« ジーン・ウルフ『書架の探偵』 ('17、早川書房新 ハヤカワ・SF・シリーズ) | トップページ | 美里真理『 巨乳コレクション Vol.1』(1994、黒田出版興文社) »

2017年10月 1日 (日)

『三惑星の探求 (人類補完機構全短篇3)』(’17、ハヤカワ文庫SF2138)

 やっぱこの表紙でしょ。
 51muiqlixjl

 「なんだコレ?!」と思った方、中一の冬に「SFマガジン」1980年1月号でこの絵を見た私もまったく同じ心境でございましたよ。空気タンクを背負った馬、宝石の崖、ジャンプして飛びかかる虎に扮した谷津嘉章なんか知らんがこの本凄いんじゃないのか。内容がまったく想像できない。得体の知れない期待にワクワク。
 そして、あれから37年後(長い)、日本語で現物を読んだ正直な感想は、「この話、あの絵まんまだったんだ!」という、半ば呆れて途方に暮れる不可解な感覚でございました。

 コードウェイナー・スミス!博士号を持つCIAの手先!
 
米SF業界最強の隠れレジェンドにして、病弱なる男。人生の半分以上は病院送り。存在自体が徹底してカルトであり、書いた作品は全部残らずオタ妄想の先駆け。
 だって、実際スミスを読んでみますとね、「世界観」だの「架空未来史」だの「(動物から創り上げた)妄想美少女」だの、現代日本のアニオタとしか思えない、物凄い要素が満載なのでございます。私はスミスの作品に蔓延する美的センスを、完全にアウトサイダーアートに近いものとして捉えている。絶対ヘンだよ、この人。
 ただ、日本のオタが単純に引きこもりながら妄想紡いでいるのに比べますと、同じ妄想でもやっぱし国際的。得体の知れないスケール感がある。時間の単位だって最低1万年刻みで、これまた無駄に規模がでかい。宇宙も最低3つぐらいありますよ。太っ腹。
 あと作品全体に漂う異様な病院臭さね。
 メジャーデビュー作「スキャナーに生きがいはない」からして、超人体強化手術で改造人間にされた男のマン・プラスな苦闘を描いた衝撃作だったわけですが、ほかにも人体を混ぜてグジャグジャのスープにしてしまう、諸星大二郎チックな流刑惑星シェイヨル。主人公が目覚めると必ず真っ白い病室にいる名作『ノーストリリア』など、枚挙に暇もございません。
 そんな中で、本書「嵐の惑星」における最大のショックシーンは、寝たきりのじいさん(9万歳)を動物美少女が手コキでイカせる場面。じいさんはなにせ9万年も寝てるすごい人ですからして、血行がかなり悪くなる。内分泌系だって衰えてくる。そこで手コキ投入ですよ!発想が現代すぎ。一万年分溜まった精子をあっさりメカで吸い上げたりしないんですよ!そこらへんにスミスの衰えない人気の秘訣をみるね。

【あらすじ】
 人類が宇宙に進出して数万年以上経過した未来。人類補完機構なる胡散臭い巨大組織が無数の世界を統轄しているが、その実体はよくわからない。・・・って、これはもう、スミスの残した全作品読んでみてもわからないのだからして、作者自身もわかっていなかった可能性がある。でも巨大すぎる権力機構ってのは往々にしてそういう性質のもんじゃないのか、まぁいいじゃないか、俺はSFを読みたいんだ、楽しみたいだけだ、という意見もあるだろう。われわれの頭は頑迷に地球的すぎて、無限に広がる大宇宙を前にすると、認識の限界に対してすぐに不可知論者に成り果ててしまう。
 だが、それが別に悪いワケでもなし。
 おそらくスミスも同じ様に思った筈で、つまりは突飛な空想、拡げたままの風呂敷は拡げっぱなしでかまわない。オチなんかなくたっていい。空想のワンダーランドへGO!
 宝石の惑星は宝石だらけ!砂の惑星は砂だらけ!ということは当然、嵐の惑星はガンガン嵐が吹きまくり!
 事象と説明はシンプルな方がいい。しょっちゅう原因不明の猛烈な嵐が吹きまくり、人も車も飛ばされて、犬やらサルやらクジラまでもが宙を舞う(マンガみたいな)素敵な惑星にやって来た主人公キャッシャー・オニール、彼はある種の政治的亡命者。軍事独裁政権に乗っ取られた故郷の惑星を解放するため、宇宙戦艦を数隻借りにやってきました。
 本件、行政を司るエラい人に相談したら、少女をひとり殺してくれたら、お前に全面的に協力しようと言われる。
 「・・・え、マジ?女の子ひとり殺すだけでいいの?」
 色々あって苦労しているキャッシャーくんの倫理観、かなり緩んでいる。
 「そうよ」
 飲んだくれでアル中の司政官(®眉村卓)は手をブルブル震わせながら、目を向ける。
 「ただし、確実に仕留めてくるんだゾ。いままで刺客を百人以上送ったが、だれ一人還って来なんだよ」
 かなりJホラー的な怪奇と謎状況に包まれた少女の棲む屋敷「果無館」に向かうことになったキャッシャーくん、行政庁が出してくれたタクシー運転手は、これまた不気味な、全記憶を完全消去されクルクルパーになった重度犯罪更生者。まったく何した奴なんだコイツ。へこむニャー。
 「あ、気をつけてください。このへん、シャチが空から襲ってきますんで!」
 って感じで、道中明るく楽しく館に辿り着くと、笑顔で出迎えるのが亀を人間にトランスフォームして完成したという動物系美少女。瞬間、車を飛び降り、ナイフを握りしめて飛び出すキャッシャー。仁義なき戦い、抗争の火蓋は切って落とされた!
 と・こ・ろが。
 彼には使命を全うすることはできなかった。
 少女は、“愛”によって武装されていたのである!

 この話は、たぶんグンバツに凄くて、実際面白いので、読者は『三惑星の探求』なんてペリー・ローダン物みたいなタイトルに惑わされることなく、実際手に取ってから呆れてみるといい。このあとも狂ったゴー・キャプテンとの対決だとか、盛り上げる盛り上げる。亀少女なんてのも、なんで美少女をこしらえるのにわざわざ亀なんて動物を選んだか、そりゃ結局、「亀は万年というでしょ?」ってとこに落ち着く箇所なんて、実にエスプリ、とんちが利いてる。
 スミスの良さって、こうした哲学的事象をオブジェの域にまで具現化し昇揚してみせる、強引な力業にあるんだと思う。これっておとぎ話の語り口だよね、既に。すべてが薄っぺらいことに徹する凄み。表面にこだわってますね、相当。
 そうすると、スミス界もう一人の巨匠、E.E.を語ってるみたいにも聞こえちゃいますけど、E.E.にはドロシーちゃんのセクシー水着とボディペインティング、要は着エロはあるけど、手コキ描写がない。縄跳びで股間をこすり上げても、実際液は出してない。その差は極めて大きいって気がします。おしまい。 

|

« ジーン・ウルフ『書架の探偵』 ('17、早川書房新 ハヤカワ・SF・シリーズ) | トップページ | 美里真理『 巨乳コレクション Vol.1』(1994、黒田出版興文社) »

かたよった本棚」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『三惑星の探求 (人類補完機構全短篇3)』(’17、ハヤカワ文庫SF2138):

« ジーン・ウルフ『書架の探偵』 ('17、早川書房新 ハヤカワ・SF・シリーズ) | トップページ | 美里真理『 巨乳コレクション Vol.1』(1994、黒田出版興文社) »