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2015年8月

2015年8月23日 (日)

ジョー・ヒル、ガブリエル・ロドリゲス『ロック&キーVol.1』 ('15、飛鳥新社)

 世にも悪名高きジョー・ヒルが原作のコミックブックを読まされるなんて、今日はなんて運の悪い日なんであろうか!(って、まぁ、しっかり自分で買っておるわけですが。)
 なに、ジョー・ヒルって何者だって・・・?
 きみはよっぽどツキまくった人生を送ってるに違いない。やつのことを知らずに過ごせるなんて。度はずれた幸運に恵まれているとしか思えない。
 西部じゃとっくに有名ですよ。伝説のホワイト・トラッシュ。飲んだビールの大ジョッキで人の頭を殴る男。幼女と幼児を強姦して殺し、死体の皮を剥いで軒先に吊るして、うちわで扇いで涼む人でなし。ど畜生。指名手配犯。無法者、デスペラード。
 そいつがジョー・ヒルってやつですよ!

 ・・・と、三文芝居はいい加減にして、今回のこの本、確かに世評通り面白かった。
 税込4,500円もするんで貧乏人には決してお勧めしないが、ま、このクソ暑いってのに毎日よくもまぁ会社ばっか行ってるような律儀なクソガキどもには、やきとんで一杯の替わりに読んでけ!って程度には推奨できるかナー?!まったく大人って、くだらないことにばかり金使ってるよネ。嘆かわしい。
 でも全編フルカラーで300ページ以上ありますし。鼻に鉤マーク状の影を描き込む、80年代の日本マンガみたいなロドリゲスの作画術は、いまいちながらも丁寧で好感が持てる仕事だし。「ま、いんじゃネ?」って感じですか。つべこべ言わず買っちまえ。

【あらすじ】

 ある日狂ったクソガキがやって来て、親父をぶっ殺して数か月。すべてを忘れ人生をリセットするために父方の実家に引っ越してきたロック一家を、井戸の底の悪霊が襲う!
 まさに死霊悪霊乱れ舞いといった大変な事態なのであるが、悪霊がなんで襲ってくるのかと言えば、そのカギは文字通りこの実家(豪壮なお屋敷)の中に隠された太古の鍵にあるのであった。ちゃんちゃん。
 なら、引っ越さなけりゃいいじゃん(爆)!

 以上だ。
 これでどんな話か解れというのは、ペンギンに高校入試を受けさせるくらい無理があると思うので、細かい説明はしない。
 
しないが、面白ポイントをちょっとだけ解説しておくと、とにかく隙あらば人をぶっ殺したがる大量殺人鬼の出てくる話は、たいてい外すことがないものである。
 ジョー・ヒルの本書を読んでいて直接的に思い出したのは、ニール・ゲイマン『サンドマン』3巻に出てきた少年ホモ殺人鬼なあいつ(名前忘れた)だが、『殺戮の〈野獣館〉』だって本筋とたいして関係ないロリコン親父殺人鬼の大活躍によって面白さを倍加させているわけだし。
 そもそもがレザーフェイスの昔から、得体の知れない、ほっとくと死体の山を勝手に築いてしまう悪い人達ってのは、われわれの精神の間違ったツボをグイグイ押してくるパワーを持ってるもんですよ。ね、そうでしょ、ご同輩?
 そういう悪すぎるやつって、なぜかアメリカではエンターティメントのキャラクターになっていて、ハンニバル・レクターを筆頭にしてとても人気がある。
 アメリカって、やっぱり不思議だ。

 ところで、ジョー・ヒルってのは、キングの息子ですよ。『地獄のデビルトラック』監督の。あ、知ってた?当然だよね。こりゃまた失礼しました~~~

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2015年8月12日 (水)

マレー・ラインスター『地の果てから来た怪物』(’58、東京創元社文庫SF)

 ラインスターって、名前がいいよね。かっこいい。
 スタージョンもいいけど、シオドアと込みでしょ絶対。しかもあれ、正しく表記すると実はセオドアなんだよ。
 セオドア・スタージョン。
 こりゃダメだ。やる気無くす。マジへこむわ。

 さてさて、そんな、マレーって名字だか名前だか全然わからないとこも素敵なラインスター先生が、大胆にキャンベルJr.「影が行く」にオマージュを捧げたモンスターSFの佳作がこれだ!読んで得する要素はまったく無いが、とにかく読むんだ。話はそれからだ!

【あらすじ】

 南極大陸近くの絶海の孤島ガウには、国連の手により17名もの隊員からなる補給基地が設営され、日々なんだかわからない研究だの通信だの、心底どうでもよさそうな業務をこなしている。
 隊長は、自分の助手を務めるうら若き美人秘書に気があるのだが、部下の手前いまひとつ関係を深められずに悶々としていた。なにしろ島に女性は、お茶汲みのおばちゃん含め、わずか4名しかいない。この状況下で迂闊な性行為に走ったりしたら、集団リンチか謀反のひとつも起きかねない。まさに絶対ギリギリの限界状況だ。

 そんな島にある日、南極から珍しい積荷を載せた輸送機がやって来る。

 このほど新発見された南極唯一の温暖地帯ホット・レイクス地方(湧き出す温泉の効果で氷を寄せ付けないという、実にいい加減な設定)で採取された貴重な植物のサンプルを、本国で待つ間抜け顔の科学者一同にお届けするため仕立てられた特別便である。
 隊長は、またしてもライバルの人数が増え美人秘書の危険度が増すことを危惧しながら、歓迎の準備を進める(この最低の男は、終始一貫しておのれの面子と彼女の貞操しか心配しない。指導的立場として如何なものかと思われる。)

 だが、やってきた飛行機は明らかに様子がおかしく、無線での呼びかけに一切応答しないばかりか、島に接近しては再び高度を揚げ直してフライバイするなど、内部で何か深刻なトラブルが起きている様子。
 こういうヤバイときには、そうだ、女性の声で気持ちを和らげ事態解決だ、と次長のいい加減な思いつきで、秘書課の彼女にエロ声で生放送させる。 

 「そうよ、あなた・・・がんばって。いいわ。いいわ~、その進路よ、コースを維持して、舵面を下げるのよ。もっと深く、もっと深くきて。
 あ~~~ん、やだ、もう、感じちゃう~~~」


 嘘のようだが、このいい加減なセクシーオールナイト大放送が効を奏し、島唯一の飛行場にからくも胴体着陸に成功する輸送機。なんでもやってみるもの。
 しかし、勇んで救助に駆けつけた隊長以下一同が機中で見たものは、コックピットで頭部を撃ち抜いて自殺を遂げてしまったパイロットの姿。それに、いたるところに残る争った痕跡と、床一面に撒き散らされた血の海だった。他にまだ9名いる筈の乗組員の姿は、跡形もなく消え失せてしまっている。いったい、この機に何が起こったのか?
 疑心暗鬼にかられるスタッフたち。
 
 だが、この島を襲う真の恐怖はまだ始まったばかりだった。
 遭難機が現れたその夜から、何者かが闇を徘徊し、飼犬が殺され、島の駐在員がひとり、またひとりと姿を消し・・・・・・。

【解説】

 とにかく、襲ってくる謎の怪物の正体を隠したまんま、引っ張る、引っ張る。まさに簡単にネタを割ってしまっては話が終わってしまう、と言わんがばかりの勢い!(実際その通りなのであるが)
 一瞬、犯人の正体は、実はコックでした~、という脱力落ちが来るのではないかと期待したのだが、さすがそこはラインスター先生、老舗の意地でちゃんとストーリーをSF方面に持っていってくれるので、ご安心を。シチュエーションは酷似しているが、これは孤島連続殺人事件ジャンルではないのだ。犯人は判事でも和尚でもない。伏線も意外ときちんと張ってある。
 でね、この真犯人の正体ってのは、実のところキャプテン・フューチャーに出てくるアレみたいなもん(※雑すぎるヒント)なんですけどさ、まぁ、正体が暴露されてもそんなに腹が立たない(気がする)のは、ひとえにラインスターの地味でしっかりした筆力のお蔭でしょ。
 
 それでも、
 南極基地の連中はいったいどこに目をつけて調査していやがったのか?」
 とか、
 「しかし、機長が自殺するほど怖いのだろうか・・・ソレが?」
 だとか、物語の根幹に関わる疑問は残る。
 残るんですけど、読み終えて損したか得したか判定するマシーンにかけたら、私はマルを出すと思うよ。そういう中途半端でどうでもいい本をこそ積極的に評価し読んでいきたい。
 あなたも、そうでしょ?

※追記、
 この小説は'66年映画化されており、題名は『海軍対夜の怪物The Navy vs.The Night Monsters』というのであるが、誰が観るんだ。

【予告編】
https://www.youtube.com/watch?v=9fX3dcYw440

 

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