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2013年6月10日 (月)

相原コージ『Z(ゼット)』 ('13、日本文芸社)

 相原コージは、相原コージに徹することに全力を傾けている点において偉大である。
 驚くほど変わらない。私が相原のマンガを購入するのは実にかの『サルまん』以来だったりはするのだが、(そういやあの忍者マンガはどうなったんだっけ、スズキくん?)、相変わらずの絵柄で相変わらずのネタづくり。その変わらなさ加減は、なんだかちょっと感動的ですらある。

 相原のマンガは、わかりやすい。
 器用の真逆をいく絵柄が、私鉄駅前で40年以上やってる弁当屋みたく安心して楽しめる味を作り出している。基本のり弁なのになんだか斬新だ。現状維持だけを考えてつくっていたら、決してこういう味にはならないよな。そう得心させる奥行きが感じられるのだ。

 お蔭様で、私の入手した新作『Z』の単行本は発売一ヶ月で2刷に突入。プロだものビッグネームだもの当然だと思いつつ、名前だけで本が売れれば苦労しない村上春樹天下のこのご時世、一部だろうがちゃんと面白いものを見分ける読者がついてきていることを、相原先生ともども喜びたい気分だ。
 ほんと、村上風情が何を偉そうに。おかしな時代になったものだ。
 (参考までに申し上げるが、私はチャンドラーも大嫌いである※(註)。理由はもったいぶってて偉そうだから。トルーマン・カポーティ、くそくらえ。)
 ※(註)レイモンドの方。A・B・チャンドラーはむしろ好きである。
 
 ジョージ・A・ロメロ型のゾンビをバタリアン風味で味付けした『Z』は、ベタで親しみやすい下ネタ満載の、実はありそでなかったゾンビパニック漫画である。
 一回12ページから14ページ。
 連続性のある話もあるが、基本的にはオムニバス。

 ●登山者が崖から落ちて死亡。ゾンビ化したらどうなるか。
 ●裏山にゾンビを求めて分け入ったガキどもが全裸の女ゾンビに遭遇。写メ撮って騒いでるうちはよかったが、ひとりが偶然チンコ噛み切られて感染パニック。
 (食人族映画並みに、子供チンコの切断面がちゃんと描かれている点に感心させられる。)
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 ●ゾンビを治す新興宗教の荒療治まがい詐欺。結果人間火だるま(ヒューマン・トーチ)が出現。
 ●かわいい飼い猫までがゾンビ化したとき、バカな飼い主はどうなったか。

 内臓やら、首が六十度回転した猫やら、薙刀で執拗に足首切断やら、残虐描写を過剰すぎない相原流の作画に落とし込んで平明、かつちゃんとリアリティを持たせて描ききっている。
 師匠格のいがらしみきおが観念や哲学を持ち出してくるような場面でも、相原はあくまで現実味とおかしさ、哀しさに拘り、それ以上深遠な思考を持ち出そうとはしない。
 これこそがマンガの唯一可能な表現なのだ、と言わんがばかりに。

 人間はすべからく矮小で哀れむべき存在だ、という冷徹すぎるリアリスト思考の徹底において、相原コージは真に偉大である。

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コメント

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投稿: うんち | 2014年12月23日 (火) 19時39分

自作自演でコメントしますに、この記事結構攻めてますね。その後チャンドラーに関しては考えを変えました。『湖中の女』面白かったですよ。

投稿: UBK | 2022年1月30日 (日) 21時09分

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