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2016年10月15日 (土)

有森麗『花汁の舐め方』('93、マドンナメイト・ハード マドンナ社)

 これは難解な本だ。
 まず題名の読み方からして不可解である。かじゅう?はなじる?・・・え、鼻汁?
 勝手に出版社側の意図を汲むなら、「あのさ、花の蜜とかって表現あるじゃない?あれにならって、独自に命名してみたんだよねー、ラブジュース。和訳して毎回愛液、愛液じゃあさ、正直紙面が持たねぇんだよ!クリが花芯なら、溢れ出るのは花汁だろーがよ!100%果汁とかも連想させて売れ行きアップ!読者諸賢のムスコも仰角度アップだ!」
 なるほど。
 しかし、オリジナリティーを追求するあまり、読み方が別種類の体液とかぶっていることに気付けなかったのは編集会議の致命的な失策といえよう。私の頭の中では、中学時代に目撃した、青ッ洟をすするというか喰っていたジャリっ禿げのクラストメートを捉えた衝撃映像がフラッシュバックし轟沈。いや、轟チン。

 マドンナ社の刊行タイトルはこうした、いずれも「史上最強の土方センス」とでも形容すべき、昭和臭濃い品性下劣さに溢れていてかく凄まじいのであるが、その濃厚一辺倒、ハードコアすぎるアチチュードには往々にして意図せざるマヌケさが忍び込むようで感慨深い。
 宇佐美奈々の本の題名は、『巨乳なぶり』である。「嬲り」を読めない子が増えている文化状況に憂慮した結果、そこに刺身が紛れ込んでしまった。
 あるいは『館淳一の黒い巨尻』の存在をどう解釈すればいいのか。フランス書院でもお馴染みのベテランポルノ作家・館先生自身がお持ちの巨大な尻を、そこに一面びっしりと生えているであろう黒々したケツ毛のジャングルをいやがうえにも連想させるではないか。いやいや、館先生本人のことはまったく存じ上げないのですが。勝手に決めつけてる。
 しかし以下に挙げるタイトルは歴然と意味不明であり、トマソンの如く俗人の理解をきっぱりと拒む。
 早紀麻未『姦す いたぶられた密室』。

 ところで、有森麗というソープ嬢あがりのAV女優が主演するこの本(文庫版写真集)には、明確なストーリーが存在する。
 なんでって、その理由は後ほど述べるとして、まずは素晴らしすぎるその物語世界をご紹介しておこう。

【あらすじ】

第一章、店長の熱い舌先にあえぐ閉店後の下半身セクハラ
 
有森麗はウェイトレス。ウェイトレスといえばミニスカ。ミニスカでないウェイトレスなどウェイトレスではない。制服はピンクのサテン生地を大胆にカットし、激烈に安い夜のエロスを醸し出す。
 プロの職業ウェイトレスである有森は、前職・岐阜県金津園のソープランド勤務を辞め、現在はここ新宿歌舞伎町に来ている。店は無認可風俗店であるが、喫茶は喫茶だ。飲んで、かつ豪放に出せる喫茶店。なんか「オッシャレ~」で、話のわかる感じである。
 この店では、客はすべからく“店長”と呼ばれる。メイドカフェを訪れる者が“ご主人様“と呼ばれるのと同じ理屈である。(混雑時、店内は“店長”でいっぱいになる。)
 “店長”は店内で意のままに振る舞うことができる。サボって酒飲むもよし、床一面に張られた鏡を使ってウェイトレスのスカートの中味をじっくり覗き込むことができる。あるいは彼女を脚立に登らせて、キャビネット最上段に格納されている、ハウスワインのボトルを取らせることだって可能だ。
 いずれにせよ重要なのは、普段は衣服によって外気から遮断されている、彼女自身の秘密の部分を見てやることにある。かなり特殊な規律により、店内のウェイトレスは全員、パンティー着用を許されていないので、スカートの下では毛まんこがすっかりまる出しだってことだ。

 客が入ってきた。
 「コーヒーをひとつ」
 競馬新聞を片手にソファに座る。はげ上がった額に汗の玉。真っ白いフロアに白いアームチェア、テーブルまで白。室内は気の狂いそうな清潔感に溢れている。
 「おかえりなさいませ、店長。ミルクとお砂糖はいかがいたしましょうか」
 「砂糖はいらない。ミルク、濃いめで」
 「承知しましたー」
 彼女は既におしぼり片手に定位置にスタンバイしている。
 「しっかしクソ暑いねぇー。店の景気はどうなの?」
 「そうねぇー・・・ぼちぼちですよ」
 ローションを垂らし、しごき始めると店長自身は経済不況を吹っ飛ばす勢いで勃ちあがった。
 「んー。いいなぁー。絶好調。じゃ、手始めになにか淫語しゃべってみてちょ!」
 「はぁ。では、一丁失礼しまして。おまんこおまんこ、おいんごぼいんご」
 「もっと、でかい声で!」
 「いんぐりもんぐり、ふぐりのむすこ」
 「あー・・・・・・・んー、いいなぁー・・・本当素晴らしき・・・この世界・・・きみといつまでも、僕の妹ならば愛一筋に・・・」
 店長は目を閉じて恍惚の世界にジャックインしている。
 「どうですか。地上で一番気持ちいいですか?」
 「うん、地上で一番気持ちいいですよ。ときに、地上で一番速い動物はチーターだっけ?」
 「はい、チーターですね。さすがの切れ味シャープですね。
 ・・・ん~、キレテナ~イ!
 では、そろそろ、砂利まぜますよ」
 「ハイ、ワカリマシタ」
 赤くささくれた工事用砂利土が混入されると、店長の性感はいっそう高まるようだ。ロープが引かれ、やがて杭打ち工事が始まると、店長の口からは苦痛とも快感ともつかぬうめき声が流れ出すのだった。
 「うぎゃー、うげがー、もけもけぴょ!け、ぴょ!け、ぴょぴょら!ぱー」
 と、みるみるその場には官民問わぬおそるべき最新鋭技術を惜しげもなく投入し超高層建築物が建てられていったのであるが、語るに落ちるその技術的詳細は第二章に譲ることにしようではないか。ってまだ読みたいかこの文章。

 第二章、建築現場に散った恥辱の赤い花びら

 場面変わって、どこぞの建築現場に現れた有森の出で立ちは、頭に原色赤のバンダナ、白のTシャツにネックレスをジャラジャラぶら下げ、ジーンズ生地のホットパンツから太腿突き出し、スポーティヴな通行人を装っている。ロスト原宿系?みたいな。そんな言葉はないか。足元はNロゴの輝くスニーカーで、昨今はみなさん履いてる。
 「あたいは、けっこうハンパないよ!」
 そのセリフからして既に限りないハンパ感が滲み出すが、本人はやる気まんまんなのでまったく気づいていない。自己申告に潜む罠。悲劇は往々にしてこういうところに起因するものだ。
 凶悪にメンチ切って、ツバ垂らしながら歩いてくると、資材置き場の物陰から飛び出してきたのは、黒いつなぎに黒覆面を被った暴漢(それを証拠に、覆面の額に「暴力」と書いてある)。
 「おう、おみゃーさん、コッチ来いやー!!!」
 「わきゃー、なにするんぎゃー!!!」

 尾張か。尾張名古屋は恋の街、などと馬鹿げた歌を口ずさみつつ、有森を羽交い絞めにする覆面男。口は大きな毛むくじゃらの手でしっかり塞がれてピンチ。
 そして、そのまま連れ込まれていった先には、白昼に潜む暗闇が深々と口をあけているのであった。・・・って、まぁ、単に人けのない建築現場ですが。ここでじっくり脱がされ嬲られナブラチュロワ。で最終的にはレイプされるという、まことブリジャール※註1.にけしからんお話で。
 ※註1.マコトブリジャールはJRA所属の競走馬。最近調子いい。次走はエリ女だってよ。
 どう見ても建築施工中の木造民家にしか見えない、壁はまだ吹き抜けの一室で、さっそくぺろんと上衣を捲られて、乳房を剥き出しにされる有森。
 ここでご注目なのは、日付変更線の如く、白と黒とに水着の跡をくっきり浮かび上がらせた褐色の肢体ではなくて、小ぶりな乳房に屹立する、意外とピンクで固く尖った乳首でもなく、苦悶に歪んだ美しい眉間の皺でもなけりゃ、短パンジーンズの裾からはみ出す健康的に締まった太腿でもないのである。
  ポイントは、赤い花びらだ。
 われわれは目を凝らすのだが、それはなんと画面のどこにも映っていない(!)。見どころのない観光名所。「そんなバカな」と絶句するツアー客一同。なんだか詐欺の匂いがする。それでも平気で物語は進行していく。
 白昼、青空をバックに暴力的要素のない牧歌的レイプ。そんなものは童貞か、アルプスの少女ハイジの性的妄想だろうに、蹴りもパンチも飛ばなきゃ唇も切れない、そりゃもう、のんびりとした双方合意の上での性行為が繰り広げられる。(なにせ床にはタオルが敷いてある。)
 一応、ショットとして苦悶の表情はある。涙とかは・・・あれ、あったかな?・・・たぶんない(見直ししない)。要は、「内容は和姦だが、演出は強姦」という珍事の発生だ。いまだったら放送事故ですね。

 「あ・・・あんた、いったい何者よ・・・?!」
 熱い肉棒に内壁を抉られながら、息を弾ませ、有森が尋ねる。
 覆面の下の表情は窺うよしもないが、暴漢はひたすら無言で機械的に腰をつかってくる。
 「ど・・・ど、どういうことよ?!
 ・・・うッ、ぐッ・・・はァァ・・・キモチいいじゃないの・・・はびば、のん、のん」

 暴漢は重々しく口を開いた。
 「・・・ウルセエナ、静かにシロ」
 乱暴に有森を裏返すと、若々しく弾力性に富んだ尻をひっぱたき、背面から貫いた。
 「ぎゃっ!!」
 「オウ、オウ、これはタマランデス。フェルナンデス」

 抽送のピッチが上がったようだ。
 激しく肉棒に突かれながら、有森は目の前の建築資材を這う蟻を見ている。アリさん、アリさん、どこ行くの。アリさんマークの引っ越し社。アリよ、さらば。WHY、なぜに。
 「あッ、あッ、いい、いい、いいヤザワ!!」
 では悪いヤザワはあったのか。
 執拗に舐められ、たっぷり唾液を塗り込まれ、愛撫に意図せざる膣分泌液(つまりは花汁)を溢れさせ、充分潤いきった有森のアソコは、ぴっちゃらぺっちゃら、水木しげる描く妖怪が全力疾走しているが如き、湿った音をたてている。
 思い切り怒張した極太のペニスは、蘚苔色に濡れ染まった肉の内壁に幾度も没入を繰り返し、徐々に、そうジョジョに頂点へと導かれていく。これ以上は危険だ。弾けそうだ。
 暴漢は襲い来る快感に思わぬ弱音を吐いた。
 「ごほほほ、ホンマ、もう・・・カンニンどすぇぇぇぇぇーーー!!」
 「なんで京都弁?実は関西人なの・・・?
 ・・・あぁ、神様、なんで下劣な関西人ごときのチンポがこんなにイイの?!
 あぁ、イイ!イイ!イイ・・・!!
 
イー・アール・カンフー!!!!」

 さんさんと光差し込むサンルーム。睦み合うふたつの影は、設置前の羽目板にくっきり焼き付けられ、淫美なダンスを踊り続けていた。
                 (完) 

 さて、われわれはもう一度、「人間はなぜ物語を必要とするのか」という問題を考えてみなくてはなるまい。
 現代はネットの時代だ。アクセスして検索さえすれば、お好みの動画に行き着くことができる。あなたのちょっと社会的に問題のある趣味でもお構いなしだ。そこにあるのは、かつて映像メディアが展開してきたさまざまな表現形態の集積である。旧来通りのフル動画だって勿論あるが、たいていは断片だ。プロモ素材やサイト勧誘のツールとして、溢れかえるほどのおまんこを目にすることができる。
 断片化された情報は連続して摂取するに都合がいい。
 それはつまり、「ゴーイング・トゥ・カリフォルニア」を飛ばして「天国への階段」を聴く行為だ。そして、「パラノイド」でもなんでもいい、どこまで行っても「天国への階段」は続くのだ。YouTubeをうっかり検索して眠れなくなった体験は誰にもあると思うが、あれはつまり、そういう悪夢の迷宮だったのだ。ま、飽きたら寝ればいいワケですけど。一度は止まんなくなりますよね、「今夜はドント・ストップ」。
 ところで、どんな性行為にも煩雑な手続きがある。そこをスッ飛ばしていきなりハメてる局部のアップから始めりゃ、そりゃ盛り上がりますよ。全編サビですよ。で、知ってる人は知ってるんですけど、全編サビって飽きるんですよ。エロを見続けてウン十年、私の出した見解ですが、どうも人間は興奮するのに無駄な細部を必要とするらしい。
 
 ということで、この本は(予算の都合もありますが)単なる性行為のブツ切り集ではなく、ワンテーマに添って掘り下げるという、版元マドンナ社の姿勢の変化を記録したものになっているであります。「マドンナメイト・ハード」とは、そういうこった。
 それがいいのか悪いのか、そこは諸君の腹の空き具合ってことで、以下次号シクヨロ。                  

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