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2020年1月

2020年1月19日 (日)

エドマンド・クーパー『遥かなる日没』('67、中尾明訳、ハヤカワ・SF・シリーズ3276)

この本は、クリス・ボイス『キャッチワールド』の元ネタである。
 ゆえに『キャッチ』に魂を捕獲されてしまった哀れな読者諸君は、万難を排しても入手し絶対読まねばならない。それがディスティニー。人類のミッション課題だ。(ちなみに中古価格は高くないから今のうちだよ)
 大した本ではないが、意外と重要作。きっとK・H・シェール『オロスの男』並みには記憶に残る心の一冊になるだろう。

Haru
【あらすじ】
 乗組員が35日間離れていると勝手に自爆してしまう(!)難儀な仕様の宇宙船に乗って、アルタイル第五惑星にやってきた9人の調査チームは、想像を上回るヘタレさ加減を発揮しさっさと全滅。
 (そもそも異星探検隊のくせに人数が少なすぎだし、隊長アタマ悪すぎ。全員揃って原住民の掘った落とし穴にハマって(!)死亡。)
 生き残った主人公は、宇宙船内でお見合い婚した愛しの妻と生き別れ、現地の王様に指を切り落とされたり、少女妻を与えられてムフフなことになったり、近所のバカを集めて学校を開設するなど、なんとか現地人社会に溶け込もうと色々と苦労する。
 そう、誠に都合よいことに、地球から何十光年も離れたこの惑星にはどう見ても人類としか思えない種族が多数生活していたのだ。
 それはなぜか?真相は一応、終盤クライマックスを盛り上げる大ネタとして披露されるが、余りに薄い根拠と弱すぎる説得力には頭の悪い小学生だって納得しないだろう。

【解説】
 以下の文章は本書を読み終えた読者を対象としているのでそのつもりで。
 ※
 浅倉久志先生がジャック・ヴァンスの作風を「星際観光冒険SF」と評していたのを記憶しているが、その伝でいくなら、本書は「宇宙土人生活モンドSF」である。
 地味で慎ましく英国風に典雅なクーパーの筆致は、妙に真面目なドキュメンタリータッチなので、読んでいく感覚としては、ヤコペッティ『世界残酷物語』('62)みたいなモンド映画を観ている気分に近い。(実際、土人の娘が神の生贄に捧げられたり、主人公が指を鉈で切り落とされたりする典型的なモンド描写が存在する。)
 そしてインパクトあるのは、おやじ感あふれる素晴らしい性描写だ。 
 “(彼女は)血気盛んなバヤ二族の男を数多く経験していたのに、彼の陽物だけは受け入れるのに骨が折れて、われながら驚いた。そのたびに苦痛だった。でも、またそれは神が与えてくれるありきたりの悦びよりも遥かに深い歓喜を彼女にもたらした。”  
 とても地球を25光年以上離れているとは思えない泥臭さ。このゲスな感じがまさに難波弘之とセンス・オブ・ワンダー!イイネ。 
 物語の後半は『ロストワールド』や『ソロモン王の洞窟』みたいな秘境アドベンチャー行となり、恐竜に頭から喰われる奴が出たり、土人に弓で喉を射抜かれる奴がいたりで、波乱万丈に盛り上げたい作者の心意気だけは妙に感じられるのだが、基本、地味で淡々としているので驚くほど盛り上がらない。
 それよか、死んだと思われていた主人公の妻が、土人の部落に飼われて生き延びていた!(そして感動の再会の途端、槍で突かれて即死亡)とか、その後愛しの現地人妻と再会したら、お腹の子供も含めて王様の家来に惨殺されてしまった!とか、生臭い人間絡みのコテコテな鬱展開の数々の方があなたの心にはきっと残るはずだ。
 全体に、アステカ風の神王が支配する鉄器文明レベルの農耕社会が牧歌的なトーンで描かれており、違った世界で生きることの難儀さが地味に、ひたすら地味~に描かれている。実はこれって、裏『闇の左手』(ル=グィン)である。表『所有せざる人々』だ。おんなじやん。

<追記>
 そういえば、本書がなぜに『キャッチワールド』の元ネタなのか、まだ説明していなかったな。
 ズバリ、FTL船が先に着いていたからだ!この野郎!

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