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2013年4月14日 (日)

松森正『テキサスの鷹』 ('77、松文館エースファイブコミックス)

 おとなの夜へようこそ。
 夜の都会は牙剥く野獣が跋扈するアスファルトジャングル。危険を承知で飛び込む俺は、ちょっぴり脳天いかれぽんち。いいじゃないの幸せならば。手を叩こう。

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 さてさて、マンガは映画になりたがる。最近の国内事情、映画がマンガに擦り寄ってくる現象がウソみたいでありますが、映画はもともと憧れられる側だった。
 だから『テキサスの鷹』の主人公は、見た目が渡哲也に酷似しているのではなくて、渡さん(団長)本人をキャスティングして描かれているのだ、と解釈されなくてはならない。この違いは大きい。
 特徴を強調して外見だけを似せるというのは、ホラ例えば花形見鶴ですよ。粳寅 満太郎ですよ。カリカチュアという、本来はギャグマンガの手法なんですよ。
 「テキサスの鷹」において、松森正は、だから本気で俳優さんに出演交渉をしているわけでね。
 「え?それって明白な肖像権の侵害ではないの?」
 いいとこに気づいた。
 結論から申し上げるが、勿論違う。違うんですが説明がいささかややこしい。注意深く聞いてね。今回は珍しく論理的に説明しますから。

 '77年当時の技術では不可能だが、現代のコンピューターテクノロジーを使えば渡さん(団長)に実際にポーズをとってもらって、キャプチャー取込みし、そのデータを基にレイヤーを組んで自在に動かすことができます。
 そんな面倒なことを本気でやるかは別にして、作図したデータを紙ベースに落とし込んでマンガを作成することだって可能でしょう。
 これが肖像権の明白な侵害というやつであります。
 ただ、そんな面倒な作業をしなくったって要は写真を使えばいい。ゼロックスでコピーして線を描き込んだりトーン貼ったり。現実を切り取る作業。これなら70年代の技術水準でも可能。石井隆先生がモデルにポーズをとらせて、それを自分で写真を撮っては奈美を描いてたって話、知ってます?あとコピーした背景だったら、藤子A先生も忘れるべきでない重要人物。先生ったらなんでもコピーしちゃうんだ。ドーーーン。
 「テキサスの鷹」にだって写真はいっぱい出てきますよ。劇画家ってのは、リアリティをどこまでも追求するために写真過剰な描き込みを限度越えまで駆使した、失われた民族の総称なんですから。
 じゃ、「鷹」は渡さん(団長)の単なるスキャンなのかっていうと、それは違う。だいたい写真素材の流用なし。松森先生特有のゴリゴリのペン画過剰な描き込みだけで出来てるワケだし。

 五分刈り・垂れグラサン・黒ネクタイ。

 
コスチュームの特徴が(確かに)類似してるだけ。
 こんなものにいちいち著作権を主張されたんじゃ敵わない。そりゃそうでしょ。

 皮の上着にガンホルダー。
 忘れちゃいけない咥え煙草、常時装備。
 そして権力の手先のくせして旺盛な反骨精神。法律なんざクソくらえ。

 
 外見の類似よりなにより重要なのは、作者がキャラクターに織り込んだスピリット。そこを見誤らないでいただきたいのだ。
 どう見たって権力の犬(現職の検事)のくせに、反権力を標榜し勝手気儘に銃を乱射してはマフィアを射殺する、『ビッグマグナム黒岩先生』を倫理レベルで軽く飛び越えた、凶悪無比なでたらめ極まる男。この、無法を絵に描いたような法の手先を描くためキャスティングされた役者。
 今回その外見がたまたま渡さん(団長)似だった!
 コスチュームになぜか共通項があった!
 ・・・ってだけのことでしょ。まずは主役の存在ありき。ビジュアルはあとから附いてくる。

 そしてここでの松森先生と渡さん(団長)との出演交渉は、完全に魂レベルで行なわれたものだったため、現世のいかなる法律にも束縛されない自由取引が成立したものと思われる。真の男の交流とはそうしたものだ。
 
 瞳を閉じれば、やつが見える。
 そういうスピリチュアルなレベルでの有名人の出演は、卑小な現実を飛び越えてイマージュの領域に限りなく接近するものである。ふくしま政美の『聖徳太子』がお札とえらく違うのと同じ理屈だ。
 劇画は、現実社会に充満する暴力・非道の実相にひたすら肉迫しようとするあまり、リアリズムの階梯を踏み外し、闇雲な狂気の世界へとまっしぐらに突進していって自滅したのだ。そういう歴史認識からすれば、まァ納得いくかもしれない。
 ぐらいに、「テキサスの鷹」の行動は凶悪です。デタラメです。
 ヘリからターゲットスコープ付ライフルで犯人を射殺するような、立派な人格者の渡さん(団長)とはいっさい関係ないことはウンベルが保証するでやんす。

 しかし、おかしな理屈だな。私にゃ何のことだかさっぱりわからない。

【あらすじ】

 第一話、抱かれにきた女

 「結論から申し上げて、あなたにマフィア日本支部の総支配人になってもらいたいのです!」

 唐突に凄すぎる台詞で、特捜検事・鷹を誘惑しにかかる外人女・アンナ。
 横浜・国道1号沿いのステーキハウスにいきなり呼び出され、そんな話を持ちかけられたら、きみならどうする?
 アンナは薄手のブラウスに乳首も透ける、透けた乳首もそそり立つような逸材。
 だいたいマフィアって一枚岩の組織名じゃないでしょ。寅ヒゲ一家とかそういう群雄割拠する複数集団を大雑把に括ったカンムリでしょ。とは思うのだが、なにぶん乳首がピンコ立ち。これには鬼検事でもちと弱い。

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 お気づきでしょうが、松森先生、結構うまいんですよ。(何が?)
 
 この女、どうみても通りすがりのヴァンピレラなんですけどねー。イカス。
 男なら一度はこの格好の女と居酒屋でとことん飲んでみるべきだね。意外と人生とか語り明かせそう。
 鷹は凶悪無比ですから、もちろん飲むだけには飽き足らず、何発もキメます。それもマフィアに手土産がわりに貰ったマセラッティの車内で。ギアをLOWに入れて。カーSEX大全集。男の夢。マフィアって景気いいんだネ!
 ゴキゲンで下半身も軽くなり帰宅した鷹を、警視庁多国籍犯罪捜査班の警部とデブが襲う!こいつはワナだ!そんなザコキャラはナポレオンに混ぜたLSDで始末し、アンナに黒電話で連絡を取る。教えて貰った彼女のアジトがある油壺マリーナへ急行する鷹。

 「あんた、マークされてるぜ」
 「フフ、本部に報告したら日本上陸の予定を繰り上げると言ってきたわ」
 「なにッ?!」
 「今夜、兵隊や幹部を乗せたクルーザーがこのマリーナに・・・」


 油壺あやうし。
 突如本性を剥き出しにした鷹は、親指をアンナの片目に抉りこませ気勢を奪うと、風呂水のお湯に浸けて電気カミソリを投入。なんかダブルオー弦蔵って人がロシアからナントカで似たような殺しのテクニックを披露していた気がするが、国産の電気カミソリだから死なない。日本人の安全性に対する徹底した配慮に感心。
 片目で悶えるヴァンピレラ(ふざけた衣裳のまま)から、上陸部隊の細かいスペックを聞き出してはみたものの、機関銃やら弾薬やら満載でまともにやったら勝ち目はありそうにない。半死半生の女をほったらかしに桟橋へ走っていった鷹、呼び寄せたタンクローリーからホースを延ばし海面に重油を撒きはじめる。
 
 「おい、コラ!なにやっとるんだ、鷹!」

 上司の部長がデブデブと駆け寄ってきた。さっき報告入れたらすぐ来やがった。しめしめ。上役に暗黙の了解がとれるぞ。意外とサラリーマン根性。

 「なァーに、ちょっとしたゴキブリ退治ですよ!とうぶん悪さが出来ないようにね!」
 「なァーーーにィーーー?!」


 埠頭に侵入してくる大型クルーザー。凶悪そうな外人の目が無数に光る。
 海面の油膜を目掛けて、ふところに隠し持っていたスナイパーライフルを乱射し始める鷹。どういう加減か火が着いた。
 
 どっかぁぁーーーん!!!

 あれよあれよという間に炎上し、爆砕されて吹っ飛ぶクルーザー。背中が火だるまになった船員が空中を飛んでいく。波間に漂うタイヤ、木片。燃え続ける油の残りかすのあいだを赤い血の色がゆっくり拡がっていった。

 「・・・鷹、オマエさァ、人権とか法律とかって問題、真剣に考えたことある?」

 苦りきった部長の言葉を鼻で笑い飛ばし、

 「狙った敵は、必ず刺す。人呼んで“テキサスの鷹”!」

 「おぉ、カッコいい。でもニックネームは自分で言うなよナ!!ガッハッハッ」

 明々と照らす火事の灯りに笑い続ける部長と鷹。遠くで消防の鳴らす半鐘が聞こえてきた。

【解説】

 もういいだろ。話が長くなる。
 ほか特筆すべき点としては、第二話「悲しみを抱いて吹っ飛ばせ」で、亡き恋人の復讐に駆られるフランス女が横転した暴走パトカーに撥ねられ本当に吹っ飛んだところとか、第三話「死人には夢がない」で、鷹が『タクシードライバー』のトラヴィスの見事な物真似を披露する場面とか、第四話「男の夜は戦いの旅」でハシゴ車に乗り高層ビルに隠れ住む右翼の巨頭(もちろん日本を転覆させるクーデターを計画)のアジトを襲撃するところとか。(右翼は事件発覚後、軍服姿で切腹。)第八話「欲望へのバイパス」で、旧日本海軍の潜水艦を拳銃一発で海溝に沈めるところも素晴らしい。
 そんな血と暴力に飢えた諸君には以下の言葉を贈って締めとしよう。第六話「霊柩車をもう一台!」に登場する、原発をクリーンエネルギーと称して政府に売り込もうとしている政財界の黒幕が死亡直前に吐いた、ありがたいお言葉である。

 「女をつがいで交互に責めると、猛烈にレズり出して、極楽極楽!!!」
   

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