松尾嘉代『陽炎(かげろう)』 ('91、大陸書房ピラミッド写真文庫)
美しい嘉代。みだらな嘉代。ヨットで水着で笑う嘉代。だれだって嘉代が見たい。いつだって嘉代にあいたい。
そんな病める現代嘉代マニアの願望を軽くかなえてしまう夢の文庫版写真集がこれだ!ジーンズのポケットにだって入るぞ!欲望ノンストップ、お出かけ先でも精子出しまくりだ。駅裏とか。マックのトイレとか。そんな奇特なやつ本当にいるのか知らんが、いつでも嘉代といっしょ。嘉代フォーエヴァー。
新春恒例の初売りチェックで、文庫版プレイメイトコレクション2冊と一緒に本書をレジに運んだところ、お馴染み怪奇探偵スズキくんから、
「なんかあったんですか?」「なんでそんなにエロエロなんですか?」「溜まっているんですか?」
と、質問の嵐となったのも最早懐かしい話だが、あれから既に20日以上経過。新年おめでとう、ウンベルだ。遅すぎ。明らかに遅い。だが本年最初の更新だからね。これが最後でないよう、きみのヤーウェに祈られたし。
私は文庫版ヌード写真集が大好きだ。
ハードカバーの大判は扱いづらい。収納に困るし真剣に読む気が起きん。ハダカは気軽に見たい。ハダカはいつでも見たい。旧都庁跡でも。貨物列車基地でも。人面犬の出没スポットでだって。
じゃ何百冊でも文庫ヌード本を持っているのかというと、全然そんな訳ではなくて、このへんが杜撰な似非コレクターとして私が疎まれる原因となっていると思うが、でも、しょうがないじゃん!そういう人間なんだから。興味あるもんしか買わないよ。
例えば、今回のケースでも商売熱心な某ショップ店員から激写文庫全巻揃いをお勧めされたのであるが、「バラで持ってるから」と丁重にお断り申し上げた。洞口依子や青山知可子の巻はいいが、水沢アキはちょっとね。人情というものだ。勘弁してくれ。
裸とは個人の履歴である。物語の詰まった箱である。執拗に繰り返し読むことは愛の行為だ。
われわれはありもしない面白話をそこに聞く。書き込もうとする。
例えば松尾嘉代の場合。
われわれがまず目撃するのは、リゾート地でくつろぐおばはんの姿である。
自由奔放なおばはんは時に全裸だ。無駄な肉のない磨き抜かれた裸身。入念にメイクされた色素沈着の薄い乳首。トップバストの位置は垂れ始めているし顔によった皺は明らかに隠せないが、きれいに撮られたおばはん。
なぜ唐突に出現した彼女がヨットに乗って南の海をクルーズしているのか。その目的は明らかでない。髪を幅広のバンドで束ね、満面の笑みを湛え、ビーチウェアの下は黒系のスケスケ下着。
水着でなく下着。ここに既に物語性の萌芽が感じられる。
実際行ってみれば誰でも気づく。エロとは決して一方的に与えられるものではない。脳内で自ら積極的に紡ぎ出すものだ。腰を使われるより使え。意識内部での自律変換作用なくしてエロは成立し得ない。動物的な、結合した性器が生み出す快感とはまったく異なる次元の話だ。
アレはアレでいいですけどね、それとは違うのよ。
だから、ビーチウェアと黒下着、この不自然極まるコラボレーションこそは実に撮影者の意図した物語の導入部であって、やがてヌード→セックスへと直結するアクション展開を予感させる素晴らしいオープニングといえるだろう。
南の海で豪華ヨットに乗っているのは、社長夫人か令嬢だ。令嬢には薹が立ち過ぎているから、するとこれは夫人だ。黒下着姿の社長夫人がきみに無防備かつ全開な笑顔を振りまいているのであるからして、これはもう決まった。決まり。
おめでとう、きみは社長だ。
社会的に成功し財を成した企業の社長なのだ。妻は嘉代。金に不自由なく子供たちも関係ない。現実のきみがいかした愛の放浪者でも、うらぶれニートだったとしても、全然まったく関係ない。
人は、物語の中でのみ幸福になる。幸福な結末を迎えられる。
社長であるきみには、特典として以下のような物語が用意されている。
南の島(セブでもシャブでもいい)で午後のクルーズを愉しむ嘉代は、陽光の下でワインを飲む。石榴の如き、赤。決して梅酒ではなく、ましてウメッシュではなおまずい。ここは絶対ワインで。奔放かつ身体の異様に柔らかい嘉代は温かな海風に誘われ、肢体を伸びやかにくねらせる。おぉ、素敵。
場面一転して白いコテージ。社長は当然別荘だって持っている。単なるお泊りではなくて持ち家での情事。壁にバカとマジックで書いても怒られない。溢れ出すゴージャス感が庶民ともはや違う。止まらない。
薄いナイトガウンを纏った嘉代は、ベッドに横たわり既に半分を乳首を露出している。話が早い。早すぎる。次ページではもう裸で、乳房を持ちあげている。
と思ったら、この女、紫のスケパンティーだけはしっかり穿いているぞ。なんのつもりだ。おのれ、これは前戯か。前戯だったのか。
彼方に海を眺望できるベランダを控え、太陽はデッキチェアーを眩しく照らし出す。外部の明かるさに比べ、室内は暗く沈んでいる。
ふと自分の股間に手を伸ばす嘉代。尻穴も撫でる。50を目前にヌードを披露することにした決意とはそんなものか。乳房を押さえ、微笑む嘉代は遠くを見ている。
「まだまだ、いけるよ!チミ、最高だよ!」
社長であるきみは禿げアタマを汗で光らせ、そういう言葉を口にするだろう。
舞台は再び豪華ヨットのキャビンへ戻る。
このアヴァンギャルドな時間構成はヌーヴェル・ヴァーグか、単なる編集ミスなのか。
「あたしね・・・」
ひざの手前で枕を抱いて、嘉代が言う。
「・・・むかし、人を殺してるのよ・・・」
薄い下着を突き上げて乳首が存在を激しく主張している。とっさに刑事・石橋蓮司の顔が浮かぶのを全力で打ち消してきみは、その小生意気でいなせな物体を揉みしだく。
「ハァッ。ハァッ。
忘れろ。ていうか、忘れちまえよ。
俺の胸の中で忘れて眠ればいいのよさ・・・!」
真顔で焦るきみは、若干日本語が変だ。
前夫・小林稔侍は変死した。秘密を嗅ぎつけた名古屋章もまた。唯一無事で生き残った岡本信人は野草を喰らって発狂した。やはり、この女、魔性の者なのか。
妖しく微笑む嘉代は漁場に最適な岩場で、最高級イカ釣り漁船のみが入港できる幻のヨットハーバーで、次々と脱ぎ無しで艶めかしいポーズを披露。きみの神経を逆撫でするような嘉代の仕打ちに、股間はますますヒートアップ。
しかし、なにかがおかしい。狂ってる。
プールサイド。前方のボタンをかけ損ねた姿でダイブし、オリヴィア・ニュートン・ジョン「水の中の妖精」なポーズで裸体をさらけ出す嘉代。しかし、ここで奇妙な違和感の正体が判明。嘉代の下半身を覆う、太目のおばはんパンツ。水に濡れ光る。
社長であるきみは、思わず呟く。
「あ・・・!!
この写真集、ヘアヌードじゃねぇんだ!!」
勘違いもいとおかし。
カウントしてみますと、嘉代が正式に尻の割れ目を露出するページは、わずかワンカット。それも遠景。これは抜けん。これは堪らん。生殺し。
「熟女の魅力の何十パーセントかは尻にあり」と日頃飲み屋で豪語する社長のきみは、
「ヘアーは別にどうでもいいけど、ともかくもっと尻出せやーーー!」
と、新宿高層ビル街の夜景に見下ろされながら、下品な断末魔の絶叫を上げるのでありました。胸には突き立ったナイフ。流れる、岩崎宏美「聖母たちのララバイ」。
廻るパトカーのサイレン。パーポーパーポー。
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