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2013年10月

2013年10月29日 (火)

チャールズ・エリック・メイン『海が消えた時』 ('58、ハヤカワSFシリーズ)

1)まったくもって酷く救いがたい話だ。
 その理由は、主人公がとことん愚かで救いがたい人物だからに他ならない。かれはべつに世界が終末を迎えなくても、確実に破滅していた筈である。

2)もっとも、われわれは揃いも揃って全員、愚かで救いがたい。
 格別かれを責めるにあたらないだろう。

3)「・・・“くるみ割り作戦”は6月7日に行われた。3発の水素爆弾が南太平洋のカルーイキ群島海域で投下され爆発した。第一弾は高度約5千フィートあたりで炸裂したが、第二弾は平均海面上、そして第三弾は、こいつが一番大きくて・・・」
 「三発目の最大の爆弾は英米共同設計になる、これまで一度もテストされていなかった怪物的な新兵器であった。それは海中2マイルの深みに投下され、巨大な火の玉と化して数億トンに及ぶ膨大な海水を蒸発させた。圧力波は太平洋両岸の地震計を打ち震わせ、いまもひっきりなしに地震が起こり続けている。爆発後四時間以内には、津波と揺れの影響で実験水域の周辺ではいくつかの島々が消滅した。」
 「そいつはかつて人間の手で引き起こされた最大級の爆発だった!」
 「キノコ雲の頂点は高度5万フィート---いや、おそらくもっと高いところまで達しただろう。放射性降下物は今もまだ、あちこちで降り続いている。六ヶ月経ったいまもね。」(中上守訳)

4)かくて史上最大級の爆弾が作り出した史上最大規模の巨大な地割れのなかに海水がどんどん吸い込まれ始め、やがて海が消え失せていく!
 洋上には前代未聞のでかすぎる大渦巻が出現、船舶は軒並み航行不能に・・・。

5)「地殻とマントル層のあいだに隙間があることは、よく知られている事実だが・・・」 と、この作者は怪しい科学知識を基に書いている。「地球体積の約800分の1を占める膨大な海水はこの空隙に潜り込んで完全に消え失せてしまったのだ。私自身俄かには信じがたい気持だが本当だ。頼むから信じて欲しい。」

6)さて、小学生以上の大人ならみんなすぐ解ると思うが、海が無くなるとどうなるか?
 ピンポーン、雨が降らなくなる。
 日照りだ。酷暑だ。水不足だ。
 かくて文明社会は物凄い速さで崩壊していく。水は完全に配給制となり、各国政府は軒並み秩序維持を名目に戒厳令を発令。飢饉、飢餓、暴動、無政府状態。犯罪が横行し水を商うマフィアが暗躍する。干上がったドーバー海峡を渡ってきた難民が沿岸を警備する英国軍に撃ち殺されるといった事件が毎日繰り返される。

7)そのころ、各国首脳は極秘計画を進めていた。

8)地上に残された僅かな水がいちばん集まっている場所はどこか。世界最高レベルの科学者が電卓叩いて弾き出した結論は北極と南極であった。その場所でなら水は凍りつき固体となって貯蔵される。決して減らない貯水源だ。
 やった。これじゃん。

 かくて両極地帯には要人やその家族を収容する秘密基地が建設され、ヘリコプターでこっそり人間を運び込んでいく。生き延びることができる数には限界がある。それに値するのは権力者であり政府にコネを持つ者だろう。大衆に真相を知らせることは即ちに計画の崩壊を招くのだ。
 目眩ましが必要だ。

9)ロンドン。国に接収され一元化された報道機関に働く主人公は、ゲッペルス的な宣伝大臣の指示のもと、「地下から海水を汲み上げるパイプライン」の実現について嘘記事を書き続ける。世界の破滅を知りながら、この男それしかしない。
 市街地は既に安全でないので軍兵に守られた高級ホテルに籠城。ワインを飲みジャズを聴き、妻と子供が一足お先に北極に行ってしまったのをいいことに浮気放題し放題。
 最初、宣伝部のカワイコちゃんにモーションかけられたときには妻の岩みたいに冷徹な顔を思い出してグッと堪えたのに、気がつくと秘書課の女とねんごろになっていた。なぜだ。世界の崩壊はモラルの崩壊とイコールなのか。
 
10)そんなバカげたことを考えながら、今日も懲りずに腰を振っていたら、大衆を欺くという良心の呵責に耐えかねた同僚が自殺したというニュースが届く。

11)「まぁ、あいつなら」
 と、かれは考える。「いかにも、そういうことになるだろうな。」
 それ以上深い考察は無いのだった。 
 
12)そうこうするうち、ホテル内飲み屋での情報として主人公の耳に入ってくるのは、妻が実はさる政府高官と浮気していたのではないかという疑惑。そんなダーティな裏事情無くして一介の新聞記者に過ぎなかった自分が北極基地入りを約束される身分になり得ただろうか。
 さもありなん、とは思いながらかれは酒を飲み続けるのだった。
 二名とも既に極地入りしてることだし。氷点下でじっとりねんごろになっているのかも。でもオレだってあいつを責められる立場には全然ないもんねー。ぐびぐび。

13)水洗便所も流せない悪化した衛生状態により、ヨーロッパ全域では再びコレラ、黒死病がいたるところに蔓延し猛威を揮っていた。

14)ロンドン市街地では病気に加え火災が発生。消防車が呼べない特殊事情のせいでどんどん燃え広がりやがてイーストエンドは壊滅。
 ここでクエスチョン。
 鎮火のために軍がとった、水をいっさい使わない思い切りよすぎる作戦行動とは・・・?
 
15)世界がどんだけ瀕死になろうが他人事だよお構いなし。とことん間抜けな主人公、ホテル籠城生活にうんざりして昔の女を抱きに市街へ出発。手土産代わりにウィスキーぶらさげて。まったく、とんだドンファン野郎。
 「ホント、どこの政府要人サマだよ?!」
 最底辺貧民窟ドヤ街の最低クラス売春婦に堕ちぶれた彼女にようやく出会ったら、いきなり思い切りグーで殴られた。イテテテテ。
 「へっ、酒壜いっぽんぶら提げて来りゃ、喜んで股ぐら開くとでも思ったのかい?!」
 「おあいにくさま、あんた相場ってのをまるで知らないね!!!」

 せせら笑う女。

 
「それじゃ高すぎるってもんだよ!
 いまのあたしは、チーカマ一個ですべて投げ出す女だよ!!!」

 
 

 そこへ女の仲間が棍棒片手に襲撃してきたので、隠し持っていたワルサーPPKであっさり射殺。さすがにチーカマ女を撃ち殺すのは気が咎めたので足だけ撃って引き上げた。
 本日もまた反省の色無し。

16)かくて物語が進行するにつれ、主人公はどんどん最低の人間に堕していく。

17)「油田の火事はどうやって消すか知ってるかい?」
 
TV画面の中ではヘルメットを被った作業員のおっさんが笑顔で喋っている。
 「ダイナマイトを仕掛けて吹っ飛ばすのさ!」
 
ハイ、クエスチョンの正解、軍隊の考えた消火方法は「爆薬で思い切り吹っ飛ばす」でした・・・!!!
 
17)ウェストミンスター寺院周辺では軍による爆破作戦が続いている。よせばいいのに、秘書課の女とヘリコプターの乗り現場視察という名の物見遊山に出掛ける主人公。この時点で死亡フラグ10本は立ってる。
 案の定、ヘリは爆破作業に捲き込まれて大破。到るところに爆煙が渦巻く無政府状態のロンドン市街に放り出されてしまう。女は墜落の衝撃で頭蓋陥没、意識不明。全身ズタボロで膝から骨も飛び出してる危険な状態。
 「うわーーーっ、助けてッ、おまわりさん!」
 
しかし、通りすがりの警官は瀕死の女をレイプしようと襲ってきた。水も貴重だがやれる女だって貴重。地球資源は大切に。結果したたか殴られ、頼みのワルサーも取り上げられて、路肩に惨めに蹲る主人公であった。
 満身創痍で白目を剥いてる女相手に数回放出すると警官は黒煙の彼方に立ち去っていった。
 あとには秘書課の女の屍骸だけが残った。

18)それでも、うつろな目つきでなんとか政府機関の籠城するエリアに辿り着こうとする主人公、往生際が限りなく悪い。実は、急速に悪化する混乱状態を受けて都市部からの撤退計画が既に決まっているのだ。うかうかしてはいられない。
 そこらで食糧を漁り、浮浪者の隠していた豆の缶詰を強奪したり、じいさんを蹴り殺したり、限度を越えた弱い者いじめを繰り返しながら、目指すは鉄条網の向こうの軍用空港。そこに北極へ飛ぶ最後のジェット機が待っているのだ。
 しかし辿り着いてみると、自分達も見捨てられるのだとようやく気づいた軍隊が叛旗を翻し飛行機を包囲。既に政府のイヌ連中と激しい銃撃戦を繰り広げているではないか。こりゃいかん。けんかはやめて。私のために争わないで。

 「おいおい、モマイら~!イイ作戦を教えてけつかるドォ~」

 言葉巧みに軍隊側に取り入る主人公。狙うのは最終的に同士討ち。自分の直属上司を呼び出してあれこれ無駄な説明弁明をし交渉を長引かせている間に、軍の狙撃兵部隊は相手を狙い放題のポイントまでこっそり移動。景気よく銃火の花が咲く。
 たちまち眉間から2メートルぐらい血飛沫を立てて倒れる上司。気勢を削がれた政府側、三々五々に散らばって逃げ出す。わらわら追って駆け出す軍隊チーム。い・ま・だ。
 アイドリングを続けていたジェット機に走り込むと、座席に座るパイロットを問答無用で射殺。自分もわき腹を撃たれたが、なぁにこれしき、死ぬものか。
 実はオレ、ジェット機も操縦できるし。
 血とか腸とかだらだら床に溢しながら、離陸の加速に必死に耐える主人公。オレは死なんぞ。北極基地には妻と息子が待っているのだ。いまこそ分かった。完璧わかった。守るべきもの、それは温かい家庭だったのだ。
 帰れるところがあるんだ。
 こんなに嬉しいことはない。

 
 機は最高速度で北を目指し飛び続けた。背後でイギリスが、大ブリテン島が燻る煙を上げて燃え続けていた。

19)数時間後。北極基地は、通信に応答が無いまま接近する国籍不明のジェット戦闘機を無条件に敵と判断、ミサイルで撃墜した。ジ・エンド。

20)有り難味ゼロ。教訓ゼロの結末。

21)さて、本作で消えていく海とは人間社会の倫理・規範の象徴であり、それが消え失せることにより起こる獣性への退行(具体描写はないが人肉食の復活が報告される)が大きなテーマとして扱われている。
 こりゃバラードだ。まったくもってJ.G.バラードだ。設定だけ取れば、『燃える世界』そのものではないか。あっちは原因不明で雨が降らなくなった世界が舞台だったが、さてはバラちゃん、パクったのか。
 だが読後感はまったく異なるものだ。
 主人公をインテリに置き換え、白痴や謎めいた美女やら配して哲学的な美しさに満ちた風景描写を織り交ぜて華麗に展開するバラード世界と比べると、『海が消えた時』はいかにも底が浅く下世話で共感しにくい。登場人物も全員そろいも揃って最低のゲス野郎ばかり。これはもう、バラードとメインの品位、知能指数の格差としか思えない。
 したがってこの作品から導き出される無理やりな教訓は、以下のようなものとなる。

22)浮気を繰り返すと世界が破滅する。
  もしくは、怒られる。

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2013年10月24日 (木)

『超ファミコン』 ('13、太田出版)

 『ウルティマ 恐怖のエクソダス』に関する以下の記述で長年の疑問が氷解した。

「街中で狼藉を働く=アメリカンフリーダム!」

 目からウロコである。
 ここでは町人や衛兵と戦ったり、勝手にロードブリティッシュの首級を狙ったりできる行動の自由さについて述べられているのだが、そうか。米国産で街中でやたら暴れまくるゲームが多いのは、そういう理由か。
 なぜタクシーが街を破壊し通行人を跳ね飛ばしながら走り廻るのか。なんで24時間以内でコンコースいっぱいのゾンビを始末しなくちゃならんのか。デスレースで大統領を轢くと得点が高いのはなぜか。
 すべてはアメリカの自由の為だったのである。
 自由万歳。米国産牛万歳。

 ・・・ということは、×.××で市街地を破壊した連中は究極の・・・あわわ。
  

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2013年10月17日 (木)

ウンベル、血迷って四足歩行

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 現在仲間内のサイトに貼るWebアニメをつくっているのである。
 ちょっと作業が一段落するまで、まともな記事を書けないかも知れない。書けるかも知れない。どっちなんだ。
 そこで非常に安直だが適当なスケッチを並べてひとまず更新を誤魔化すことにする。これはとても楽ちんだ。毎回こうはいかないだろうなぁー。

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2013年10月 9日 (水)

竜介龍司『もう逃げられない!』 ('87、立風書房レモンコミックス)

 アトランティスのことは言わないで。

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 幼馴染みのあの娘。近頃ちょっと気になるあの娘が、アトランティスの生き残りだったら、きみならどうする・・・?
 100%どうでもいい疑問を投げかけるこの本は、普通の審美眼を持つ編集者なら絶対に出したくない類いの本だ。つまりは穴埋め。代用原稿。背景も人物も台詞もありえないぐらい酷い。低レベル。話はひとり勝手で説明不足で、気分だけでなにかが成立した気になっていた悪しき80年代の空虚さを浮き彫りにする。
 オレは、「80年代がイカシてた」だなんていまさら平気で抜かす、超呑気な連中のケツの穴目掛け、この本を束にして全力で詰め込んでやりたいと日々真剣に思う。
 そういう価値ある一冊だ。

【あらすじ】

 オレの隣の家に住む女。同じ高校に通うあの女。片親だけどカワイイ彼女。
 余談だが「片親は片親を呼ぶ」という都市伝説は本物で、同僚の女はれっきとした片親であるが、派遣の面接に何度か立会い、採用した女は見事全員片親であった。彼女は履歴書は持たされていない。上司の横から流し見するだけ。なのに3人も4人も片親の連中が集う。世に片親は多いのか。片親育ちには独自のアトモスフィアが立ち籠めるのか。片親を廻る謎は深い。
 そんで、そんな主人公二名の通う高校にある日局地的な大地震が起こり、校庭に巨大な楔形の地割れが出現する。「これは怪しい」と内部に侵入してみると、古代の墳墓ようだ。並んだ棺のひとつには王冠をかぶった白骨死体が。保存状態よすぎ。

 途端、立ち眩みを起こす校長(ババア)。
 「コレは、もしや、13年前の・・・・・・。」
 読者には何がなんだかサッパリわからない。保健室に担ぎ込まれた校長先生、腹心のちょっと色っぽい眼鏡の女教師を呼び寄せると、秘密を打ち明けるつもりらしく、重々しい口調で話し掛ける。
 「藤崎先生・・・お願いがあります・・・。」
 緊張する女教師。
 ここで唐突に場面が転換し、以降校長と女教師は物語の本筋にはいっさい関与してこないため、この場で何が語られたのかはまったく闇の中。素晴らし過ぎる。13年前なにがあったのか。なぜ校長は気絶を・・・?それを思うと夜も眠れなくなりそうだ。
 
 ちなみに場面がどこへ転換したのか。主人公オレと彼女の下校風景である。これがマンガ史上空前絶後の凄まじい帰宅部描写なのであって、思わずページ捲る手を止めて唸ってしまった。現物をご覧いただこう。

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 1ページまるごとブチ抜きで、夕焼け。ビル街。うろつきまわる不審な人々。やしの木。パームツリー。え。
 何か読み違えたかと思って次のコマを追っかけると、

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 やっぱり生えてる。海に突き出た逆コの字状の物体は突堤だろうか。不自然すぎる形状だが。しかもその真横に海坊主がいますなー。
 此処ってハワイ?いや待て、ワイハに海坊主はないよな。岐阜か?いや岐阜には海ないよ。
 
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 しかし、きみたち、呑気にはしゃいで帰宅している場合じゃないと思うぞ。学校の真下に古墳があるのは充分問題だが、事態はなにか最早それどころでない。とてつもない違和感を感じないのか?この現実に?世界に?
 きみたちが住んでる街はファミコンのカセットの中にしか存在しないし、そういやきみたち自身も異常に存在感が希薄で、まるでゲームの登場人物みたいじゃないか。
 『オホーツクに消ゆ』とか『ポートピア殺人事件』みたいな。
 これはなんだろう。われわれは立ち止まり途方に暮れる。この世界には奥行きというものが存在せず、万事は書き割りであり、明るくいい加減な空虚だけが降り積もっていく。 
 ひとつ確信を持って言えるのは、コレ、物凄く入り込みにくいタイプのマンガだってことだ。ちょっと画期的なレベルかも知れない。

 既にあらすじを語ることを放棄している気がするが、もう少々強引に続ける。
 借用だらけのイメージの夥しい羅列がストーリーの骨格を成しており、それ以上には何もない。
 物語性の徹底放棄という意味では既に前衛文学の閾。

 
 以下作中に起こる出来事を簡単に記述してみよう。 
 
 先ほど海坊主が描き込まれていた沖合いでは、釣り船にゾンビが出現し、ランチを食い荒らして海中へと消えた。喰うなら人間ではないのか?なぜマグロとか丸齧りにする必要があるんだ。鮮魚好きなのか。(ちなみに、おかしらはズッポリ喰っていたが尻尾残し。真の魚好きとはいえない。)
 続いて、T型フォードに乗った死神運転手※註が暴走し主人公たちを轢き殺そうとする。からくも逃れるオレと彼女。運転手は彼女を見知っているらしく、ニヤリと笑うのだった。
 ※註・死神運転手はダン・カーティスの映画『家』からまるまる無断借用。素晴らしい姿勢である。
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 港町の廃屋では死霊の群れが大量発生、浮浪者を食い殺して市街地へ進撃を開始する。その間、ヒロインは自宅に戻り入浴し、巧妙に乳首を隠した全裸姿を披露。
 校長と女教師が再登場し、長かった恐怖の回想が締め括られる。戦慄する女教師。校長はいつの間に臨終間際の床に就いている。校長が何に脅え心臓を弱らせていたのか結局いっさい語られなかった。
 その夜。校庭に開いた遺跡の内部に、よりによって真夜中に潜入を図る高校の不良たち3名。石室に勢揃いした死神運転手と死霊軍団と正面衝突し、瞬時に踊り食いの憂き目に遭う。この世ならぬ者たち、彼らは常に飢えているのだ。
 遺跡調査D.B.オレガー研究所。
 唐突に登場するオレガー博士。どこの国の人間なのか、遺跡を調査してどうしようというのか目的不明の怪人物だ。明らかに知能が低そうな湘南大学に籍を置く男が、遺跡に描かれた古代文字を解読して貰いに現れるのが博士の自宅である。
 
 「こ、これはアトランティアではナイデスか・・・!!!」

 特撮映画に出てくる誰かわからん外人俳優のように喋るオレガー博士。
 「え・・・?なんですか、ソレ?」
 「一説には古代アトランティスの文字とも言われているのよネ!」
 「ア・ト・ラ・ン・テ・ィ・ス・・・?!」

 あーあー(泣)。

 ここでオレガー遺跡研究所は、死神運転手の唐突な襲撃を受け、殴り飛ばされた博士は頭にこぶをつくる(事実)。湘南大学が作成した古代文字に関するメモ帳を一息で灰にすると、運転手は悠然と立ち去っていったが、それ単なるメモ帳ですから。どんな重要性があるのか教えて欲しい、逆に。
 
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※不法侵入する死神運転手。身長3メートルぐらい。研究所の窓の高さは推定5メートル越え。「ガシャン」という描き文字に大友克洋の影響が感じられるが、それにしても雑な流線だ。

 その頃、750Ccで単身峠を攻めていたオレは、男の車から強制排除された、完璧夜の女にしか見えない不良少女でクラスメイトのアツコと偶然出くわす。
 「ホラ、あんなコのことなんか忘れてさ・・・ネ、風見くん・・・」
 露骨にモーションかけるアツコを無視して走り去るオレ。そうか、オレの名は風見というのか。初めて自分の名を認識し何事か決意した風のオレだったが、どうせ碌なことではない。
 早朝5時。
 彼女の家の窓を叩くオレ。ロマンチック皆無、遺跡の探求に誘いに来たのだ。そんな理由で朝早くから起こされても、文句ひとつ言わない素敵な彼女。明らかにどうかしている。
 バカとキチガイは朝飯も喰わず校庭に空いた古代遺跡の入り口へ。遺跡の壁に触れたキチガイの脳裏に幼少期の記憶か幻覚かよくわからない風景がよぎる。
 大空を舞うB-29。風船を差し出すピエロ。超適当な造形の未来都市。迫力皆無の死人の群れ。不足し過ぎな描写力のため、もう現代っ子の骨みたくポキンポキン折れてる。イメージの必殺パンチがすべて空を打つ。ちょっと見事なくらい無駄骨。
 結果、何が解ったかっつーと、

 13年前、この街に米軍輸送機が墜落。乗務員は全員死亡したが、護送されていたアトランティスの生き残りである彼女とその母親は助かった。
 その墜落場所が、なんでか、彼女の父
アトランティス王の墓がある学校の校庭だったのも不思議なら、町中の人間に謂われない迫害を受け彼女の母親が死亡したのもまた不思議。
 彼女は近所のおやじのご好意により、野良イヌを拾ったが如く育てられていたのだった!

 なにが衝撃って、ピエロ未来都市死人の群れも、ましてB-29※註もいっさい関係ない!
 ※註・と書いて遅まきながら気づいたのだが、もしやアレ米軍輸送機の描写だったのか?え、ええッ?!時代設定が全然わからない!メガフォースを呼べ!
 なんだこれ?しかも校長藤崎先生も全部不要じゃないか!一貫してすべて伏線を回収する気がない姿勢は、読んだ者すべてに深い絶望と後悔を与える。だいたい、どこにどう隠れていたんだアトランティスの生き残り?なぜ米軍が回収を?骨だけになった王は死んでいるの?生きているの?ここ、どこ?

 だが逡巡している暇はない。アトランティスと敵対する勢力である古代レムリアが不死のゾンビどもを使ってアタックをかけてきているのだ!(アトランティスが海中に没して数千年、この人達はよっぽど時間があるのだろう。不死だし。)
 ゾンビに憑かれたオレガー博士がチェインソーを振り回し、『死霊のえじき』の如く壁を突き破って現れる無数のゾンビの手!
 死神運転手
が牙を剥き、アツコはゾンビに操られ顔面を断ち割って物体Xのように内部からエイリアン似の第二の口を伸ばす!
 面白そうな、借り物要素満載!
まさに運動会の秋にはうってつけ!
適当すぎる超能力が開花する、驚天動地の結末を見逃すな!!!


【解説】

毎度誇張と捏造に塗れた『神秘の探求』であるが、今回はマジですから。本当にこういう話なのである。頭痛い。

物凄くスカスカの画面と描写力の無さは、たぶん子供が小遣い稼ぎに集団で描き飛ばしたからなのだろう。
 (これまた空前絶後に気持ち悪い)あとがきのクレジットによれば、作画グループ最低8名はこの大犯罪に関与している計算になるのだが、全員20歳以下の未青年であることを祈る。
 ちなみにこの作品の結末の意味不明さは、かの日曜洋画劇場をパニックに陥れた名作『宇宙からのツタンカーメン』に匹敵すると思われる。なにも解決しない、どころか全然別の話を読まされた気になるところが見事だ。
 それでいて、作者の小僧どもの、

 「どう・・・?いい話だったでショ?」
 
 とでも言わんがばかりの知たり顔がページの向こうから垣間見えてくるようで、堪らなく不快だ。誰か何とかしてくれ。
 もう逃げられない・・・!!! 

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2013年10月 3日 (木)

「さまざまな原因が考えられる」

 電車が停まる理由はいくつもある。

 「気分の悪くなったお客様を救護しておりました。」
 「××駅のホームの非常停止ボタンが押されたため、安全確認を行っておりました。」


 順当なところである。
 これは緊急停止せざるを得ない突発事態だ。そういう思わせる説得力がある。

 ほか、「落雷のため」「強風のため」「大雨の影響で」 などはあまりに堂々たる王道であり、理解力に乏しい老人や子供でも充分附いてこられるだろう。
 運行ダイヤの乱れとの因果関係が、単純でわかりやすい。
 わかりやすいというのは、実に重要なことである。
 
 「ホームから転落したお客様を救助しておりました関係で」
 「人身事故が発生し・・・」
 「線路内立ち入りがありました影響で・・・」


 これらとて、どす黒い想像は働きはするものの、非常に明快である。要は困った客が出た、ということなのだ。

 だから、電車が運行を停止する状況とは、ある種の決まったルーティンにのっとっている。そう思って油断していたのだ。
 これまでは。

 首都圏エリアにお住まいの皆さんはご記憶だろう、昨日の夜、車内の電光掲示板で流れた情報には度肝を抜かれた。

 「【京浜東北線遅延】大宮駅で、乗務員が乗客による暴力行為を受けた影響で」

 え。
 慌てて情報をフォローすると、運転士が暴行を受け病院に搬送されたのだという。代わりの運転手が最寄り駅から到着するまでのあいだ、電車は出発できないのだった。
 暴力を振るった客は、現場で即刻逮捕。
 なんだかよくわからない状況になっているのだった。

 「戦えよ、乗務員!」
 そう思った人もいれば、「だったら勝てよ、乗務員!」と檄を飛ばした人もいたらしい。
 とにかくそういう話だ。
 しかし、乗客と乗務員がバトルする電車ってどんなんだ。ポン・ジュノ監督の新作がそういう内容らしいが。(前方車両にいくほど支配階級。バカ映画。)

 さすがに、これを越える異常事態はそうそうないだろうと思っていたら、
 本日、中央本線がシカと正面衝突して運行停止。
 

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