テレンス・マリック『地獄の逃避行』 ('73、ワーナー)
マリックさんが超魔術を駆使して、かのチャールズ・スタークウェザー事件を実写映画化。ちなみにマリックさんは百年に一本しか映画を撮らないので業界では幻の映画監督として恐れられています。で、これがそんな男のデビュー作。うひょー。
今回ネタになってるスタークウェザーってのは、名前こそなんか80年代アニメっぽいですけど(『光子力原潜スタークウェザー』主題歌ア×フィー)、アメリカ殺人史に残る連続射殺魔さんのことですね。知ってんだろうけど。悪い人だよ。すごい悪い。憧れちゃダメよ。
【あらすじ】
清掃局に勤めるキットは、とにかく人を撃つのが平気な男。朝鮮戦争に行ってそうなった。
この特技を活かそうと、常に極限まで自分を追い詰める選択肢ばかりをチョイスする習慣を身につけることを決意。安寧なんか全部敵だ。コマンドーを見ろ。プレデターを見ろよ。奴らは毎日危険と向き合って生活してるんだぜ。
危険だけがオレを輝かせるビジネスだ。
手始めに道端でバトンを廻して遊んでいた15歳の女子中学生をナンパし処女をいただく。わお、リスキー。しかもその女がシシー・スペイセクだっていうんだから豪快だ。
「カノジョがキャリー。」
もう、これは職場でも学校でもモテモテの超人気ですよ。男子限定だけど。
「エ、マジ?マジやってんの、あの女と?!」「スゲエ、よくできるなー!」
「なんか勇気をもらっちゃいました!」
こういう会話が飛び交う。しかもキットはジェームス・ディーンみたいな男の子として近所でも定評のある二枚目。この時点で凡人の理解をまったく越えている。
カノジョの父親が交際に猛烈に反対してくると、面倒臭いのであっさり銃で射殺。おやじの職業は看板描きなんだけど、演じてるのがペキンパー『ガルシアの首』でお馴染み悔しい顔させたら世界一のウォーレン・オーツ。ホール&オーツの片割れですね。期待通り今回も飛び切り無念そうに死んでくれます。
そのまま奪ったおやじの車で逃亡。キャリーはなんかショックなんだかボケッとしているので、「一緒に来る?」と誘ったら附いてきた。変な女だなぁー。
逃走資金なんか全然ないので、近所の河ッぺりに小屋をつくり、畑のメロンを盗み食いしたりニワトリをパクってきたりして、ガキ大将みたく隠れ住んでいたら賞金稼ぎ3人組に見つかっちまった。しかし、そこは従軍経験者。かねてより準備済みのブービートラップを駆使して返り討ちに。
最後、逃げる男を迷わず背中から射殺。キャリーが質問する。
「それ・・・なんか、ちょっと反則っぽくないですか?」
「そこがいいんだよ、全然わかってねぇなぁー!」
キットは'71年アカデミー賞5部門制覇した『フレンチ・コネクション』にかぶれていた。時空を飛び越えポパイ刑事に憧れていたのだった。やれやれ。
でも、そろそろ此処もやばくなってきたんで、清掃局時代の知り合いの家に相談に行く。友人もやはり清掃局から足を洗いブタ飼いに転職していた。なかなか凄いチョイスだ。一生モテとは無縁だろう。さすがオレ様のダチ公と勝手に大絶賛。
だがあろうことか、やつは裏切り通報しようとしやがった。チクショウ。射殺。
偶然その現場へ訪ねて来た知人らしき男女ふたりも、地下の蔵に閉じ込めると二三発盲撃ちにして片付ける。行きがけの駄賃だ。とにかく銃弾を惜しみなくバラ撒く男を、中3の女はボケッと見ている。
愛ってそういうもんなのかなー、とか思いながら。父親が死んでも泣かないんだこの女。
キットは金持ちの家を襲ってキャディラックを奪い、州境目指して荒野へ出発。ちなみに此処はテキサス州。あぁ、やっぱりね。
道なき乾き切った平原を突っ走る。途中で、だんだん逃亡に飽きてきた女(キャリー)と険悪なムードになるが、そこはそれ、セックス三昧でネゴシエーション。
でも、さすがにアメリカは広い。キャデラック1台じゃ走りきれない。
何日も走って、「いい加減お風呂入りたぁーい」とかブータレられ、逃亡もロマンもだんだんアホらしくなってきた頃、汽車が見えた。貨物列車はラクダの隊商のように揺らめく地平を通り過ぎていくのだった。乗りてぇなぁー。でも近づいてみると、只直線の鉄路が引かれているばかり。地平線まで停車駅の姿なんか見えず。汽車はさすがに丘蒸気じゃないし、超スピード出してるから、ホーボーみたくタダ乗りなんて出来ない。
あぁ、もうグッドオールドデイズじゃないんだね。
そういう諦観と郷愁がアメリカンニューシネマの時代にはしつこく漂っている。疲れと諦めの心地よい空気。夜更けにラジオから流れ出したナット・キング・コールに合わせてふたりが踊る場面は、なんかそんな感じだ。逃亡不可。あとは捕まるだけ。
ここ数日碌な食べ物を口にしていない、と愚痴る女にキットが言う。
「街に着いたら、ビフテキ食わせてやるよ・・・だからさ・・・」
「あたし、ビフテキ嫌い。」
※註・ビフテキというのは戸田奈津子先生の名訳。うむ時代。
荒野で油田を掘っていたおやじを襲撃したら、警察のヘリに見つかった。ハイウェイパトロールがサイレン鳴らして飛んでくる。拳銃の名手のキット、格好よく警官を次々と射殺。
「逃げるぞ!車に乗れ!」
「イヤよ、あたし、行かない・・・」
ここでのキット役、マーティン・シーンのガッカリ顔は生涯最大の名演技。
「わかった!一年後、サンフランシスコの港が見える丘公園の桟橋のたもとに来い!必ず迎えに行く!」
「そんなややこしい名前の場所、覚えられないわ!」
しらけてキャディラックに単身乗り込むキット。
不細工にふられた。
不細工にふられた。
もう、ダメだ、オレ。
砂塵を撒き散らし追撃するパトカーと派手なカーチェイスを繰り広げるも、胸にポッカリ空いた穴を塞ぐ手段はないのだった。キットは自首するかたちで投降。護送の警官やら兵隊に大人気となるが、落ち着いた先は誰もいない特別収監房だった。つまらん。
キットは特に反省することもなく、半年後、電気椅子で処刑された。
未成年ということで、反省文百回書くことで保釈となったキャリーは、女子高に通うことを許されたが、その高校にはトラボルタとブタの血が待ち受けていたのだった。ちゃんちゃん。
【解説】
マリックさんといえば、マジックアワー。
マジックアワーとはハッピーアワーによく似た習慣で、野外で映画を撮影するのにもっとも適した時間帯、夜明け直前か日没直後のことを指す。光線の具合がいいそうだ。
しかし、そんな時間帯にしか事件が起こらないというのは明らかにウソなので、マリックさんが本当は何を言いたかったのか、オレはいまひとつ理解できないでいる。
だから、なんだ。
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