書籍・雑誌

2020年1月19日 (日)

エドマンド・クーパー『遥かなる日没』('67、中尾明訳、ハヤカワ・SF・シリーズ3276)

この本は、クリス・ボイス『キャッチワールド』の元ネタである。
 ゆえに『キャッチ』に魂を捕獲されてしまった哀れな読者諸君は、万難を排しても入手し絶対読まねばならない。それがディスティニー。人類のミッション課題だ。(ちなみに中古価格は高くないから今のうちだよ)
 大した本ではないが、意外と重要作。きっとK・H・シェール『オロスの男』並みには記憶に残る心の一冊になるだろう。

Haru
【あらすじ】
 乗組員が35日間離れていると勝手に自爆してしまう(!)難儀な仕様の宇宙船に乗って、アルタイル第五惑星にやってきた9人の調査チームは、想像を上回るヘタレさ加減を発揮しさっさと全滅。
 (そもそも異星探検隊のくせに人数が少なすぎだし、隊長アタマ悪すぎ。全員揃って原住民の掘った落とし穴にハマって(!)死亡。)
 生き残った主人公は、宇宙船内でお見合い婚した愛しの妻と生き別れ、現地の王様に指を切り落とされたり、少女妻を与えられてムフフなことになったり、近所のバカを集めて学校を開設するなど、なんとか現地人社会に溶け込もうと色々と苦労する。
 そう、誠に都合よいことに、地球から何十光年も離れたこの惑星にはどう見ても人類としか思えない種族が多数生活していたのだ。
 それはなぜか?真相は一応、終盤クライマックスを盛り上げる大ネタとして披露されるが、余りに薄い根拠と弱すぎる説得力には頭の悪い小学生だって納得しないだろう。

【解説】
 以下の文章は本書を読み終えた読者を対象としているのでそのつもりで。
 ※
 浅倉久志先生がジャック・ヴァンスの作風を「星際観光冒険SF」と評していたのを記憶しているが、その伝でいくなら、本書は「宇宙土人生活モンドSF」である。
 地味で慎ましく英国風に典雅なクーパーの筆致は、妙に真面目なドキュメンタリータッチなので、読んでいく感覚としては、ヤコペッティ『世界残酷物語』('62)みたいなモンド映画を観ている気分に近い。(実際、土人の娘が神の生贄に捧げられたり、主人公が指を鉈で切り落とされたりする典型的なモンド描写が存在する。)
 そしてインパクトあるのは、おやじ感あふれる素晴らしい性描写だ。 
 “(彼女は)血気盛んなバヤ二族の男を数多く経験していたのに、彼の陽物だけは受け入れるのに骨が折れて、われながら驚いた。そのたびに苦痛だった。でも、またそれは神が与えてくれるありきたりの悦びよりも遥かに深い歓喜を彼女にもたらした。”  
 とても地球を25光年以上離れているとは思えない泥臭さ。このゲスな感じがまさに難波弘之とセンス・オブ・ワンダー!イイネ。 
 物語の後半は『ロストワールド』や『ソロモン王の洞窟』みたいな秘境アドベンチャー行となり、恐竜に頭から喰われる奴が出たり、土人に弓で喉を射抜かれる奴がいたりで、波乱万丈に盛り上げたい作者の心意気だけは妙に感じられるのだが、基本、地味で淡々としているので驚くほど盛り上がらない。
 それよか、死んだと思われていた主人公の妻が、土人の部落に飼われて生き延びていた!(そして感動の再会の途端、槍で突かれて即死亡)とか、その後愛しの現地人妻と再会したら、お腹の子供も含めて王様の家来に惨殺されてしまった!とか、生臭い人間絡みのコテコテな鬱展開の数々の方があなたの心にはきっと残るはずだ。
 全体に、アステカ風の神王が支配する鉄器文明レベルの農耕社会が牧歌的なトーンで描かれており、違った世界で生きることの難儀さが地味に、ひたすら地味~に描かれている。実はこれって、裏『闇の左手』(ル=グィン)である。表『所有せざる人々』だ。おんなじやん。

<追記>
 そういえば、本書がなぜに『キャッチワールド』の元ネタなのか、まだ説明していなかったな。
 ズバリ、FTL船が先に着いていたからだ!この野郎!

| | コメント (0)

2019年11月 4日 (月)

三智伸太郎『呪いの首に白蛇が!』【ひばり書房】【ヒットコミックス119】('86、ひばり書房)

   A1n1omj4njl   

↑この恐怖の場面はすべて本編中に実際に現れるシーンです。表紙に偽りなし!

 世の中には、「速いのがイイ人種」が確実に存在します。
 ジェット旅客機、スポーツカー、新幹線だって負けじとあくなきスピード開発に血眼になっている訳ですし、視点を変えれば、速弾きギタリストだって、超高速爆音演奏のメタルやパンクス諸君だって、あるいは300キロ越えの法定速度違反だって、牛丼早食い王だって、挿入前に漏らす早漏野郎だって、すべて世間一般からすれば「なにもそんなに速くなくていいだろ」レベルを乗り越え未知の次元に突き抜けようとする偉大なアウトローどもであり、言語道断無茶苦茶な人達なのです。
 そして私は、マンガにもたぶんスピード狂がいると思うのです。
 それがたとえば、三智伸太郎先生です。

 怪奇探偵スズキくんへ。
 きみはよく「内容スカスカなんですよ!」「15分あれば読めますよ!」とひばり系書籍をバカにしておるが、15分で180ページ強を読ませる技術って実はすごいことだよ。客がずうずうしくも、支払った対価以上の価値を当然の如く要求してくるコスパ重視のせこい世の中で、強烈なアンチとして機能する。明確な反社会的行為。
 いわば暴力テロに等しい行為だとおやじは思うのだよ。

【あらすじ】
 時代は1946年。広島長崎への原爆投下によって日本は敗戦を迎え、国民に不安と虚脱とが蔓延していたその時代。
 幼少期から病弱で布団を離れられない悲惨な生活をおくってきたブサイク少女・お菊は、かねてから計画してきた無謀なプランを実行に移す。親から貰ったこの身体、弱すぎてダメだ。最強ボディを集めて華麗なる輪廻転生を果たしてやる!
 動機は完全に私利私欲だけである。他人の迷惑など一顧だにされない。
 決意したお菊は、逆恨みの形相恐ろしく、家伝の日本刀を床の間の柱に突き立てるや、慌てる両親の見守る眼前で、自ら白刃の下へ全力ダッシュで飛び込んで一撃首チョンパに成功し自決!
 その際、「あたしの首は北の山の祠に納めてちょうだいネ!」と合間にチャッカリお願いするのも忘れなかった。

【解説】
 以上の場面はわずか合計8ページ。プロットと展開は以上の通り。
 この無理ありまくりなプロローグ、マンガの本編では欧米ホラー並みのインパクトを持つ異様なハイテンションでもって描かれている。

 具体的に細かく分析してみるが、まずファーストカット「床の間に置かれた、明らかに戦国時代の大将級の鎧兜と大振りな太刀」で1ページ。
 「ガシッ」と刀を掴み取り、ご丁寧にゴボゴボ吐血までしてみせる病弱少女・お菊のアクションに、両親がツインで駆け付けるところまでで1ページ。
 「こないで!」
 刀を振りかざし、癒えない病の連続に完全に心が折れたお菊の演技に1ページ。この間のお菊、セリフ吐きながら日本刀をビュンビュン振り回し両親を威嚇中。おやじ切りつけられ、からくも身をかわす。
 そして、大見得を切るお菊。
 「あたしは輪廻転生を信じ、かならず蘇ってくる!」
 「狂ったのか・・・」怯える黒髭に和服姿のおやじ。
 「約束して!私が死んだら、私の首を北の岩場に穴をあけ、その中に保存するのよ!」ここまで1ページ。
 しかし相当考え抜かれた計画であることだけは解るが、なんでわざわざ、そんなことする必要があるのか。必然性がさっぱり分からない。だが、問いかけても無駄だ。アンデルセン神父が放った弾丸の如き進行スピードで、三智先生は読者を常識の彼方へドライブさせていく。
 「もし約束を破ったら、父さんや母さんばかりか、村全体にまで災厄が及ぶわ!」
 え。
 どうやって?たたり的な?できんの。ホントに。おやじの頭は既にクエスチョン。
 「・・・わかった、菊。約束する」
 おいおい、涙目のかあさん、先走りで約束しちゃったよ。おやじ愕然。これで丁度1ページ。
 にやり笑った菊、日本刀を超高速アンダースローで床の間に投げつける。また斬られそうになったおやじ、瞬時に身をかわす。テンポいいアクションの末尾で、既にタタタと全力ダッシュを開始したお菊の姿。見つめる両親の恐怖の表情。これが1ページ。
 1ページぶち抜きで、勝手に斬首され、宙に舞うお菊の生首。噴き上がる真っ赤な血柱。
 次ページ、障子を突き破り庭に落下する、首なしの胴体。白漆喰の壁にビュシャーーーッと降りかかる鮮血。床に転がり(すべて自作自演なのに)無念そうなお菊の生首。
 
 どうです、すごいでしょ。
 まず指摘しておきたいのは、ミッチー(トラボルタ)先生が、あ、勝手に呼称を変えてますが、ともかくミッチー先生が映画的な記憶力をフル活用しながらこの場面を設計していることがわかりますよね。日本家屋の白壁や障子に鮮血がブシューーーッとしぶく演出は、もう誰が始めたんだかわからないくらい、日本映画の王道。残酷時代劇かジャパニーズ化け猫ホラーか中川信夫が先だと思うけど。でもね、自刃して果てる下りを独特のエクストリームなゴアシーンに仕立ててみせるのは、紛れもないミッチー・オリジナルクオリティ。だいたい行為自体がまず意味わかんないし、過剰すぎるし。ちょっとマンガ以外では成立しにくい独自性に満ちた表現であります。
 あと、この無茶を成立させるテンポ良さは特筆していい。 
 筋書きをポンポン叩きつけるようにカットを切り替えていく、その間画面は「ガッ」「ゴホゴホ」「ゲボ」「ガラッ」と騒々しい擬音に満ち溢れ、派手な音響効果の連鎖の果てに、お菊の無念すぎる形相の生首が宙に舞う名場面は、狙いすましたように無音でキメ。さすが演歌歌手ミッチー。サウンド効果も演出が完璧すぎる。
 そして後段への伏線として、刀を構えて見得を切るお菊の右腕に、大きめの紫紺のあざがあるところも完璧。ミッチー先生の構成力って的確なんですよ。実に無駄がない。

 ・・・・・・・
 これは素晴らしい名作を読めるぞ。居住まい正してあらためて本編を読み出してから15分後。

 「内容スカスカなんですよ!」
 「15分あれば読めますよ!」

 怪奇探偵スズキくんへ。
 きみは正しかった。この本には見事に内容が無い。
 この文章で本稿を締めてもよいのだが、蛇足を承知でもう少し続ける。ネタばれするけど、いいよね。

【その後のあらすじ】
 「あたしの蘇る前触れは、白い蛇!」
 豪快に予言し自刃を遂げたお菊の祠に、いつしか歳月は走馬燈のように過ぎ行き、万博、オイルショック、ジーパン殉職など日本の歴史を動かす幾多の星霜をけみしながら、時代は狂騒の80年代タケノコ族の世紀に突入していた。(註、タケノコ族とは南方の蛮族の意)
 こんな時代にたたりもなかんべと、祠に蛇の文様の入った不吉な石をわざわざ持ち込んだトンチキの行動が引き金となり、ミイラ化していたお菊の生首が大復活!石から抜け出た巨大白蛇に巻かれた生首は、竹とんぼを飛ばす原理と同一の手法で空中高く飛び去ってしまう。

Images 
 「・・・マジかよ、まいったな・・・」
 頭を掻くお菊の父親。
 生首は故郷・岡山県(註、岡山県は日本一八つ墓な地として知られる)を抜け出し東進、出会う先々の小学生から身体パーツを勝手に拝借する非道でどろろチックな裏技を披露。具体的にどうやるかといいますと、もう説明になってないんだが、以下の手順。

Images1 
 お菊の生首が口から白蛇を吐き出す→少女がぐるぐる巻きにされる→蛇が外れるとアラ不思議、少女は脱水状態でミイラ化しバタリアンのオバンバになっている→お菊が気合一発クエッと叫ぶと、少女は五体バラバラ→両手足、アタマもギャグ漫画みたく、スポーーーンとすっこ抜けたあと、残った胴体にお菊の生首がパイルダーオーーーン!

 もう意味全然わかんないでしょ。でもスピードとアクションへのこだわりだけは充分感じてもらえるだろうか。
 こういう悪業を繰り返し、京都、名古屋と小学生を次々惨殺しながら、だんだん五体満足、完全体に近づいてきたお菊であったが、最後のパーツ、あざのある右腕を所有する少女には思わぬ苦戦を強いられることに。あろうことか、実の父が近所の山伏を連れて応援に駆つけるという地下アイドルもかくやという大盛り上がり。
 山伏は、うさぎで油断させておいて、首に荒縄も輪っかを捲きつけ、青竹しならせて宙に吊り上げ縛り首にし始末。(これまたスピード溢れる流れるような、見事なアクション描写)
 実の父親は、全身を枯れ葉まみれにし、かつその枯れ葉をブクブク溶かし、バッチイと電話ボックスに逃げ込んだところを、街路樹を引っこ抜いて即席でこさえた(割には先端がよく尖っている)3mはある巨大棒杭を投げつけ、ボックスのガラスを突き破って腹腔部を貫通させ見事に惨殺。『オーメン』と『エクソシスト』を中途半端な記憶力で脳内フルダビング再生し、無理やり繋げた奇想天外アクションの連鎖に、痺れるねぇ。SFは絵だねぇ。大友克洋の『童夢』とかとっくに出てる時代にこれだもの。素晴らしすぎる。

 でもね、きみ。
 大友マンガとひばり。どちらがマンガとしてより魅力的で、ワイルドで、アナーキーで、かつ野性の魅力に富んでいると思う?真の意味でのイマジネーションを体現しているのは一体どちらなんだろうか。(え?大友だって?あ、そう)
 
 右腕担当の少女とお菊の最終対決は、深夜の遊園地だ。
 全速回転するメリーゴーラウンドの上で、回転木馬を飛び越えながらロケットパンチの如く着脱式の手足をバシバシ撃ってくるお菊に対し、童謡かごめかごめを爆音で歌唱しながら、隠し持っていた日本刀でお菊の頭を唐竹割りに斬り下げる最後の見せ場を見逃すな!
 (そして、スピード狂につきものである、爆走後の死にたくなるような虚脱感もお忘れなく)

| | コメント (0)

2019年9月16日 (月)

フリッツ・ライバー『放浪惑星』('64、東京創元社 創元推理文庫SF)

 140913013
  ↑やはり最悪の表紙であることは疑いようがない

 この世は、いわばヒマ人のためにある訳ですよ。みんな、なにかやってるじゃないですか。生きてく為の必須活動以外のこと。
  しかし同じヒマ人でも、金のある奴には選択肢がいっぱいある。ハワイ行って炎上とか、ポルシェに乗って炎上とか。満漢全席全部食い残すとかね。愉快なもんですよ。
  一方で、金もない、時間もない、たいした才能も持ち合わせない大多数の一般大衆には、実はたいして選択肢がない。しかしそこはそれなりに考慮しましょうってことで、まー、そういうことで、みんなやってるよね。携帯ゲーム。
 でも、こないだ区役所へ向かうバスでさ、定年間際の、髪の毛フケだらけで小太りの、丸いおっさん公務員がキラキラアニメなファンタジー系バトル画面を操作してる場面に偶然遭遇しまして、正直オゲッってなったんですけどさ。ま、そういう人はかつて時代小説とか経済新聞読むとか、週刊誌のエログラビアとかいってたよね。昭和のころまでは。でも今年60歳定年を迎える模範的な公務員世代にしてみれば、25歳の時にはもう地球にスーパーマリオが存在している訳よ。あれから34年、そのくらいゲーム客は間口が拡がったんでしょうな。ファンタジー系公務員登場ですよ。うんざりだね。
 前置きが長くなりましたが、そのおやじの乗ったバスの背後の座席で、私が読んでいたのが今回取り上げるこの本である。

【あらすじ】
 
 1964年ビートルズ全米席捲の年。公民権法成立、トンキン湾決議(※合衆国によるベトナム戦争介入拡大政策を支持する議会決議)。激動と混沌の坩堝、シックスティーズのど真ん中。
 ある晩、カリフォルニアのUFO研究グループが熱心に夜空を眺めていると、突如、超空間から出現したムラサキと橙色の縞々に染められた銀河ヤンキー仕様の超カッコイイ惑星が、月を丸ごと一気喰いにする。
 「うわー、マジかよ、月が無くなっちゃったゾ~」っって、全員暢気に大騒ぎしている間に、磁気異常やら電波障害、潮汐力消滅による高潮の危機から地殻変動、巨大地震に火山噴火と、限りなく地球最後の日に近い事態となり果てまして。
 そして遂に、ピンクの豹柄メイクでギンギンにキメた、ニューハーフのドラッグクィーンみたいな雌猫宇宙人が地球の男をさらいにやって来た!

【解説】
 まず言っとく、これは圧倒的に大人向けのサービス本である。お子様は読んではいけない。
 性描写もあるし、残虐シーンも、有名殺人鬼のカメオ出演(!)もある。これだけやってもらって文句言うやつはイヌ以下だよ。おまえ。
  本書の間違った感想としては「盛りすぎ」「多角視点がうざい」「異星人とのファーストコンタクトまで400ページは長すぎ」というのがあるが、これらはクソの意見なので諸君は積極的に無視するように。
 実際本書のレビューをあれこれサーチしていても碌な文章が出て来なかった。お蔭様で中学の時途中で頓挫したこの本を、50越えてから新鮮な気持ちで読み切ることができたのは、ま、良かったんじゃないの。

 ドイツ系アメリカ人SF作家フリッツ・ライバーは1910年12月24日生まれ。本書はすなわちほぼ50歳の時の著作である。

 
 ↑フリッツさんには違いないが、これはフリッツ・ランバー。本物のライバーは晩年の杉浦茂似。

 かの有名なファファード&グレイ・マウザー第一作「森の中の宝石」が1939年発表なのを見てお分かりの通り、ライバーというのはデビュー当時で29歳。スタートから既に立派なおっさんであって、「嫁は全員呪術師!」という衝撃と偏見に満ちた処女長編『妻という名の魔女たち』('43)や、未来世界の単なる宗教的いざこざを極力かっこ良さげに描く話題作『闇よ、つどえ!』('50)、時空を越えたヘビ軍とクモ軍団との泥縄的闘争をわざわざ低予算の演劇仕立てにするという実験的試み『ビッグタイム』('53)などなど、もともと熟し気味気質であった男がさらに熟していって、濃厚果汁フレッシュマンゴー無添加成分を絞り切ってから、皮だけ煮詰めたようなパニック巨編がこの本ということになる。
 そんなライバーの全作品を貫く作風とは、ひと言に要約すると“おっさんによる、おっさんのためのファンタジア"。崇高すぎてリンダ困っちゃう。
 渋すぎる傑作にして最後の長編『闇の聖母』('77)はライバー思想の集大成ともいえる一冊になっておるので、長編でまず読むならここから。私がそうだったもん。断片的に短編とか読んでてもライバーの正体は見えにくいと思うよ。

 さて、2019年に読む『放浪惑星』はメディアミックス的な視点から面白い。
 そもそもライバーの執筆動機やモティーフの根幹が、自分の幼少期に愛読した『スリリングワンダー』とか『アメージング』とかパルプSF雑誌の表紙絵に代表されるような、豪快すぎるヴィジョンの再現であって、しかし、そこをノスタルジーに浸ることなく60年代のドス黒い現実を正面からぶつけて、デストロイ!という魁男塾的ぶっちぎり姿勢が素晴らしい。好きなものは躊躇うことなく全部載せ。ピザにお寿司。トッピングは辛子マヨ。月が真っ二つに割れて、その隙間を墜落寸前のアポロ13号がくぐり抜けて、反対側まで通り抜けちゃう“究極通りゃんせ”の場面なんか、もう最高にハードなパルプ感覚。今ならCGで簡単に映像に出来ちゃいそう。

 そして、些末なお遊びレベルでライバーはヒッチコックをライバル視していた可能性があって、先に述べた『ビッグタイム』が一幕劇として『ロープ』('48)のオマージュになっているいたりするし、本書でも崖から転落するトラックの運転席に乗る男、彼の被った黒い帽子のアクションカットが見事な映画視点になっていたり、これは怪しい。潮の引いた海峡を酔っ払い詩人がふらふら彷徨う場面なんかも、絵としていいんだよ。地下鉄をうろつく黒人ギャング3人を左右から閉鎖通路を爆走する真っ黒い海水の鉄砲水が一気に飲み込む名場面なんかも、いいよね。スペクタクル映画だよね。『十戒』('56)より70ミリだよね。
 あと「地球に急接近した謎の天体が影響を与える」プロットは、多角的視点の乱れ打ち構造を含め二―ヴン&パーネル『悪魔のハンマー』に直接的な影響を与えていると思うし、そういえばあの小説にも地上の惨事を目撃してきた宇宙飛行士が地上に帰還する場面があったな。
 でも、それよりなによりショッキングなのが、完全な未知のものでなく、まるでマンガのコミック描写みたいな宇宙人や超銀河社会の割り切った描き方ですよ。

E58ac1278736416f9f36f58764483f47
↑こういうネコ型宇宙人とキメられる!ネコが好きだ!イヌより好きだ!

 正直この本で宇宙人がファーストコンタクトしてきたとき、残りページ数を確認しましたよ。本の厚さからして、残り半分を切ってるんですよ。うわ、こりゃどうするんだ、濃密な現実感覚でここまで物語を引っ張ってきてるからさ、そのままの流れでやるとこのページ数じゃ足りないよ。だいいち。かったるくなっちゃう。だって完璧な絵空事でしょ。リアルに見せるにはページ数が全然足りなくなるんだよ。
 そこをライバーは完璧なマンガできましたね。印象的な絵をパッパッと切り替えていって、テンポよく見せる。現実とマンガを軽快に絡ませる、これって『ロジャー・ラビット』('88)の手法だよ。(いや、アニメと実写の究極セックス場面があるから、バクシの『クール・ワールド』('92)か)すげぇな。
 ライバーは大人なんですよ。いい歳こいて衝撃の異星人描写うんぬんもないもんだよ、という実に割り切った態度でエンターティメントを書いてる。作家としての誠実な姿勢を感じますよ。

 “キリストの生誕から2,000年も過ぎてるんだぜ。
  いい加減、俺たちも新しいクソったれに目覚めようよ”
 (フランク・ザッパ『シーク・ヤブーティ』’79)

| | コメント (0)

2019年6月27日 (木)

ショーン・ハトソン『闇の祭壇』('88、ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)

人骨!カルト!祭儀!意味不明の極悪な人体破壊描写と未成年者による異常セックスの連打!麻薬と闘犬、夢のコラボ!
―イイネ100連発!
 底の浅い、子供も騙せないミスリード満載の展開もGOOD!構成にとにかく無駄が多すぎる!(特に土建屋の)人体とか人命とかをあまりに軽視し過ぎ!
 ショーンくん(※ジョン・レノン次男)には厳重注意の上、訓戒だ!

Andobooksimg600x45014725600133g5nvg28629

【あらすじ】
 アミューズメントパーク建設現場で発見された地下の古代の遺跡。それは二千年以上前の古代ケルト人が建造した秘密神殿だった。首を切られた子供の遺体が600体!切られた髑髏は、目玉刳り貫かれて床に敷き詰め飾られている。一体どういう信仰だったのか。なんでそんなことする必要あったのか。
 クーパー博士以下暇な考古学者様ご一行は、人類史上空前ともいえる巨大な謎の解明にワクワクしながら取り組むが、好事魔多し、次々に“超自然的”としか言いようがないオカルティックな恐怖に襲われ死んでいく。

 具体例を挙げよう。
 最初の犠牲者は地下の遺跡へ通じる縦穴から墜落した男。失敗したマリオのようにヒューーーッって落っこちて行って、落下地点に生えていた巨大な梁にグッサリ身体を貫かれ内臓ベロンとはみ出しホルモンぶちまけ死亡する。なんでまたこんな危険な重量物が地下数十メートルに設置されていたのか。
 いや、深い意味は無いんだよ。この設備に関する説明ないし。彼を最も惨たらしい死に到らしめる為に二千年前の古代ケルト神官はわざわざそんな面倒なものを坑道に運び込んで設置していたという。殺人のための殺人トラップ。こりゃもう、死因なんて呪いというよか絶対マリオの操作ミス。運が悪いだけだよ。

 一方で、土地開発により安住の地を奪われそうになっているカルトな地主。彼は高校にも行けない不憫な中卒男女をヘロインで操り、深夜の森の中で怪しい祭儀を繰り返しているのだが、これまた別に深い信仰とかたいした考えとかは無いの。ひたすら豚の血かけて未成年を番わせ、そこらの樹に動物の内臓掛けて廻ってるだけ。ご苦労さんとしか言いようがない人物。
 この人のやってる課外活動とメインテーマの邪神復活が当然リンクしてくるだろうと思ったら、まったく関連しないんだよね。出てきただけ。怪しいだけ。本筋と関係しません。斬新すぎる新本格一派みたいな小説手法に鴎外も号泣。

 あと、地元で闘犬トーナメントの闇営業を営むやくざ者とか出てきますけど、自分の妻をボコボコにし犬舎の床で強制結合をキメるとか、地味な活動しかしません。本業はヘロイン販売。権力者や嫌味な金持ちにガンガン売りつけ、闘犬に出す狂った犬を自宅地下で育成中。コイツで全国制覇だぜ。人間の手ぐらい楽勝で噛み千切る、やばいマッドドッグパワーは物語終盤ちょっとだけ役に立ちます。

 そんなグダグダな展開の中、とことん暇な人々を正体不明の殺人鬼が襲う!
 最大の被害者は土建屋とその手先。そもそも、ダンプのサイドブレーキをちゃんと引かずに昼飯喰いに行って、小屋ごと車輪で圧し潰されるなど、非常に事故の多い迂闊な現場でありますが、そこへ心臓をひとつかみで抉り出す怪力を持った熱心な殺人者が現れ、油断する人々をガンガン殺戮していく。地上げ屋とか土地鑑定士とか、金持ってるやつほど露骨に残酷にヤルあたり、ショ-ンくんの異様なルサンチマンを感じる。銀行員とか不動産資格持ってるやつとか全員死んでもいいよな。
 この謎の殺人者、常人とは思えぬ異常な腕力でドアを素手で突き破るなど、主にステゴロと眼球摘出と全身皮剥きに拘った高度な殺人テクを披露していくのですが、ま、正体が人間じゃないのはバレバレとして、最初は土建屋とそのスタッフ連中を重点的に狙って凶行を遂げていくので、「実は正義の士?森の精霊みたいな?」と思われましたが、ワンパターンな殺人行動に飽きると町に住む愉快なレズビアン・カップルをレズ性交の現場にて血祭りにあげたりして、「この人やはり暇なのではないか?」と真剣に考えざる得ない無軌道かつ不謹慎な展開が素敵だ。
 それでも最終的にはハルマゲドン、この世の地獄が到来し、ヒロインはゲロ吐きながらおぞましき変貌を遂げ、ここまで異常殺人を捜査してきた警部は、血涙流しながら年端もいかない子供を殺し捲り、やがて暗黒大魔神が地上に降臨する・・・!

【解説】
 正体不明の殺人者が何者か、という謎を盛り上げるため、ミスリードのための伏線として未成年セックスのカルト地主とか出てくるわけですが、もちろん有効には機能しません。
 例えば、これは事件ではなく、ただの偶然だと思うのですが、青年が棚から落ちてきた硝酸をモロかぶってしまうシーンがあります。そこでも酸で顔や体が溶けるシーンがやたら派手に描写されるのですが、ま、話の筋にはまったく関係がない。残虐のための残虐。好きなもの全部載せ。
 傑作だと思います、マストバイ。

| | コメント (0)