ジャック ヴァンス『竜を駆る種族』('62、ハヤカワ文庫SF220) 浅倉 久志 (翻訳) – 1976/12/15
武部本一郎が正直微妙だ。
挿絵つきの本を久々に読めて嬉しいのだが、丁寧に細部の描写を拾って和だし風味で味付けしてくれる本一郎マジックが、ここでは皮肉にも逆説的に働き、本書の内容を単に関口幸男訳のエドガー・ライス・バローズの世界に近づけてしまった。
『大いなる惑星』って生頼範義の表紙だけど、挿絵まで入ってたらなんか違うでしょ。
『魔王子』が萩尾望都の表紙なのも完全に勘違い、私的にはどうでもいい興ざめ要素だ。ぬるい。
ヴァンスは本質的にハヤカワ青背の人でしょ。硬派ゴリゴリでアダルティ。
死ぬ人は死ぬし、たといヒロインだろうがヤラれるときはしっかりヤラれる。現実と一緒。ファンタジーじゃないんだよ。剣は剣だし、魔法はあくまで魔法。作動原理にブレがない。拳銃だろうが、物質分解砲だろうが、仕組み云々よりも実際それを持って使う手ごたえ、リアリティ。そこに命賭けてる。
「竜を駆る種族」は長さ的には長めのノヴェレット、実は中編サイズで、同じヒューゴー賞受賞作「最後の城」と対を成す傑作。
短い中にコンパクトにヴァンス宇宙の特徴的要素がよく散りばめられているのだが、根幹は戦国武将ふたりの真向対決。野望と意地の張り合いであって、そこに超兵器と竜が絡む。
「男は合戦!いざ鎌倉」と思う時代錯誤な人には堪えられない、峠攻め、城攻め、平原一騎討ちの連発。欧米だから残念ながら切腹はないけど、負けた方を斬り捨て成敗くらいは余裕である。負けた家臣は即座に恭順。忠誠を誓う。
たぶん舞台劇を手本にして、登場人物を最小限ギリギリまで削ってあるので(表紙裏の登場人物欄には4人しかいない)、ホントはもう少し活躍したらいいのにと思える人とかもいるけど、いや、これはこれでいい。
白黒で黒澤が撮ったらカンヌ!みたいな中味だよ。
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