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2013年8月14日 (水)

ポール・マッカートニー&ウィングス『レッド・ローズ・スピードウェイ』 ('73、東芝EMI)

 マッカートニー容疑者が何度目かの来日を果たすそうで、でも東京公演はたったの3日間限定なもんで、岡村ちゃん(推定無罪)がチケット取れるのか非常にヤキモキしていた。

 容疑者といえば、今度のツアーでこそ、ウィングス時代の地味でうけそうもない曲を延々死ぬほどやるのではないか、やれやれやってくれ、と絶望的な期待感があったのだが、発表されてるツアーセットを見る限り、そういうことは全然なさそうで残念だ。
 この期に及んで「ヘイ・ジュート」を聴きたいやつ、一緒に歌いたがるようなバカは、本当に死ねばいいと思う。
 なぜ『レッド・ローズ・スピードウェイ』のB面メドレーを再現してくれないのか。散々『アビイ・ロード』のメドレーはやっているのに。本秀康がマンガで発言していたけど、本当にその通りだ。「♪Oh、レイジー・ダイナマイト」を今こそ合唱すべきである。歌って非常に虚しいが。いいじゃない。

 ・・・と偉そうな口ばかり叩いていると、いっぱしのマッカートニー通と思われかねないので、あらかじめ予防線を張っておく。私はまったく詳しくない。

 今回採り上げる『レッド・ローズ・スピードウェイ』を購入したのは2005年で、かのロシア盤が流行した頃だった。『RAM』は既に愛聴していたので、当時の映像が詰まったTVスペシャル「JAMES PAUL McCARTNEY」が観たくて買ったのだ。その特典DVDが付いたCD二枚組編集の「レットローズ」は全体にダルで、大人の感覚に満ちた奇妙な作品だった。
 既にニール・イネスのソロ『Taking Off』やなんかを聴いていたので、あぁ、あの心底寂しいレイジーなポップ感はここらあたりから来ていたのかと納得したのだが、いまひとつ気持ちが入っていかなかった。

 それがどこで変わったのか。
 一例として、かの大ヒット「マイ・ラブ」の聴こえ方の変遷というのがある。
 中学の頃(『ウィングス・グレイテスト・ヒッツ』で)初めて聴いたときは、ご多分に漏れず、あんなストリングス大量盛りの甘ったるい曲大嫌い、とバカにしくさっていたくせに、これが不思議と年々よくなってくる。あの、まったり感が堪らなくなる。
 きっかけはベスト盤『ウィングスパン』が出たあたりだったか、だって、なんでかギターソロだけ転調してるぜ、意味わからんぜ※註と、この曲独自の異常さに気もそぞろ。
 妙なロック感覚。絶対アタマおかしいって、アレ。
※註・この表現は不正確である。コード進行は転調なし、Aメロのまま。リードギターのみがキーを違えて弾いている・・・そうだ。実はよくわからん。こんな説明でいいのか、D?

 それを糸口に聴き直してみると、『レッド・ローズ・スピードウェイ』の持つ本質的にねじくれた構造が見えてきて、なんか夜中に興奮させられた。
 意味はまったくないのだが、このアルバムは前々作『RAM』から繋がるトリロジーの完結篇にあたる作品である。「RAM ON」リプライズの最後に出てくるフレーズが、一曲目の意味不明な名曲「ビッグ・バーント・ベッド」の冒頭に繰り返されていることでもお分かりの通りで、ともかくスターズ・オン45並みに強引に連鎖しているのだ。
 あと、これまたどうでもいい名曲「リトル・ラム・ドラゴンフライ」とかみたく、本当に『RAM』のアウトテイクだったりするものが収録されていたりとかするし。

 人によっては“ウィングスの最高傑作”と評価する、ヤバ過ぎな名盤『ワイルド・ライフ』を折り目として、『RAM』と『レッド・ローズ・スピードウェイ』は無理やり奇妙な相似形をとらされている。
 
 そして、そのことに深い意味はない。
 マッカートニー容疑者の無意識が勝手に噴出しているだけだ。でも、そのこと自体が凄く貴重なドキュメントと化してしまっている。
 大物だから。
 ちょっと前例のないような大物が、個人的動機でコソコソつくってしまった、いびつな被造物。あきらかに、人を驚かすという商売目的が露骨に感じられる『サージャント・ペパーズ』よかよっぽど芸術的価値は高いと思うのだ。無意識なだけに。

 だって、全然意味わかんないんだもん。最高だよ。

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