かたよった本棚

2017年10月 1日 (日)

『三惑星の探求 (人類補完機構全短篇3)』(’17、ハヤカワ文庫SF2138)

 やっぱこの表紙でしょ。
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 「なんだコレ?!」と思った方、中一の冬に「SFマガジン」1980年1月号でこの絵を見た私もまったく同じ心境でございましたよ。空気タンクを背負った馬、宝石の崖、ジャンプして飛びかかる虎に扮した谷津嘉章なんか知らんがこの本凄いんじゃないのか。内容がまったく想像できない。得体の知れない期待にワクワク。
 そして、あれから37年後(長い)、日本語で現物を読んだ正直な感想は、「この話、あの絵まんまだったんだ!」という、半ば呆れて途方に暮れる不可解な感覚でございました。

 コードウェイナー・スミス!博士号を持つCIAの手先!
 
米SF業界最強の隠れレジェンドにして、病弱なる男。人生の半分以上は病院送り。存在自体が徹底してカルトであり、書いた作品は全部残らずオタ妄想の先駆け。
 だって、実際スミスを読んでみますとね、「世界観」だの「架空未来史」だの「(動物から創り上げた)妄想美少女」だの、現代日本のアニオタとしか思えない、物凄い要素が満載なのでございます。私はスミスの作品に蔓延する美的センスを、完全にアウトサイダーアートに近いものとして捉えている。絶対ヘンだよ、この人。
 ただ、日本のオタが単純に引きこもりながら妄想紡いでいるのに比べますと、同じ妄想でもやっぱし国際的。得体の知れないスケール感がある。時間の単位だって最低1万年刻みで、これまた無駄に規模がでかい。宇宙も最低3つぐらいありますよ。太っ腹。
 あと作品全体に漂う異様な病院臭さね。
 メジャーデビュー作「スキャナーに生きがいはない」からして、超人体強化手術で改造人間にされた男のマン・プラスな苦闘を描いた衝撃作だったわけですが、ほかにも人体を混ぜてグジャグジャのスープにしてしまう、諸星大二郎チックな流刑惑星シェイヨル。主人公が目覚めると必ず真っ白い病室にいる名作『ノーストリリア』など、枚挙に暇もございません。
 そんな中で、本書「嵐の惑星」における最大のショックシーンは、寝たきりのじいさん(9万歳)を動物美少女が手コキでイカせる場面。じいさんはなにせ9万年も寝てるすごい人ですからして、血行がかなり悪くなる。内分泌系だって衰えてくる。そこで手コキ投入ですよ!発想が現代すぎ。一万年分溜まった精子をあっさりメカで吸い上げたりしないんですよ!そこらへんにスミスの衰えない人気の秘訣をみるね。

【あらすじ】
 人類が宇宙に進出して数万年以上経過した未来。人類補完機構なる胡散臭い巨大組織が無数の世界を統轄しているが、その実体はよくわからない。・・・って、これはもう、スミスの残した全作品読んでみてもわからないのだからして、作者自身もわかっていなかった可能性がある。でも巨大すぎる権力機構ってのは往々にしてそういう性質のもんじゃないのか、まぁいいじゃないか、俺はSFを読みたいんだ、楽しみたいだけだ、という意見もあるだろう。われわれの頭は頑迷に地球的すぎて、無限に広がる大宇宙を前にすると、認識の限界に対してすぐに不可知論者に成り果ててしまう。
 だが、それが別に悪いワケでもなし。
 おそらくスミスも同じ様に思った筈で、つまりは突飛な空想、拡げたままの風呂敷は拡げっぱなしでかまわない。オチなんかなくたっていい。空想のワンダーランドへGO!
 宝石の惑星は宝石だらけ!砂の惑星は砂だらけ!ということは当然、嵐の惑星はガンガン嵐が吹きまくり!
 事象と説明はシンプルな方がいい。しょっちゅう原因不明の猛烈な嵐が吹きまくり、人も車も飛ばされて、犬やらサルやらクジラまでもが宙を舞う(マンガみたいな)素敵な惑星にやって来た主人公キャッシャー・オニール、彼はある種の政治的亡命者。軍事独裁政権に乗っ取られた故郷の惑星を解放するため、宇宙戦艦を数隻借りにやってきました。
 本件、行政を司るエラい人に相談したら、少女をひとり殺してくれたら、お前に全面的に協力しようと言われる。
 「・・・え、マジ?女の子ひとり殺すだけでいいの?」
 色々あって苦労しているキャッシャーくんの倫理観、かなり緩んでいる。
 「そうよ」
 飲んだくれでアル中の司政官(®眉村卓)は手をブルブル震わせながら、目を向ける。
 「ただし、確実に仕留めてくるんだゾ。いままで刺客を百人以上送ったが、だれ一人還って来なんだよ」
 かなりJホラー的な怪奇と謎状況に包まれた少女の棲む屋敷「果無館」に向かうことになったキャッシャーくん、行政庁が出してくれたタクシー運転手は、これまた不気味な、全記憶を完全消去されクルクルパーになった重度犯罪更生者。まったく何した奴なんだコイツ。へこむニャー。
 「あ、気をつけてください。このへん、シャチが空から襲ってきますんで!」
 って感じで、道中明るく楽しく館に辿り着くと、笑顔で出迎えるのが亀を人間にトランスフォームして完成したという動物系美少女。瞬間、車を飛び降り、ナイフを握りしめて飛び出すキャッシャー。仁義なき戦い、抗争の火蓋は切って落とされた!
 と・こ・ろが。
 彼には使命を全うすることはできなかった。
 少女は、“愛”によって武装されていたのである!

 この話は、たぶんグンバツに凄くて、実際面白いので、読者は『三惑星の探求』なんてペリー・ローダン物みたいなタイトルに惑わされることなく、実際手に取ってから呆れてみるといい。このあとも狂ったゴー・キャプテンとの対決だとか、盛り上げる盛り上げる。亀少女なんてのも、なんで美少女をこしらえるのにわざわざ亀なんて動物を選んだか、そりゃ結局、「亀は万年というでしょ?」ってとこに落ち着く箇所なんて、実にエスプリ、とんちが利いてる。
 スミスの良さって、こうした哲学的事象をオブジェの域にまで具現化し昇揚してみせる、強引な力業にあるんだと思う。これっておとぎ話の語り口だよね、既に。すべてが薄っぺらいことに徹する凄み。表面にこだわってますね、相当。
 そうすると、スミス界もう一人の巨匠、E.E.を語ってるみたいにも聞こえちゃいますけど、E.E.にはドロシーちゃんのセクシー水着とボディペインティング、要は着エロはあるけど、手コキ描写がない。縄跳びで股間をこすり上げても、実際液は出してない。その差は極めて大きいって気がします。おしまい。 

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2017年5月25日 (木)

小松左京『果てしなき流れの果に』 (’65、早川書房ハヤカワ文庫JA1)

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『・・・目覚めよ宇宙飛行士D・・・!
 宇宙飛行士D・・・・・・!!』


 
突然スピーカーのボリューム最大値で飛び込んできた緊急通信に、寝棚に転がる男は大義そうに頭をもたげた。
 「んーーーー、なんやねんな、キミ。うるさいなー、たいがいにしなさい」

  空電音。多少の躊躇があって、
 『こちらヒューストン。非番の時に申し訳ないが緊急事態だ、宇宙飛行士D。実はな、太陽系にまた新たな危機が迫っているぞ!』
 「・・・・・・これまで、お前の伝えてきた事態が緊急だったためしなぞ一度もないわ、ドアホが・・・!」
 モゾモゾ寝床に潜り込む音。
 「宇宙も危険も、もう全部卒業。ボクはもう、そんなアホな世界とは金輪際オサラバしたいんや!放っといてちょ!」

 『どうか堪忍してやってつかぁさい!』
 影響を受けやすいヒューストン管制センター、悪乗りしておかしな訛りになり始めた。
 『随分前に始めたこの連載「宇宙飛行士D」シリーズ、ピルクスまでは届かなくともせめてランスロット・ビッグスぐらいは目指そうと、志高く意気軒昂、『2001年』ミーツ・キャプテン・ケネディ、そんな維新の志高い薫風香る名作群をここまで放置し野晒し荒れ放題、苔のむすまで生えるまで、千年紀の長きに渡り留守にしてもうたンは、まったくもって、マルっと、オール・オア・ナッシング、もといオール・スルー・ザ・ナイト、ザッツ・オール、ワテの責任だす。ホンマにすんません。すんません。すんません。関西きっての豪商たるおまはんでありながら、勝手に某ロートル歌手の応援団長買って出て、なにトチを狂ったこの人生。共に歩むと決めたのに、最後まで、終いまで歩み切れなんだのは、ワテが、ワテが、ワテが、全てあけまへんのんやーーーーーーー!!!(号泣)』
 
 「なにを言っているのか、全然わかりません」
 不穏当な発言に敏感な宇宙飛行士Dは、恐ろしい程クールに言い放った。「話が全然、目蒲線・・・・・・!」
 語尾が殺意を孕んでいた。

 鉄道越しにやばい気配を感じ取ったヒューストン、
 『・・・しかし、アレですね、話は飛びますが、最近ツレが電子タバコを購入しましてねー』
 「ふん、ふんふん」
 『アイコスとかじゃなくて、ニコチンレスのリキッドタイプ。あの、簡単に言いますとベープマットみたいな感じのやつですわ』
 「その喩えもどうかと思うが。ま、作動原理はたぶん同じだよね」
 『これがなかなか優れものでしてね。USBで充電しちゃうわ、長押しで爆煙を噴き上げるわ、近所のバァさん平気で犯すわ』
 (非常にウケて)
 「ゲフフ、ババァーは犯さねぇだろーがよ、ババァーは、さ!!!」
 『と思ってすっかり油断してましたら、先日うちのカミさんとベッドに入ってました』
 「ギャッフン。って、今回は落語オマージュか。小朝か」
 『ま、電子は寝タバコ可。とことん便利ってことで。しかし、話がちっとも前に進みませんな。これじゃ真剣に情報を知りたい、真面目な小松左京ファンの殺意をますます買うばかりではないか。Oh、なんたることだ』
 「お前は、そらぞらしいんだよ。小松のこと、嫌いなんだろ?」
 『・・・ええ。『さよならジュピター』以来です』

【あらすじ】
 「昔のことは水に流そうぜ!」が通用しない、極めて不便な世界。
 時間と空間はペラ一枚の平面図のように、アジの開きのように伸ばされ、その構造を理解し利用できる者たちによって勝手に管理されるようになっていた。その具体的方法は40世紀ごろに確立されたらしいのだが、細かい説明は実はない。全然ない。まぁ、ポール。アンダーソンの時の歩廊的なもんだろう、未来の超技術をいちいち説明できるもんか、するもんか、それより思考実験だ、という読者に対する甘えが感じられる。
 (その無駄な説明をあえて蜿蜒とやるのが、SFってもんの本質じゃないのか?)
 ということで、本来なら長大かつ膨大過ぎる内容で、誰も読めない、作者も書けない筈の内容を「ダイジェストでお届けしています!」
 
 「んーーー・・・・・・」
 長い沈黙の後で、Mebius 1mgメンソールの煙を吐き出して宇宙飛行士Dは溜め息をついた。
 「ま、この、別段深い話でもないのよ、って感じだよなー」
 『ストーリー詳細は、よそのブログに細かく記述してる人がいるから参照してください。アタマのつかみで最高潮まで盛り上げて置いて、あとはトントンっていう印象に終始します』
 「超進化を遂げた遠未来の知性による非人間的歴史操作計画ってのがストーリーのバックボーンにある訳でしょ。だったら、もっと人間離れした非情さを見せつけないと。ここで出てくるバイオレンス要素は、21世紀の避難民を原始時代に置き去りにした程度」
 『ともかく、いろんな時間線を追っかけこする必要がまったくないよねー』
 「第二次世界大戦パートいらねー。1963年アメリカとか酷すぎ。特に後半部、どのエピソードも枝葉の膨らませ方が中途半端すぎだろ!」
 『あれは確か堀晃だったかな、角川文庫版「ゴルディアスの結び目」解説で、小松さんはとにかくいっぱい引出しを持ってる。“破滅”って言うと、“あいよー!”っつって投げ返してくる。“セックス”っつっても“あいよー!”って(笑)
 でも、俺の断固たる見解として、引出しの数はともかくとして、恋愛描写、性描写の一本調子さは笑えない。ちょっと真剣に耐えがたいレベルなんですよ。全部、「ジュピター」の無重力セックス場面と同じ(笑)陳腐極まる』
 「浅いね確かに。ここはやっぱシルバーヴァーグで(笑)」
 『ヒューストンよりD。浅すぎだろ!!
    そういや、シルバーヴァーグ「時間線をのぼろう」のSFM版、伊藤典夫訳が出てましたね。「破壊された男」といい、典夫遺産は最近続々と発掘されてますね。
 ・・・ハテ「時間線」って、一体どんな話でしたっけ?』
 「先祖をコマして、おのれの存在を消される話。藤子Fの大人向け短編か、いや『T・Pぼん』だな。『ぼん』の一エピソードです」
 『ヒューストン了解。まとめっぽくなるけど、壮大な時間や空間を廻る話って、規模が大きければ大きいほど具体性が薄れていくんだよ。想像力に乏しい俺なんかは、すぐに付いていけなくなる。バカでもわかる明確な図式の提出と、個々のエピソードにちゃんとしたオチがつかないと。
 そういう意味では、野々村のエピソードの回収のしかたって、かなりFっぽいよ。Fに強力な影響を与えたんだと思うな、きっと』
 「Dよりヒューストン。ヒョンヒョロ~ってか?」
 『それは違うだろーが、それは!!!』
 

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2017年3月18日 (土)

ニーヴン&パーネル『悪魔のハンマー(上)(下)』 ('77、ハヤカワ文庫SF392・393)

 あッ、あッ、あ・く・まのハンマァァァーーーーーー!!!
 世界の終りの物語には、ある種の快楽がある。既成秩序が台無しになるのを横目で眺める面白さ、とにかく人がいっぱい死ぬ爽快感、無駄にスケールでかいスペクタクルと浮き彫りになる人間の矮小さ。
 世にパニック映画ブームが起こり、おもに白人が絶叫を上げながら大量死する映画がスクリーンを席巻していた70年代末、既に生まれついての億万長者(親父は油田王だか何かで、かつ生まれも育ちもビヴァリーヒルズっ子)、別に小説なんか書かなくても生きていかれそうなもんなのにそうもいかない不憫かつひょうきんなヒゲ男ラリー・ニーヴンと、生真面目すぎてまったく面白いことを言えない堅物すぎる、そのマブ友達ジェリー・パーネル氏の二名が寄ってたかって共作をブチかまし世間をブイブイいわして最も脂がのった第三作目。ここに世界でもっとも不謹慎かつ無責任なパニック大作ノベルが登場した!
 文学的な深みなんか、なんだってんだ!小説は面白ければ面白いほどいいんだ!そうに決まってる!
 この低能すぎるマニュフェストに、キングもクーンツもくんずほぐれつ大賛成。これは、だからキング牧師の偉業(奴隷解放)に先立つ無内容な上下巻、超大作ノベルブームの嚆矢となった記念碑的作品なのである。
 そう、無意味で分厚い上下巻ブームはここから始まった。

【あらすじ】
 彗星が地球に激突する!H・G・ウェルズの時代からしつこく警鐘を鳴らされてきた事態が、またも地球に襲い掛かる!ホントもういいよ!カンニンどすぇーーー!
 「発生確率、数億分の一」と巻頭で報道されていたありえない天空よりの危機であったが、たちまち数万分の一、数千分の一と縮んでいき、150ページ越える頃にはもはや既定事実になっていた。話が早くてイイネ!地球滅亡はたちまち大決定。誰もがそこまでされても、まだ科学者の発表をまだ信じて疑わないところがまたイイ。俺なら八つ裂きにしてやりますけどね、そんな無責任な連中。
 で、主人公は、ま、たくさん居すぎて本当どれが主役だかわからないんだが、とりあえず作者の一名をモデルにしたとおぼしき億万長者のアマチュア天文家は、地球滅亡より先に「なんで俺はこんなにモテないんだろう?」と悩んでいた。
 そこへ彗星到来。
 ロサンジェルスは洪水に呑まれて壊滅したが、リムジンで山へ逃げ込んだ先で、秘かに惚れてた向かいの自動車保険代理店の受付の女とカーセックス。
 「たった一晩で数万人が死んだが、やっぱりカーセックスはいいなぁーーー!!!」
 生きてる意味を取り戻した、元億万長者で現在現役の一文無しは、この女と結婚する意志を固め、合衆国上院議員の経営する秘密農場へ。この農場では、タネモミを植えるついでに広く、愚昧な大衆のクズどもに種付けの指導を行ってくださっているのだ。
 上級指導員の議員センセの娘(筋金入りのビッチ)は、近所の農家の長男(鉄壁のホワイトトラッシュ)と初体験後、さまざまな男遍歴(アラブ・ヨーロッパ含む)を重ね、ただいまのところ、やさ男のTVディレクター(妻を惨殺されたバツイチ)と絶賛交際中(交流場所は主に屋外のテント)。しかしそこへ、宇宙から元カレがロシア人連れてカプセルで降りてきて大騒ぎ。
 一方彗星落下による巨大地震、大津波に襲われて死の世界と化した地上では、元軍隊の人喰い集団が徘徊していた。災害後の世界ではとにかく食べるものがないのだ。ツナ缶一個で王様だ!この極悪非道な、親の頭の皮を剥がして乾かし酒のつまみにするような最低すぎる奴らが、ラジオの発狂キリスト教系宣教師と手を組んだ!どうしてそうなるのかサッパリわからないが、これも一種の現代アメリカの病んだ縮図。水野晴郎先生ならキッパリそう断言されるはず。
 そして、このヘンテコ集団同士の全面激突は、地球に最後に残された原子力発電所の再稼働問題をめぐって行われるという・・・・・・。
 このへんに、この本が東日本大震災以降まったく人目に触れなくなった原因があるのだろうと思う。ページは分厚く、中味は薄いが、そこそこ面白いんだけどね・・・・・・。

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2016年8月 3日 (水)

ジャック・ヴァンス『宇宙探偵マグナス・リドルフ』 ('16、国書刊行会)

 「なんで今更ヴァンス?」って疑問に思う方に、どうぞ幸あれ。誰もが七面倒くさい理屈を求められる、心底不快な世の中に対して、この本が提供するのは昔ながらのひとときの娯楽、つかの間の慰みに過ぎない。だが、そこに文句言うのも立派な大人の態度としてどうかと思います。客なら何を言っても許されるのか。そんな訳ねぇだろ。そういうやつは積極的に大嫌いだ。この古典的アナログ感にもっと敬意を払え。具体的にはいくらかの金を、ね。万事本を読むってのはそういうこった。
 宇宙を彷徨う、万能よろずごと解決人マグナス・リドルフは、時折街で飲み屋で見かける、仕事は何やってんだか全然わからないが毎日ブラブラしてる挙動不審な怪しいおやじに酷似。
 時代は適当に未来で、適当に宇宙の片隅で、早い話がこれがアメリカそのものなんですよ。説明飛びすぎて全然意味わかんないと思いますけど。ヴァンスの独特な倫理観、というかアウトロー感覚が結実した、公衆秩序に無関心な大宇宙のお騒がせ男が見事に異常トラブルを解決!あるいは解決しないでそのまま放置!基本姿勢は、だいたいが放置!そして勝手に豪華銀河客船で立ち去るケースが多いという、どれもこれも宇宙冒険活劇に分類するのもどうかと思われるような中途半端な話ばかりで素晴らしい。
 なんかオチでもっと笑わせて欲しい気はしますけど、結末の中途半端さもまたヴァンス。

【あらすじ】
 第一話、ココドの戦士
  宇宙のかなた、巨大アリさんばかりが棲息する謎の惑星では、蟻塚同士を戦わせるボッタクリ極悪ギャンブルが横行。宇宙人権無視の疑いがあると睨んだ汎宇宙人権協会が非合法トラブル解決人マグナス・リドルフに解決を依頼。単身潜入したリドルフが突き止めた影の黒幕、元締2名は、彼自身がかつてなけなしの老後貯金をボッタクられた“おっさん助けて”詐欺の常習犯だった!
 復讐に燃えるおやじの血潮が真っ赤に滾る、そこに機関銃乱射などのセガール的要素を持ち込まない、勝手に設定されたジェントル・ルールがやたら眩しい。パンチラおやじ。
 
 第二話、禁断のマッキンナ
  マッキンナって誰だ?マッキントッシュの男に訊いてもアンガス・マッキーに訊いてもわからない。闇のシンジケートを仕切る正体不明の覆面ボス、「その化けの皮は俺が暴く!」と意気込んで乗り込んでいった諜報部員たちは次々殺された。原因不明の謎の腹イタで。正体不明の病原菌が彼らを死に追いやったのだ。そんな器用なマネができるのって一体誰なの?謎だらけのこの事件、どんだけ正体不明の連続なのか。
 泥の惑星テラコッタ・パンナコッタに降り立ったマグナス・リドルフは単身危険な捜査を始める。って、実態は、昼間っから酒飲みながらあちこちぶらぶらしてるだけですが。容疑者はどうやらこの惑星の有力者たちの中にいるらしい。しかしこの貧乏惑星では、有力者といえるのは、すべて市役所勤務県庁の地方公務員ぐらい。わずかな手掛かりを繋ぎ合わせ、ズバリ犯人を特定。容疑者を全員一室に集めて得意げに推理を披露するマグナスを襲うのは、自暴自棄になった犯人の放つ、世にも危険な毒ゲロの洪水!
 「なにくそ、マッケンローには負っけんろー!」

 全身ゲロまみれになり半死半生のマグナスだったが、しっかり一張羅のクリーニング代だけはせびり取った。
 
 ・・・とこんな、読んでどうするって話が10本も入ってお買い得。ガジェットが古臭い、50年代風味がうんぬん抜かすクソ野郎がいますが、無視して結構。この本の値打ちはそういうとこにはないんだよ。

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2016年1月 3日 (日)

ジェームズ・ブリッシュ『暗黒大陸の怪異』 ('62、創元推理文庫SF)

 ブリッシュ版『失われた世界』?腑抜けた感想を述べる前に、ブリッシュのバイオグラフィとこの小説を突き合わせてみよう。

 ブリッシュは1921年生まれ、コロンビア大学とエドガー・ライス・バローズ大学で生物学を学んだインテリ。18歳からSFやら詩や評論を意欲的に執筆し、製薬会社に就職していた頃には編集まで手掛けた男であるが、軍隊とは当然の如く折り合いが悪かった。徴兵期間に2年ほど陸軍生物学研究所にいたが、上官の便所掃除命令をガン無視したことを問題にされ、ドタバタ騒ぎの挙句晴れて除隊。SF作家として、業界で有名な出版エージェントのヴァージニア・キッドを嫁に迎え手堅くコツコツ頑張って、代表作『宇宙播種計画』、『悪魔の星』、『宇宙都市』シリーズ全四巻などを出すも、ヒューゴー賞貰ってもいまいち売れてる感がなく、やがて生活苦からたばこ会社に勤めだす。妻とは翌1963年離婚。
 本書はこのブリッシュ最大の苦難の時代に執筆されたおっさんによるおっさんの為のファンタジー小説。浅田次郎ですな。「ぼやぼやしてたら、もう40代になっちまったよ~」という中年の切実な嘆きを文章に込め、いまさら感倍増しの時代錯誤な冒険小説。精子の如く噴き出すおやじのリビドーの洪水をどっぷり浴びてみやがれ。

【あらすじ】

 舞台はベルギー領アフリカ、コンゴ。カンザス高校の教師時代に教え子の女子高生を妊娠させて解雇、というこっ恥ずかしい過去を持つアメリカ人キット・ケネディーは、今や60人の現地妻をとっかえひっかえするジャングルの王者として逞しく生きている。詳細は例によっていっさい不明だ。数百人の部族を束ねる大酋長ともマブダチ。あとお供はでかいニシキヘビ。最悪。
 こんな胡散臭い男が密林奥地からある日呼び出され、探検隊のガイドを依頼される。呼び出したのは、某国政府の手先のデブと、胃腸の悪そうな医者。それに謎の美女だった。
 これがどのくらい凄い美女かっていうと・・・・・・

 「(彼女は)話しながら、小形椰子の葉の扇で、肉の締まった剥き出しの足からツェツェ蝿を追い払っている。短く刈り込んだ銅色の髪、ぐっと突き出ているふっくらとした乳房、その乳房がトロピカルシャツの薄い絹地から透けて見えそうだ。キットは立ち止まり、まじまじと見つめた」
 (中村保男訳、以下引用は同)

 顔見てないじゃん(笑)
 おっぱいばっか見てて、主人公いきなり完璧な痴漢目線。こりゃやばい。しかしまじまじと見続けるうちに、彼の思考はますます失礼さの度合いを増していく。

 「キットはもう一度、女を見た。黒人女を十二年間妻に持ってきても、彼の目に狂いは生じていなかった。この女はまったく美しい。もう若い娘とは言えないが、まだ肉がたるんだり、くぼんだりしていない。ただれた年増にはなっていないのである。女をだめにする寸前に完成させるあの欲情の指先に、ふくよかに触れてくるのだ」
 
 確かに妙齢の美女なんだろうが、それにしてもこの訳文、さっぱり意味がわからない。「女をだめにする寸前に完成させるあの欲情の指先」とはいったい何か?
  チンコか?
 
「ふくよかに触れてくる」とは、チンコにビンビンくる、という意味なのか。どうもそれ以外には解せないようなのだが、なんか微妙に違うような気もする。本当のとこ、どうなんだろ?いつもながら直訳過ぎて悩ましい中村先生の翻訳。答え考えてないでしょ先生ってば。
 
 「この太陽のもとで、もしそうなることになることになっているなら、これはすみやかに起こるだろう。女はたちまち一人前の女になるだろう。しかし、キットはそうなるだろうとは思わなかった。この女はとても美しい。だが同時にえらく英国的なのだ。そんな女はここでは長く持ちこたえられない」

 これが身持ちの堅さ、貞操観念に関して記述した文章なのは明らかだ。ちょっと一安心。なんでまたこんな回りくどい書き方をしているのか全然わからないが、主人公の思考内容は、要するにこういうことだろ。
 この女、コマせるか。コマせないのか。
 主人公は登場してくるなり、初対面のヒロインに対し完全にセクハラ視点から欲情しまくっているのである。最初からそればかり考えていると断言してよい。それって何?って、出会って5秒で合体である。即ナメ即ハメである。お下品すぎ。
 しかし、このあからさまな下劣さの正体はなにか?いくらなんでもちょっと酷過ぎやしないか?古典的な冒険小説においては、こういう主人公のやばい系の独白は、まぁ頭の中ではなんぞ考えてるにせよ、あまり表沙汰になってこない。社会モラルによる規制もあろうけど、メリットにせよ、ハガードにせよ、バローズにせよ、本家はもう少しヒロインを大事に、崇高に扱ったものだ。
  (彼女が神秘の泡の中から黄金色に輝く裸体を晒すとき、冒険家の脈拍は必ず早くなり、脳内はぼぉっとした霞に包まれ、訳わからず夢遊病者の如く一歩前に踏み出した・・・。)
 これは、やはり作家としての品格の問題なのだろう。ブリッシュ以上に失礼なお騒がせ男といえばハワードで、これは元々サドだからしょうがない。女と見るや、女王も王女も女盗賊も奴隷女も、必ず裸に剥いて吊るして鞭打っている。が、レイプ描写無し。このへん、いかにも時代である。
 
 私がこの小説を面白いと思うのは、もともと糞真面目でエロ描写とは無縁そうに見えるブリッシュが、この本の中では欲望を素直に開放し、70-80年代のイタリア製のZ級密林アドベンチャー映画のように振る舞っている点にある。『食人族』とかその亜流映画みたい。安くて、おっぱい大きくて、金髪(もしくはそれに類する髪の色)のヒロインはその象徴だ。
 小説後段では、ウラニウム鉱山で素手で働かされてボコボコ死んでいく奴隷一族だとか、巨大太鼓の上で悪い人喰い酋長と一騎打ちとか、生きていた恐竜とか、『アポカリプト』で『マッドマックス3』で『燃える大陸』で、って年代無視のアメリカ映画ばかり羅列しておるが、やたらと派手で間抜けな場面が次々と連続。真面目な読者はいよいよ附いていけなくなるのだが、それらがまた、ことごとく倦んだ中年目線で語られる。爽快さとはおよそ縁遠い。単純明快じゃない、ぐじぐじしたリアリティがあってなんかスッキリしない。「痛快!」の一言が似合わない。なんでこんなの書いたんだ?
 たぶん、これはブリッシュなりにリアルに考えたターザン物語で(だから主人公には現地人のつけた愛称がある)、そのターザンってのはカッコいい青年貴族なんかじゃ全然なくって、生活に疲れたエロい中年アメリカ人、すなわちブリッシュ自身の投影なのであろう。

 だから、その後のヒロインとの恋の行方も、およそロマンティックと程遠い展開となる。闇の中から忍び寄ってきた人影を組み伏せてみると、なんとこれがくだんの美女ポーラ、ってとこから・・・・・・

 「彼は手を放し飛び上がるようにしてポーラの体から離れた。
 「これは失礼」と彼は堅苦しく言った。「すまない。てっきり------」
 ポーラは地面で半回転して半身を起こした。かがり火の燃えかすの光の中で、裂けたシャツから片方の乳房がほのかに現れているのが見える」

 はい、おっぱい見えましたー!
 このシーンが206ページの本編の中で55ページ目。それからエロとは無縁の活劇がいろいろあって、結局ヒロインが主人公を自分のベッドに呼び寄せるのは138ページ目。以降この小説からはエロ目線が消滅し、私の失礼極まる記事も終わる。

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2015年11月24日 (火)

筒井康隆『霊長類 南へ』('69、講談社)、『馬の首風雲録』('67、早川書房)

(軽快な音楽流れる。) 
 ・・・いや、「『探偵ナイトスクープ』秘書が結婚」というニュースタイトルを読みまして、へっ岡部まりが?と咄嗟に連想してしまったくらい、時代から完全に取り残されてちゃってる哀れウンベルですけども。そ、そ、まりは二代目ですね。結婚したのは三代目。って誰だっけそれ。え、本筋以外の無駄口が多い?イェー正解です。ナイトスクープの記事から過去の探偵たちの中に地獄じじいの名前を見つけて思わず検索を試みるくらい、ヒマなんですもの。いいよね、地獄じじい。一家に一匹常備したい。
 ということで、いってみましょう。「神秘の探求」名物・誰が読むんだどくどく読書のコーナー!

(音楽切り替わり『ジョーズ』のテーマ)
 他人に頼まれたわけじゃない。
 暮らしに余裕があるでもない。
 俺が読まねば誰が読む。
 今日も真っ赤な緋毛氈敷いて読書の花道ひた走る。
 売れてる本にゃ目も呉れず、いまさら感のネタてんこ盛り。
 日本の読書は狂ってる。
 ならば楽しく狂おうぜ。
 読書狂人ウンベルケナシの、誰が読むんだどくどく読書?!のコーナー!!!


 ということで。 本日取り上げますのは筒井康隆先生の、第一回星雲賞受賞の傑作長編『霊長類 南へ』でございまーーーす。パフパフパフ。(まばらな拍手)
 南に行きすぎると、南極点に到る。これはそういう含深い重要なテーマで構築された小説なんですが、一体誰がそこを気にするというのか。実はそれがすべてなんですけど。本当。でも疑り深い人のために、まずはあらすじ紹介を。

 時は冷戦最中、“鉄のカーテン”という言葉がまだ生きていた時代。中国ミサイル基地での景気いいI.C.B.M.誤射に端を発し、ホワイトハウスとクレムリンがホットライン越しに仲違い。勢いにまかせてポラリス満載で原潜艦隊出撃、爆弾を飛ばしまくったから、さぁ大変。世界は核の劫火に包まれ、パリ、ロンドン、アムステルダム、テヘラン、アンカラ、北京、ベルリン、シカゴ、ミラノ、ブエノスアイレス、コペンハーゲン、シドニー、ウラジオストック、ナイロビ、仙台など各国主要都市は一瞬で残らず無残な穴ぼこに。
 え、東京は?っていうと、これは偶然助かった。直撃は免れたが、安心するのはまだ早い。当節流行の『渚にて』方式の採用により、北から刻々と迫り来る放射能を含んだ塵灰の脅威。
 生き残った人類は南へ、南へと生存を賭けた大逃走を開始し、見苦しくジタバタしながら先を争うように無駄に死んでいく・・・・・・。

 浅薄で深みを欠くようにわざわざ設定された登場人物たちが徹頭徹尾愚かしい行動をひたすら繰り返す。彼らのバカげた行為は切れのいい文章によって積み重なり、とにかく人間がどんどん死ぬ。もう画期的なくらい、ジャンジャン死ぬ!そりゃそうだ、だって地球滅亡なんだぜ。
 人類滅亡テーマの本質とは、とにかく人がひたすら死にまくることである。
 カッコも糞もあるものか。とにかく死んで死んで死んで死んで死にまくりだ!この認識こそパーフェクト。あまりにくだらない死の連鎖は逆に一種の爽快感すら呼び起こす。
 よく考えてみれば、そうじゃないですか?世界の破滅は細菌兵器の暴走や軍事シミュレーションの結果だったりするけど、そんなカッコいい要素はさておいて、実際に目撃されるのは、まずはなにをさて置いて死体ゴロゴロでしょー?
 世にあまたある破滅テーマSFなんて、個人の死にざまの描写においてまだまだ甘いぜ。どいつもこいつもキレイごとばかり抜かしやがってとんでもねぇ。人がジャンジャン死ぬなんて、不謹慎だが面白い。とっても面白いじゃありませんか。あぁ、そうとも。
 お前ら全員死ね。ひたすら死ね。意味なく死んじまえ!
 だから、地上に残った最後のゴキブリ一匹までが死に絶えるまでを大量殺戮の陶酔と勢いにまかせて活写したこの小説は、深い意味なんかない、思想やらもっともらしい理屈だのがついてこない部分こそが素晴らしいのであって、それ以外はスカスカ、絵に描いた餅のようだ。・・・でも、そこが画期的でよかったんだよね、あのころ。
 ちなみに、“あのころ”ってのは、少女が時を駆け、事のついでにお湯をかけ、月曜にはトレンディドラマではなくしてドラマランドが存在し、トルコが改名する前の、ロマンポルノがまだまだ現役だった時代。人類は金属バットで両親を殴り殺し、ところ構わず逆噴射しまくっていた。核の傘の下でぬるま湯に浸かれる、実にいい時代じゃった。懐かしいわいゴホゴホゴホ。

 (と、ここでアクシデント発生。PCが故障し二か月が経過する。)

 ・・・あ。
 記憶飛んだ。何の話をしてたんだっけ?『霊長類 南へ』か。いまどき、そんな本読むなよ。筒井なんて誰もが中学ぐらいで読んで、あとは完璧忘れる。書棚の隅でほこり被って眠りまくりで、きみがお受験に合格し晴れて上京、引っ越し荷物を纏める際にでもブックオフに持ち込まれ適当に処分されてこの世の外へと消えていくトラッシュ書籍の典型でしょうが?
 煎じ詰めれば、われわれは何を偉そうに消費を繰り返しておるのか?っつー話ですよ。それも、何様のつもりで、ってね。この国の文化はいつでもそうだ。私がなにを怒ってるのか既によくわかりませんけれども。わかる奴はわかる。
  あ、そいでね、明確にパロディーとしてさまざまな戦争戯画のパッチワークを繰り広げる、『馬の首風雲録』が軍隊一個まるごと温泉で全滅!という画期的すぎる名場面を持っているように、『霊長類』において心に残るのは、たとえば南極観測船が人間が詰め込まれすぎて地獄絵図と化しながら出港し、東京湾の突堤にぶつかり浸水、マストの最先端にしがみついた最後の一名が髪の毛を揺らめかして海の藻屑と消えていくシークエンスにあるワケですよ。
 SFってのは、絵だね(←パクリ)。

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2015年8月12日 (水)

マレー・ラインスター『地の果てから来た怪物』(’58、東京創元社文庫SF)

 ラインスターって、名前がいいよね。かっこいい。
 スタージョンもいいけど、シオドアと込みでしょ絶対。しかもあれ、正しく表記すると実はセオドアなんだよ。
 セオドア・スタージョン。
 こりゃダメだ。やる気無くす。マジへこむわ。

 さてさて、そんな、マレーって名字だか名前だか全然わからないとこも素敵なラインスター先生が、大胆にキャンベルJr.「影が行く」にオマージュを捧げたモンスターSFの佳作がこれだ!読んで得する要素はまったく無いが、とにかく読むんだ。話はそれからだ!

【あらすじ】

 南極大陸近くの絶海の孤島ガウには、国連の手により17名もの隊員からなる補給基地が設営され、日々なんだかわからない研究だの通信だの、心底どうでもよさそうな業務をこなしている。
 隊長は、自分の助手を務めるうら若き美人秘書に気があるのだが、部下の手前いまひとつ関係を深められずに悶々としていた。なにしろ島に女性は、お茶汲みのおばちゃん含め、わずか4名しかいない。この状況下で迂闊な性行為に走ったりしたら、集団リンチか謀反のひとつも起きかねない。まさに絶対ギリギリの限界状況だ。

 そんな島にある日、南極から珍しい積荷を載せた輸送機がやって来る。

 このほど新発見された南極唯一の温暖地帯ホット・レイクス地方(湧き出す温泉の効果で氷を寄せ付けないという、実にいい加減な設定)で採取された貴重な植物のサンプルを、本国で待つ間抜け顔の科学者一同にお届けするため仕立てられた特別便である。
 隊長は、またしてもライバルの人数が増え美人秘書の危険度が増すことを危惧しながら、歓迎の準備を進める(この最低の男は、終始一貫しておのれの面子と彼女の貞操しか心配しない。指導的立場として如何なものかと思われる。)

 だが、やってきた飛行機は明らかに様子がおかしく、無線での呼びかけに一切応答しないばかりか、島に接近しては再び高度を揚げ直してフライバイするなど、内部で何か深刻なトラブルが起きている様子。
 こういうヤバイときには、そうだ、女性の声で気持ちを和らげ事態解決だ、と次長のいい加減な思いつきで、秘書課の彼女にエロ声で生放送させる。 

 「そうよ、あなた・・・がんばって。いいわ。いいわ~、その進路よ、コースを維持して、舵面を下げるのよ。もっと深く、もっと深くきて。
 あ~~~ん、やだ、もう、感じちゃう~~~」


 嘘のようだが、このいい加減なセクシーオールナイト大放送が効を奏し、島唯一の飛行場にからくも胴体着陸に成功する輸送機。なんでもやってみるもの。
 しかし、勇んで救助に駆けつけた隊長以下一同が機中で見たものは、コックピットで頭部を撃ち抜いて自殺を遂げてしまったパイロットの姿。それに、いたるところに残る争った痕跡と、床一面に撒き散らされた血の海だった。他にまだ9名いる筈の乗組員の姿は、跡形もなく消え失せてしまっている。いったい、この機に何が起こったのか?
 疑心暗鬼にかられるスタッフたち。
 
 だが、この島を襲う真の恐怖はまだ始まったばかりだった。
 遭難機が現れたその夜から、何者かが闇を徘徊し、飼犬が殺され、島の駐在員がひとり、またひとりと姿を消し・・・・・・。

【解説】

 とにかく、襲ってくる謎の怪物の正体を隠したまんま、引っ張る、引っ張る。まさに簡単にネタを割ってしまっては話が終わってしまう、と言わんがばかりの勢い!(実際その通りなのであるが)
 一瞬、犯人の正体は、実はコックでした~、という脱力落ちが来るのではないかと期待したのだが、さすがそこはラインスター先生、老舗の意地でちゃんとストーリーをSF方面に持っていってくれるので、ご安心を。シチュエーションは酷似しているが、これは孤島連続殺人事件ジャンルではないのだ。犯人は判事でも和尚でもない。伏線も意外ときちんと張ってある。
 でね、この真犯人の正体ってのは、実のところキャプテン・フューチャーに出てくるアレみたいなもん(※雑すぎるヒント)なんですけどさ、まぁ、正体が暴露されてもそんなに腹が立たない(気がする)のは、ひとえにラインスターの地味でしっかりした筆力のお蔭でしょ。
 
 それでも、
 南極基地の連中はいったいどこに目をつけて調査していやがったのか?」
 とか、
 「しかし、機長が自殺するほど怖いのだろうか・・・ソレが?」
 だとか、物語の根幹に関わる疑問は残る。
 残るんですけど、読み終えて損したか得したか判定するマシーンにかけたら、私はマルを出すと思うよ。そういう中途半端でどうでもいい本をこそ積極的に評価し読んでいきたい。
 あなたも、そうでしょ?

※追記、
 この小説は'66年映画化されており、題名は『海軍対夜の怪物The Navy vs.The Night Monsters』というのであるが、誰が観るんだ。

【予告編】
https://www.youtube.com/watch?v=9fX3dcYw440

 

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2015年6月21日 (日)

スタニフワフ・レム『短編ベスト10』 ('15、国書刊行会)、『泰平ヨンの未来学会議』('71、ハヤカワ文庫SF)

 われわれにとって“ヨン様”といえば、無条件に泰平ヨン様のことを指す。

 そんな憧れのヨン様の大活躍を遂に映画館の大スクリーンで堪能できるのか!と、世界の心あるレムファンを驚愕させた『未来学会議』の実写/アニメ化作品が『コングレス』だったわけだが、蓋を開けてみたら実は、泰平氏は最初から登場しないことが決まっていた、という残念なオチが待っていた。
 「バンザイ・・・なしよ!」的な欽ちゃんお手上げ状態に放置される哀れなマニアたち。だがしかし、そりゃそうだよなー、レムはやっぱ小説に限るよなー、かの有名な『ソラリス』だってなんかもう全然違うもんなー、特に東京の高速道路がなー、と無理やり自分を納得させて家路に着く。
 かくて、世界はまたも良くなる見込みを失っていくのだった。残念。

 さてレムは、ある意味無条件に全作品が必読クラスの稀有な作家であるが、その作品傾向は多岐に渡っており、1)公務員並みに堅いもの、2)論文としか思われぬもの、3)本物の論文までを含んでいる。だがその本質は実のところ、4)燃えるもの(萌える、ではない)、5)極端に面白すぎるものにあるのであって、例えば文芸書評を模して書かれた作品にすら、これらの特徴は顕著に見出すことができる。
 要するに、全作品において『金星応答なし』の山登り探索行が永遠に続いているかのような特異な感覚を味わうことが可能だということだ。
 これ以上蛇足のような説明を連ねることは明らかにきみにとっても私にとってもあきらかに時間の無駄なので、ここはひとつ手に入りうる限りのありとあらゆるレムの本をゲットし読み尽くしてから後、あらためて前述のセンテンスを再読してみていただきたい。
 私の表現が単なる誇大妄想狂のたわごとではないことが実感できると思う。

 だから遂に姿を現したレムの短編ベスト10というのは、年季の入ったレム読者にしてみれば、ちょっと胸が苦しくなるせつない内容になっている。すべてが新訳とはいえ、実は結構遥か昔に読んでしまった想い出の作品ばかりだったりするからだ。
 すなわち下記のようなメニューである。

 「三人の電騎士」
 「ムルダス王のお伽噺」
 「自励也エルグが青瓢箪を打ち破りし事」

 なつかしの『ロボット物語』に収録。

 「航星日記・第二十一回の旅 」
 「航星日記・第十三回の旅」

 ご存じ『泰平ヨンの航星日記』に収録。イヨン・ティーヘは泰平ヨン、テオヒプヒプは,《超地歴最適化》計画のことです。(後者はすべて深見弾先生による翻訳)
 常人にはにわかに理解しがたい、頭よすぎる現代っ子翻訳エンジンが炸裂!

 「洗濯機の悲劇」
 「A・ドンダ教授 泰平ヨンの回想記より」

 これまた『泰平ヨンの回想記』に収録。

 「探検旅行第一のA(番外編)、あるいはトルルルの電遊詩人」
 かの有名な『宇宙創世記ロボットの旅』に収録。しかしトルルルっていったい・・・馴染まなすぎ。

 「仮面」
 ・・・これね、『すばらしきレムの世界1~2』にも『レムの宇宙カタログ』にも入っていないの。私はSFマガジンで深見先生訳で初めて読みました。わけわからんがエロい傑作。 

 「テルミヌス」
 『宇宙飛行士ピルクス物語』に収録。間違いなく名作だが、よく考えてみればピルクスシリーズは名作揃いなのである。

 以上だ。いい加減、私が何を言いたいかわかったかね。

 ・初めて読む話がない!
 ・過去の翻訳で定番化しているものを下手にいじりまわすな!(特にヨン物)
  深見先生が死んだと思ってなめんなよ!


 ストレスがどんどん昂じてきたので、試しに『航星日記』のSF文庫版(1980年初版)を読み返してみたら、これがもう面白い面白い。ぐいぐい読めて、引き込まれちゃった。

 諸君、そろそろ反撃の狼煙を上げようではないか。
 泰平ヨンの一人称をすべて“吾輩”で統一すべく、国会に働きかけるべきときが来た。議員募集!このページを読んでいる村会議員、町会議員、市会議員、州知事、県知事、都知事、婦長さん、衆参両院議員、国家元首、大統領職にある者はいますぐホワイトハウズに連絡されたい。提案書、陳述書、議決書その他をドローンとE-Mailにて大量配信し、すべての掲示板を炎上させる!

 (・・・もう本当、なんとかしてくださいよ、頼みますよ・・・)

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2015年1月25日 (日)

サミュエル・レイ・ディレイニー『ドリフトグラス』('14、国書刊行会)

 積んである『ダールグレン』の一巻二巻を見ながら、この記事を書いている。この本、いつ読むんだろと溜め息をつきながら。いまは真夜中で、部屋は暗い。

 『ドリフトグラス』は好事家の間で待望されていた本で、本当に凄い内容だ。サンリオSF文庫で刊行された『時は準宝石の螺旋のように』全編に、ハヤカワの海外SFノベルズ『プリズマティカ』に入っていた諸編をプラス、新訳の短編2本を追加してディレイニーの中短編の集成を目指したもの。
 おまけも良くって、高橋良平の「ディレイニー小史」は、このデタラメすぎる伝説の黒人作家の人生をちょっと覗かせてくれる。(なによりの驚きは作家本人がまだまだ元気で存命中だってことだ。72歳!)
 これ以上なにを望むというのか。われわれは口あんぐり。言葉もない。

 あらためて振り返ってみると、『アプターの宝石』『エンパイア・スター』『ベータ2のバラード』『バベル17』『アインシュタイン交点』『ノヴァ』・・・とディレイニーは出るたびリアルタイムで買っていて、ほとんどを持っている。
 感想いろいろあるけれど、その魅力はつまるところ、
 何が書いてるのかいまひとつよくわからないくせに、ときどき妙に真に迫ってくる、マルチプレックスな多義性にあるのだと思う。

 例えば、この作家の本の中でも比較的わかりやすい部類の長編『バベル17』ですよ。宇宙から迫りくる正体不明のインベーダー。人類版図のいたる惑星で繰り返される破壊工作と、そして、その際傍受される謎の通信言語バベル17。単身宇宙船を駆り暗号の解読に向かう美人言語学者。
 ・・・という、非常に明確なスペースオペラの筋立てを持ったあの本の中で、例えば、男爵が殺される場面がありますね。宇宙要塞で。その直前、初登場した男爵は同盟の兵器開発の大物として、次から次へと開発中の大量破壊兵器のアイディアを喋りまくる。ディックなんかだったら、それぞれ切り分けて短編一本づつこさえて出してきそうな密度ですけど、ディレイニーの眼目はそこにはないんですよ。
 兵器開発者を前にしたリベラルという構図は、おびただしく羅列される大量殺戮兵器のパレードとノンポリ科学者って図式は、否応なく1966年当時のアメリカの現実を、ベトナム戦争そのものを想起させるじゃないですか。しかも暗喩とか隠喩だとか高級な次元の話じゃなくって、ひょっとしてもしやこの話って、ディレイニー本人にそう見えている現実を単にシュールレアリスティックに記述しただけのものじゃないのか。この人にとってリアルってまさにこんな感じなんじゃないか。
 ここまでの話って、ひょっとして・・・実話?そういうおそろしい疑惑だって浮かんでくるわけです。
 
 そう思ってもう一度読み直すと、幽霊乗務員ってなんだ、なんで将軍はヒロインに欲情してんだ、シャドーシップってなに?、ブッチャーって誰?、と疑問がとめどなく溢れて止まらなくなるんですが、ちょっと待って。この本自体に明確な答えがあるわけではない。
 文庫版のあとがきに「結末が弱い」と書かれていた記憶がありますが(現在手元にあるのがSFシリーズ版なので誰の言葉だったか確認できず)、つかみが華麗な割には意外と地味でおだやかな日常的エンディングを迎えてしまいます。
 実は、『バベル』の次に書かれ、今回『ドリフトグラス』に収録されている中編「エンパイア・スター」こそは真に重要で、作者自身を作中に出演させるという反則技を駆使することにより、もっともわかりやすいディレイニー作品すべてへの脚注となっている破格の一冊であります(※短い長編ですがサンリオ文庫では長い訳者あとがきをつけて一冊本で刊行)。
 ひとつのものごとをさまざまな観点から見ることができる意識、マルチプレックス。それをひとりの純朴な青年の成長と重ね合わせた、シンプルだけど奥深いきわめて感動的な物語。ここにすべての答えがある。読め。
 その結論のくだりたるや、あまりに美しく明確で、かつ簡潔に纏め上げられているので、読み終えるとちょっと眩暈がして啞然とするかと思いますが、一様に続く日常など単なるシンプレックスな意識のもたらす錯覚に過ぎず、真の現実とはもっと複雑で多義的であり、起こった事件のひとつひとつも、その結末もいろいろなレベルで捉えることができる。実は極めてあたりまえのことを堂々と述べているに過ぎない、でも敢えてそこを書く作家的勇気こそは、本当の意味で称賛に値するものだと思うのです。なかなかできることじゃない。
 
 ということで、読まない理由が見つからない。現代人の必読書。
 ・・・と、これだけで終われば世間体のいい立派な大人のブログなのですが、以下無駄を承知で全話あらすじ紹介をくっつけておきましょう、って。
 なんでわざわざそういう無駄なことをする。

【あらすじ】

 これはSF史上最も華麗で美しくきらびやかな短編集である。

「スターピット」
  銀河系規模にまで人類が進出した遥かな未来。港湾作業員ダーはすっかり尾羽うちがらした往年のスーパースター、ブラッド・ピットと出会う。銀河系から出られない人類の種としての限界と、過酷なハリウッド・ショービジネスの体力の壁とを重ね合わせて描く感動的なサクセスストーリー。でもやっぱ年齢にはかなわない。ラストの言葉「兄貴・・・腰が痛い」が悲痛すぎだ。

「コロナ」
 今回は有名ロックスターの東京ドーム来日公演に焦点を合わせ、黒人の超能力少女7歳(処女)と地元のツッパリ青年との不釣り合いな心の交流を描く。具体的には、「犬が飼いたいの、あたし」「飼えば・・・?」とか、「イスラム国の最新の動きは?」「知らない」などの時事ネタである。いちいち超能力なんかで喋るような内容ではない。

「然り、そしてゴモラ・・・・・・」
 ゴモラといえば大阪城を襲った怪獣である。そんなやつが大気圏外まで昇ったり、下がったり。とっても迷惑。で最終的にはやっぱりスペシウム光線を受けて大爆発してしまうという。虚しい話。

「ドリフトグラス」
 表題作。ウォムハイム&カーの年間SF傑作選『ホ-クスビル収容所』にも収録されていた。四輪ドリフト走行が得意な海底人間の骨が港に打ちあがる。骨はツルツルにガラス化しているので、海溝での火山爆発が懸念されるが意外と平気であった。海底人はやはり元気な方がいい、という庶民的な発想が盛り込まれた意欲作。

「われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む」
 なんとなくサンリオ色の濃い邦題(具体的にはピエール・クリスタン『着飾った捕食家たち』に収められていそう)だが、実はこれが原題。旧タイトルは「ただ暗黒」と地味すぎ。お話はというと、世界各地に電線を張って歩く異形の集団、白虎社がどっか僻地の山奥で天使を名乗るヒッピーと睦みあうという、SF界初の合コンもの。果たしてカップル成立にこぎつけるのか?そして何組?『ねるとん紅鯨団』を完全に先取りしていた大胆すぎる未来予測に頭がさがる。

「真鍮の檻」
 こりゃもう、あれだよ。放送できないあれしかないよ、実際。よく書くよ。作家ってすげぇよ。もっともアメリカじゃ流したようだが。読んでみろよ、一部始終が書いてあるんだから。最近は目を皿のようにしてネットをうろうろしていれば、驚くような残虐行為のあかしを幾らでも拾うことが可能だが、これが科学の進歩だなんて誰も言わないだろ。

「ホログラム」
 火星の洞窟で発見されたビックリマンシールの裏をこすると、当たりが出た。驚く探検隊一行。これまで第十三次探検隊に至るまでスカばっかりだったのだ。景品は火星文明一年分。ホログラムが再生されて、いたるところでガラスの塔が生え出し、奇妙奇天烈な音楽が鳴り出し、意味不明の飛行物体がビュンビュン飛び交いだすのだが、正直調査活動には邪魔だった。「アパートの前の入居者が誰のCD聴いてたなんて、まったくどうでもいい話じゃん!」隊長は即座の火星撤収を決意するのだった。

「時は準宝石の螺旋のように」
 盗んだヘリコプターで農場を抜け出し宝石店強盗を重ねる男ハロルド・クランシー・エヴァレット。指名手配がかかるたび名前を変え顔を変えるので、しまいに本人も読者さえも誰の話を読んでるんだかさっぱりわからなくなるという超問題作。あんまり問題がありすぎるので、米SF界最高の栄誉であるヒューゴー賞・ネヴュラ賞をダブルで獲ってしまった。世の中ってちょろい。変装マニアのバイブル的一作。

「オメガヘルム」
 「オメガヘルムから連絡があったわ。週休2日、時給は1,570円よ」妻が携帯見ながら報告する。男はいますぐ就職すべきか迷うが、面倒臭いのでとりあえず布団でごろん。仕方がないので代わりに妻が応募しオメガヘルムへの短い旅に出ていった。今月保険料も払わなきゃならないし。(オメガヘルムは京橋乗り換えである。)

「ブロブ」
 本邦初訳。若きマックィーンと戦ったあいつがニューヨークの銀河評議会に乗り込んで大暴れ!町に出ると、浮浪者を投げ飛ばし肛門から口から鼻孔からどろどろ侵入、あまりの気持ちよさにおっさんはたまらず公衆便所で大射精!ディレイニー(ガチホモ)の性的夢想が適度に昇華されずに残った澱モノレベルの糞ショートショート。

「タペストリー」
 一角獣に突かれて処女喪失というのは世界中の女子学生の憧れですが、今日も今日とて性懲りもない小娘が鼻をヒクヒクさせながら森をうろつきまわり、見つけた手ごろな丸太でオナニー。そんな下らない話をわざわざ訳す無駄さ加減が素晴らしい、本邦初訳。

「プリズマティカ」
 せっかく浅草橋駅前のアトランティスまで来たんだし、飲み屋で飲もうぜ!騒ごうぜ!昼飲みだ!船乗りはダイヤモンドもエメラルドも大好き。でも一番好きなのは、最近ではジム・ビーム。ブラックニッカより飲みやすい。剣士と漁師は根っからのビール党、アメ横高架下の路上屋台村から流れてきた筋金入りだぜ!・・・で、この話が最終的に行き着くのがスナック「遠い虹の三つめの端」だってのは、最近急速に飲み屋馴れしてきた俺様も意外過ぎだったぜ。まさに現代のおとぎ話!しかし連作長編『ネヴェリヨンの物語』って、そのうち訳されるのかなァ・・・?

「廃墟」
 浅倉先生の訳。そういや、『ファファード&グレイマウザー』ってのも先生の翻訳でしたね~的な豆知識が飛び出す、泥棒と婆さんの地味な話。僧侶のババアかと思ったら真紅のガウンを纏った豊麗な全裸美女でした、と思ったら、やっぱりその正体はババアで心底ガッカリ。男は荒野へとっとと去っていくのでありました~にゃんにゃん~

「漁師の網にかかった犬」
 普通、漁師の網にかかるのは魚でしょ?犬がかかったらしいのよ。東北沖のギリシャで。ヘロドトスもびっくりですよ。ホメロスも踊り出しますよ、T・小室のレイヴで。で物語の方は、網にかかった犬に気を取られたばかりに兄を殺された弟が仇討ちを誓って岬から飛び込むも海の女神の黒い乳房の間に溺れ、さんざんな目に会わされ夜明けの海辺に命からがら這い上がる。幼馴染の女が寄ってきて、話しかけると、「旧い網はいつか破れる。俺は新しい網を編む新人類になるぜ!」と都会(アテネ)へと去っていくのだった。ギリシャ3大悲劇のひとつ。SFでない。

「夜とジョー・ディスコタンツォの愛することども」
 グランドファーザークロック、すなわち大きなのっぽの古時計、イコール平井堅イズゲイ。国際的目配りに満ちた意欲作。

「エンパイア・スター」
 ・・・読め。ともかく読め。話はそれからだ。いいな?
 

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2015年1月 6日 (火)

今日泊亜蘭『光の塔』 ('62、東都書房)

1:Houston_on_line
「(矢島正明の声で) 無限にひろがる大宇宙・・・・・・」

2:D_the_SpaceMan

「うわーーー!!!
おまえ、それじゃいつもと同じやないかい!せっかく新感覚、偽装ツィッター方式を導入してお届けしようってときに、アタマっからそれかい!」

3:Houston_on_line
「われわれのシリーズも順調にロングランを続け、毎回同じオープニングもいい加減飽きてきたからな!ここはひとつ、現代科学の最新成果を取り入れて、新たな気持ちで記事を作成することにした。諸君、ディスれ~~~!ディスりまくれ~~~!すべての価値をゼロに戻すんだ。そして、リツィート」

4:D_the_SpaceMan
「絶対勘違いしてる。ツィッターってのは企業名だし情報サービスの名前ですから!字数制限のあるミニブログという感じ。ボクも人気ブロガーのはしくれとして常に情報のアンテナを張り巡らし、フォローを入れまくる毎日です」

5:Houston_on_line
「この偽善者め、ユダめボブ・ディランめ磯野磯兵衛め!それにしても俺達、全然普通に会話してて、ちっともツィッターの醍醐味が感じられませんがな~(爆)」

6:D_the_SpaceMan
「語尾に“なう”ってつけるといいらしいっスよ、なう」

7:Houston_on_line
「・・・光の塔、なう。」

8:D_the_SpaceMan
「おおー、いきなり本題、核心じゃないスか!迂遠迂遠を重ねて本題から超音速で遠ざかっていく、あんたの記事にしちゃ珍しい直截さじゃないですか。明治生まれの著者が書いた日本初の本格長編SF!侵略モノにして時間モノという、ジャンルのあわせ技を駆使したトリッキーなプロット!で、どうだったんすか、これ?」

9:Houston_on_line
「面白かったよ。全編、意図的に歪めた過剰なジャポニズムが洪水みたいに溢れてくるんだ。例えば、ネタばらしになるがこれ、最終的な問題解決をハラキリに求めた作品なんだよ」

10:D_the_SpaceMan
「・・・は?今村正の『武士道残酷物語』じゃないよね?」

11:Houston_on_line

「あの映画は63年公開だね。南条範夫の原作『被虐の系譜』も同じころか。1970年にリアル切腹事件を起こす三島の『憂国』発表が61年。相当流行ったのかね、ハラキリ。
『光の塔』では、他にも、特攻、カチ込み、タイマン、やくざのカシオド(脅迫)、夫婦のまぐわいなどなど、日本の美しい習慣が続々登場!さらに国際化時代を反映して、火星人の介護問題まで!ま、重力の差があるから地球に来たら、調子悪くなるのは当たり前なんだけど。秘密裏に連れてこられた火星人が田舎の土蔵に匿われてる・・・って、はっ、これ強制拉致問題、自宅監禁まで先取りしてる!」

12:D_the_SpaceMan
「してないと思うね。
ま、いいや。そもそもどんな話なの?」

13:Houston_on_line
「二十年前の渋谷大爆発のあとに復興した未来の日本。首都東京は飛車(エアカー)や角がぐんぐん飛び交うメトロポリス的な未来都市だ。語学に堪能な現役将校の主人公が宇宙から帰ってくると、“おまえは幼女に手を出して俺の嫁にしたな!”と査問委員会にかけられる。どんなに科学が進んだ未来でも、おかっぱ・もんぺ姿の未成年者との性行為は重大な犯罪なのだ」

14:D_the_SpaceMan
「・・・そんな話なのか?」

15:Houston_on_line
「うん。
で、そんなところへ原子炉の燃料棒盗難、木星宇宙船の紛失と怪事件があいつぐ。失くした担当者は思いっきり過失責任を問われ、査問委員会から口汚く罵られる」

16:D_the_SpaceMan
「なにかというと査問なんだな。でも怪事件が連発して、調査する主人公が徐々に核心へと迫っていく。こりゃウィンダム『海竜めざめる』パターンの王道作品という感じだな!」

17:Houston_on_line
「はい、原因は未来からの侵略でしたーーー!!」

18:D_the_SpaceMan
「・・・って思い切りネタバレしとるやないかい!おのれには節度や配慮っちゅうもんはないんかい!」

19:Houston_on_line
「(完全無視して)遥かな未来からわざわざ手間暇かけて過去に侵攻する。疑似科学風味満点で描かれる時間超越手段はそのものは面白いけど、相当うざい。なんでまたそんな七面倒臭いことをする必要があったのか。そもそも過去を侵略して何の得があるというのか。ディ・キャンプ『闇よ落ちるなかれ』的な歴史改変テーマが、一応物語のバックボーンになってるとはいえ、これ本当の動機は、未来人類の恨み・つらみなんですよ。そんだけなの。そこがリアル。過去の人間がなにも考えず、好き放題、無茶苦茶やったんで、結果的にこんな世界が出来上がってしまった、許せん!という感情的鬱積と反発ね。このへん、まさにいまの年金問題を先取りしてる感じ」

20:D_the_SpaceMan
「・・・マジすか?だいたい、キーワードとして出てくる二十年前の渋谷大爆発って・・・」

21:Houston_on_line
「はい、ご想像の通り、某セカンド・インパクト的なものです」

22:D_the_SpaceMan
「あ~~~、やっぱりぃ~~~(笑)」

23:Houston_on_line

「欧米先端科学のタームと怪しい日本語表記の乱れ撃ち、軍事国家になってる未来ニッポンって設定とか、昨今のニーメ文化の源流として捉えることは非常にたやすいことだとは思う。この作品以前にカッコよさ重視でそういう取り組みをしたものがどれだけあったか知らないが、意識的という意味では『光の塔』が最初で決定的でしょう。軽さが確信犯というスタンス。皮肉も効いてる。でも、ファッショナブルだってそれだけじゃない。
もうひとつの重要なキーは、敗戦に終わったあの戦争なんですよ」

24:D_the_SpaceMan

「うわ。出た。重い~~~」

25:Houston_on_line

「もう、侵略してくる敵側が『マーズ・アタック!』かってぐらいに圧倒的に強すぎでね、埼玉タワーなんか怪光線浴びてドロドロに溶けちゃう。当然ですが端っから科学力に差がありすぎるんで国軍は完全に無能で、反撃らしい反撃も全然できなくって国土はどんどん焼け野原に。大都市は残らず壊滅し国民は無差別爆撃で皆殺し。これってまるっきし太平洋戦争末期、空襲下の日本じゃないすか」

26:D_the_SpaceMan
「あ~~~、やっぱりぃ~~~(嘆息)」

27:Houston_on_line

「最終的にはその一方的な殺戮戦が特攻やらハラキリやらの活躍でようやく終結し、再び復興の日を迎えたところで、主人公が回想し記す。ウェルズの『宇宙戦争』とおんなじコンセプト。その綴られた記録がこの本、この物語って設定なんですが、日本の華々しい復活を経たさらなるその未来には破局に瀕した絶望的な世界が相変わらずあるんだ。結局何も救われていないんですよ。それってやたらリアルで怖くないですか?」

28:D_the_SpaceMan
「円環構造ってことね。歌舞伎の因果ものみたい~」

29:Houston_on_line
「因果ものといえば、今回私の入手したハヤカワSFシリーズ版には、某北海道図書館の貸出票がしおり代わりに挟み込まれておりまして、失礼ながらお名前を検索させていただいたら、某東大の有名教授の経歴・出身地と見事ヒット致しました。この方が若かりし日に間違ってお読みになってしまった模様です」

30:D_the_SpaceMan
「おー、おー、本家ツィッターっぽくなってきたじゃない。そこから導き出される結論は?」

31:Houston_on_line
「いや、こんなしょうもない本読んでても出世する人はちゃんと出世するんだな、って。
『神秘の探究』読者のみなさん、本年もひとつ頑張ってちょんまげ!そして、にゃんまげ!」


32:D_the_SpaceMan

「キミとは、ホンマやっとられんわ!どうも、ありがとうございましたーーー!!」

33:Houston_on_line

「ありがとうございましたーーー!!」

(天井から無数の落石が降ってくる。終幕)

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