物を手当たり次第に投げつける!
 (ガガンボに赤い血や内臓があるようには思われないのだが。)
 血やら腱やらでどろどろになった令嬢が、いくら泣き叫んでも執拗な攻撃は一向に衰えをみせない。虐げられ続けた日頃の恨みは恐ろしい限りだ。
 うろたえ切った住職が制止しようとする一瞬を振り切り、遂にぶちきれた令嬢が目を見開き。
 そのとたん、画面は暗転。真っ暗になってしまった。
 
 (俳優もスタッフも、全員死亡したようだ。それは、この映画にエンドクレジットが一切ないことで確認できる。)

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