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2022年1月

2022年1月23日 (日)

ジャック・ウィリアムスン『宇宙軍団』The Legion of Space (1934) 野田昌宏訳 早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ、1968年。のち1977年1月ハヤカワ文庫収録)

やはり現実はフィクションと違って上手くいかないものなのだろう。
 それをわきまえた上で、虚構の実力を測ってみたい。
 ジャック・ウィリアムスン『宇宙軍団』は、異様にうまくいく物語の実例であり、それはご都合主義とも言うのだし、小説という嘘事のパワーを見せつける感動作でもあるのだ。
 
 私は昔からこの本を愛読していたので、他にも似たやつがいるだろうと思って検索してみたら、膝を打つ名批評どころか、まともなレビューすら発見できなかった。
 情報溢れるネット社会なのに?ITリテラシーってのはどうなった?
 お前ら、『宇宙軍団』読まずに何読んでんだよ、カスが。
 『宇宙軍団』なくして『宇宙軍団』なし。
 そんなことじゃメドウサに地球は乗っ取られてしまうよ。
 赤ガスに覆われ、発狂して理性を失くし、人肉食の野獣化人間が横行する世界ってのは、まさにこの現実のことじゃないかな。
 もうちょっと、よく考えてみようよ!

【あらすじ】
(私情私憤により「読め!」と一言書いて終わらせたいが、無視する罰当たりもいるだろうから、親切にちょっと教えてやろう。) 

 この物語は導入部が一番たるい。
 遥か未来の記憶を思い出す老人という、H・G・ウェルズがステープルトンを小規模にパクったみたいな小咄が付いているのだが、無くても成立する。例えば後年の『スターウオーズ』という作品は銀河帝国の歴史を字幕をスッ飛ばすことであっさり処理していた。
 だがな、いいか、お前ら。効率だけがすべてじゃないんだよ!
 無駄の中に宝がある。
 このケレン味、無意味な重厚感がヴィンテージSFの本物の味わいである。そこを理解して慎重に賞味しろ。年表をつくってもいいぞ。シリーズ2作目、3作目、4作目が訳される見込みは絶対ないから無駄だけどな!

 ま、そんな前説を要約してザックリ簡単に述べると、民主と帝政がぶつかって未来の地球は瓦解した。それを再建し自由主義アメリカの精神を蘇らせた偉大なるクズ集団、それが宇宙軍団だ!
 レンズマンより特殊能力が無い分、ハートが無性に熱い男達の集団だ!口数だけ多い女なんか入団できない、倫理観は小学生レベルの、ガチやばい暴力慣れした男の武装団体だ!
 この由緒ある男の殿堂に、とあるボンクラ新人が門を叩くところから物語は始まる。

「・・・新人ジョン、着任命令書により出頭しました!」
「よう、来たの。ま、座れや。われ」
「はッ!それで、どんな任務を頂けるのでありましょうか?」
「お前には火星に飛んで貰う。そこで超兵器AKKAの秘密を握る二十歳の娘を警護するのじゃ」

 警備についた途端に娘は攫われ、外宇宙の彼方バーナード星へ連れ去られてしまう!マジか!
 あせった新人は、宇宙軍団内部の卑劣な裏切り行為により抹殺されかけ、ボコボコに。宇宙軍団は鉄壁の軍規を誇る鋼鉄武闘派集団だが、人に騙されやすいのが玉にキズだ。
 地団駄踏んで悔しがる若僧に「助太刀するぜ!」と落ちこぼれベテラン職員3名が凸待ちコラボし、史上最強の燃える男の異星特攻チームが出来上がる。ここにはロバート・アルドリッチも影響を受けたと見える。

 空間を歪ませる(!)謎のエンジンにより駆動する宇宙船は、フォボスで軍団幹部を強制拉致し、冥王星で燃料を強奪し、犯罪者として全太陽系に指名手配されながら宇宙街道を爆進する。♪パララ、ララ~パララ~。
 途中で出くわしたバーナード星人の宇宙戦艦と激しいバトルとなり、小太陽を投げつけられ真空の藻屑と消えかけるが、暗黒星雲に逃げ込んで文字通りけむに巻き、6つの衛星が分子分解光線のバリアを張る警備強固なバーナード本星に辿り着く。分子結合を破壊する強力無比な警備網を努力と根性で耐え抜いて(「我慢しろ!」「イェッサー!」)、地球の数倍ある巨大惑星に超重力を感じることなく不時着する。

 だが、不幸にも海原の真っ只中に墜落したため、都合により全裸(事実)。徒手徒拳で怪奇植物生い茂る未知のジャングルを横断する破目になる。
 目指すは、この惑星唯一の大陸にある唯一の都市、夢の大都会。暗黒金属で造られた暗黒要塞の地獄塔だ・・・!

【解説】
 以上あながち嘘でもないあらすじを繰り延べてきたが。
 いや、しかし、ご都合主義をそう感じさせない、この物語のドライブ感は本物だ。
 中学の時読んで興奮したが、いまでも興奮するもの。そこは大いに褒め讃えていいと思う。突っ込みどころ満載なくせに、面白く項を捲らせる、時を忘れさせる。読書の効能ですよ。
 絶対無理な問題の立て方をして、腕に任せてその解決を図っていく手法が繰り返されるのだが、根幹は007原作シリーズと同じ。カウンター・アンド・アタック方式なんだよね。
 いきなりスラスラ解けるんじゃなくて、難題が襲ってきて、それを知恵と勇気で撃破していく達成感の地道な積み上げ。受験勉強ですよ。浪人生だね、うん。浪人生のロマンと同質だと思います。

 だから、最後の王道過ぎるサゲがいい感じにハマって、ちょっとウルウルしました。野田節って意外と芸が細かくて、やっぱいいよね。

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