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2016年8月

2016年8月 3日 (水)

ジャック・ヴァンス『宇宙探偵マグナス・リドルフ』 ('16、国書刊行会)

 「なんで今更ヴァンス?」って疑問に思う方に、どうぞ幸あれ。誰もが七面倒くさい理屈を求められる、心底不快な世の中に対して、この本が提供するのは昔ながらのひとときの娯楽、つかの間の慰みに過ぎない。だが、そこに文句言うのも立派な大人の態度としてどうかと思います。客なら何を言っても許されるのか。そんな訳ねぇだろ。そういうやつは積極的に大嫌いだ。この古典的アナログ感にもっと敬意を払え。具体的にはいくらかの金を、ね。万事本を読むってのはそういうこった。
 宇宙を彷徨う、万能よろずごと解決人マグナス・リドルフは、時折街で飲み屋で見かける、仕事は何やってんだか全然わからないが毎日ブラブラしてる挙動不審な怪しいおやじに酷似。
 時代は適当に未来で、適当に宇宙の片隅で、早い話がこれがアメリカそのものなんですよ。説明飛びすぎて全然意味わかんないと思いますけど。ヴァンスの独特な倫理観、というかアウトロー感覚が結実した、公衆秩序に無関心な大宇宙のお騒がせ男が見事に異常トラブルを解決!あるいは解決しないでそのまま放置!基本姿勢は、だいたいが放置!そして勝手に豪華銀河客船で立ち去るケースが多いという、どれもこれも宇宙冒険活劇に分類するのもどうかと思われるような中途半端な話ばかりで素晴らしい。
 なんかオチでもっと笑わせて欲しい気はしますけど、結末の中途半端さもまたヴァンス。

【あらすじ】
 第一話、ココドの戦士
  宇宙のかなた、巨大アリさんばかりが棲息する謎の惑星では、蟻塚同士を戦わせるボッタクリ極悪ギャンブルが横行。宇宙人権無視の疑いがあると睨んだ汎宇宙人権協会が非合法トラブル解決人マグナス・リドルフに解決を依頼。単身潜入したリドルフが突き止めた影の黒幕、元締2名は、彼自身がかつてなけなしの老後貯金をボッタクられた“おっさん助けて”詐欺の常習犯だった!
 復讐に燃えるおやじの血潮が真っ赤に滾る、そこに機関銃乱射などのセガール的要素を持ち込まない、勝手に設定されたジェントル・ルールがやたら眩しい。パンチラおやじ。
 
 第二話、禁断のマッキンナ
  マッキンナって誰だ?マッキントッシュの男に訊いてもアンガス・マッキーに訊いてもわからない。闇のシンジケートを仕切る正体不明の覆面ボス、「その化けの皮は俺が暴く!」と意気込んで乗り込んでいった諜報部員たちは次々殺された。原因不明の謎の腹イタで。正体不明の病原菌が彼らを死に追いやったのだ。そんな器用なマネができるのって一体誰なの?謎だらけのこの事件、どんだけ正体不明の連続なのか。
 泥の惑星テラコッタ・パンナコッタに降り立ったマグナス・リドルフは単身危険な捜査を始める。って、実態は、昼間っから酒飲みながらあちこちぶらぶらしてるだけですが。容疑者はどうやらこの惑星の有力者たちの中にいるらしい。しかしこの貧乏惑星では、有力者といえるのは、すべて市役所勤務県庁の地方公務員ぐらい。わずかな手掛かりを繋ぎ合わせ、ズバリ犯人を特定。容疑者を全員一室に集めて得意げに推理を披露するマグナスを襲うのは、自暴自棄になった犯人の放つ、世にも危険な毒ゲロの洪水!
 「なにくそ、マッケンローには負っけんろー!」

 全身ゲロまみれになり半死半生のマグナスだったが、しっかり一張羅のクリーニング代だけはせびり取った。
 
 ・・・とこんな、読んでどうするって話が10本も入ってお買い得。ガジェットが古臭い、50年代風味がうんぬん抜かすクソ野郎がいますが、無視して結構。この本の値打ちはそういうとこにはないんだよ。

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