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2014年2月

2014年2月23日 (日)

村形順子・木村知生『魔獣戦士タイガー①』 ('84、秋田書店少年チャンピオンコミックス)

 ひとめ見て大バカだとわかるマンガに、あれこれ解説を加えて揶揄する必要などまったく無い。
 だが、そのバカさ加減がなんらかの有益な可能性を含むものであること。また世間一般に流通するカッコよさというものがいかに薄っぺらく、厚顔無恥で押し付けがましく、どマヌケと紙一重の危うい存在であるかということ。これらを証明する資料としては、第一級の説得力を持つであろうことは間違いない。
 ま、証明してどうするというのも確かですが。

 今回採り上げるのは、怒るとトラになる男の物語である。

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【あらすじ】

 怒るとトラに変身する特異体質の持ち主タイガー!正直過ぎるネーミングに脱力だ。発表当時にして既に「古い」「ナウくない」と揶揄されるようなセンス。『コブラ』にでも触発されたのか。いかしたバンダナ、ノースリーヴの袖口が三角に切れ上がった変なピチT着て肩で風切り、新宿のディスコにいきなり参上だ。
 鳴り響くミュージック、乳房を放り出し踊り狂う不細工ねーちゃん。タトゥーにピアス。グラサン、リーゼント。
 場末の安い近未来感覚が爆発する画面に、早くも拙者の腰は砕けそう。
 そんな無残な喧騒を抜け、70年代ヒーローの特権・ガニ股でそぞろ歩き、正面鏡張りのいかれたドアを開けた。
 
 「よく来たわねタイガー、こないだの返事を聞かせて貰うわ!」

 VIPルームに君臨する悪の女王・麗華様と対峙するタイガー、鼻くそをほじりながら、

 「・・・んぁ?なんだっけ?!」

 この男、相当頭が弱いようだ。
 怒りに駆られる麗華様だったが、そこはSMクイーン歴13年、だてに歳は喰っていない。
 美しく引かれたアイラインをキュッと絞らせ、

 「あなたを悪華団の副官に指名した件よ!」

 でた。
 誰が見ても分かる悪そうな集団。しかもさりげなく(でもなく)自身の名前も織り込み済み。

 「あぁー・・・。それなら断る。」

 鼻くそ、ピンと指で弾き。不敵に笑った。
 悪。ダメ、ぜったい。
 タイガーの持つ男らしい心情をこれほど見事に綴ったシーンがかつてあったろうか。って、いまわれわれはこのマンガを読み始めたばかりですが。ヒシヒシと迫る、もうダメになりそうな予感が素晴らしい。開巻わずか4ページ目なのに。

 麗華様の勧誘をあっさり撥ねつけたタイガーは、階下のレストランで店員に小便を掛けられ虐待されていた乞食を助ける。店内で小便してはいけません。
 徹底した正義の人であるタイガーは、風紀紊乱けしからん店員を鉄拳制裁。ボコボコにしてあっさり片付け、乞食の被った大きなトチロー風味の麦藁帽子を外すってぇと、これがなんとまぁ、80年代アニメ風美少女。
 首から下は劇画風ナイスバデーだが、顔はもろ幼女という、作者の決定的な画力のなさが生んだデンジャラス物件。
 
 「お・・・おれは、おまえを抱きたい!」

 正直すぎ。
 社会的地位を脅かしかねない危険な欲望のカミングアウトに躊躇無い、おおらか過ぎる性格のタイガーに、一同思わず苦笑。そして展開する、くんずほぐれつのベッドシーンには床慣れした佐藤師匠も思わず赤面だ。・・・ってマジか?話が早すぎるぜ!
 52階の高層ホテルの部屋。シャワーを浴びて、月明かりだけが照らす薄暗い部屋で。
 ずぽぽ。
 本当に挿れてる。
 ずぶぶ。
 本当に挿してる。
 ぬぷぷ。
 出し挿れ、もはや自由自在。下半身の魔術師。

 いいのか、タイガー。下半身は26歳だが顔は12歳そこそこの女だぞ。っていうか、なんなんだこのマンガは。やりたい放題か。

 タイガー自身を心行くまで放出し、満足の喫煙を果たすタイガー(事実)。濃厚に漂う少年マンガにあるまじき大人の気配に、突如として襲い掛かる卑劣極まる悪華団。
 ほっ。
 
 「ぴょーーーッ!」
 「ぴょーーーッ!!」
 「ぴょーーーッ!!!」


 近未来の悪は掛け声すら独特だ。
 黒覆面に網タイツの悪党軍団をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。完全武装の忍者集団を怒りにまかせて素手で叩き伏せてしまった。
 その間巻きつけたタオル一枚の顔だけ幼女は、ヒロインの特権として悪の魔の手に攫われていってしまった。ホテルのフロアを全力で叩きくやしがるタイガー。最低あと2発はやれたのに。回数制限が妙にリアル。
 その、極限までせつない怒りがタイガーの奥底に眠っていた変身能力に火をつけた!

 ぶぼぼぼぼ。
 薄いTシャツを引き千切り、上半身が巨大なトラの姿となり、暴れだすタイガー。ホテルの壁を破壊しTVを窓から放り投げ、来日したレッドツェッペリンを彷彿とさせる凶行を繰り返して彼女を探し求める。

 「ちくしょう!!!
 オレは、幼女が好きだーーー!!!
 幼女しか興味がねぇんだーーー!!!」


 心からの、血の叫びだ。
 行く手を阻む卑劣な悪華団はトラの牙の餌食となり瞬殺。ヒグマを思わす強力パンチは忍者の邪悪な顎を砕き割った。強い。この男、無意味に強すぎる。
 どこまでも邪悪な麗華様は、麗華銃殺隊を繰り出し、重機関砲の一斉掃射でタイガーの進攻を止めようとしたが、大人の女性にいっさい興味を示さない正直すぎる性欲エネルギーの暴発の前にはまったく太刀打ちできず、顔面を握りつぶされ、首を捥がれて殺されてしまった。

 あきれた幼女好きのタイガー、敵を皆殺しにしヒロインが幽閉されている拷問室に駆けつけると、彼女はやり殺されて死んでいた。

 「しまったーーーッ!!!
 敵にも、同じ病的趣味を持つやつがいやがったのかーーーッッ!!!」


 正義の怒りで地面を何度も殴りつけるタイガー。ロマンを求める旅はまだ始まったばかりだ。

【解説】

 熟女でもなく少女でもなく、幼女が好き。
 そんな異常趣味を全力でバックアップする、G.I.ジョーの如き心強いマンガの登場に拍手喝采だ。
 このあとタイガーは砂漠に潜むニューハーフにあったり、本物の幼女と友達になり真剣交際を告白したり、あきらかに性的に異常なアドベンチャーに本気で挑んでいく。その間、人間を真っ二つにちぎったり、股間の持ち物を大きくしたり縮めたり。そうして少しずつ大人の階段を登っていくタイガーの活躍に次週もご期待ください!

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2014年2月 8日 (土)

りんたろう『幻魔大戦』 ('83、角川映画)

 ニーメというものが、そもそも超クソださい存在だ。
 
観るとへこむ。腹がゆるくなる。自分ではカッコいいつもりでいるからむかつく。そのいっさい反省を知らぬ姿勢はまるで田舎のツッパリのよう。改造車を乗り回しコスプレを楽しむ。端的な例はつい先日の農薬混入事件のあいつに象徴されるだろう。

 ようこそ、『幻魔大戦』へ。
 これこそ私が推奨する、この世でもっとも忌むべき日本ニーメの代表格である。この作品がアブノーマル、インモラルの極みで、根本的に人の道を大きく踏みハズしていることは、上映当時から多くの識者に指摘されてきた。
 そもそも物語の意味が不明だ。全宇宙的災厄である筈の幻魔を、下っ端を倒しただけで大団円にしてしまう構成はおかしい。キース・エマーソンの音楽は単純に恥ずかしい。大友克洋にキャラデを頼む必要があったのか。無駄に豪華な声優陣の使い倒しはなんだ。
 すべての凡庸な突っ込みを乗り越えよう。
 われわれは過去を清算すべき年代に到達したのではないか。無残にラストがカットされた『タイムバンディッツ(バンデットQ)』と同時上映で『幻魔』を観る経験をしたのは、至福の映画体験とは絶対呼べないまでも、消費されては消えていく空疎なハリウッド大作を観るよりも遥かに有意義な時間ではなかったか。そもそもこの映画、全編がほぼ突っ込みどころという点では、エド・ウッドを凌ぐ確かなクオリティーではあるまいか。
 幻魔に愛を。幻魔に光を。
 私はそう叫ばずにいられないのだ。最近。

【あらすじ】

 新宿で深夜、女占い師が踊り狂う。観客の予想を大きく外す、リアクションに困る、異次元感覚溢れるオープニングに脱帽。このオーバーアクトが出た瞬間、劇場がなんとも困った失笑に包まれたことは忘れられない。
 次の瞬間、飛行機に隕石が激突。
 乗っていた超能力者のケバいねーちゃんは、明らかにやばい、宇宙から来た超意識的存在美輪明宏と接触して発狂。唐突に地球を救う使命に目覚めてしまう。宇宙に浮かんだドクロくんが星を食べ尽くしながら大接近しつつあるのだ。なんとかしないと、お前の星も破滅だぞ。
 ねーちゃんは、彼女をドクロくんに食われた異星のロボ戦士(故障品)と共に、太平洋を越えて超能力者集めに旅立つ。軽く空中を飛んで。(無論これは舞空術なのである。)
 地球の未来を担う超能力者は、新宿のどぶ板横丁にいた。未成年なのに飲んだくれ。いい若いもんがそれでどうする。暗がりに追い詰め、レーザーガンを連射し心の籠もったヤキを入れてやるロボ戦士。親心も宇宙級。
 生命の危険にさらされ、超能力に目覚めた若手は空中浮遊し遁走。その日からまともに登校しなくなる。なにせ地球の危機ですから。
 その姿を同じ不良の先輩として温かく見守るケバねーちゃん。われわれもいい加減、この映画の持つ善悪の観念が常識と大幅に外れたものであることを理解し始めた頃に、神社のコマイヌが若手を襲撃。ドクロくんの魔の手は刻々地球に迫っていたのだ。コマイヌの相棒、仁王像との戦いに苦戦する若手。なんでいちいち神社関連。からくも敵を撃退するも、若手の大好きな独身の姉は敵の犠牲になり、あたら処女のまま荼毘に附されてしまう。
 おのれ、幻魔め。
 舞台は変わってニューヨーク。
 このへん、映画全体を覆う慢性的な作画枚数不足がたたって、かなりお見苦しい場面が頻発するのだが、それはともかく、超能力を持つエマニュエル坊や、サイボーグ・ゼロゼロナントカから借りてきたインディアンと、中国から来た原田知世が警察署に集結し、焼き討ちに遭う。国際貿易センタービルを薙ぎ倒し、マンハッタンは巨大な光球となって消滅した。あとには寒波吹き荒ぶ砂漠が残った。
 ひとり遅れて現れたインドの超能力行者が、「虚しい・・・」とツイッターで呟いた。
 最終的にドクロくん一味の狙いは富士山大噴火であることがわかり、日本に続々と集結する国籍不明の超能力者たち。あとは、地球の未来を担う超能力の若手が覚醒すれば首尾よくすべてが終わる段取りが組まれたところへ、鳴動する噴火の前兆に追われシカ、クマ、イノシシなどの種々雑多な動物の群れが襲来。
 全員、ケモノに喰われて光の輪になり、天に昇っていった。
 劇終。

【解説】

 多少嘘も書いたが、本当にデタラメな話なので驚く。最も忌むべき点は、これをカッコイイものとして捉える歪んだ感性・・・というか、腐った性根の部分である。
 そういう意味だか細かい解説を書くのも無駄な気がしてきたので、ひとつ怒鳴り散らしながら観てくれ。テーブルを切り裂け。
 全体を通して、怒りと突っ込みに駆られない場面は存在しない。
 きみに本気の殺意が湧いて来るだろう。

 
怒れ。

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