小松左京『果てしなき流れの果に』 (’65、早川書房ハヤカワ文庫JA1)
『・・・目覚めよ宇宙飛行士D・・・!
宇宙飛行士D・・・・・・!!』
突然スピーカーのボリューム最大値で飛び込んできた緊急通信に、寝棚に転がる男は大義そうに頭をもたげた。
「んーーーー、なんやねんな、キミ。うるさいなー、たいがいにしなさい」
空電音。多少の躊躇があって、
『こちらヒューストン。非番の時に申し訳ないが緊急事態だ、宇宙飛行士D。実はな、太陽系にまた新たな危機が迫っているぞ!』
「・・・・・・これまで、お前の伝えてきた事態が緊急だったためしなぞ一度もないわ、ドアホが・・・!」
モゾモゾ寝床に潜り込む音。
「宇宙も危険も、もう全部卒業。ボクはもう、そんなアホな世界とは金輪際オサラバしたいんや!放っといてちょ!」
『どうか堪忍してやってつかぁさい!』
影響を受けやすいヒューストン管制センター、悪乗りしておかしな訛りになり始めた。
『随分前に始めたこの連載「宇宙飛行士D」シリーズ、ピルクスまでは届かなくともせめてランスロット・ビッグスぐらいは目指そうと、志高く意気軒昂、『2001年』ミーツ・キャプテン・ケネディ、そんな維新の志高い薫風香る名作群をここまで放置し野晒し荒れ放題、苔のむすまで生えるまで、千年紀の長きに渡り留守にしてもうたンは、まったくもって、マルっと、オール・オア・ナッシング、もといオール・スルー・ザ・ナイト、ザッツ・オール、ワテの責任だす。ホンマにすんません。すんません。すんません。関西きっての豪商たるおまはんでありながら、勝手に某ロートル歌手の応援団長買って出て、なにトチを狂ったこの人生。共に歩むと決めたのに、最後まで、終いまで歩み切れなんだのは、ワテが、ワテが、ワテが、全てあけまへんのんやーーーーーーー!!!(号泣)』
「なにを言っているのか、全然わかりません」
不穏当な発言に敏感な宇宙飛行士Dは、恐ろしい程クールに言い放った。「話が全然、目蒲線・・・・・・!」
語尾が殺意を孕んでいた。
鉄道越しにやばい気配を感じ取ったヒューストン、
『・・・しかし、アレですね、話は飛びますが、最近ツレが電子タバコを購入しましてねー』
「ふん、ふんふん」
『アイコスとかじゃなくて、ニコチンレスのリキッドタイプ。あの、簡単に言いますとベープマットみたいな感じのやつですわ』
「その喩えもどうかと思うが。ま、作動原理はたぶん同じだよね」
『これがなかなか優れものでしてね。USBで充電しちゃうわ、長押しで爆煙を噴き上げるわ、近所のバァさん平気で犯すわ』
(非常にウケて)
「ゲフフ、ババァーは犯さねぇだろーがよ、ババァーは、さ!!!」
『と思ってすっかり油断してましたら、先日うちのカミさんとベッドに入ってました』
「ギャッフン。って、今回は落語オマージュか。小朝か」
『ま、電子は寝タバコ可。とことん便利ってことで。しかし、話がちっとも前に進みませんな。これじゃ真剣に情報を知りたい、真面目な小松左京ファンの殺意をますます買うばかりではないか。Oh、なんたることだ』
「お前は、そらぞらしいんだよ。小松のこと、嫌いなんだろ?」
『・・・ええ。『さよならジュピター』以来です』
【あらすじ】
「昔のことは水に流そうぜ!」が通用しない、極めて不便な世界。
時間と空間はペラ一枚の平面図のように、アジの開きのように伸ばされ、その構造を理解し利用できる者たちによって勝手に管理されるようになっていた。その具体的方法は40世紀ごろに確立されたらしいのだが、細かい説明は実はない。全然ない。まぁ、ポール。アンダーソンの時の歩廊的なもんだろう、未来の超技術をいちいち説明できるもんか、するもんか、それより思考実験だ、という読者に対する甘えが感じられる。
(その無駄な説明をあえて蜿蜒とやるのが、SFってもんの本質じゃないのか?)
ということで、本来なら長大かつ膨大過ぎる内容で、誰も読めない、作者も書けない筈の内容を「ダイジェストでお届けしています!」
「んーーー・・・・・・」
長い沈黙の後で、Mebius 1mgメンソールの煙を吐き出して宇宙飛行士Dは溜め息をついた。
「ま、この、別段深い話でもないのよ、って感じだよなー」
『ストーリー詳細は、よそのブログに細かく記述してる人がいるから参照してください。アタマのつかみで最高潮まで盛り上げて置いて、あとはトントンっていう印象に終始します』
「超進化を遂げた遠未来の知性による非人間的歴史操作計画ってのがストーリーのバックボーンにある訳でしょ。だったら、もっと人間離れした非情さを見せつけないと。ここで出てくるバイオレンス要素は、21世紀の避難民を原始時代に置き去りにした程度」
『ともかく、いろんな時間線を追っかけこする必要がまったくないよねー』
「第二次世界大戦パートいらねー。1963年アメリカとか酷すぎ。特に後半部、どのエピソードも枝葉の膨らませ方が中途半端すぎだろ!」
『あれは確か堀晃だったかな、角川文庫版「ゴルディアスの結び目」解説で、小松さんはとにかくいっぱい引出しを持ってる。“破滅”って言うと、“あいよー!”っつって投げ返してくる。“セックス”っつっても“あいよー!”って(笑)
でも、俺の断固たる見解として、引出しの数はともかくとして、恋愛描写、性描写の一本調子さは笑えない。ちょっと真剣に耐えがたいレベルなんですよ。全部、「ジュピター」の無重力セックス場面と同じ(笑)陳腐極まる』
「浅いね確かに。ここはやっぱシルバーヴァーグで(笑)」
『ヒューストンよりD。浅すぎだろ!!
そういや、シルバーヴァーグ「時間線をのぼろう」のSFM版、伊藤典夫訳が出てましたね。「破壊された男」といい、典夫遺産は最近続々と発掘されてますね。
・・・ハテ「時間線」って、一体どんな話でしたっけ?』
「先祖をコマして、おのれの存在を消される話。藤子Fの大人向け短編か、いや『T・Pぼん』だな。『ぼん』の一エピソードです」
『ヒューストン了解。まとめっぽくなるけど、壮大な時間や空間を廻る話って、規模が大きければ大きいほど具体性が薄れていくんだよ。想像力に乏しい俺なんかは、すぐに付いていけなくなる。バカでもわかる明確な図式の提出と、個々のエピソードにちゃんとしたオチがつかないと。
そういう意味では、野々村のエピソードの回収のしかたって、かなりFっぽいよ。Fに強力な影響を与えたんだと思うな、きっと』
「Dよりヒューストン。ヒョンヒョロ~ってか?」
『それは違うだろーが、それは!!!』
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