ウィリス・H・オブライエン『黒い蠍』 ('57、ワーナー)
大きな黒いサソリが暴れる映画に、『黒い蠍』とタイトルをつける人は天才じゃないだろうか。そういう短絡思考の愚直さが、この映画をなんとも憎めない、可愛らしいものにしている。
話をすっきりさせるためにハッキリ名指しで言いますが、嘘にまつわる映画だから『ライアー・ゲーム』。これじゃダメなんですよ。全然ダメです。わかりますか。この違い。
同じじゃん!
【あらすじ】
メキシコで火山が噴火した!地元じゃたいへんな騒ぎになるが、そんな激甚災害発生のさなかに、さらに巨大な危機が襲いかかる。巨大サソリの襲撃だ!
以上これですべてを語り尽してしまった。この映画、一時間半以上あるのに内容はこれだけ。本当にこれだけしかない。驚くべきコスパの良さではないでしょうか。
大河ドラマもスピンオフも結構ですけどさ、一本の映画を本当に面白くするのは、シンプルで力強いワンアイディアだと思うよ。ちまちました話にはもう飽き飽きだ。やっぱひと言で説明できないと。
そりゃあね。これ1950年代のアメリカ映画でさ、巨大アリが暴れまわる傑作映画『放射能X』の国民的大ヒットを受けて製作されたムシムシ大行進映画の一本ですからさ、いちおう出涸らし茶みたいな人間ドラマはありますよ。火山の調査に行った博士が、牧場主の娘のくせ馬に乗るのがど下手(ホントすぐ落馬する)のグラマーちゃんと恋に落ちる、もうどうしようもない話が添え物でついてきます。
随所に挿入されるこいつらのラブラブトークが本当頭が悪すぎて、観てると知能がグングン下がってしまって心底どうしようもなくなるけど、まぁ、いいじゃないか!気が利いてるつもりで空振りばかりしているハリウッド脚本術って、本当クソだよね。いや最高じゃん。
あと、サソリの顔だよ。造形悪くて不細工すぎてもはやシュールアートの領域に入ってるこの顔が、白い泡噴きながら何度もスローモーションで迫ってくる。もううんざり。
すごいね。これこれ。この退屈さこそが映画の本質だと思うよ。
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