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2013年7月 6日 (土)

栗原亨『新・廃墟の歩き方』 ('13、二見書房)

 わたしたちは不穏当なものが好きだ。特に常識の裏をかかれ見慣れた風景が一変するような神秘体験にはコロリとやられる。誰もが奇跡に飢えているのだ。
 廃墟とは、家の死体である。
 かつて人が住んでいた建物が時間の経過と共に誰も住まなくなり廃墟となる。そこにあるのは見慣れたものが異質な存在に変わっていくプロセスとその結果である。
 よく知っている筈の柱や壁がなにか違って見える。なんだろう。黴がびっしり繁茂しているのだ。畳が腐って床が抜けている。丸木を掛け渡したテラスが崩壊し丈高い雑草が茎を伸ばしている。あるいは戦時中掘られた防空壕が農閑期に仕舞われたらしい鋤や鍬と一緒に朽ち果てようとしている。廃業した病院。豪邸。戦前の集合住宅。潰れた遊園地・テーマパーク。刑務所や学校跡。
 著者はこれらの場所が物理的に危険だと述べている。
 きちんと装備をしていかないで不用意に立ち入れば事故や怪我のもとになる。陰鬱で湿った場所だ。紹介されている物件の大半は見るからに凄い心霊スポットなのだけど、オカルト方面を一切信じない著者は、廃墟が法律上国や個人の所有物であり場合によっては家宅物不法侵入にとられる可能性があることの重要性を警告している。
 なるほど、あてにならない霊の気配より、山奥の人気のない廃墟の奥で遭遇した浮浪者の生活痕の方がリアルにこわい。

 多くの美しい写真で構成されている本書に関しては、黒澤清映画のロケ地マップだと誤解して読んでみるのも一興かと思われる。全国にこんなにあるのか、清映画物件。
 明映画は・・・電柱を引っこ抜かないと無理だね。

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