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2013年7月 7日 (日)

ジョージ・A・ロメロ『サバイバル・オブ・ザ・デッド』 ('09、プレシディオ)

 「父ちゃん、ゾンビが馬刺しを食べたよ!」
 ですべてを解決しようとする無茶な映画。
 混乱気味の脚本はロメロ先生本人が手掛けているワケだが、どうやら「人肉を喰わないゾンビ」という画期的な新概念を主軸にストーリーを組み立てたかった様子で、そのぶっ飛んだ発想にどうも凡庸な俗人はついていけず。(「そりゃ普通に人間じゃん!」という言ってはならない身も蓋もない突っ込みあり。)ゆえに評判いまひとつ、ロメロもガックシという残念な事態になって終わったようだが。
 甘い。
 お前ら、全員甘い。吊るし首。
 批評自体は辛いが、考えてる内容が甘いんだよハッキシ言って。結論がなんだかわからない?それこそがロメロ先生独自の視点で捉えた現実ってもんじゃないですか。この映画における議論の混乱は現実をそっくり反映してるんですよ。一本の正論がすべてを総括する時代なんてもうないんだよ。多段階選択方式じゃないですか。いつも常に。なんだって。
 そう思いながら観ると、やっぱり面白い、いつも通りの定番ロメロ映画でしたよ。何の不満があるんですか。え?「なんで島に着いたら西部劇なんだ!」って?
 ロメロは携帯が嫌いなんだよ。
 「携帯持ってるやつは全員ゾンビに喰われちまえ!」って心の底から思ってるに違いないんですよ。だから携帯通じない離島が舞台なの。そんだけ。(ネットは可とするらしい。)
 前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』はロメロの自伝でしたけど、今回はロメロのエッセイ。随筆です。お題は現代社会について。現代が嫌いだから、敢えてオールドハリウッド調の西部劇出してくるの。いつもの分かり易い皮肉ですよ。嫌味。シェー。
 
 確かにこの映画は混乱しているが、その混乱はなんだか愛すべきものに思われるのであります。

 
【あらすじ】

 首都圏でのゾンビ発生事態から逃げ出し、田舎は安全なんじゃないかと超甘い考えで街道を爆走する兵隊たち。女兵士なんて登場すると同時にオナったりして、露骨に緩んで退屈している。
 と、そこへネット経由で怪しいおやじの出ているCMが。

 「この島へ来ればゾンビもいない!安全!ハッピー!最高!もうギンギン!
 桟橋まで来てワタシを探してみてください、ヨロシク!!!」


 ブルワーカー、ビリー・ブートキャンプの昔から怪しいおやじの出ているCMは誰が信用するんだコレって胡散臭い空気を漂わせておりますが、不思議とみんな買っちまうんだ。これが。
 百戦錬磨の筈の彼らもコロリ騙されやって来ました港町。美空ひばりのゾンビが『悲しい酒』を絶叫する歓迎ムードの中、前門のゾンビ、後門に地雷原が出現!こりゃたまらんわい、とフェリー逃げ出すと、航海すること5時間で問題の島に着いた。ホントにあったんだジュラシック・アイランド。
 襲い掛かる恐竜の群れを退治しながら、アトラクションの出口を探す兵隊たちを馬に乗った美少女ゾンビが襲う!ってまぁ、全速ダッシュで集団中央を突破されただけですが。さすがアメリカはススんでる、馬を駆るゾンビなんてJ・R・Aにもいませんよ。
 とそこへ、さきほどのゾンビと同じ顔の女の子が現れて、

 「バァーーーッ!!!
 実は、あたしら、双子でしたーーー!!!」

 
 って禁じ手には、正直どうリアクションすればいいのだろうか。教えてロメロ叔父。
 その後事態は加速度的にグダグダになって行き、最終的に主人公以外の連中はなんらかの事情があってバタバタ死んでしまい、「あー、たまに休みが取れても島なんか観光するもんじゃねーな、死ぬほど不便だし」と観客も同様疲れ切ったところで終了。
 
【解説】

 撮影をSuicaに任せたところに、ジョージの現代批判精神を感じる。確かにSuicaは便利だが、なにもカメラまでワンタッチでなくてよさそうなもんだ。でも限度額までチャージできます。最高。
 

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コメント

ロメロ監督が好きでも、サバイバル・オブ・ザ・デッドは色々疑問の残る作品だったので、取り上げてくださる方がいらっしゃって嬉しいです。

レズの女兵士とかモブの謎のキャラの濃さや、西部劇などの要素をごちゃまぜにしちゃう感じがB級らしかったですね…

もうご覧になっていたらすみませんが、同監督の「ランド・オブ・ザ・デッド」も面白かったです。

投稿: 俗 | 2013年7月 7日 (日) 22時40分

はい。「ランド・オブ・ザ・デッド」最高だと思いますよ。アーシア・アルジェントのプロレスとか。あと、チョロ!チョロがいいよねー。

投稿: ウンベル | 2013年7月 8日 (月) 05時03分

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