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2013年5月

2013年5月31日 (金)

レイ・ケロッグ『人喰いネズミの島』 ('59、WHDジャパン)

 プラスチック製の牙をつけた野犬にモコモコの毛皮を被せて人喰いネズミだと言い張る、度胸満点の映画。観るときっと後悔するだろう。だからもう観るしかない。
 だいたい、監督の名前がケロッグだ。ケロッグ。ケロケロ。もうダメな匂いがぷんぷんするだろう。

【あらすじ】

 嵐が近づく絶海の孤島。周囲に聳える雲の峰を眺めながら補給物資を運んで来た船の船長さん、手下の黒人をどやしつけている。碌に働かずケツ掻いてばかりいるからである。
 
 「オートパイロットができたら、お前なんか絶対用済みなんだぜ!」
 「そりゃあんたもだろ、キャプテン!」

 
 豪快に笑い合うふたり。さっぱり面白くない。
 
 「だいぶ、雲が出てきたな・・・」
 「なんで?こんなに晴れていて、上天気じゃないですか!」
 「バカ、俺たちゃ既にハリケーンの目の中にいるんだ!そんなことも解からんのか、この、おたんこなすめが・・・!!!
 とんぼがえりは出来ないぞ、今夜は島に一泊だ!」


 ところが、目的地の孤島は、ネズミ博士がネズミの繁殖について研究する実験施設しかないきわめて不便なこの世の地獄だった!この情報を得た時点で、機敏な人なら露骨に詐欺っぽい空気を読み取るだろうが、あいにく二名は真性のバカだった。
 港なんかないから、ちょっと沖合いに錨を降ろしボートを用意。エメラルドグリーンの海に漕ぎ出す。
 島に上陸すると、さっそく博士が娘を連れてお出迎え。博士の助手がライフル銃を構えて随行している。ものものしい雰囲気だ。
 それでも博士、薄い頭でにこやかな笑みを浮かべて、

 「諸君、よく来たな!歓迎するよ!さっそくだが、荷物を降ろして、娘を連れてさっさと島を出て行ってくれ!」

 初対面からむちゃくちゃ言ってる。
 船長、ニヒルに唇を歪め、

 「おいおい、こいつは御挨拶だな!!
 史上最大級のハリケーンがこの島目指して接近してるんだ。いま出航はできないよ!荷降ろしもなしだ!」


 「キャッホー!」と歓声をあげる黒人。こいつ、心底働くのが嫌いらしい。

 「では先に断っておくが、実験の失敗で巨大化した人喰いネズミの群れが300匹、この島を徘徊しとるんだ!やつらは何でも食い尽くす!この島で食べられるものは、あらかた食べ尽くした!
 今度は人間を狙ってくるぞ・・・!」


 という博士の説明の合間に、いちはやく巨大ネズミに踊り食いされている黒人。一同唖然。
 博士の助手がすばやくライフルを構えるが、背後から接近してきた別の一匹に足を噛まれて砂浜に転倒した。

 「うぐッ、ぐぐ、ぐッ!!!」

 地面に倒れ、激しく痙攣していた助手はものの数秒で動かなくなった。

 「これは・・・」
 訝しげにその様子を見つめる船長。博士はちっとも慌てず、周囲を跳梁し始めた巨大ネズミの動きを目で追いながら、

 「なぁに、簡単なことだ!
 突然変異したやつらは、牙から強力すぎる毒を注射するのだ。コブラの数億倍、ガラガラヘビの数十倍の威力を持つ凄すぎ、猛烈すぎな毒だ。
 噛まれた人は、ほんの数秒であの世へ行ってしまうのだ!」


 「ダメじゃん!ネズミ、強すぎじゃん!」

 博士の娘はわっと泣き出した。

【解説】

 こうした本当にどうしようもないタイプの映画には、ある種危険な魅力の磁場がある。安さか。

 たしかに舞台を無人に近い島にでも設定すれば、雇う役者やエキストラはかなり削減できる。
 この映画の登場人物は全部で8人。そのうち半分は照明さんとか大道具さんとか、スタッフが兼業で出演。主演女優はスウェーデンから出稼ぎに来たばかりで、英語がまともに話せない。
 「あたし、スウェーデン訛りでごめんなさい・・・」
 と、劇中でもさんざん謝り続ける。博士が北欧出身という伏線なのかと思ったら、そうしたフォローは一切存在しなかったので、この部分は単に監督の本音なのだ。一方的な楽屋落ち。クスリともしないが、果たして本当に英語国民にも面白いのかそれ。

 こんな南の島(所在地不明)くんだりまで来て、博士の家で主人公達がやたらカクテルばかり飲んでいるのも変である。いや、場所がリゾートホテルとか豪壮な屋敷だったら理解できますが、どう見たってただの掘っ立て小屋なんですよ、博士の研究所。
 壁とか、灰色のプラスターボードでね。壁に何か掛かってたりしない。家具もほとんどない。ドリンクカウンターの台と、ソファが一本あるだけ。
 要は、いっさいセット組んでないんだよ。
 
 そんなとこでマティーニ掻き回して真顔で会話されても困る。
 

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2013年5月30日 (木)

パラダイス・ガラージ『ROCK'N ROLL1500』 ('95、TIME BOMB)

 「知らないと損をする!」級の傑作として、パラダイス・ガラージのデビュー盤を取り上げておきたい。2008年にボーナス2曲追加して再発がでているが、私が何も知らずに買ったのはオリジナル盤。
 当時の定価1,500円(税込)。中古価格1,300円(税別)だったから、明らかにプレミアム。

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 そもそも、なんでこれを知ったのか説明すると、ズボンズとかゆらゆら帝国なんかの参加しているオムニバス「Ricetone Cycle vol.1」というのがありまして。コレ、QUATROが出してたりしまして既に充分時代を感じさせる遺物なワケですが、ま、先日中古価格500円で入手しまして。
 いまさらながら結構面白くて連日聴いているうち、収録されてるアーチストの個別盤を探してみようという気になりまして。で、ズボンズのデビュー盤とか聴いてみて「あぁ、つくづくつまらねえー!」と激しく思い、それでも懲りずに次に手にしたのがこの盤だった、と。

 で、ちょっと感動しました。やりたいこと、やってて気持ええ。

 宅録なんですよ。TEACのカセットデッキまわしてやってる。その他レコーディング場所もカラオケボックスとか、スタジオはスタジオでもスタジオ・ペンタだったりしまして。
 漂うノイズの感じまでが、なんか強力に既視感のある音風景(サウンドスケープ)。くぐもった音がまた、カセット特有の籠もりかたをしてまして、「やっぱカセット最強、くたばれデジタル!」っていまさら改めて思いました。
 
 内容だって、輪をかけてひどい。
 「・・・インポだって、やりたいんだよ!」
 「インポにもセックスさせろ!」

 と、選挙運動並みに、冴えない男がぼやきまくる最悪なコラージュだとか、紙箱をドラム代わりに女言葉フォークで歌い上げる「海を知らない小鳥」だとか、レジデンツ風のバックトラックに乗せて「♪ブルー、ブルー、ブルース・リー」とか、明らかにオルタナ、「哀愁のヨーロッパ」それはサンタナ、いっけんデタラメ風に見えて実はちゃんと小技が効いている。実力のほどが窺われます。
 意図的に普通にやってる名曲「移動遊園地」やら「家族旅行」を聴けば、誰でもそれは納得でしょ。(ここで佐藤師匠はYOUTUBEでパラダイスガラージ「移動遊園地」をチェックされたし) 

 なによりびっくりしたのが、このアルバム、ライナーにでっかく手書きで、

 「dedicated to 佐野元春」

 と、堂々とさらしてある!
 しかも、別の資料によりますと、彼の(※申し遅れましたが、パラダイスガラージは個人のユニット名)いちばん好きなアルバムは、『VISITORS』である!そんな無茶な!
 (いちばん好きなプリンスのアルバムは『LOVESEXY』ってのも危険すぎ。『BORN IN THE U.S.A.』ってのも)
 こんなに堂々と、そんな恥ずかしくて死にそうになるシロモノにオマージュを捧げる人は初めて見た。その点は明らかに素晴らしすぎるので、松山千春『起承転結Ⅱ』を同じくフェイバリットに挙げている事実は、この際だから忘れてあげよう。

 さぁ、聴け。
 なんでもいいから、恥ずかしくて死にそうになるものを。

 いい加減、本音で話そうじゃないか。
 オレとおまえ、手遅れになる前に。

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2013年5月27日 (月)

シェーン・アッカー『9』 ('10、UNIVERSAL)

 人類滅亡後の地球の運命を決めるのは、じじいの魂を宿した九体の人形たちであった!
 誰が喜ぶのかわからないが、衝撃的な設定だ。斬新といっていい。

 これまでわれわれは意味不明の未来像を多数目撃してきた。
 「少女が詫びたら、昆虫軍団の暴走が止まった!」(『風の谷のナウシカ』)とか、心にエコの欠片も持たない私には意味不明で難解なものでしかなかった。
 本当に誰かそこで泣ける理由をちゃんと教えて欲しい。
 地平線まで埋め尽くす巨大な昆虫の群れ、また群れ。
 これってパニック超大作じゃなかったの?アーネスト・ボーグナインなら特攻して何度も死んでいるほどの大変な状況ですよ。いまさらお詫び、土下座ってのはナシですよ。
 地球を救うんなら、ちゃんとしろ。
 
世の中、まったく狂っとると思うよ。
 
 さて、今回は地球を継ぐのはじじいの魂、というお話である。

 なんでそんな面倒な真似をしなきゃならないのかサッパリわからないが、独裁者に命じられて地球を滅亡させる兵器(自己増殖するロボット工場)をつくってしまった科学者のじじいがいて、対抗する存在として(?)九体のちっこい人形をつくる。これには分割してじじいの魂が封じ込められている。合体するとじじいが再生する、とかなら嫌過ぎる展開とはいえまだしも理解できるのだが、そういう明解な方向に話は進んでくれないのであった。
 ロボット工房との激しい戦いの果てに、人形のうち三体ぐらいが犠牲になると、彼らは墓に葬られ昇天する。おしまい。
 ・・・あれ?だから、なに?

 観客は全員置いてけぼりにされ、感動のフィナーレへ突入。ダニー・エルフマンのオーケストラが鳴り渡る。え、これが結論だったの、この話?
 確かに、じじいの魂の分量(個数)は減った。だが、それにどんな意味があったのか?そもそも地球滅亡後も存続させる価値のある存在か、じじいの魂?
 幾多の疑問にまったく答えようとせず、なんかいい話にした気で強引に締め括るあたり、作者の底知れぬ人の良さが感じられ嫌いになれない。説教臭くしようとして見事失敗。でも上手に説教されるよりナンボかいい。有難い宗教説話の筈が単なる見世物に徹してしまった『十戒』の面白さみたいなもんだ。
 作者の意図を十全と実現することだけが作品の価値ではない。交通事故そのもののような作品もあって然るべきだ。ハプニングというやつね。ハプニング芸術。

 そうそう、断っておくが、この作品、面白かった。
 丁寧につくられていてアクションも小気味よい。どっかで見た感満載のキャラにビジュアルでしたけど。いいじゃん。細かいことは気にするな!
 話の意味はまったくわからんが、アートだよアート。その程度の理解で充分だ。

 ・・・しかし分割されたじじいの魂のひとりがジェニファー・コネリー(巨乳)なのは、なんでやねん?

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2013年5月18日 (土)

川島のりかず『けもの喰いの少女』 ('87、ひばり書房)

 きみの血糖値中にのりかず濃度が上昇していくのが感じられる。
 あぁ、川島のりかずの記事を書きたい。あぁ、のりかずの記事を読みたい。いま書店で売っているどんなマンガより面白いのりかず。素晴らしいのりかず。思い切り食ってゲロ吐きそう。
 だがこれは一種の病気だと思う。そんな筈はないのだ。川島のマンガが素晴らしいなんてことはありえない。内容スカスカで10分あれば読み終えられる単行本一冊に、記事執筆だけで一ヶ月かけるバカはいない。誰に頼まれた訳でもなく自ら進んでやる仕事。レイバー・オブ・ラブ。そんな必要などぜんぜんないのに。人生にはもっと重要なことがある筈だ。かえるの養殖とか。きゅうり無限栽培とか。
 そういう反省を込めて、今度こそは簡潔かつ要領を得た記事にしたいと思う。嘘は書かない。嘘は嫌いだ。いまのネットは嘘ばっかりだ。特にウンベルケナシと名乗る輩の記事は酷い。妄想と一方的な思い込みしか書かれていない。資料価値ゼロ。信頼性皆無。こういう無駄は排除すべきだ。
 だから気になる人は実際に入手して読んでみればいいのだ。確かに面倒くさいけど、根気よく捜せばなんとかなる。

 今回採り上げる本の入手には5年かかりました。

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【あらすじ】

 冒頭、デブが校舎屋上からダイブして自殺する。
 ダイエットに失敗したのだ。3回も。衝撃を受けまくるクラスメイト。確かにみすずはデブであり、当然ドン臭くてクラス全員から疎まれていたけれど、食欲はそれでも相変わらず旺盛だった。「死ぬ前に食うか、普通?そんなに?」ってスレッドにコメが付くぐらい、死亡直前の授業中にも菓子をボリボリむさぼり食っておりました。そんな女がなぜ?
 そういや今朝も新宿駅で山手線に飛び込んだ人が本当にいましたが(実話)、いっけんシンプルそうに見えても、人間そんな簡単に自殺するもんではない。背後になにか複雑な事情がある筈だ。借金とか。あと、借金とか。借金とか。

 そういった複雑な社会状況を鑑み、早速捜査を開始するノン子以下三名のクラスメイト。
 あのとき、死に際、校舎の下で頭がカチ割れ脳がはみ出して血塗れになったみすずは、偶然駆け寄ったノン子の腕を握り締めて囁いたのだ。
 「ゲゲゲの女房・・・」と。
 ダイイングメッセージだ。
 ちょっと古くて最近あまり使われなくなった手法だけど、これぞ明らかに死に逝く者から生者に宛てたお手紙である。受け取った者は必死こいて謎を解かねばならない。解かねば井戸から貞子が出てきて狂い死ぬ。有名な都市伝説だ。
 

 「・・・しかし、どういう意味よ、”ゲゲゲ”って?」

 放課後のクラスルーム。夕暮れ時の柔らかな斜光が室内を照らしている。
 メガネのとしえは三名の中で一番アタマがよさそうに見える。だがそれは見かけ倒しで、単に視力が悪いだけのことだ。ミッキーマウスの缶バッチを、これ見よがしに胸に留めてる時点で彼女の知能程度は知れるだろう。

 「ふむ、犯人はもしかして水木プロ関係者・・・?!ドラマ化もされてるから主演女優似という線も推理として捨てがたいわ!」

 おかっぱのリエが息急き込んで発言するが、オタクっぽくて駄目だ。こいつは、実は永遠に生きてる三十歳主婦で悪魔と契約して女子高生の姿にして貰っている。キリストを刺した主犯は実はこいつだ。だが、そんな裏設定が本筋に絡んでくる可能性はまったくない。

 「あんた達、いい加減にして!
 みすずは無念で死んだのよ!少しは真剣に考えてあげて!」


 形容しがたいボリューム感を持つ髪形のノン子(※ジャケット写真参照)は机を叩いて怒鳴りつける。彼女だけが真剣だ。そりゃそうだ、誰だってデブの呪いは受けたくない。

 「ともかく、みすずの身辺を再度洗ってみるしかないわ。としえは担任にあたってみて。進路や成績で悩んでなかったか、聞き出すのよ。
 りえは部活やクラスメイトの線から。あたし達の知らない交遊関係があったかも知れない。特にシンナー・トルエン系。禁断症状からくる妄想が昂じて錯乱し自殺に到ったのかも」

 「ずいぶん、采配テキパキしてるじゃん。異様に。軍師かよ。
 ・・・で、あんた自身は?」

 「あたし・・・?
 あたしは、カレシとおデーーート!!」


 その場の全員が一斉に転倒したもので、教室の床が抜け落ち階下の低学年クラスが丸一個壊滅したが、既に課外時間だったので香典料は最小限ロットで済んだ。学校関係者どもは年度決算報告書の隅にその事実を記載し、しれっとして「不慮の災害」と位置づけた。もちろん災害を引き起こした当事者どもが瓦礫に埋もれつつも全員無事だったのは、毎度のこと。いつも罪なき者が貧乏籤を引くのだ。
 
 さて、ノン子のカレシであるが、同じクラスのこいつである。

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 勘のいい読者は既にお分かりであろう。みすず(デブ)の死に、この奇怪な髪形の男は深く深く関与しているのでありまして、本作品は実にその辺の真相を探る本格ミステリーとして読み解くことが可能だ。無理やりですけど。
 
でも信じろ。表紙をよく見たまえ。


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 さて、読者の脳裏に垂れ込める暗雲がラピュタ上空の青空の如く晴れ渡ったのを確信したうえで、物語をいつもの川島発狂路線へと戻しますが、カレシとその後うっふんあっはん、ぎったんばっこんひたすら楽しんで帰宅し、幸福の絶頂にあるノン子を突如襲ったのは恐怖の異常食欲だった。

 「おかわり!」
 晩飯のごはんを食べる、食べる。傍らで妹が嫌味を言っても止まらない。
 おかわり、うまい。
 最初っからおかわりが食べられたらどんなにいいだろう。そんな吉田戦車みたいな、とめどない思考を廻らせながら食い続け、デザートの杏仁までカッチリ完食し切った。

 「アネキ、あんまり食いすぎるとブタになるぞ!」

 意地の悪い妹は、ぜえぜえ肩で息をし全力疾走後のマラソンランナーみたいになっている姉を見て、思わず呆れて言った。
 その、妙に細めた目に向かって、姉は深海から響くような重低音で、

 「・・・うるせえ、この、キツネ目の女!!!
 グリコ誘拐犯、実はおめえじゃねーのかよ!!!」


 ギラリ、目が光る。心なし今日の姉は剣呑だ。これは。
 その瞬間、強烈なアッパーカットが左頬を直撃していた。ぐらり、よろめく。明るく楽しい家族の食卓がたちまちベトナムの戦場並みの泥沼に。
 びえん、びえん泣きながら反撃の連続パンチを空振りさせる妹。思わず怒鳴りだす母親。TVで野球拳を観ていた父親も黙ってはおられず、立ち上がった。

 (あれ・・・?どうしたんだろ、わたし?!)
 最大級の怒号が交差する真っ只中で、ノン子は、先ほどの凶悪すぎる自分の言動をいっさい記憶に留めていなかった。

 その日からノン子を連続的な異常食欲が襲う。奇怪なことに食糧をゲットする瞬間の記憶はいつも途切れ、気がつくと目の前にエサが並んでいるのだった。
 ファミマで自前で買ったチョコボールがカバンに入っていると、
 (誰が入れたんだろ、コレ・・・?)

 授業中ボリボリ喰っていて発覚、教師に取り上げられると、
 (バーカ、まだペロペロキャンディーがあるんだよーーーん!)
 キリがない。
 無邪気といえば聞こえがいいが、なんだかおっかない娘になってしまった。自覚症状がないから反省もない。周囲の忠告も聴く耳持たず。最悪のシナリオ。
 相変わらず自宅ではおかわりを無制限に繰り返し、「オバQかよ!」と家族の心胆を寒からしめる。
 まるで何かに取り憑かれているかのようだ。
 ・・・って、まぁ、実際に憑依されていたりするのだが。

 どんどんエスカレートする食欲はもはや誰にも止められない。教室で齧るおやつも加速度的にヘヴィー度を増し、今日はチョコレートのショートケーキ詰め合わせ。3個。
 またか、と取り上げようとした教師に対し、遂にぶち切れ、殴る蹴る。

 「オラ、オラ、オラ!!!」

 女学生の繊手にどんな力が秘められていたのか、顎を砕かれ、ストマックに強烈な回し蹴りを喰らった教師は不覚にも速攻でのびてしまった。ご丁寧に胃液まで吐き出して、スーツが汚物まみれで転倒。派手に薙ぎ倒された椅子と机の間に転がり込む。到底ありえない事態に口をポカンと開けて見守るしかないクラスメイト達。実際何が起きているのか、誰もうまく説明できない。
 そんなお間抜けさんどもを不吉極まる凶眼でギロリ睥睨しながら、ぼそり、ドスを効かした声で、

 「・・・あたしの食欲を邪魔するやつは血ィ見るどォ!」

 キマった。
 見事にキマったところで、またチョコショートを口に運ぶ。
 グチャグチャ。
 不気味な咀嚼音だけが沈黙の重たい教室に響いている。
 親友も、つるんでいた仲間も、もちろんカレシも、彼女にかける言葉が見つからなかった。条理の外側へ一直線。勝手に超音速ジェット機に乗って旅立ってしまった。
(つづく)

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2013年5月14日 (火)

『グラインドハウス予告編集Vol.1』 ('13、HIGH BURN VIDEO)

 世の中には知らなくていい映画というのが山とあるのであって、例えば大量に予告編を詰め込んだこのDVDを観れば、きみにもそれが伝わる筈だ。

 例えば3人の赤タイツ姿のスーパーマン達がトランポリンを駆使してぴょんぴょん飛び回りながら敵を倒す、という人間の忍耐の限界を越えて愉快な映画。
 笑いながらアクションする彼らのバカ丸出しの姿を実際に観て貰えれば、私の疲労感も多少お分かりいただけるのではないか。馬鹿げたトリック撮影で天井を得意げに歩いたり、にせカンフーを披露したり、敵が安いゴールドフィンガーっぽいのもがっかりポイント。見事だ。絶対観たくない。
 あるいは、クリストファー・リーが「徹子の部屋」よろしく、われわれに直接語りかけてくるスペシャル映像も収録されている。なにをって、怖いことをだ。決まってるじゃないか!アホタレ!
 そういう間抜けな諸君を救済するために、本ディスクは豪華日本語字幕を特別収録!!まさに画期的な仕様である。これほど訳しがいのない内容はない。
 編集者の無駄に深い愛情を感じる。

 あたしはかつて「SOMETHING WEIRD」が出した予告編集で、動くモール・ピープルやら世界に挑戦したカタツムリやらを実際に観て感激したことを憶えている。考えてみればあれもVHSだったのだな。
 時間はいつの間にか経ってしまうってことだ。
 これらは本当に心の底から碌でもないが、われわれの血肉の重要な一部だ。

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2013年5月11日 (土)

杉村麦太『吸血聖女キリエ』 ('02、秋田書店少年チャンピオンコミックス)

 西部劇。吸血鬼。常に片袖が破れた娘。
 彼女の片袖がいつ破れたのかといえば、第一話、銃撃戦の最中に鉤付きロープに腕を絡めとられた瞬間なのだが、それからずっと左袖は破れたまんま。SEIYUなどない1870年代西部の荒野が舞台であるにせよ、年頃の娘だ、もう少しなんとかせいよと思う私だ。
 この作品は、いちいち奇矯を呈する不自然な要素のゴッタ煮である。
 だいたい舞台が開拓時代のアメリカだ。ゴージャス。全米に吹き荒れる狂血病の嵐、原因は、まぁたぶん、ヨーロッパから流れてきたらしい吸血界の大物の仕業。
 大物の血を引く若い娘が主人公で、これがキリエ。桐絵ではなくカイリー・ミノーグのKYRIE。なんでか荒野で極限のミニスカ装備なので常にパンツが覗く。飢えた難民でもおなかいっぱいですというくらい、パンチラ過剰供給。コスチュームを考えた時点で気づくべきだったのだ。
 パンツ丸出しの小娘に射殺される悪党なんざ、全員たいしたことないよ。
 だが、奇妙な魅力もある。吸血鬼の再生能力を持つ小娘は、体力的には所詮小娘レベルでしかない。痛覚も常人と一緒。腹を刺されて痛みに耐えながら逆襲するとか、マゾっぽい。ていうか絶対マゾでしょ。死なないし。基本的にこのヒロインの造形は『銃夢』のガリィへのオマージュだと思うが、あちらはベースがメカ仕掛けなので痛くない。首だけになっても平気。そこへいくと、キリエは血を流す。必要以上に流血する。あと死体喰ったりもする。そこが素敵。
 まぁ、なんですよ、怪獣に変身したり空飛んだりの反則を投入しないで、律儀にガンアクション主体でやろうというのはこんち勇気ある選択ですよ。リアリズム重視とは言い難いけど、そこはそれ、マンガですから。個人的にはラーラマリアだとか全体に漂うアニメ臭が鬱陶しいんですけど、ガチでコアやる枠じゃない。これでいいんじゃないかと思います。

【あらすじ】

 アリゾナ州サンベルナルディーノ。全米に猛威を揮う狂血病の大流行に対抗すべく、この小さな町でも自警団が結成され、せっせといけにえを捜し出しては狩っていた。今日の獲物は教会の若いシスター。ウホーーー。
 そこに現れた全身黒ずくめの少女。差してる日傘も真っ黒。
 「・・・うざい!」
 一言叫ぶや、傘の先から銃身突き出し銃乱射。アクの強いチャンピオン顔の悪人達をバッタバッタと薙ぎ倒す。こりゃ完全に狂人だ。生き残った連中はからくも早馬を飛ばして即刻ボスにご注進。実は彼らは自警行為を隠れ蓑に、鉄道工事の地上げを請け負う悪党集団だったのだ。悪い奴ってのはいつの時代にもいるもんでございます。

 「あの辺で鉄道の給水地として使える場所は、あの教会の井戸しかないんだわ!コンチキショウめッ!」

 フォークで部下の手の甲を滅多刺しにし怒る悪玉。滴る鮮血の赤い色。
 一方救い主として教会に迎え入れられ、ご馳走を振舞われる少女は、どんなに勧められてもいっさい箸をつけようとしなかった。ってまぁ、箸ないんですが。不審がるシスターを尻目に、馬鹿なガキどもはすっかり少女になついてしまい、

 「おねえちゃん、おねえちゃん、遊ぼ!」
 
 で、終日マリオに付き合わされた。
 疲れる一日も終わり、草木も眠る丑満どき、空腹のあまり夜中にベッドを抜け出して教会墓地に埋葬されていた悪党の遺体を「うま、うまと最高の笑顔で頬張っていると、
 
 「ああっ!人喰い行為発見!」

 しょんべんに起き出してきたガキに見つかっちまった。やべえ。

 「おまえも、コレ食え。ホレホレ」

 と、齧りかけの太腿を投げ与えてやると、子供っちゅう畜生の浅ましさ、疑問も持たずに一緒にガリガリやりだした。そのまま朝まで仲良く齧っていたら早起きしてきたシスターに見つかって、こっぴどく叱られた。

 「死体を粗末にしたりとか、もう、そういうのありえしまへんで!!」

 そこへ悪党集団が保健所のおじさんを先頭に大挙して来襲。ヴァンパイアを狩るのは保健所の立派なお仕事なのである。墓地で死体を漁っていた二名は即座に吸血鬼と見做され、首に縄をつけられてキャンキャン啼きながらしょっぴかれて行ってしまった。

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2013年5月 7日 (火)

ロバート・アルドリッチ『ロンゲスト・ヤード』 ('74、パラマウント)

 スポーツ大嫌いだからスポーツは観ない。ゆえにスポーツ映画も観ない。
 そもそも正々堂々勝負ってのが嫌だ。チームプレイも嫌いだ。オリンピックなんか勝手に日本国民を代表して世界に臨んでくれちゃってるあたりが、当然大嫌いだ。
 こういうひねくれた人間が感動するスポーツものこそ、まさに本物ではなかろうか。血がグランドに数メートル噴きあがる『アストロ球団』とかみたいにさ。頼むよ。面白いの観せてくれよ。

 さて、『ロンゲスト・ヤード』は、世界で一番男気のある映画監督アルドリッチが、男臭さで定評あるバート・レイノルズ(ハゲ)を主演に迎えて放つ囚人アクション大作である。
 
 塀の中の囚人がどうやってアクションするのか?
 
 わかりやすいのは『大脱走』やら『アルカトラズからの脱出』みたく、ズバリ脱獄をテーマにしてみることだが、いささか新味に乏しい。脱走映画の結論がいつも「無事逃げのびた」か「結局捕まりました」しかないのも苦しい。“閉鎖空間からの脱出”という意味では『CUBE』なんかも同じ括りだが、あれも面白くなかったでしょ?見え見えだよね。
 やはりブレッソンの『抵抗』に勝つのは難しい。って私、『抵抗』観てないんだけど。ごめん。知った口をききました。

 だったら、「囚人になにかやらせりゃいいじゃん!」

 そうだ。
 『特攻大作戦』(大傑作)で囚人を空輸してナチスを襲わせたアルドリッチ、今回は囚人に塀の中でフットボールをやらせて看守どもに大逆襲!という映画を思いつきました!
 看守チーム対囚人チーム。
 これは面白い。平気でどついたり、蹴ったりできる。首の骨を折ったりも。要は、手加減なしの堂々たる殺し合いである。なんて立派なテーマだ。
 合法的殺人ゲームというジャンルなら、『ローラーボール』だって『デスレース2000年』だって仲間である。『バトル・ロワイヤル』だって。って、『バト・ロワ』観てないんだけど。まぁ、どうでもいいじゃん。
 どう考えても無茶だが、『ロンゲスト・ヤード』には、ルール遵守の世間が逆立ちしてもおっつけない反逆の美学がある。画太郎先生の『地獄甲子園』みたいなもんだ。ただし外道高校対外道高校の。最悪の潰し合い。だが勝負事の本質とはこういうもんだろう。
 でも、そんな最悪のシチュエーションから絶望や裏切りばかりでなく、野太い笑いやら男臭い友情やらを堂々と汲み出してくるあたり、さすがはアルドリッチという感じがする。
 ここに出てくる男達は皆あっけらかんとして明るいのだ。殺人狂のハゲも含めて。もちろん、ジョーズ以前のリチャード・キールも含めて。本当に不思議だ。

 スポーツ嫌いのきみも、冒頭のバート・レイノルズの傍若無人すぎる行動だけでも見てやって欲しい。女をどついて張り飛ばす。かっぱらった車で警察とカーチェイス(しかも勝つ)。飲んでた酒のグラスを後部座席に放り投げて、カントリーのかかるバーで昼間っから大酒飲み直し。あげく逮捕。
 男たるもの、かくありたい。最高。

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2013年5月 6日 (月)

ジョン・カーペンター『要塞警察』 ('76、CKK Productions)

(DVD特典のインタビューより抜粋) 

 「ところで、監督は作曲家としても素晴らしい才能をお持ちです!」
 「金がないんで、今回もまた俺がシンセ一台で演奏したんだよ。金があったらモリコーネにでも頼んでるって・・・そりゃないな!」

 (会場の一部爆笑)
 
 「ハハハ。それにしても、『要塞警察』のテーマはクールでやたらとキマってますが、どこから発想されたんですか?」
 「あぁ、あれ、ツェッペリンのパクリ。
 
ほら、「移民の歌」ってあるじゃん?あのリフのテンポを遅くして、キー変えて・・・」

 (場内騒然。監督は無視して一服)

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