高遠るい『みかるんX①』 ('08、秋田書店チャンピオンREDコミックス)
ここはすべてが都合のいい世界。
読者にとって真に都合のいいことに、登場するなり主人公のミニスカは捲れあがりそうだ。いたずらな春風が街路を吹き抜けて、長くスラリとした太腿がローアングルからまる見えになる。
ウ~ン、いゃ~~~ん。
彼女は小柄でシャイでスレンダーなロリ系ギャル。髪の毛、黒。(詳しくは後述するが、この世界において髪の毛の色はキャラクターの属性を示す重要なファクターである。)
地方出身者の彼女が新たに通うことになった高校は、新入学の時期であり、つまりは彼女は新入生であり転入生でもあるという、実に甘酸っぱすぎる設定である。
はァ、はァ、はァ・・・・・・ツバごっくん。
そして、その舞台設定たるや「うら若き乙女ばかりが無駄にウヨウヨいる恐怖女子高」であって、しかも「完全寄宿舎制からなる神聖な女の花園」でもあるという厳正なる事実は、これはもう、神が定めたもうた絶対意志とでもいうべき、崇高な運命の成り行きであって、さらに、その場所で宿命的な衝撃の出会いをする相棒役の少女が、巨乳でイケイケな行動派ギャル、髪の毛・赤であることは、物語の登場人物が残らずある種類の卑俗な期待値に添ったロールにより厳密に分類され配置される、古代ギリシャより伝来しさんざん使い古された、全国民的美少女コンテストが如き超広域コンセンサスに基づく二律背反黄金律によりまして自動的に算出、決定されていると断言してしまっても、全然まったく徹頭徹尾、問題のある表現ではありますまいよ。
つまりは、閉鎖世界だ。これがよくある設定であることを作者は知り抜いており、ゆえに私たちもよく熟知している。並行宇宙のように無数に存在する男子禁制の女学園は、往々にして歪んだレズビアニズムのよき温床であって、素敵なお兄様に憧れる無垢な妹キャラの発生母体である。
かくて、われわれがあっけにとられてシーンの繋がりを、断片的に切り出される情報の連鎖を眺めて観ていくうちに、地球は宇宙からの侵略というわかりやすい脅威にさらされ、少女たちは秘められた能力を発動し、敵を打ち破る。
これって、なに・・・・・・?
「あぁ、それって、アニメだよね~」
そう物分かりのいい方はおっしゃるだろう。確かに、われわれはこういうものを長年観てきた。見せられ続けたといってもいい。あまりに氾濫しすぎて、もうすっかり慣れっこになってしまった。だが、よく見りゃこれって異常の連鎖じゃないのか。あんたら、全員おかしいよ。
アニメ、もしくはアニメ的なものとは、現代日本に生きる私たちに深く刺さった病根である。
私はあえて、今更ながらにこれを分析し、ささやかながら治療を試みんと、フト日曜の朝起き抜けの寝惚け眼で思い立つや否やこの面倒な文章を書き始めた。
こんなことして何が面白いのか。それはもう忘れた。
わが師匠フロイト・デロイト・ロス・とど松の、精密かつ高度かつ大雑把な分析によると、アニメ的なるものとはふたつのフェイズから成り立っている。
外的要因と内的要因だ。エイ、わかりにくい。
1)ビジュアルに関連するもの
2)プロット、ストーリーに関連するもの
これでどうだろうか。ちなみに「世界観」ってのは2)ね。
キャラクターってのは1)と2)の混合によって生み出されるもの。「外面が内面を規定する」、もしくは「内面は外面に影響を与える」。これって本物の精神分析の教科書にも載ってましたね確か。意外と学あるね、俺ね。とっても楳図かずお的だよね、ホラ、『うろこの顔』だよ。
でね、アニメなるものが不愉快である歴然とした理由というのがあって、それがとっても誰かに都合がいいように出来てるからなの。その都合の良さが単なるビジュアルの趣味に留まらず、物語の構造、キャラクターの内面を侵食するとき、限界を越えた人は不快を叫ぶ。が、安直でわかりやすい快楽構造は、それでも観客の内面に忘れがたい傷を残す。
でも、そんな世界は、本当はどこにもないんだよ。
もう、ホント、それだけ。
この関係性を考えるとき、すぐ思い浮かぶのが、例えば押井守『うる星やつら2・ビューティフルドリーマー』なんだけどさ。あれは意図的にやってみせた構造の抽出劇だったんでしょうけど。かなり歪んだ作劇になっちゃってるし、説明不足も甚だしい。
ネタ元はディック『宇宙の眼』で、ブラウンの『発狂した宇宙』で、根本はホラーなんだ。そして誰もいなくなる系の。だんだん登場人物が消滅していって、最後に主人公がポツンと虚空に放り出される。そして、昏睡状態のガールフレンド。彼女は夢を見続ける。美しい夢を。
この世界が誰かの夢、妄想だったとして、果たしてその内部に囚われた人間は幸福なのか。
これね、このテーゼ、本当いいとこ突いてるんだけど、押井はホラ、アニメの側の人だからさ、最終的にその世界を肯定しちゃうわけ。あの世界全体。なんだかんだいっても、結局好きなんですよ、あの人。だからいまだに作り続けてるんでしょうけど。
俺はイヤだね。やっぱり。
ね?
こんな風に、この文章を早めに打ち切るなんて準備不足、説明不足もいいとこだけど、細かい話はまた今度。さっさと寝ないと明日は、明日の仕事が待ってるしさ。
もうすぐ三月だなー。
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