シェーン・アッカー『9』 ('10、UNIVERSAL)
人類滅亡後の地球の運命を決めるのは、じじいの魂を宿した九体の人形たちであった!
誰が喜ぶのかわからないが、衝撃的な設定だ。斬新といっていい。
これまでわれわれは意味不明の未来像を多数目撃してきた。
「少女が詫びたら、昆虫軍団の暴走が止まった!」(『風の谷のナウシカ』)とか、心にエコの欠片も持たない私には意味不明で難解なものでしかなかった。
本当に誰かそこで泣ける理由をちゃんと教えて欲しい。
地平線まで埋め尽くす巨大な昆虫の群れ、また群れ。
これってパニック超大作じゃなかったの?アーネスト・ボーグナインなら特攻して何度も死んでいるほどの大変な状況ですよ。いまさらお詫び、土下座ってのはナシですよ。
地球を救うんなら、ちゃんとしろ。
世の中、まったく狂っとると思うよ。
さて、今回は地球を継ぐのはじじいの魂、というお話である。
なんでそんな面倒な真似をしなきゃならないのかサッパリわからないが、独裁者に命じられて地球を滅亡させる兵器(自己増殖するロボット工場)をつくってしまった科学者のじじいがいて、対抗する存在として(?)九体のちっこい人形をつくる。これには分割してじじいの魂が封じ込められている。合体するとじじいが再生する、とかなら嫌過ぎる展開とはいえまだしも理解できるのだが、そういう明解な方向に話は進んでくれないのであった。
ロボット工房との激しい戦いの果てに、人形のうち三体ぐらいが犠牲になると、彼らは墓に葬られ昇天する。おしまい。
・・・あれ?だから、なに?
観客は全員置いてけぼりにされ、感動のフィナーレへ突入。ダニー・エルフマンのオーケストラが鳴り渡る。え、これが結論だったの、この話?
確かに、じじいの魂の分量(個数)は減った。だが、それにどんな意味があったのか?そもそも地球滅亡後も存続させる価値のある存在か、じじいの魂?
幾多の疑問にまったく答えようとせず、なんかいい話にした気で強引に締め括るあたり、作者の底知れぬ人の良さが感じられ嫌いになれない。説教臭くしようとして見事失敗。でも上手に説教されるよりナンボかいい。有難い宗教説話の筈が単なる見世物に徹してしまった『十戒』の面白さみたいなもんだ。
作者の意図を十全と実現することだけが作品の価値ではない。交通事故そのもののような作品もあって然るべきだ。ハプニングというやつね。ハプニング芸術。
そうそう、断っておくが、この作品、面白かった。
丁寧につくられていてアクションも小気味よい。どっかで見た感満載のキャラにビジュアルでしたけど。いいじゃん。細かいことは気にするな!
話の意味はまったくわからんが、アートだよアート。その程度の理解で充分だ。
・・・しかし分割されたじじいの魂のひとりがジェニファー・コネリー(巨乳)なのは、なんでやねん?
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