『ブラッダ』 ('00、KUSHNER-LOCKE COMPANY、TVM)
田舎の島でゴキブリパニック!っていうと9割がた予想がついてしまうんだけど、いいですよね、そういう映画。ま、これTVムービーらしいんですけど。
この手のジャンルはC.G.登場以降どうも活気と独自のテイストを失っているようで、70年代のパニック映画ブームの頃なら、性格破綻者やらアル中、生活に疲れたおやじが渋々モンスターに立ち向かうという、後ろ向きでとことんダルな物語ばっかだった筈なのに、今じゃ爆発したり巨大化したり。ジャイアントスパイダー対メガクロコダイルとかさ。どう見ても知能の不足したジャリ向け映画しか存在しない不毛の地ってのが定番化してると思ってたら、この作品、
「派手じゃない!」
「地味なところが気に入った!」
というヘンな評判を聞きつけまして、観てみました。
舞台はですね、『モンスターパニック』に出てきたみたいな寒々しい田舎の漁村。しかも、島。島ってだけでワクワク。都会で疲れた若手の医者が転地療養みたく家買って訪れますと、ふとしたことから村人にハブにされる。
「おまえの実家はブタ小屋臭いぜ!」と罵ったばかりに。
誰だって自分が住んでた家の悪口は嫌なもの。まして若い都会人に言われると殊更むかつく。復讐だ。こりゃ絶対復讐してやんべ。
具体的には前大家の電気屋のおやじに何度もブレーカーを落とされる。夜中に、ヒゲ剃ってる最中とかメシ時に。真っ暗でお湯も出ない。こりゃ酷いと電話して抗議すると、適当な返事されてまた繋げてはくれるんだけど、一日二日経つと、またしても夜中にバチン!
これが無限に繰り返されるもんで、主人公イライラが限界に達し、遂に敵の本拠地・村で一軒しかない飲み屋に怒鳴り込みます。
でもこの店、実は店主のおっさんも、飲んでた4,5人の客も全員が電気屋とグル。レジ横で羽交い絞め。殴る蹴るの暴行を受けます。この村にはあと残り3人ぐらいしか居ませんから、実質村全体を敵に廻した格好です。地味すぎる抗争劇。地元のツッパリ同士の喧嘩みたい。銃が出ないもんで余計そんな感じ。
その間に、アフリカ産のハサミのあるゴキブリ(『漂流教室』に出てた怪虫の子ども)が、国籍不明船から投げ出された黒人の死体と共にひっそり島へ上陸。手近な釣り人を犠牲にし、ぐんぐん増え始めます。
死体を餌に繁殖する設定なので、開いた口からモソモソ出てきたり、床一面を埋め尽くしてみたり。ダメな人は全然ダメでしょうけど、TVだから異常にグロな特殊メイクとかはなくて、必要最小限の血糊しか飛ばない。結構普通な感じです。誰でも大丈夫な範囲じゃないの。
怪虫の襲撃場面は誇張を抑えて、日常的に捉えて。迫る虫の群れ多数といちばんキモい場面(内臓系描写)では、カメラは引きになって、あとはご想像におまかせで。
音楽も入れすぎず品がいいんですが、唯一ジェリー・ゴールドスミス的に派手な音楽が鳴る場面がありまして、これが小学校に飼われていたハムスターちゃん大ピンチ!の場面。完全に意図したギャグだと思います。怯えるハムちゃんのアップとかちゃんとあります。
全体に、地味で見せ場の少ない映画なのですが、ちゃんとしてました。普通でした。
異常な人は出ません。おかしなことも起こりません。ゴキブリが大量に人体から孵化して襲ってくるだけです。
最後、飛行能力の進化した群れが一斉に飛び立ったりはしますが。基本、這って襲ってくる。地味です。地味。布石になりそうな30cmはありそうな大型ゴキブリ(ボスキャラ系)も一応出るには出るんだが、単に出てきただけ。犠牲者の口から体内に潜り込んで出番おしまい。なんじゃそりゃ。
それでもこの作品、最後まで飽きずに観通せます。ぬるめのパニックホラー。テンポが落ち着いてて、人物描写が丁寧だからついつい飽きずに観ちゃうんですねー。本当のところヒッチコック『鳥』みたいにしたかったのかも知れません。群れが静まったとこを突っ切って車に乗って逃げるあたりは、明らかに意識してやってます。
それにしちゃ随分と緊迫感少なめだけど。所詮、虫だからね。鳥って意外と大きいんですよ。そこが鍵だね。
全体に印象に残りにくいけど、いい映画だと思いました。TVで観るなら文句ないだろう。
ま、でも最後感想を聞かれてもうまく答えられない点では、メガシャークとおんなじなんですが。
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