« 2017年12月 | トップページ | 2018年10月 »

2018年8月

2018年8月21日 (火)

眉村ちあき『目尻から水滴3個戻る』('18、レーベルじゃないもん)

 5月後半くらいですよ、発売直後くらいに買って来てから、ずっと聞いてます。

 これって、完璧にモンドミュージックである。
 モンドの定義って難しいけど、要は既存の世界にとってまったく異質な存在であることでしょ。相容れない価値観の産物。タィニー・ティムだって何だってそうだ。聞いたことないもの。馴染みのないもの。違和感バリバリのサウンドと歌唱。目的がわからん。聴くこと自体が未知との遭遇でありうるような音楽。
 ここで展開されるのは、一応ベースは私たちの知っているJポップにルーツを持っていながら、どっかで聞いた感のあるフレーズやリズム、メロディを断片的に雑多に積み上げていって、無理やりツギハギしまくって、うまく整理できなくて(あるいは最初から整理する気もなくって)バランスもパースも歪んじゃってる音楽である。
 音質も、これがまた、程よく悪すぎでね。あなたなら絶対ミックスしたくなると思うよ。音潰れてて、なんか楽器のチャンネル振り分け悪くてエフェクトかけすぎで、ハイレゾってなに?って調子でね。曲によってボリュームレベルが露骨に違うとか。きびしいでしょ。
 普通そんな系列だと、リピートには耐えない、実験音楽臭が漂う嫌味なものになってしまうはずなのに、異様に力強く歌われる、覚えやすいキャッチ―なサビメロに回収されて、なんか最終的に丸く纏まってしまう。尋常でない。
 そして、あらたまって細部が気になり出してきて、「なんだ、この異様な据わりの悪さは?」って気になり出したら、もうダメ。どんどん気になり気になり出して、結局何回もリピートする破目になっちゃった。

0
↑(ジャケットだって立派にモンドだ)
 
 配信をメインに考えているようなので、次のアルバムがいつ出るのかわかりませんが、素晴らしいですよ。フランク・ザッパの『フリーク・アウト』並みに素晴らしいんじゃないですか。ザッパさんが考えてたのはつまりこういうことでしょ。間違いなく、フリークで、アウトしてますよ。眉村が日本のスージー・クリームチーズと呼ばれても驚きませんよ。
 面倒なこと考えなくていいのは素晴らしいことだ。

【全曲解説】

1.ナックルセンス
 イントロはなぜかCDのクリーニング音から始まります。一種のカバーですね。「ナックルセンス」自体は普通にいい曲なんですが、お経化されたヲタ芸ミックス(“タイガー、サイバー、ファイヤー・・・”ってアレ)から続く、サビメロの壊すぎてる歌唱が異常だ。
2.リアル不協和音
 バンドっぽい、なんとなくジェファーソンエアプレイン感満載の名曲。アコギで宇宙で小舟を漕ぐ「Wooden Ship」みたいに、無駄にスケールでかいサイケデリックチューン。
3.コカ・コーラのスリッパ壊れた
 あの、これアーティスト本人が実際に履いてるんですよ、コカ・コーラのスリッパ。余談ですが、若い女の子(20歳)がスリッパ履いてるのって、実に高円寺、阿佐ヶ谷って感じしません?曲は相対性理論「三千年」に適当にインスパイアされたAメロから、まったく違う方向(ネコ方面)に流れていく中央線ソングブック。 
4.スーパーウーマンになっちゃったんだからな
 昔つきあってた男(フラれた)に小声で捧げる(ミックスレベルがこの曲だけ異様に小さい)、ピー音が何か所も入る正直すぎるラブソング。「♪なんだかんだで、あたしはキミしか、好きになったことないんだから♪」が泣ける。正直すぎるのも考えものだ。この世界は不誠実すぎるから。
5.どっこいトゥモロー
 舞台は地上の悪が集う魔界・北千住である。イントロのギターが爆音に聞こえるように注意深く設計されている。北千住の西口で少女は死んだのだ。血反吐を吐いて死んだのだ。思い切り残虐なチューンでありながら明快で力強い。どすこい感がある。
6.東京留守電話ップ
 極めて宇多田ヒカルに聞こえるように祈りを込めて創られたナンバー。スキャットと抒情的なシンセの重なりはそんな路線だが、歌詞は歴然と違う次元に存在している。
 「♪うんこを生み出した人の生きざまなんで、知ったこっちゃないけど
  うんこが、うんこであるための、うんこの生きざまを~♪」

 実はここにリンカーンの奴隷解放宣言と同質の精神が息づいているのだ。うんこをちんこに変えても意外と成立するので、キミもやってみて。
7.I was born in Australia
 名曲。オーストラリア生まれではないのに、そう主張する理不尽さに満ちた曲。しかし翻って、アメリカ生まれをやたら連呼するかの有名な例の曲が不可解不可解千万に思えてくる。「で?アメリカ生まれだからって、それがどうした?!おぅ?この野郎」
 一回目のサビだけが凝った歌詞違いで、「♪楽屋泥棒の常習犯♪」と歌われる。実に心憎い構成である。聴き手の意表を突く以外にまったく意味がない。
8.ちゃら(CHARA)
 これはすごい。CHARAの物真似を披露する(だけ)の曲のタイトルが、CHARAなのである。正気を疑われても仕方あるまい。しかも眉村自身がご丁寧にもCHARA本人にメールを送り、許諾を求めたという。CHARAサイドがガン無視したことは言うまでもない。
 (CHARAにとって)困ったことに、これは実はいい曲だ。物真似パートでは歌っている本人も途中笑っちゃって、歌にならなかったりしているが、力強いサビがすべてを吹っ飛ばす!音楽の力である。
9.ツクツクボウシ ~チッコロチッコロVer.~
 プリティーな楽曲である。ムロツヨシが好きになる。デスメタルボイスからの壮絶早口言葉大会には、一休さんも激おこプンプン。プロモクリップには友達2名が出演しているが、この人たちも本物のキチガイである(※褒めている)。レジェンド小日向由衣の名曲「モップは何も語らない」には一聴の価値がある。
10.宇宙に行った副作用
 とうとう宇宙に行ってしまった。ロカビリーライクなキメから、月亭八方のボヤキ節に瞬間シフトする切り返しが見事。「♪マッソーブルージー♪」がなんだか全然わからんが。「ライク・ア・能年」が脳裏に灼き付いてしまう。のーねん。
11.メソ・ポタ・ミア
 この題名を理解する鍵は、句読点の位置にある。メソもポタも可愛いじゃん?でも合体すると四大河文明になります。これは、ホラあれだ、富貴と信仰が虐殺に化けてしまう『黒死舘殺人事件』と同じトリックだ。しかも曲調はアイリッシュ、ケルトダンスがアメリカ行った系で、そこにハイサイおじさんの沖縄がなだれ込む。ワールドミュージックのミクスチャーだ。中村とうよう『ミュージックマガジン』だ。この一曲でソウルフラワーユニオンの眉間に風穴を空けてしまった。

そして本編終了後、まさにフリークアウトなエンディングがついてきますので、お聞き逃しなく!
 くどいようだが、眉村が日本のスージー・クリームチーズと呼ばれても驚きませんよ俺は。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年8月12日 (日)

ウィリス・H・オブライエン『黒い蠍』 ('57、ワーナー)

 大きな黒いサソリが暴れる映画に、『黒い蠍』とタイトルをつける人は天才じゃないだろうか。そういう短絡思考の愚直さが、この映画をなんとも憎めない、可愛らしいものにしている。
 話をすっきりさせるためにハッキリ名指しで言いますが、嘘にまつわる映画だから『ライアー・ゲーム』。これじゃダメなんですよ。全然ダメです。わかりますか。この違い。
 同じじゃん!

 【あらすじ】
 メキシコで火山が噴火した!地元じゃたいへんな騒ぎになるが、そんな激甚災害発生のさなかに、さらに巨大な危機が襲いかかる。巨大サソリの襲撃だ!

 以上これですべてを語り尽してしまった。この映画、一時間半以上あるのに内容はこれだけ。本当にこれだけしかない。驚くべきコスパの良さではないでしょうか。
 大河ドラマもスピンオフも結構ですけどさ、一本の映画を本当に面白くするのは、シンプルで力強いワンアイディアだと思うよ。ちまちました話にはもう飽き飽きだ。やっぱひと言で説明できないと。

 そりゃあね。これ1950年代のアメリカ映画でさ、巨大アリが暴れまわる傑作映画『放射能X』の国民的大ヒットを受けて製作されたムシムシ大行進映画の一本ですからさ、いちおう出涸らし茶みたいな人間ドラマはありますよ。火山の調査に行った博士が、牧場主の娘のくせ馬に乗るのがど下手(ホントすぐ落馬する)のグラマーちゃんと恋に落ちる、もうどうしようもない話が添え物でついてきます。
 随所に挿入されるこいつらのラブラブトークが本当頭が悪すぎて、観てると知能がグングン下がってしまって心底どうしようもなくなるけど、まぁ、いいじゃないか!気が利いてるつもりで空振りばかりしているハリウッド脚本術って、本当クソだよね。いや最高じゃん。

Bs101700x400

 あと、サソリの顔だよ。造形悪くて不細工すぎてもはやシュールアートの領域に入ってるこの顔が、白い泡噴きながら何度もスローモーションで迫ってくる。もううんざり。
 すごいね。これこれ。この退屈さこそが映画の本質だと思うよ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年12月 | トップページ | 2018年10月 »