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2017年12月

2017年12月 2日 (土)

いけうち誠一/原作・中岡俊哉『マクンバ』(『呪いの画像は目が三つ』) ('85、立風書房レモンコミックス)

 眠れぬ夜、真夜中に思わず「マクンバ!」と叫んだ経験ならだれだってあるだろう。
 人生、山あり谷ありクロード・チアリ。人の一生には「マクンバ!」あり。われわれは呪いを離れては生きられないし、呪詛と憎悪は世界の共通言語。愛と平和に満ち溢れた、優しい無色無臭のクソくだらねぇ世界に、一滴の朱色の飛沫を迸らせる。ザッツ・ミーニング・オブ・ライフ。そう、呪いこそが人生だ!

 あ、そやそや、申し遅れましたが、
「マクンバとはポルトガル語で呪いを意味する。」 マクンバ!

 ということで、今回採り上げますのは、業界では超有名な事故物件。しかも多重衝突事故がさらなる連続追突事故を呼ぶという、究極吟醸仕上げ、極うま、神レベルでの謎の負の連鎖。倫理的に、論理的に、道理的にどう考えたって問題を含まない、無難かつ甘いページなどまったくもって存在しない不思議。奇跡が生んだ、怪奇コミック界神秘の中の神秘。なんでやねん、と疑う心をドブに捨てて全身全霊、本気でかかって読みに来い!そう、きみの努力は、報われないこと保証付きだ!では、いくぜ!

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 どうや、この挑発的な呪われた表紙!
 内向きにかけられた“お多福”の暖簾を背景にぐつぐつ煮えたぎったおでんを口に含む、おちゃめな、思わず張り倒したくなるような男。寄り添う究極の美少女は、これまた水色の髪に緑のヘアバンドという、ロンドンサイケを連想させる配色センスが最悪のセレクション。描かれたおでんのつゆが、こいつが煮しまり過ぎてて目に染みて、老舗の焼き鳥店が使う壺入りの醤油だれにまったく酷似・・・って、違う!

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 そうそう、これこれ。ゴメンなさいね。
 どうです、キミの中にもう読みたくない気持ちがフツフツと沸いてくるでしょう?
 背景にある巨大な目も完全に死んでて嫌だが、血を吹く花嫁が特に嫌だ。嫌すぎる。そしてなにより、下段でダッシュする青春真っ只中のチルドレン四匹。人体パースが微妙に寸ずまりに歪んで狂って、これまたダルな気分にさせられる。
 あと、ここではいけうち先生たちの名前が鮮烈な赤いフォントで印字されておりますが、
 赤インクで、赤チョークで名前を書かれた人は、100%死ぬんだからね!
 
おいおい、気をつけろよ!


 で。
 まずは、いけうち誠一先生について。高校卒業後、白土三平に師事しアシスタントを務める。講談社で賞を獲って「別冊少年マガジン」でデビュー。
 打者をガンにする魔球、その名も「病魔球」が登場する野球マンガ伝説の名作『あらしのエース』(’75、立風書房ダイナミックコミックス)やら、かつらが怖い!死者の人毛より作りし恐怖のかつら!永遠の代表作『呪いのかつら』(’82、廣済堂恐怖ロマン)、

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 あるいは本書のようなマイブーム・イズ・オカルト精神世界な著作の数々を経て、80年代よりおやじ臭漂うゴルフマンガの世界へと進出。現在はゴルフマンガ界の巨匠に成りおおせてしまうという、まさに変幻自在のダイナマイトマジック!変わり身こそが人生よ。

 というところで、ニュースです。
 東京・六本木の路上でごみ収集車を盗んだとして、23歳の男が警視庁に逮捕されました。男は「朝の混んだ電車に乗りたくなかった」と供述しているということです。
 https://news.nifty.com/article/domestic/society/12198-113462/
 ちなみに盗んだ収集車は運転しにくかったのか、飽きたのか、3キロ進んで路上に放置したんだそうで。
 こりゃアホです。誰が見たって完璧なアホです。そんな無駄なことしてないで、さっさと電車に乗って帰ればいいと思います。美化委員の人は車を盗まれないよう注意をしてください。以上で学活を終わります。

 つづきまして、「白石麻衣、女性写真集で歴代最高の年間売上」ということにつきまして今季国会で話し合ってみたいのですが、
 https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12173-oric2101620/
 ハテそうだっけ、宮沢りえの例のやつはもっと売れてなかったっけ、と思いましてサーチしてみましたら、なんと155万部売れてた。すげぇ。そんなに売れなくていいよ。
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50272
 じゃあ「女性ソロ写真集の週間売上としては歴代最高」という白石に関する記述はどうなっとるのか、そもそも白石って誰やねん、白石まこ?それは違う。この記事、よくよく読み直してみますと、前段に「2008年の当ランキング集計以来、女性写真集としては歴代最高の年間売上記録」という記述がある。よりによって2008年かよ、数字集計のマジックやわー。
 人類の歴史ってのは10年ぐらいの幅しかないんかい!底の浅い数字を振りかざすのもえぇ加減にせいよ!
 てな感じでこういう輩が多いんですわなー、最近。
 ということで本法案は可決となりましたー。

 ・・・しかしあきらかに私の記事は無駄が多いな。本論に入ります。今回の眼目は、「マクンバ」の提示する呪いの数々を列記することにある。呪いのカウントダウン、全部尽くしだ!
 しかしその目的を完遂するためには、「マクンバ」全編をちゃんと読み込まねばならない。それがどの程度有意義な時間だというのか。実に残念だ、その役がきみじゃないなんて。

■第一話、よみがえる呪い 
 
 すべての呪いには、科学的かつ強引な根拠がある。簡単に申しますと、因もあれば果もあるというやつ。卵が先か、ニワトリが先か。それが果てしなく複雑怪奇に巡り廻って、どっちが先だかわからなくなる。親子丼ができあがる。それが呪いだ!
 
呪いの1、歯がァ~黒くなる~呪い~

 創立50周年を迎える東京都下の青木中学。古くなった講堂の取り壊し工事という平凡な事態から、想像もせぬ呪いの連鎖の幕があく。
 もともと講堂には呪いがかけられているという噂はあった。そのため、老朽化しても建て替えられることなく、今日まで使用されてきたのだ。安全施策上いかがなものかと思われる学校側の弱腰すぎる姿勢に父兄からの批判が殺到し、遂にリフォーム大作戦が貫行されることとなった。比較的怪しくない土建屋と契約し、テントが張られ、作業員がつるはし片手に構内に入った。
 その日から恐怖は始まった。
 腹痛、かぜで休む生徒がいきなり急増。ノイローゼでブツブツ呟いていたかと思うと、自殺する者まで出た。解体工事を行っていたイラン人は落下してきた建物外壁の下敷きになり死亡。すべて不幸な事故である。しかし、このへんの定番的な呪いの連打はまだ甘かった。
 工事が始まってから、歯がだんだん黒くなる男子生徒。
 毎日磨いても磨いても黒ずみが取れない。歯医者もお手上げ、ホワイトニングも効果なし。すぐ真っ黒くなる。しかし、これっていったい誰が得をするのか。呪った者に果たして利益はあるのか。それすら不明のままに事態は深刻化し、気が付けば完全お歯黒状態に。 
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(※画像は勘違い。これは鋼鉄の入れ歯である。)

 お歯黒、ある意味おしゃれな気もするが、本人にしてみりゃ深刻だ。常にマスクを着用し、人前では水も飲めない。まさに現代医学では解明できない原因不明の奇病。
 「だが、俺にはわかっている・・・・・・」
 呪いの連鎖を追う女主人公に対し黒い歯を見せつけて男は言う。「これは呪いだ!あの講堂の呪いなんだ――ー!!!」
 ・・・って、話が飛躍しすぎ。そもそもなんで講堂の呪いとわかったの?
 「わからない・・・わからなすぎる・・・あぁ、おそろしい!!!」
 

呪いの2、歳がァ~やたらとイッてしまう~呪い~
 
 これは本当に怖いかもしれない。荒れ狂う恐るべき講堂の呪いの牙は、女主人公のマブダチにも向けられた!
 昨日まで女子中学生だったのに、朝起きてみると腰が痛い。全身妙にグッタリ疲れてるような気がする。髪を触ったらゴッソリ抜け落ちた。しかもそれが白髪。アレ、おかしいナ?と思って鏡を見たら、そこに映っていたのは、80歳だか90歳だかの見知らぬのバァさんの顔だった。
 「ギィィヤァ~アァ~~~!!!」
 老人パスもらわなきゃ。優先席にだって座れる。近所でゲートが打ち放題。
 しかし待てよ、両親より年齢イッちゃってるじゃない?別の意味での扶養家族。あたしの青春どうなるの。思春期、パンチラ、初体験。こんなんじゃデートにだって行けないし、処女膜だって破れない。更年期どころか軽く閉経期越えしてるし、妊娠の危険はないとして、中出しオールオッケーとしてもまだ割に合わない。おつりがくるよ。
 「う、ギィィヤァ~アァ~~~!!!」
 登校拒否しか選択肢がなくなった。泣く泣く打ち明ける親友の無残な姿に、主人公はひたすら戦慄するしかなかった。確かに酷い話だが、どのへんが講堂の呪いなのか。

呪いの3、皮膚がァ~うろこ状になってェ~溶ける呪い~

 解決篇。以上の呪われたあらゆる因果関係は、すべて主人公の先祖(武士)が悪いと判明。意外や講堂は悪くなかった。それが一番の衝撃だ。唖然とする関係者一同。犠牲となったイラン人の冥福を祈る工事現場監督。
 「一体、どうしたらいいの・・・?私自身の先祖が原因だっていうのに、呪いのパワーは私へ向かうのではなく、無目的に拡散し、罪もない周りのみなさんを傷つけていってしまう。果てしない繰り返し。なんて、おそろしい・・・・・・」
 「目には目を!呪いには呪いを~!」
 そのとき、突如現れた三つ目玉の呪いの精(だれ?)が叫んだ。
 「おまえ自身の秘められた呪いパワーを解き放て!
 実はそういう家系なんで、ゲーム序盤戦から、かなりプロフェッショナルな呪いをかけることができます!
 呪ってる相手を逆に呪い殺して、呪いと呪いの相殺処理を狙うのじゃ!貞子VS.貞子じゃ・・・!!!!」

 精霊はちょっと間違っている。
 先祖代々受け継がれた悪しき因果の撲滅を願って、自室に引きこもり一心不乱に祈祷を開始する主人公の少女。座禅して精神統一春秋戦国、一心不乱に呪いのパワーを放ち続け、遂には人相は変わり、髪はぼさぼさ、皮膚はうろこ状になって溶け始める!それほど、呪いの力は強力なのだ!数十時間に及ぶ壮絶すぎる死闘に疲弊し、遂には意識が遠くなっていく主人公。
 (ダ、ダメだ・・・・・・もう死ぬかも・・・・・・・)
 一夜明けて、ふと我に返ると、呪いのうろこは消えていた。溶けかかっていた筈の皮膚も元通りになっている。
 「あーっ、よかった!皮膚は本当に溶けたわけじゃなかったんだ!
 想像を絶する呪いのパワーに、ちょっと疲れて幻覚を見てたのね!めでたし、めでたし」

 そのころ、真冬の上野駅。急激に老け込んだ愛娘を連れて、実家である東北行きの各駅停車に乗り込む親子の姿があった。
 目的地は恐山、お祓いである。

■第二話、狂恋の黒ネコ

 さてさて、こんな調子で全編延々とやっていくのかと思うと、早くもちょっとしんどくなってきておりますが、まぁいいでしょう。裏技ならある。読者諸君は安心して地獄についていらっしゃい。
 ドサクサで、さっき閃いたオレ作のオリジナル呪いを書きとめとく。

呪いの4、尿道がァ~やたら狭くなってェ~困るゥ~呪い


 たんなる病気じゃん!!!
 尿道が毛細血管並みに細くなっちゃうわけですよ。おしっこに時間がかかります。平気で一時間ぐらい頑張らなくちゃいけない。ガブガブ水を飲んだりするのも、後々を考えると非常に危険。あ、男性のみなさんは射精時に注意が必要。激痛で死ぬかも。
※これは尿道狭窄症という病気です。病院に行きましょう。

呪いの5、黒ネコをォ~媒介としてェ~彼女ができるゥ~呪い

 ま、このネタ振りの前段階として、「町で見かけた黒ネコがァ~なぜか、家に棲みつくゥ~呪い」ってのがある訳です。普通にイヤでしょ?
 この黒ネコ、見るからに凶悪な面相の持ち主でして、どう見てもやばい。ただ歩いてても酷い事件を巻き起こす。例えば、こんな感じ。

呪いの6、黒ネコにィ~進路妨害されたタクシーがァ~子供を轢き殺して暴走しィ~電柱に激突して運転手が死亡するゥ~呪い

 最悪すぎる。
 さて、クラストップのマドンナ西城寺亜希子にあろうことか一方的に懸想したブサイク、キモメン番長が、家に棲みついたナゾの黒ネコに指を噛まれ、なにか血の契約的なものが成立。われわれ読者には明確な因果関係が明かされぬまま、その後クラス一の美女はブサイクとの交際をなぜか快諾、イケてるチャラい彼氏は袖にして、校内、校外で連日連夜の熱烈デート。もちろん、2,3発ハメちゃう。軽い気分でハメちゃう。
 そこまでならまだよかったが、実は彼女、(ま、予想がつくでしょうが)例の黒ネコに噛まれちゃってた。クロちゃんを媒介として、番長の血と西城寺亜希子の血が交換され、なんやようわからん因果関係が発生。これが突発交際が始まった真の原因だった。
 (しかし、この文章が何も説明していないことは、賢明なる読者諸君はとうにお気づきであろう。)
 その結果、事態は誰も思わぬ方向へ進展していく。

呪いの7、彼女のォ~うでにィ~猫の毛がァ~生えてくるゥ~呪い 

 ある日、黒ネコに噛まれた腕の傷跡から、真っ黒い毛が生えてきたのに気づく西城寺亜希子。ひばり系書籍を読み慣れた方なら、もうこの先の展開はわかると思うが、ネコ化しますよ、この女。そして他人に迷惑をかけるのです。

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 いや、こういう方向ではなくて。これもイヤだけど。しかし、いつから日本は公衆面前でのコスプレOKになったんですかね。オレは許可してないよ。

呪いの8、真夜中にィ~彼女がァ~性のストーカーとォ~化してェ~自宅に無断侵入してくるゥ~呪い
 
 (この女、変わったなー。前はもっと可愛く見えたもんだが、顔がきつくなった)
 カラダを許すと図に乗る男性一般の典型として、番長はずうずうしく考える。シチュエーションは、年齢詐称でお泊りした高級ホテルのラウンジ。情事の後にコーヒーでも飲みながら。しかし予算はどっから出てるんですかね。
 (髪もボサボサ。傷は舌で舐める。トイレは砂の上。なんか毛深い)
 番長は考え続ける。これで気づかない方がどうかしている。
 (で、ときどき、ニャーと啼いてツメを立てる・・・・・・。
 ・・・うーん、なんか変だな?)

 だんだん亜希子が疎ましくなる番長。コーヒー代を払わずに帰ろうとする。
 「待って。あんた、あたしを捨てるの?」
 「なに言ってんだよ。そんなんじゃねーよ、ちょっと腹くだってきたから、家に帰ってクソして寝るだけだよ!」
 大きな三白眼で、恨めし気に見上げる亜希子。その視線にゾッとした番長、思わずレシートを摘まみ上げてお会計に向かった。後ろ姿を見つめ続けていた女は、やがて彼の姿が消えると、俯いてなにやらブツブツ呟き始めた。
 「捨てるんだ。捨てる気だ」
 「なにもかもあげたのに。あたしを全部、あげたのに」
 「冷酷野郎。高慢トンチキ。くだらない男。ブサイクのくせに許せない。呪ってやる」
 「呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。呪ってやる。ハリル監督。呪ってやる。呪ってやる・・・・・・」


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 その夜。
 本当に腹がくだってきたので正露丸を飲んで寝ていた番長の部屋に、怪しい侵入者があった。締めていた筈の窓がスゥーッと開き、ストンと床に降りた足は不気味な獣毛に覆われていた。
 気配に目覚めた番長、思わず怯えた処女のような声で叫んだ。
 「だっ、誰だ――――――?」
 「ケホホホホ、ホホホホ・・・・・・」

 闇に浮かび上がったシルエットは確かに人間の女だが、真っ黒い蓬髪を振り乱し、纏った白い夜着はボロボロに裂けて、毛むくじゃらの肌がいたるところから覗いている。三角形の両目は爛爛と輝き、異様な狂気を孕んでこっちを睨みつけてきた。
 「お、おまえ、亜希子か・・・・・・?!」
 変わり果てたつかの間の恋人の姿に、声もない番長。
 「・・・こ、ん、ば、ん、ニャーーー!!!」
 亜希子は素っ頓狂な大声を出した。仰向けに倒れ、突き上げた股間を激しく中空にグラインドする。
 「あんたがあんまりツレないもんだから、こっちからワザワザ深夜に出向いてきてあげたわ」
 強烈に腰が突き出され、そこにはないペニスを渇望する。
 「さぁ、狂え。狂ったように、ハメ狂え。ハメてハメて、しごいて出して、抜かず埋め込み、ピストン千回、ズンドコズンドコ、ずんずんずんずん、ズンドコ、学校帰りのミヨちゃんに、飽きることなくハメてハメてハメ狂って、蓮の花咲く、お釈迦様のいる極楽浄土の天国へ行くがいい!」
 あまりの異常事態に、顔面ピクつかせるだけでやはり声も出せない番長であったが、その態度に業を煮やしたネコ女・亜希子、ペッと唾を吐くと、あっという間にガラス窓に全身体当たり、表へ飛び出して行ってしまった。猫だけに相当飽きっぽかったようだ。
 「こ、ここは二階だってのに・・・・・・」
 番長は小声で呟くしかなかった。

呪いの9、憑りつかれた女がァ~生魚をかじってェ~坊主をォ~呼ばれるゥ~呪い 

 真夜中の西城家。
 異様な物音に起こされた母親は、懐中電灯(LED)片手に、軋む階段を恐る恐る登っていく。夫は一度寝ると目が覚めない。こんな時刻に起きている者がいるとしたら、一人娘の亜希子だけ。
 それにしてもなんだろう、このへんな音。おまけになんだか漂う生臭い匂い。
 逡巡しながら彼女の部屋の前まで来た。
 「・・・・・・アキちゃん、いるの・・・?開けるわよ・・・」
 ぎぃーーーーっ。

 部屋の中央に全裸で寝ころんだ、なんだか毛むくじゃらの生き物が、ぴちゃぴちゃ音を立てて生魚を齧っていた。尖った真っ白い歯が、まだ新鮮な魚肉に食らいつき、生き血が床に滴っている。
 母親は声も出ない。
 夢中で魚を食らっているそいつが、うっすら細い目を開けて、こっちを見てニャアとか細く啼いた。背筋が総毛立った。

 「ギィヤァーーーーーーッ!!!
 
警察、警察!いや病院よ、病院!救急車と霊媒師とドクターとヘリを一個師団、いますぐ早急に寄越してちょうだい・・・・・・!!!」


 翌朝、駆け付けた近所の坊主は、腕組みしながら、庭でゴロゴロ転がる亜希子を眺めている。どうやら背中が痒いらしい。回転するたびニャゴニャゴ言っている。
 「こりゃ、そうとう重症の呪いやで」
 齢八十の住職は溜め息をついた。「いまどき、かなわんなー。時代錯誤にも程があるわ」
 「そうなんですか」
 母親はどうしていいやら分からず、心もとない返事をする。
 「古来、ネコ憑きといえば、土中に埋めろだの、煮えたぎった油を飲ませろだの、いろいろ謂われておりますが、わしの坊主力が直感的に指し示すところでは、最も効果ある治療法はこれしかない。・・・・・・では、始めてよろしいかな?」
 「はぁー」
 坊主は手にした竹ぼうきで、亜希子をバシバシ叩き始めた。
 「そぅれ、♪ニャンニャン退散、ニャンニャン退散~♪」
 オリジナルの歌を歌い出した。
 しばらく背中に突然の打撃を受けて苦しんでいた亜希子だったが、よく考えてみれば所詮は箒だ。却って怒りに駆られたようで、牙を剥きグルルと唸り出した。
 「もし、和尚様!なにやら危険でありまする」
 気配に気づいた母親が、時代考証を無視して声を掛ける。
 「ムムム、ケダモノのくせに、一丁前に愚僧を睨んでおるな。・・・バシバシ・・・そういう、年長者への敬意が足らん態度が・・・バシバシ・・・・・科学の現代に動物憑きなどという前時代の遺物を呼び寄せたのだ。退じてくれよう、太田胃散!」
 印を結んだ。
 「アウ、ギャー、テイ、マカ、ゲ、ギョウザ!
 アウ、ギャー、テイ、マカ、ゲ、ギョウザ!
 アウ、ギャー、テイ、マカ、ゲ、ギョウザ・・・・・・!」

 (※注釈、この祝詞はほとんど原作のまんまである。 マカと餃子の力を寿いでいるものと推測される。)
 完全に怒り狂った亜希子、ジャンプすると鋭いツメで母親の顔面を切り裂き、素早く逃げて行ってしまった。
 「むぅ・・・・・・しまった、取り逃がしたか」
 血まみれの顔を押さえてのたうち廻る母親を見ながら、和尚は嘆息した。
 「さても、縁なき衆生は度し難いものよの」

 呪いの10、女子高生アイドルがァ~「妊娠」発表でェ~阿鼻叫喚の地獄が巻き起こるゥ~呪い(しかもお相手は担当マネージャー)

 
あ、間違えた。
 ま、これもどうかとは思うが、さらに凄いのはその後もアイドル続投していく宣言をしたことかな。いまやこれぐらい常識ってことですよ。
 
呪いの11、番長がァ~崖の上に逃げ場を失い~究極のォ~恐怖を体験するゥ~呪い


 (あの女にもらったものを、全部捨ててしまおう)
 恐怖心理に突き動かされるブサイク番長は、降り出した雨の中を彷徨っていた。ぶら下げた袋には様々なものが入っている。
 腕のもげた人形。
 手紙。
 びっしりと抜けた髪の毛の絡まったヘアブラシ。
 ボールペンでグルグリと無数の目玉が書かれたノートの切れ端。
 なんでそんなものを俺に呉れるのか。1ミリも理解できなかったが、捨てるのもなんだか怖かった。そんな弱気な自分にセイ・グッバイ。忌まわしい過去とは決別し、光明の世界へ新たな旅立ちを告げるのだ。そうしないと俺は本当に駄目になる。
 スコップ片手、傘を差した番長がやって来たのは、町外れにある造成地だった。宙にシャベルを突き出して巨大な掘削機が雨に打たれている。安全ロープの下をくぐり、白い防水布を掛けられた鉄杭の小山を乗り越えて、剥き出しの地面が軟らかそうな場所を探した。
 数度スコップを地面に突き刺し感触を確かめると、腰を入れておもむろに掘り始めた。

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 ざく、ざく、ざく。
 左程深い穴は必要ない筈であったが、凝り性の番長は執拗に土を積み上げていく。と、早くも汗だくになり無我夢中の耳奥に、微かな声が聞こえた。
 (・・・ニャーーーッ・・・・・・)
 ガバと顔を上げ、周囲を見廻すが誰もいない。
 気のせいかと思い、再びスコップを穴の底に向けると、そこにギラリ光る眼が。土塊の向こうからこちらを睨んで。

 「へ、ひぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 思い切り情けない声を上げた番長、その場に腰を抜かしてへたり込んでしまった。

 さて、ここで問題です。
 突然出現した目玉の持ち主は、もちろん“戦慄!ネコ女”と化した西城亜希子なのですが、彼女はどうやって地中から現れることが出来たのか?

 だって、相当ヘンだよ。第一に、番長がどこに穴を掘るかなんてわからない。どの程度深く掘るかも未知数でしょ。位置関係からしてスコップが自分に突き刺さる公算も高い。
 以上の危険性を正確に予測した上で、自ら地面に埋まって待ち受ける。一人じゃ埋まれないから、まぁ共犯者がいたんでしょうな、土かけてもらったりして。ご苦労さん。
 しかし『マクンバ』の著者たちは、そんな風には思考しない。
 ここでわかりますのは、この世の外のものは、現実の物理法則を無視して動いていいという思想の存在です。
 
 幽霊やお化けは物理法則に縛られない。
 自由にどこからでも襲ってよい。

 これは結構重要な問題を孕んでいまして、非現実の存在が果たして実存を襲撃することができるのか。つまり根本的なところで、「幽霊ってさわれるの?」という哲学的と申し上げていい大問題に行き当たる。さわれるなら実体はあるんだろう、ならば地球上の重力やら遠心力やら物理法則に縛られるはずだ。実体があるならいっそ逆襲して傷つけることだって可能だ。
 そんなもの、ハテ、怖いんだろうか?

 だから、この状況に対する合理的説明はひとつしかない。地中から現れ襲い掛かる亜希子は番長の妄想の中にしか存在しない。だから怖いのである。
 おそらく現実の亜希子は、ネコ化した時点で存在を失くし、目撃する人々の妄想の中に生きている。その肉体はいずこかで朽ち果て、それを媒介にこの世の外のものが立ち現われ、語りかけてくる。これを恐怖と呼ばずしてなんと云おうか。
 土の中から現れた亜希子の亡霊に憑りつかれ、恐怖に狂った番長は激しくのたうち廻り、坊主や亜希子の母が見守るなか、(都合よくそこにあった)崖から転落して悲愴な死を遂げてしまう。
 これを笑うことは容易いが、おまえさんにその資格があるのか、あたしはまずそれを問いたい。安全地帯で、塩梅よくかぶりつきから身を乗り出し、他人の悲惨を覗き見る。好奇心と無責任な喜びに満ち溢れた野次馬諸君。あんたは有罪・無罪、一体どっちだ。
 ケヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・・・・・!!!

■第三話、かけた耳

 さて、この記事、まだ続いているとは誰も思わなかっただろうが、まだ続く。

 第二話において悲惨な最期を遂げた番長、その死を悼むかのように降りしきる冷たい雨の中を、ちぎれた片耳を握ってシュミーズ姿の、見るからに強力に呪われていそうな女が独り通り過ぎた。これが新たな悲劇の幕開けだった。

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(グロ注意!と書きたかったが、これ、ちぎれた耳クッキーだそうですよ。よく見ると爪楊枝ついてるでしょ。馬鹿げたものつくるやつってのはどこにもいる。)


呪いの12、結婚を間近に控えた女がァ~ 襲ってきた婦女暴行犯を逆に刺し殺しィ~ 遺体の身元発覚を恐れてェ~ 片耳を切り落とすゥ~呪い~

 あるよね!
 普通にあるよね!そういうことって。
 しかし、片耳に特徴のあるあざがあるからって、わざわざ耳だけ切り離しますかね?まったく無駄な努力なのでは、結婚を間近に控えた女さん?

呪いの13、女がァ~ 結婚相手の富豪の息子所有のォ~プールにィ~ 浮いている片耳のない男のォ~ 腐乱した遺体を目撃するゥ~呪い~

 マジ迷惑。クソマジむかつくー。
 結婚を間近に控えた女はおしゃれなビーチサンダルでガンガン蹴り入れて、浮いてきた死体をプールの奥底に深く押し込んでしまうのであった。
 (その後笑顔でトロピカルドリンクを飲み干して、ついでに富豪の息子のチンポをくわけます。)

呪いの14、以上の脈絡と関係なくゥ~ 殺された男のアパートにやって来た引っ越し屋(※男の死は単なる行方不明扱いとして処理されている模様)がァ~ 部屋に座っている片耳ちぎれたァ~ さらに腐敗の進んだ遺体をォ~目撃しィ~ ビビりまくるゥ~呪い~

 結構気ままにふらつく遺体である。引っ越し屋さんにはお気の毒としか言いようがない。
 なにしろ、この人、まったく本件と関係がない。

呪いの15、待ちわびた結婚式の教会でェ~ 結婚相手の富豪の息子のォ~片耳がァ~ 謎のパワーによって切断される姿を目撃、花嫁はァ~ あまりの事態に急遽予定を変更しィ~ 失神することにした~呪い~

 これぞザッツ予定通り、という気もするな。
 こういうフライングしまくった事態が勃発すると、往々にしてメンタルの弱い漫画家さんなんかは、“それはケメ子の夢でした”とやりがちですが、さすがはいけうち先生、次のページをめくると、片耳に大きな絆創膏を当てた富豪の息子が、元気に朝ごはんのおかわりを要求する日常カットに繋げているのでありました。
 怖いねー!この感覚が怖いねー!まさか来るのかと思ったら、一番人気大本命馬がそのまま来ちゃいました、みたいな、新種の恐怖やねー。これは蒼ざめるね。

呪いの16、結婚式の記念写真ができましたと渡されるとォ~ にっこり微笑むふたりの頭上にィ~ 片耳のもげた腐乱死体が特別出演していましたという~微笑ましいィ~呪い~

 「・・・こ、これは、心霊写真だ・・・!」
 以下心霊写真に関する無駄な解説が入るという。戦慄するふたり。一生の記念になるね。大事にしようね。誰に見せても驚かれるよね。テレビ出れるかもね。奇妙な因果にいっそう愛を固め合うのでありました。

呪いの17、片耳ちぎられた夫がァ~ おわびにハワイに連れて行こうかと誘う~ 呪い~

 この発想、もう呪われてるとしかいいようがない。
 脳が腐って死んじまえ。

呪いの18、さすがにハワイはどうかと思い、テレビを点けて観ていたらァ~ Exile GENERATIONSの正面どアップにィ~ 片耳ちぎれた霊がオーバーラップしてきて、いやんなっちゃうナ~ の呪い
  
 そもそもExile GENERATIONSがイヤである。この時点で呪われているといっていい。あと、韓流ドラマばかり映しているウチのテレビもどうかしてると思う。どこに抗議したらいいのか教えてくれ。嫁は取り合ってくれないんだ。

呪いの19、最終的に全裸になり、シャワー浴びていた嫁がァ~ 自分の体に浮かび上がる悪霊の顔を見て発狂、睡眠薬飲んでェ~ 自殺してしまう~呪い

 無駄であった。
 すべては無駄であった。ハワイに行っとけばよかった。

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■第四話、ただれきった武士の呪い

 第一話において老婆化した少女は家族に付き添われ、呪いを解くため恐山に向かう。
途中の新幹線では、片耳に大きな絆創膏を当てた男が向かいのシートに座っていた。
 筆者は駅弁食べながらガイドブックを読んだ。
 
 「JR大湊線の「下北駅」からは下北交通の路線バスが運行しています。
 便は季節限定の(冬は恐山が閉山する為)1日4便で土日祝日に運行する臨時便も含めると5便となります。
 また夏と秋の大祭開催中はJR大湊線の増便にあわせてバスも計9便に増便されます。
 時刻はJR大湊線の運行時間に合わせており、列車到着後5~10分後に恐山行きのバスが出発する運行計画となっています」

所要時間(下北駅~恐山) JR大湊線下北駅からバスで35分
運賃 800円

 意外と高い。観光地ってこんなもんか。
 で、どの山が恐山なの?
 「恐山は青森県の本州最北の下北半島の中心に位置する標高800m以上の活火山で、山全体が霊場になっています。その正式な呼び名は「恐山菩提寺」で、恐山という名の山は実は存在しません」
 おお、利発な人が出てきたぞ。なんか昔聞いた気がする豆知識だが、心に何度でもインポートだ。

呪いの20、恐山は山ではなくてェ~ 実は寺の名前であるゥ~呪い

 これでよし。

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 さて、以上の脈絡と関係なく、第一話で恐るべき“講堂の呪い”に打ち勝った主人公の女子中学生も三匹の友人達をお供に恐山にやってきていた。
 目的はもちろん、その後もなお襲ってくる先祖の呪いに打ち勝つ方法を探るため。
 大人でもしんどいのに、そんなこと中坊風情にできるのかと問われても困る。本当に恐山まで来ちゃってるんだもの。旅費は親の財布からくすねて調達、しばらく××子の家に泊まりに行くとか適当に誤魔化して、各停乗り継いでやってきたんだろう。ご苦労様。
 エリア一帯が巨大な霊場のテーマパークと化している恐山には、113もの地獄を模したライドが存在し、いたいけな庶民をブイブイ言わせてる訳だが、メインイベントといえばやっぱりイタコ。現実とファンタジーを繋ぐ水先案内人ミッキー某のごとき、主要なマスコットキャラだ。グッズも数多く存在します。(しかも萌えキャラ。嘘だと思ったら検索してみて。例によって現実のほうが俺の記事よりよっぽどバチアタリだ。)

 「おーーーい、イタコが口寄せやってるぞー!」
 「うほほーーーぃ!こいつはチェックだぜ!」


 以上の軽いノリでストリートに出現したフリーイタコのパフォーマンスに早速駆け付ける中学生御一行様。
 「・・・わ・・・わしは、ジョン・・・ジョン・レノンじゃ・・・」
 誰かがリクエストしたらしい。
 「ジョンさん、いまどんなとこにいるんですか?教えてください!」
 「・・・く、暗い・・・真っ暗で・・・なにも見えぬ・・・・・・・」
 まったく役に立たない。
 「あ、それじゃ、すいません、一曲お願いします。“イマジン”歌ってくださいよ!」
 「ならぬ・・・あの世の掟でな、歌って踊るなど、楽しいことは全部禁じられておるのじゃ。・・・だが、そなたがどうしてもと所望するなら仕方がない。ホレ」
 差し出されたイタコハットになけなしの千円を喜捨する観客。イタコはキレッキレの恋ダンスを披露、大受け。

 さすがに馬鹿らしくなって、その場を去ろうとする中学生様御一行に、横合いから不吉な声が飛んだ。

 「待て!そこのおぬし、半端なく呪われておるな!」
 
「エ・・・?!あたし・・・・・・・?!」


 呼び止めたのは、齢百をとうに越えているだろう皺だらけの年寄りだった。さすがにこの年齢では観客受けする派手なパフォーマンスなどできない。つまりは本業で食ってる、本格派の霊媒師のようである。白装束に真っ赤な帯を締め、腰に無数の榊を差し、額に大きな鏡を巻いている。ご丁寧に、宗派無視で七星の宝剣まで持参だ。
 主人公は、さすがに(こりゃヤバい・・・)と蒼ざめる。

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(※レノンさんの通称“イマジンピアノ”のレプリカ。世界平和を祈って購入)

呪いの21、恐山にて本格派のイタコにィ~ 先方から率先してェ~営業をかけられるゥ~呪い

 齢ふりたイタコは、痰の絡んだ嗄れ声で、
 「おぬしの背後にドス黒い因果がとぐろを巻いて、瀬戸の渦潮みたく雪崩をうち、のたくり廻っておるわ!尋常な業の積み重ねではない。つまりは、一代で築ける資産ではない。
 さては、おぬし、エエとこの娘さんじゃな・・・?!」

 「はァ、聞くところによりますと、私の先祖が悪い武士で、その昔あこぎな手口で年貢を搾り取ったとか、領民をガンガン虐殺したとかいいますが・・・・・・」

 「そこじゃ!そこがポイントじゃ!
 親の因果が子に報い、孫子代々にまで影響を与える。メンデル遺伝子の法則じゃ。
 だが、よいか、おぬしは全然悪いことなどしていない。罪なき子じゃ。これまでの人生でも、ハエとかカエルくらいしか殺したことがない」

 「いえ、ネコとかなら・・・・・・」
 ネコかい!中型動物かよ!」
 「あと近所の幼稚園児を砂場に埋めたりとか」

 「殺人鬼やないかい!思いっきり残虐殺人の血統が後世に伝わっとるやないかい!
 おまわりさーーーん!!!」


 「ま、子供の頃の話なんで、砂の掘りが浅くて相手が死ななかったんで、一緒に遊んでた子がその子の親を呼びに行って発覚、えらく怒られたんで、これはギリでセーフ、ノーカウントかな、と・・・・・・」

 「アウトです。
 そういうイリーガル体験を不用意にネットでつぶやいたりすると、炎上のもとだから気をつけよう!
 ・・・・・・(ふと我に返り)・・・まぁ、いい。おぬし自身に大した罪がなくても、先祖の因果で呪われる。不条理も不条理、吾妻ひでおの『不条理日記』じゃ!」
 「はァ・・・?それが言いたかったの?」

 「と、も、かーーー、く!
 おぬしは依然として呪われておるぞ。第一話でうまく呪いをはじき返したつもりであろうが、拡散した呪いは方向を変え、関係ない第三者まで巻き込んでさらにパワーアップ。再び鉾先をおぬしに向け襲ってくるであろう。そこのお前!」

 指さされたのは、実は内心主人公を好きなクソデブ。中学生グループの地味な端役。
 「オレすか?!」

 「確実に死ぬぞ、三日以内。濃厚な死相が出ておる。
 防ぎたくば、これを買え」

 渡されたものは、無数の数珠を連ねた複雑怪奇なオブジェだった。なんか撚り合わせてるのがボサボサの茶色くなった人間の髪の毛みたいに見えますが。

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 「スー~パァ~数珠ゥ~~~!!!」

 老婆は、大山のぶ代のドラえもんみたいな口調で宣言する。
 「数珠に数珠をトッピングし、念の強度を大幅に倍増ししましたー!他社製品の4.6倍!さらに不慮の死を遂げた高名霊能者の遺髪を無断借用!」

 「あかんやん!!」

 「まさに子供が夢に見そうな呪われた逸品!今なら初回限定特典として、霊界の裏がわかるイタコの秘密トークがぎっしり詰まった特選マル秘CDをプレゼント。お申込みはこちら、お近くのイタコまで・・・!」

 もちろん買わなかった。立ち去ろうとする中学生御一行に向かって、イタコは悲痛な声を上げた。
 「わかった、わかった。おばあちゃんが悪かった。最後にひとつだけ言わせてくれい。
 お墓参りは頻繁に、先祖の霊は大切にな・・・!」

 ふたたび関連ワードに行き当たった主人公、突然キレて、振り向くや否やイタコの首を締め上げる。
 「ぐぐぐ、ぐるじいぃぃぃ・・・・・・!」
 「ソレだよ。まさに、ソ・レ。
 待ってたぜ、ババアのその言葉。俺たちが高い交通費払って、この胸糞悪い場所に来たのは、まさにババアからその言葉を聞きたかったからなんだよ!」

 傍らの墓石を蹴り上げる。
 「さんざん待たせやがって。この野郎。男の気を引く売春婦じゃあるまいに。
 てめェ、さっさと吐きやがれ。どうすりゃ先祖の呪いをブッ飛ばせるんだよ・・・?!!」


 「エ・・・ブッ飛ばすんですか?」
 黙って聞いていた主人公の女友達が口を挟む。「それ、ちょっとおかしくないですか?そんなことしたら、かえって呪われちゃいますよ?!」
 主人公は忌々しげに舌打ちし、
 「ケッ!オメェはいつもうるせぇんだよ!この、ブサイク小町。万年オカチメンコが。
 呪われてるのは、オ・レ!他でもない、このオレなんだよ!
 霊障だかなんだか知らねぇが、ある日理由もなく突然呪われてみろよ。メシだってまずくなるし、いい加減、アタマくるじゃねぇかよ。

 そしたら、どうする?ん?どうすンだよ?
 そりゃ呪いの大もとを吹っ飛ばすしかねぇだろうが・・・?!
 それしかやり様がねぇだろうがよ!!!」


イタコはあまりの無謀かつバチ当たり発言の連打に怒りでワナワナ震えながら、
 「この神聖な場所で何を抜かす。歴史を敬わぬ不心得者め。積み重なった因果の雪崩に巻き込まれて死んでしまえ!」
 「ケッ!」

霊場に唾を吐き捨てた主人公、
 「ケタ糞悪いクソ婆ァ、知りたきゃ教えてやるけどよ。こちとら、あやうく死ぬ目にあってんだよ。あんな高熱、3日も続けば普通の奴だったら溶けて死んでますよ。
 先祖の因果だかなんだか知らねェが、俺にどんな非があるってんだよ?学費だって給食費だって、ちゃんと納めてますよ。期日通り。
 霊だかなんだか知らねぇが、そういう、地味に真面目一辺倒にコツコツ生きてきた一介の中学生の生命を、勝手に奪っていいって法律はねぇだろうがよ。あァ、この腐れマンコが!」
 ぐいぐいババァを締め上げた。
 「く・・・・・・苦しい・・・・・・」
 
「死ねや、バカ!!!

 
「・・・わ、わかった。おぬしの怒りももっともじゃ。ここはひとつ、協力しようではないか。実はな、おぬしの呪いには、裏がある」
 「へ?」
 
「おぬしを呪っておる具体的な相手がいるということじゃ。そいつが誰か、わしの力ではとうとう突き止めることができなんだ。しかし、方角と地名だけは読み取れた。
 ここより東南東、××県の落穂村へ向かえ!その方向から激しい呪いの電波が飛んできておるぞ・・・!」


 あっけにとられた主人公、思わず腕の力を緩め、ブツブツ「東南東・・・」などと呟いていたが、
 「それを早く言え、この野郎!」
 
ババァをさらにボコボコに叩きのめしてしまった。
 それから、おもむろに背後に声を掛け、「行くぞ、落穂村!」と呟いた。後ろの連中は「はい・・・」と小声で返すしかなかった。

呪いの22、そんな一行の背後にィ~ 寄り添う~ナゾの黒い影のォ~呪い

 ・・・だれ?この期に及んで新キャラ?
 
■最終話、血戦!血みどろ村

ぴゅーーーんと飛ぶ生首。あがる血飛沫に深紅に染まった破れ障子。その向こうで高笑いする落ち武者の死霊。落ち葉をコンスタントに踏みしめながら、たたたと駆け寄る白装束の若い生娘と、髪振り乱し鉈を中腰に構えた醜い老婆。鬼の面。神社。石段から石段へ飛ぶ晴れ着姿の幼女は、黴の湧いた千歳飴の袋を振り回す。被った手ぬぐいの中から野獣の欲望を滾らせる百姓風情。狂った代官。野武士の群れ。蟹。イカ。山羊。タコ。つるべ落としの井戸には、行列する身投げ人。絶叫は果てしなく暗い森に消えていく。鎌の如く細い三日月は地上の出来事をこれ以上見まいと雲に隠れた。

 「・・・っていう時代錯誤な予想をしながら、ローカル線に乗り、バスを乗り継ぎ、こわごわここまで来てみましたが・・・・・・・」
 主人公(とお供の中学生一行)は峠に立ち、眼下に広がる落穂村の全景を眺め渡していた。
 「こりゃ普通に田舎の村じゃん・・・」

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 前方に広がるのは、山間の猫の額ほどの平地に建てられた、家屋も数軒しかないような侘しい寒村だった。狂った長者の黄金屋敷もなければ、無限に続く葡萄棚も醤油工場もない。そりゃもう、なんの変哲もない普通の家屋が貧乏そうに寄せ集まって、ちいさな集落を形成している。
 ところどころに、草生やした電柱が傾ぎながらニョキニョキ突き出していた。
 
 「いや、そもそも田舎の村にやって来ておいて、わざわざ“普通に村じゃん”というのもどうかと思うよ」
 利発そうな女の子が言う。メガネキャラだ。
 「住人の皆さんに失礼でしょうがよ」
 「これが本当に危険な村なのでござろうか?」
 柔道着を小脇に抱えた体格のいい、碁盤みたいに四角い男が足を一歩踏み出した。途端。バシュッと空気が弾け、巨躯がもんどり打った。「痛ッ!」
 頬が軽く切られていた。押さえた指の間から血が滲む。

 一同、無言になった。
 思わず柔道着を取り落とした男が、それを拾う。メガネの少女が考え深げに周囲に視線を配る。主人公は黒いセーラー服のポケットに入れてきている数珠をまさぐった。
 やがて、異様な雰囲気に堪りかねた主人公の友達が口を開く。

 「なに・・・?今の、なんだったの・・・?」
 「結界ですね」
 メガネの少女が事も無げに言い放った。
 「それも、けっこう強力。普通は、通るときゾクゾク悪寒がするとか、嫌な気分になる程度。さっきのあれは実体化が進んでて、ほとんど目に見える」 
 「エーッ?!」
 「うーーーむ。常時張られてるものでもなかろうに。何者か、われわれの接近を察知しているやつがいるようでごわす」
 「これ、破れるのかしら?」
 メガネの少女がそっと空中に指先を突き出す。チリチリと痛みが走り、慌てて引っ込めた。
 「うわ、きつい」

 打つ手に困って進みあぐねていると、道路の向こうから車が一台やって来て、傍らに停まった。
 無造作に路駐だ。
 「やぁやぁ、ボクたち、クソ大学生だヨ!」
 「Yo,Yo,Yo,Yo、ハイパーYoYo!」

 見るからに軽薄そうな、馬鹿面の男がふたり降りてきた。WiFiでキーが閉まる。男達はいずれも20歳くらい、紺のヨットパーカーを着て金の指輪をジャラジャラ鳴らし、鼻の穴にはピアスを嵌めている。

 「季節はとっくに春を迎え、ご卒業・新入学のシーズンとなりましたー!
 大学というのは因果な商売でしてな、休みが掃いて捨てるほどどっさりある。夏休みは異様に長いし、9月になってもまだまだ授業始まらんし、12月にはさっさと休講続出、2月は受験が始まりもうやっとらへんし。じゃんじゃか休みがもーりもり。さつきがてんこもり状態、ですわ。
 そこでふたりで愉快な旅に出た。卒業はまだ先ですけん、セックスするか旅行にでるか。究極の二択問題を突きつけられてのやむ得ない結論ですねん」
 「Ho-Ho-Ho、おしめ無い子はいねーか?!食っちまうゾー、ZO~ZO~タウーンホームページ!」
 そっくりの見掛けだが、片方は完全には喋れないらしい。

 「SNSやTwitterの拡散情報から、ここが噂の呪いの村らしいと突き止めて、度胸試しに心霊スポット行っちゃう暴走族カップル並みのフットワークの軽さでやっては来てみたのじゃが・・・・・・」
 鼻を引くつかせ、
 「何の異常もないじゃん。詐欺じゃんこれ。こんなんだったら金返せよ!」
 「So-So-So、100%そうかもね!」

 「なんですか、あなたたち」
 メガネの少女が冷徹に言い放つ。
 「あんまり調子コイてると、しまいに泣きを見ますよ」
 「なんだと、オラ!俺たち、慶応大経済学部2年の渡辺陽太容疑者(22)並みに女性に対する扱いには容赦が無いんだぞ、コラ」
 主人公は、呆れて手のひらを宙に向けた。お手上げというやつ。
  
 「ホーーーーヤラ、ホーーーィ!ホーーーヤラ、ホーーー!」
 「セイ、Ho!セイ、Ho-Ho-Ho!」

 ふたりは突如奇声を張り上げ、村へと向かう小道を歩き出した。思わず息を呑む中学生一行。柔道着の男がゴクッと唾を飲みこむ。

 「あ、結界をすり抜けた・・・!」
 踊り狂う頭のいかれた大学生二名は、特に身体に異常を起こすこともなく、手足を激しく乱舞させながら村へとそぞろ歩いて行く。
 「・・・・・・どういうこと?」
 メガネが首を捻る。
 「真のアホパワーを持つ者には霊界の力もまともに働かないのかも。呆れて」
 「そんな安直で都合の良すぎる設定、聞いたことないよ」
 「しかし、現実にああして無事に歩いて行きおるぞ。どういうことだ。・・・えい、イチかバチかじゃ。わしらも」
 柔道着男が踊り出した。
 「♪踊るアホウに見るアホウ、同じアホなら踊らにゃ、そん、そん!」
 女子ふたりは明らかに嫌な顔になったが、考えてみればこの記事も連載を開始してもうじき一年だ。いくら長いとはいえ通常執筆に一年は掛かからんでしょ。一年といえば小学5年生が6年になるぐらいの時間ですよ、ちょっとした会社なら部門で億単位では売り上げてますよ、産まれて死んだトンボが何万匹いるかわからん数字ですよ、そういったやむ得ぬ事態を踏まえ、泣く泣く後に続いた。
 「いーやー、さっさー、いーやー、さっさー、よいよい、よいよいー!」
 「♪足柄山のォ~大将はァ~」

 先ほどまで恐るべき結界を形成していた霊界のパワーは、明らかにひるんだようだ。踊り狂う男女に襲い掛かる節もなく、彼らは極めてご陽気に呪われた村へと侵入していった。

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