渋谷直角『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァ・カバーを歌う女の一生』 ('13、扶桑社)
愛だけが人の心を傷つける。
悪意も憎悪もそこから生まれそこへ還るものだ。したがって、この世の悪の元凶は愛に決定。愛さえなければ地球だって救えるかもしれないよ、徳光さん。
渋谷直角といえば「あ、『コロコロ爆伝』の人だ」くらいの知識しかなかったので、この本にはやられた。まいった。わー、うまいわー。
これはうけるわ。どう考えてもロウファイとしかいいようがない描線で、これ。「よりによってこれかよ?!」とは思いますけど、技術的に上手かったら嫌味になるし、かわいく描かなかったら意味がなくなる。限界ドライブ。ギリギリの臨界線。必要最小限のエネルギーで遠距離に着地。
絵って望んだだけで描けるわけじゃないからね。
青筋立てて努力してるんですよ実は。まず、そこんとこまず解ってくださいよ。そのうえでこうなんですから。
「みうらじゅん『アイデン&ティティ』みたいな感じかナ?」と半信半疑で購入してみましたところ、全然違っておりましたのでホッとしましたが。あれ嫌いなんですよ。所詮他人の話じゃんって。そういう意味では安心して読んでいられる。
この本の場合、その点が巧妙になっておりまして、
「これは、おまえの話だよ」
と、読んだやつに思わせる技術(仕掛け)に優れている。そういう術策にはまりにくいと過信しているやつほど、射程にどんどん引っかかる。具体的にはサブカル依存症ですれっからしになっているつもりの連中ね。
釣れます。
驚くほど釣れます。
その秘訣は、作者自身があとがきで明かしておりますが、「笑うあなたにブーメラン、描いてる僕にもブーメラン」ということなのだろう。リアリティーはネタではないのだ。
あらすじ紹介はしません。
驚きましたが、このちょっと無茶したタイトル通りの内容で過不足ありませんから。
おひまな方は、西村ツチカ「アンダーグラウンド」という短編を探してみてください。この本と同じテーマです。こちらはショーン・タンの影響が濃いタッチで描かれた、キモい男たちが出る傑作ですが、短編集『かわいそうな真弓さん』特典でしか読めません。
もったいない。
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