« 2015年11月 | トップページ | 2016年1月 »

2015年12月

2015年12月23日 (水)

校庭カメラガール『Ghost Cat』 ('15、tapestok Records)

 かつてわれわれは「今年のベスト」を選んでいた。なんとまぁ、真剣な態度で、はかなく一年が過ぎゆくことを惜しみ、必死の抵抗空しく年の瀬が近づいてくるにつれ、仲間達とどこかの家に集まって、ああでもない、こうでもないと夜が更けるのも忘れて熱心に語り合ったものだ。
 そういう場に登場する、悪しき慣習が「今年のベスト」だ。
 今年最高の一本の映画。今年もっとも感動させられた小説。よく聴いた音楽エトセトラ。しかし。

 ちっぽけなお前の選ぶベストに果たしてどんな意味があるのか。そもそも、お前に高みから一年すべてを総括する権利などあるのか。

 人はこうした冷徹な客観視が齎す思考にほんの少しだけ大人になって、「ベスト」を選ぶことを自ら望んで放棄するようになる。日常は平坦な連続だ。思わぬ行き止まりが来るまで、我慢の限界を越えてどこまでも無限に連なっていくように見える。リングワールドの底面積よりも長い長い退屈な、心底退屈なスロープ。そこに厳密な頂点などありはしない。起点も終点も見失われた連続性。あっけなく終わりになるというのに、途中を辿っている間は気づきもしない。
 
 そんなくだらない循環思考に釘を刺す意味で、私の「今年のベスト」を選ぼうと思う。校庭カメラガールのファーストアルバム『Ghost Cat』だ。美しいね。実に美しい。

 現在のコウテカ(※このように略すのですね)は、なんでか六人編成となっているので、ファーストは4人編成での唯一のアルバムということになる。一見地味そうにみえて実は中毒性の高いトラックに、明確なJポップ的サビメロが炸裂。あぁ王道、と称賛すべき堂々たるつくり込みが素晴らしい。アイドルポップばかり聴いている今年の私からのお勧めだ。

 ・・・いやーーー、でもね。
 とか言っといてなんですけど、そもそも、「コウテカって本当にアイドルなのか?」という重大かつ根本的な疑惑があるんですよね。だって、ファーストのジャケットなんてパステル基調のコラージュですよ、人体模型の骨とかの。小鳥も宇宙もあって、かわいい猫ちゃんのイラストなんかもありますが、本人達がまったく映ってない。骨は、頭蓋骨・肋骨・頸椎・肩甲骨・尺骨・手根骨・・・とやけに充実してますけど。
 アルバムの見開きでようやくメンバー横並びのポートレイト出るんですが、これがまた、顔半分をカラーマジックで塗りつぶす、という底意地の悪い加工がわざわざ施してある(笑)。これってさぁ、ぶっちゃけ、『ミート・ザ・レジデンツ』ですよ。ビートルズの顔写真にマジックで落書きしてある伝説の極悪ジャケット。あれ、よく出せたよね。基本あれと同じ発想。嫌がらせだよね、凄いよね。
 メンバー名の表記もホント酷くて、公式ページの紹介に従えば、4名の名前は、
 「もるも もる、しゅがしゅ らら、ましゅり どますてぃ、ののるる れめる」・・・ですよ!
 もはや記号論レベルになってるワケですよ。現在の私はハッキリ言いまして、聴き込み完了なので、ボーカルパートはどの声がどのメンバーのものか即答できます!(特徴がハッキリしてるので分類しやすい。)
 いや、そういう問題ではなくて。
 これはすべて狙った結果でこうなってるんですよ。

 現在のアイドルシーンというのは、ホントなんでもありでね。業界を牽引している、まず集団ありきで、ユニットがあって、シャッフルユニットまであって、さらにソロが派生するという伝統的な方法論がありまして。ここでの力関係は以下の図式にあらわせますね。

 企業>集団>個人

 では、そこから取り零れた金のない連中はどうするか。そりゃ自分たちで運営すればいい。いっさいの制約がなくていい。これがいわゆる地下アイドルという方々の方程式ですね。この構造って実は先の図式の正反対な裏返しなの。

 個人>集団>企業

 どうです、民主主義として素晴らしいでしょ?われわれが学校で習った個人の権利ってのは、こういう図式でしたよね、確か?実態は欠片もないけど。輝かしき個人の勝利。
 ただし、きみが千葉のジャガーでもない限り、個人の動かせる資本力なんてのはたかが知れてるワケでして、宣伝広告費はまったくかけられないから、どんないい音楽・パフォーマンスやったって、一般に浸透し受け入れられるまでには、絶対死ぬ思いしますけどね! 
 だから、構造としては個人偏重主義を掲げてているにも関わらず、グループという集団を組織しなければ大企業とは互角に渡り合えない。大資本を背景とした連中は必ず集団で襲ってきますから。つまり立場的には常に空爆を受けてる反政府ゲリラみたいなもんですよ。今年はこういう対立の図式が目立ったね。

 話がだいぶ脇道に逸れちゃいましたけど、コウテカの立ち位置は、だから個人偏重なアイドル業界へのアンチなんですよ。アイドルなんだから個人が尊ばれるのは当然の筈なんですが。匿名性への固執。そのくせタワレコでストアライブやってる矛盾。このへんがキテるよね。
 ・・・とここまで書いたところで、職場の若手から以下のタレコミがありました。

 「アメリカでディック『高い城の男』がドラマ化されてるらしいんですけど、知ってました・・・?」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2015年11月 | トップページ | 2016年1月 »