ショーン・ハトスン 『スラッグス』 <ハヤカワ文庫 NV モダンホラー・セレクション>茅律子 訳
不要不急の外出自粛。つまりはショーンハトソン祭り。ショーンハトソン帝国。
とはいえ、これは本当にくだらない、唾棄すべき本だ。読書習慣を何か有難い物のように錯覚する者たちへ、本屋大賞選考委員の諸君へ渾身の力を込めて叩きつけてやりたくなる一冊だ。たかだか活字をたどる程度の行為がどのくらい有意義な価値を持つというのか。そんな金あったら肉を食え。まんこ買え。まったくお前さん、物事を知らなすぎるゼ!
例えばだ。なめくじに歯があるってのは知ってました?
知ってる。
あ。そう。そうだろう。カタツムリの歯は二万本あるそうだが、なめくじは一万本だってね。
そうそう、こういう歯。
いや、違うでしょーーーが!
本書は無駄にご丁寧に映画化されており、原作にある奇妙な矛盾点(後述する)をスクリプト・ドクター的な観点から補完を試み、さらなる恥の上塗りを試みるという、宇宙船の上から宇宙船を打ち上げるような斬新なニューアイディアに満ちたプロレタリアート芸術を繰り広げてくれる。
もはや嫌で嫌で仕方がないのだが、本書の恥ずべきストーリーを以下概要にて紹介するから、そう思え。
【あらすじ】
舞台はイギリス。国家の首相自ら、EUから離脱したり感染したり治ったり、常にNEW WAVEな姿勢を失わないあの国だ。
まずマッカートニーの’80年大ヒット「夢の旅人」を歌っては失禁する、どうしようもない飲んだくれが、自宅地下に異常繁殖した殺人ナメクジの犠牲になって死亡する。
え?ナメクジに人が殺せるのかって?
そういうことを言ってたら、立派な大人になれないよ。
ここに出てくるナメクジはわれわれの知ってる概念を覆す、新種の生物だ。異常に知能が発達しており、群れをつくって行動し、リーダーと思しき大型の黒ナメクジに率いられて民家を襲撃し、人間を血肉の塊りに変えていく。その目的は不明だが、おそらく人類の絶滅とかそういう不毛な方面なのだろう。そう思わないとやってらんないよ。
余談だが、先日仕事で地下鉄経由で東新宿に行きまして、帰路はそこからJR新宿駅を目指して歩いてみました。「夜の街感染」地帯へ入り込みたくないよなと思いながら歩いていきますと、ありましたよ。青い看板に「歌舞伎町」の文字が。金髪、茶髪に黒いシャツの若者たちのぶらつくスラム横を通り抜け、神舎前にどっかり座り込んだ、灰色あごひげを長く伸ばして野球キャップの古典ルックな浮浪者さんと素敵な出会いがあったり、タルコフスキーの撮った廃墟のような新宿ゴールデン街を覗いたり。あれだよね、ホロコースト映画の風景に似てるよね。ただの新宿なのに。
で、ナメクジに話を戻すけど、レタスに混ざってナメクジ喰った男が脳内食い荒らされて血飛沫飛ばして頓死を遂げたり、ナメクジは体液字体が猛毒性だったらしく、飲んだ幼児が発狂して母親の喉笛食いちぎり、それが二階の階段踊り場だったりしたもんだから、母親は脳天を壁にこすりながら階段をでべでべでべって転落していって、帰宅したばかりのパパを驚かしたり。
TPOを心得ない異常生物のアタックに街は滅亡寸前のピンチに。
ここで立ち上がるヒーローは、ま、予測がつくでしょうが、保健所のおっさんである。連続する異常死の謎を追っていたオヤジは、ただひとり、すべての原因がナメクジだったという驚愕の真相を知ってしまうのだ。Oh、なんてこった。(確かに)
ナメクジの潜んでいるのは市の全域に張り巡らされた下水道の中。
おっさんは、下水清掃のプロ、メガネの生物学者とチームを組んで極秘裏にナメクジ絶滅作戦に取り掛かるのであった。
さっさと警察に通報しろよ。
【解説】
最後に出てくる疑問に関しては、この作品を映画化しようとした際に脚本家も思いついたらしく、主人公に敵対する存在として市長を作り出し、彼らが孤独な戦いに赴かざるを得ない理由を説明していた。
(原作では“どうせ誰も信じちゃくれないだろう・・・”という中二病過ぎる呟きしか出て来ない)
だが。その結果、ハッキリしてしまった事実がある。
中年の捜査官。若い学者。下水清掃のプロ。これってまるっきり『ジョーズ』じゃん。最もタフそうに見えるプロが死亡し、軟弱な主人公と学者が生き残る結末もいっしょ。安直だなぁー。
そう考えると、一見無茶苦茶に聞こえる“どうせ誰も・・・”の方が、まだしもオリジナリティーを主張できるように思えるのであった。
最近のコメント