【本編】『悪霊島』<2週間限定公開>(1981年、角川映画)
物語が始まるや奇妙な違和感を覚える。
呪われた島。
不可解なダイイングメッセージを残し死亡するおやじ。
反目する島を牛耳る邪悪な両家と成金の帰宅。
ふたご。双子の母もこれまたふたご。(無茶)
なんか二次創作っぽい。というか巨匠横溝先生自らやってるから、セルフパロディか。
もう少し具体性を加味して述べると、
「復員船で死亡した鬼頭千満太の遺言に従い島へ赴くと」
「大空ゆかりに似た感じの伊丹十三がアメリカから突然凱旋帰国して来て、」
(グラサンに葉巻という記号論的なわかりやすさ!)
「小竹様小梅様役を演じる岸本加代子が逢引の末に犬に片腕ちぎられ惨殺されて、」
(顔面食い破られた岸本史上もっとも残念な姿で登場するが、なんでか血が出てないので的には放送オッケーだ。汚いだけでまったく怖くないので安心して)
「夜神楽の最中に神社に火がついて、犬神家に伝わる神器で神主が心臓一突き、」
(これも大流血の現場だが、陰惨さがまったくない。篠田が悪いのだ。篠田が)
「八墓村の地下の鍾乳洞には三十六人殺しのシャム双生児が祀られていて、」
(遺骨が不自然にでかいのは美術さんが必要以上に頑張りすぎた。いい仕上がりだが、いったい何歳児だあれは)
「最終的に、強烈和服オナニーを見せつけた岩下志麻が「ひぇー」と叫んで地下の闇に消える。」
(この岩下の唐突で見事かつ退場シーンだけは実に最高。時空を越えて黒沢清『叫び』に影響を与えるくらい、鮮烈な映画的サプライズ(「一体何を見せられてるんだ?」という意味)に満ちている。ドリフのコントみたいなんだが)
しかし、これっていったい。
なにがしたいんだ。
見たことある感オンパレード。でも新作。
へんだ。
すげぇ、へんだ。
私の頭はクェスチョンでいっぱいになってしまった。だが。しかし。
謎を解くカギは、例によってWikiに堂々と載っていた。(以下引用)
横溝は、何かで自身のことを「怪奇探偵作家」と書かれているのを読んで、探偵作家の上に「怪奇」と付け加えられているのを奇異に思うとともに、そのように折紙を付けられたならば怪奇探偵小説を書こうと思い立った。
( 横溝正史『真説 金田一耕助』角川書店〈角川文庫〉、1979年1月5日、147-150頁。「怪奇探偵作家」)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA%E9%9C%8A%E5%B3%B6#%E6%98%A0%E7%94%BB
例の市川崑が巻き起こした金田一映画ブームにより、角川は、というかハルキぼっちゃんは、まさに我が世の春を謳歌したのであるが、よう考えたら横溝正史先生もそうだった。一躍スターの仲間入り。『病院坂の首縊りの家』なんか出演もしちゃってるし。
先生が、自分が原作の映画見ない訳ないだろうし、「そうか、こういうのがウケるのか。ならば、その通りやってみるか」とサービス精神を発揮したとしてもおかしくはあるまい。『野性時代』に1979年新年号から1980年まで15回連載。映画化前提の連載だったはずで、劇場版は1981年10月3日に公開。『ドラゴンボール』並みに連載とかぶってる同時進行である。
鹿賀丈史は従来とは「ちょっと違った金田一」を目指したというが(確かにちょっとイケメンだ)、「まったく違う金田一」ではないのだった。坂口良子役が中島ゆたかという不自然感は凄いけど。
この映画で唯一本物の素材を使用していたのは、マッカートニーの主題歌だけで、そこだけが当時鑑賞した人々の記憶に鮮明に残っていたのだが、版権問題で2002年のDVD化以降はあえなく差し替え。現在映画で聴くことができるのは、ジョー山中から毒気を抜いたような気の抜けたカバーのみ。
だが、その点も最終的には二次創作としての完成度により貢献しているように思われる。
ご本家による「強力なパチモン」ってことだ。要は。
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