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2015年6月

2015年6月21日 (日)

スタニフワフ・レム『短編ベスト10』 ('15、国書刊行会)、『泰平ヨンの未来学会議』('71、ハヤカワ文庫SF)

 われわれにとって“ヨン様”といえば、無条件に泰平ヨン様のことを指す。

 そんな憧れのヨン様の大活躍を遂に映画館の大スクリーンで堪能できるのか!と、世界の心あるレムファンを驚愕させた『未来学会議』の実写/アニメ化作品が『コングレス』だったわけだが、蓋を開けてみたら実は、泰平氏は最初から登場しないことが決まっていた、という残念なオチが待っていた。
 「バンザイ・・・なしよ!」的な欽ちゃんお手上げ状態に放置される哀れなマニアたち。だがしかし、そりゃそうだよなー、レムはやっぱ小説に限るよなー、かの有名な『ソラリス』だってなんかもう全然違うもんなー、特に東京の高速道路がなー、と無理やり自分を納得させて家路に着く。
 かくて、世界はまたも良くなる見込みを失っていくのだった。残念。

 さてレムは、ある意味無条件に全作品が必読クラスの稀有な作家であるが、その作品傾向は多岐に渡っており、1)公務員並みに堅いもの、2)論文としか思われぬもの、3)本物の論文までを含んでいる。だがその本質は実のところ、4)燃えるもの(萌える、ではない)、5)極端に面白すぎるものにあるのであって、例えば文芸書評を模して書かれた作品にすら、これらの特徴は顕著に見出すことができる。
 要するに、全作品において『金星応答なし』の山登り探索行が永遠に続いているかのような特異な感覚を味わうことが可能だということだ。
 これ以上蛇足のような説明を連ねることは明らかにきみにとっても私にとってもあきらかに時間の無駄なので、ここはひとつ手に入りうる限りのありとあらゆるレムの本をゲットし読み尽くしてから後、あらためて前述のセンテンスを再読してみていただきたい。
 私の表現が単なる誇大妄想狂のたわごとではないことが実感できると思う。

 だから遂に姿を現したレムの短編ベスト10というのは、年季の入ったレム読者にしてみれば、ちょっと胸が苦しくなるせつない内容になっている。すべてが新訳とはいえ、実は結構遥か昔に読んでしまった想い出の作品ばかりだったりするからだ。
 すなわち下記のようなメニューである。

 「三人の電騎士」
 「ムルダス王のお伽噺」
 「自励也エルグが青瓢箪を打ち破りし事」

 なつかしの『ロボット物語』に収録。

 「航星日記・第二十一回の旅 」
 「航星日記・第十三回の旅」

 ご存じ『泰平ヨンの航星日記』に収録。イヨン・ティーヘは泰平ヨン、テオヒプヒプは,《超地歴最適化》計画のことです。(後者はすべて深見弾先生による翻訳)
 常人にはにわかに理解しがたい、頭よすぎる現代っ子翻訳エンジンが炸裂!

 「洗濯機の悲劇」
 「A・ドンダ教授 泰平ヨンの回想記より」

 これまた『泰平ヨンの回想記』に収録。

 「探検旅行第一のA(番外編)、あるいはトルルルの電遊詩人」
 かの有名な『宇宙創世記ロボットの旅』に収録。しかしトルルルっていったい・・・馴染まなすぎ。

 「仮面」
 ・・・これね、『すばらしきレムの世界1~2』にも『レムの宇宙カタログ』にも入っていないの。私はSFマガジンで深見先生訳で初めて読みました。わけわからんがエロい傑作。 

 「テルミヌス」
 『宇宙飛行士ピルクス物語』に収録。間違いなく名作だが、よく考えてみればピルクスシリーズは名作揃いなのである。

 以上だ。いい加減、私が何を言いたいかわかったかね。

 ・初めて読む話がない!
 ・過去の翻訳で定番化しているものを下手にいじりまわすな!(特にヨン物)
  深見先生が死んだと思ってなめんなよ!


 ストレスがどんどん昂じてきたので、試しに『航星日記』のSF文庫版(1980年初版)を読み返してみたら、これがもう面白い面白い。ぐいぐい読めて、引き込まれちゃった。

 諸君、そろそろ反撃の狼煙を上げようではないか。
 泰平ヨンの一人称をすべて“吾輩”で統一すべく、国会に働きかけるべきときが来た。議員募集!このページを読んでいる村会議員、町会議員、市会議員、州知事、県知事、都知事、婦長さん、衆参両院議員、国家元首、大統領職にある者はいますぐホワイトハウズに連絡されたい。提案書、陳述書、議決書その他をドローンとE-Mailにて大量配信し、すべての掲示板を炎上させる!

 (・・・もう本当、なんとかしてくださいよ、頼みますよ・・・)

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