牛帝『同人王』 ('13太田出版)
5年くらい前の話だ。
O先生という友人がPC用のコミック作成ソフトを買った。ペンタブレットも併せて。もともとGペンやら背景写真集やら持っていて、高校時代からずっと鉛筆描きのノートで私小説っぽいマンガを何冊も制作したりしてきた実績のある先生は、“萌え”文化の素晴らしさについて語り、『侵略!イカ娘』の可愛さに言及し、「遂に自分の時代が来たのだと思う」と言い切った。
(先生のそれまでのマンガ購読歴は、高橋留美子に始まり、『美味しんぼ』全巻、浦沢直樹に到る小学館ビッグ色濃厚なものだった。)
音楽もつくる先生は、ボーカロイドのソフトを購入。マンガと同時進行で、自作の楽曲を果敢に売り込む作業にも熱中するようになった。ニコニコなどにアップし、楽曲の背景には自分でつくったアニメーション。コンテストにも出して、確か結構いいところまでいったんじゃなかったかな。
その頃から以降、O先生との接触はまったくなくなってしまったので、この話の結末はわからない。
なんか知らん、今回のこの本はそんな先生にこそ読んで欲しい内容だと思った。
『同人王』は、ヘタレなマンガ家志望が一度は考える「アニパロのエロ同人誌を作成して大金持ちに」を本当に実践してしまおうとするストーリーである。
その為のノウハウが紹介され、簡単なお絵描き講座まである。
物語は現代版『まんが道』と考えて間違いではないが、志はおそらく推定一億倍くらい低い。どう転んでもNHK朝ドラにはならないだろう。だいたい主人公、登場場面90%以上の確率で全裸だし。
でも、この本は面白かった。
絶望的に低い志がリアルだ。そこに共感できる。
エロパロで儲けるドリームの起源は相当古くて、私が最初にそういうマーケットの存在を知ったのは大塚英志の二冊目の評論集じゃなかったかしら。「ビックリマンの構造が源氏物語に通低」って、どう考えても無駄な発見の載ってるあれだ。
日本中が「セイラームーン」や「聖闘士星矢」のエロパロでヌキまくっていたあの時代。街を歩けばどこもかしこもイカ臭かったあの頃。アズ・タイム・ゴーズ・バイ。
2013年景気はますます底冷えし、選挙じゃ再び自公が過半数を取ったって速報が流れている。
青少年の自殺率が上昇したってのも昨今の傾向だ。中高年の自殺率はストップがかかったが、若い子は逆にガンガン死んでいく。
「死ぬな」なんて、誰にでも言える。
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