『XTC 少年忍者快楽伝』 ('11、エンターブレイン)
(ナレーション)
「無限に広がる大宇宙。
そこには未知の生命体も前人未到のホールインワンも隠されているに違いない。宇宙はまさに人類に残された最後のフロンティアなのである。
これは人類初の試みとして、5年間の調査飛行に翔び立った宇宙船U.S.S.ダイナマイト号の驚異に満ちた物語である・・・!」
『ヒューストンより、D!ヒューストンより、D!』
木星と火星の間付近の、適当な宇宙空間。
緊急無線電波が稲妻の如く真空を引き裂き、冴えない銀色のスペースシップに到達した。
「・・・のぁ?」
Dはのろのろと網棚から身を起こす。相変わらず銀の宇宙服に身を固めているが、ヘルメットの上に小粋なおしゃれハットを乗せ、薔薇の花を横咥えにしていた。
「誰だァー、おめえは・・・おまわりさんかァー?!」
『貴様いったい何にラリってるんだ、何に?!』
地球からの音声は苛立たしげに舌打ちする。
『ひさびさに呼び出してみれば意味不明のコスプレしやがって、このファッキン・ジャパニーズ・ロッカーかぶれが!!!
貴様がのんびり惰眠を貪っているあいだに、地球では大変な騒ぎになってるんだぞ!!!』
「Dより、ヒューストン。
昨夜喰った、たくあんでトリップ。ナチュラルハイとはこれかと実感。
・・・で、どーしたの?」
『ヒューストンよりDへ。XTCの新作が発売されました』
「えええーーーッッ?!
そんな・・・そんなバカな・・・なにをいまさら・・・」
『そう云いながら動揺を隠せないご様子。そんなあなたに新作ジャケの画像をドン!』
「ひええぇーーー?!なんじゃこりゃ?」
『どうだ?紛うことなきXTC待望の新作であろうが?
毎回意表を突いたイメージ刷新を打ち出してきた彼らだったが、2000年の「アップル・ビーナスVol.2」以来、なんと13年振りの新作だからな!
それにしても、アルバムタイトルが“少年忍者快楽伝”とは、またしてもアンディ、やってくれるよな!』
「・・・Dよりヒューストンへ。それにしてもメンバーの顔、変わりすぎていないか?」
『うん、今回またも大幅なメンバーチェンジがあったようだな!』
「メンバー変わりすぎだよ!
そもそも、これ、浜村編集長のエンターブレインから出てるってことは、実はひょっとしてマンガ本だったりしないか?」
『ご明察。さすがですね。
お前、ふざけた格好してる割りに、まだまだ知能は衰えてないようだな!
今回またしてもXTCは、ジャンルの垣根を易々と乗り越えて、ロック・ポップスの未踏領域を開拓ってワケなんだ!』
「ふーーーん。
・・・って、明らかにジャンル飛び越えすぎだろーが!!!
大体、この本、どういう内容なんだよ?納得のいく説明をしろ!」
『あい、あい。
アンディーくんは少年忍者。殿暗殺の命を帯びて、目指すターゲットに近づきますと、逆にワナにかかって超恥ずかしいことに。でも宿敵・コリンの守はすっかりアンディーくんがお気に召したご様子。
そこから始まる、組んづ解れつ。XX(チョメチョメ)の嵐!」
「B・Lやないかい!!!
思いっきし、只のB・Lやないかい!!!」
『これまでにもXTCは新作が出るたびファンの間に大激論を捲き起こしてきたワケですよ。“これはアリか?”“アリじゃないのか?!”ってな具合に。
「ママー」におけるトラッド回帰路線とか、「ビッグエキスプレス」における60年代サイケサウンドの投入だとか。名作「スカイラーキング」では雇ったトッド・ラングレンを一方的に強制解雇とか、人的トラブルにしたって尋常じゃなかったんですよ。メンバーチェンジはアルバムごとの習慣みたいなもんでしたし。
そのたんびに、ボクらも必死に口角泡飛ばして真剣に議論を戦わせてきたんですよ。“これはアリか?”“アリじゃないのか?!”って・・・』
「今回はナシ!積極的にナシの方向で!
だいたい、ジャケに印刷されてる“ぷよこ”って超適当な名前、なんだよ?」
『新しく入ったキーボードの人だと思います。デイブ・グレゴリーの後任みたいな位置づけでしょ』
「・・・で・・・?
それで、ヒューストン、お前的にはどうだったっつーんだよ、今回のアルバムの感想は・・・?」
『がんばってスクリーントーン貼り捲くりとか、C.G.加工で城の写真を背景にしてみたりとか、新たな試みに色々取り組んではいるんですけど・・・。
かつての名作「ブラックシー」や「イングリッシュ・セツルメント」には比べるべくも無いかな、と・・・』
「Dよりヒューストン。
・・・当たり前だ。」
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