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2013年3月

2013年3月30日 (土)

三条友美『寄生少女』 ('13、おおかみ書房)

 年度末。出会いと別れ。ソドムとゴモラの、この季節。

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 満開の桜が花吹雪を散らす袖ヶ浦海浜公園のベンチで。午後。

 怪奇探偵スズキくんは、携帯メールをこまめにチェックしている。桜は見ないが、メールはよく見る。結構な額をつぎ込んでレアアイテムを取得して以来、お友達リクエストが絶えないのである。それらを冷酷に蹴飛ばしていくのが、此処最近のスズキくんの日課になっている。

 ふいに電話が鳴った。
 エリザベス・モンゴメリーが鼻を動かす仕草に似た音だ。

 「似た音ではなく、実はこれオリジナルサントラなのです。」
 スズキくんは律儀に解説を加える。携帯の表示画面を斜め読みして、
 「おや、久しぶりだな。これは地獄の一丁目からの通信だわ。・・・もしもし、“怪奇あるところスズキあり”でお馴染み、ボク、スズキくんですが。」

 『も~し~、も~し~・・・』

 地の底から響いてくるように低い声がした。不景気の国から不景気をセールスに来ているような、活気が微塵もない声だ。

 『カッパドキアの大統領ですけど~~~』

 「そんなワケあるかい!!それはトルコの地方名だ!あるいは土地の名前だ!」

 『“妖精の煙突”と呼ばれる奇岩やら、その下に広がるギョレメ谷やら。旅はロマンというけれど、そんな奇天烈な名前の観光スポットに世界各国から観光客が殺到!!とは、いとおかし。』

 「いとおかし。・・・って、あんた、誰?」

 相手はガクンとつんのめったようだ。
 『おやじです。古本屋のおやじです。』
 慌てて被せてきた。
 『頼むよ。忘れんなよ。基本設定。オレが怪しいお店をやってて、あんたはそこの常連客なのよ。憶えてる?』

 うららかな午後の陽射しに無数の白い花びらが舞う。木々の織りなす柔らかい影がオレンジの舗道に複雑な網目模様を描いていた。
 「はァ・・・そんな時代もあったねと笑って話せる日が来ますよ、おそらく。」

 『・・・むむむ。
 テメエ、ちょっと目を離した隙に、悠々自適を気取ってやがるなー。草食系かよ。便所メシかよ。ふざけやがって。見てろ。捕獲装置、ゴー!』

 ゴ、ゴ、ゴゴ、ゴゴ、ゴゴ、ゴゴ。
 
不意に強烈な地鳴りがあたり一帯を揺り動かし始めた。水鳥がばさばさと飛び立つ。地面が上下に揺れ出して、まともに立っていることが出来ない。
 遊歩道をのんびり自転車で走っていたジジイが転倒し、アベックの片割れの女がキャッと甲高い悲鳴をあげて足元に蹲った。
 
 地面を引き裂いて、巨大な何かがせり上がってくる。

 轟音は周囲に満ちて耳をつんざくばかり。土砂が驟雨のように降り注ぎ、視界が茶色く霞み出した。スズキくんは、倒れかかる水銀灯の柱部を巧みに交わし、完全に宙に持ち上がったベンチの端を掴んで背もたれの舳先へと飛び移る。
 身を乗り出し注視する。

 「トライポッドだッ・・・!」

 流線型の滑らかなボディが、巨大すぎる三脚に支えられて中空に伸び上がっていく。どんな動力源なのか窺い知ることは出来ないが、金属装甲の切れ目から激しく白い煙を噴き出し、その都度に巨龍猛獣の吠え声みたいな凄まじい絶叫が響き渡る。

 「早くも、本筋と関係ない話にする気まんまんだな・・・」
 忍者刀を密かに抜き放ちながら、スズキくんは呟く。先程の携帯ゲームにうつつを抜かしていた腑抜け野郎とは最早別人である。
 「だが、そうはさせるか。」

 ばちこん。ばちこん。
 巨大な瓶ビールの栓を外すような音がして、トライポッドの側面から丸いハッチ部が地面に転がり落ちた。カッと、空いた凹面から強力な閃光の矢が解き放たれる。攻撃兵器ではない。探照灯らしい。グルグル回転し出した。

 『出て来ーーーい。スズキくん
 のんびり、マンガの話でもしようではないか・・・?!』


 トライポッド内部から、金属的に変成された古本屋のおやじの声が流れてくる。

 『われわれが争う必要はないんだ。それぐらい、キミにもわかってるんだろ・・・?!』

 「・・・確かに、戦う理由はまったくないんですが・・・」
 激しい怒りに奥歯をギリギリ噛み締めながら、スズキくんは呟く。
 周囲は変わり果てた惨状を呈している。転がる死体の山、また山。倒れた自転車のジジイはビクリとも動かない。アベックは黒焦げだ。強烈なトライポッドの噴気を浴びた死体はことごとくどれもがアフロの黒人と化していた。
 人が焼ける独特の臭気が、あたり一帯に漂っている。

 「・・・たかがマンガの話をするために、袖ヶ浦海浜公園を壊滅させやがって。
 ・・・テメエ、何人殺したんだ?」


 「な、ん、に、ん、殺したんだァーーーッッ!!!」

 怒り心頭のスズキくん、髪の毛が金髪になっている。
 瓦礫の山から全速力で空中に飛び出し、トライポッドの頭上で静止した。風切る速さとはこのことだ。

 「髪の毛が金髪になると、どうして飛べるのか。
 実はこれには海より深い深い事情があるのですが、今はお話している時間がありません。」

 忍者刀を頭上に構えてを溜めながら、スズキくんは申し訳なさそうに言った。常識の理解を遥かに越えた不測の事態に、トライポッドのおやじ、ジッと様子を窺っている。
 言葉を続けた。

 「強いて言えば、あの世界では金髪だから飛んでいたワケでは決してないということです。最初っから平気でひゅんひゅん飛んでいた人達が、金髪になって更にパワーアップしたのです。物事には順番があるのです。
 でも途中から観てるチビっ子達にしてみれば、金髪だから飛ぶんだ、金髪だから強いんだ、という誤解に横滑りしていっても何の不思議がありましょうや?
 って、すっかり説明しちまいましたが・・・」

 忍者刀の先端にふいに紫色の光球が膨れ上がった。溜まり出したエネルギーが形を現したと見える。バチバチと激しく放電している。

 「・・・お待たせしました、ようやく完成。では、よい子のみなさん、いきますよ。
 ご唱和ください。
 電・ 気・ ダ・ マ・ ーーー!!!」

 
大きく振りかぶった刀の先から巨大な稲光りが迸り、ゆらりと揺れた光球が、次の瞬間物凄い加速をつけて地上へ向かって一直線に突っ走った。
 ガ、ガガ、ガガ、ガガ・・・!!!
 大気が悲鳴をあげて絶叫し、溢れ出す光束に周囲が暗黒に染まる。

 「これは、ボクが極端な静電気体質なのを応用したものです。」
 スズキくんはニヤリ笑う。「地球のみんな、オラに電気を分けてくれ。勿論、電力会社にはビタ一文払ってませんけどね!」

 迫り来る巨大な電磁場の塊りを前にして、おやじ、なす術もなく打ち砕かれてしまうのか。そもそもこれは何の話なんだ。読者は全員置いてけぼりか。
 閃光が走り、大地が切り裂かれ、やがて大爆発。
 猛然たる火の粉と煙が消え去った後には、最早地上に生命はひとかけらも残されていなかった。

 ・・・と、思いきや。

 バトルバトルの連続に心底嫌気がさした頃の鳥山明が引いていた、非常にささくれ立った描線に良く似た岩塊群が縦横無尽にごろごろ転がる、荒涼そのものの筈の殺風景の真っ只中に、微かに動くものがある。錯覚か。
 風にたなびく茶色の塊り。
 煤けて真っ白く埃を被ってはいるが、それは人間の髪の毛だ。
  いや、ズラだ。
 紛うことなき、見事なズラである。
 ズラは生きていた!

 観客に滂沱の涙を誘う感動。レッドカーペットに整列したセレブ達が一斉に拍手。最高のスタンディング・オベーション。映画『風と共に去りぬ』より「タラのテーマ」、ドーーーン。

 現場上空で困り顔をしていたスズキくん、腕組みしながら降りてきた。

 「まったく、やってくれますね!
 お陰で、ボクまで大量殺人の片棒担いじゃったじゃないですか・・・」


 地中に全身埋まってズラだけ風に靡かせているおやじ、モゴモゴした声で、

 「うるへぇーーー!
 わしの前フリにすぐ答えない貴様が悪いのだ!
 これじゃ、すべてが台無しなのだ!」


 「スピルバーグに無断でトライポッドまで出して。まァ、まったく役に立ってませんでしたけど。で、ご存知金髪人間ネタがあって、最終的にバカボンのおやじのまったく似てない物真似まで聞かされるとは。なに考えてるんすか、ホント?
 実は心の広い方が多いと評判の常連読者もそりゃ怒り出しますよ!」

 「それでも、レビューだけはちゃんとやるから勘弁してくれ。今回採り上げるのは、かの三条友美先生のホラーマンガ短編集だ。面白かったのだ。」

 「・・・エエ?
 三条先生といえば、読後感最悪のエロ漫画の巨匠・・・」


 スズキくんは適当に応対しながら背後をチラ見する。大爆発はあたり一帯の地盤を完全に破壊し、瓦礫の山に変えた。
 この付近は埋立地だ。海抜ゼロメートル以下。
 ということは・・・・・・。

 おやじは気づかず続ける。
 「三条先生の思い出といえば、あれは二十歳の頃かな。明確なオナニー目的で購入した『少女菜美』シリーズの単行本が、あまりに抜けないので驚愕いた記憶がある。
 劇画の人だから人物もまんこも下手じゃないんだよ。描き込み重視のシャープな絵でね。ま、少女菜美、むかしのセーラー服着用なんですけど。厚ぼったい生地のやつ。スカート丈も時代を感じさせますよ。そんな娘が地下室で監禁陵辱されるという。一種のファンタジーですよ。ディズニー的な。思いっきり浣腸されてますけど。
 そんな素敵なマンガがなぜ抜けないのか。
 ま、あたしは昔から、そういうことばっか重点的に気にして生きてきたんで、すっかり人生狂ってしまいましたが。それはともかく。熟考の末突き止めました。事の真相。

 三条先生のマンガ、ヒロイン級の女が全部同じ顔だったんですよ。石井隆的に言えば、全員が奈美状態。ウゲゲゲボ。
 髪形とか、身長とか、当然衣裳とか名前は全部違うんですが、基本、同一人物。同じ女がよがってる。よがり顔、すべて同じ。この女で抜けなきゃ一生抜けないってことですね。抜け忍。それ抜け違い。
 でも、いいじゃん?エロマンガで人物の描き分けなんて・・・それよか、なんでこの女では抜けないのか。そこが重要だ。
 
 そもそも全国マンガ地図が整備され、「巨乳」「垂れ乳」「幼女」「めがね」といったキャラクター属性の記号化・類型化が意識的になされた現代では、既存の絵柄の援用もリメイクと称するデザイン流用も平気でアリなワケですが、どんなに技術が進化しようと何を是とし何を非とするかという選択は依然作家側に委ねられたまま。そりゃ当然だよねー。
 だから、エロマンガの価値を決定する最重要ファクターはキャラ属性じゃない。テクニックでもない。
 作者入魂のよがり顔を見せまくる主人公に、読者がうまく乗っかってくれるかどうか。
 
読者がそこに描かれた痴態のオンパレードに対してグッとこなければ、それはもう、目もあてられない無惨な失敗。そういう根本的な次元のバトルなの。

 
さて、この女。
 
この時期の三条先生は、特に執拗に一個の勝負ダマにすべてを賭けて投げ込んでたんでしょうな。実に研ぎ澄まされた勝負。意図的にやってたんだと思います。縄の締めに遊びなし。そんな感じ。キメダマ一個だけ限定。しかも殺人魔球。ストイックな男の世界。
 だから笑いはないし、おっかない。
 こわいから抜けない。
 責めのテンションは常に高いし、読者の意表を突く残虐展開が次々飛び出すし、面白いから最後まで確実に読み通せるんですけどね。でも、残念ながら、出てくるヒロイン役の女ってのが、揃いも揃ってギンギンに薬物キメてこの世の外側を見ちゃってるような濃い女ばかりなんですよ。
 劇画の女って基本みんな思い詰めてるじゃないですか。人を刺しそうな。貞子揃い。こわい。だから結末もこわいことにしかならないんだ、実は。
 三条先生って、本質的にホラー作家なんだと思います。
 その方が理解しやすいから、そう思え。

 近年の作品を見ると、キャラのバリエーションが増えて、見た目の派手さが増してますけど、でも、全員見事に同じ目です。同じ目つきを共有してます。そこは作家の個性で絶対譲れないんでしょうな。 
 
吊り。蝋燭。腸内拡張。コアでマニアックなプレイメニューに出し惜しみはない。むしろ浣腸液1.5倍増しで注入しすぎ。お陰でヒロイン、必ず吊られて、妊婦状態で人体破壊。切ったり刻んだりも当然あるので、血とかドバドバ出てます。人体切断なんかあたり前の極悪世界って、そりゃもう完全にホラーの領域です。『悪魔のいけにえ』です。『ギニーピッグ』です。

 さて。ここで非常に重要な問題ですが。
 最終的に人体破壊、精神崩壊までいってしまう女で、キミは本気でシコれるのか。
 いいのか、それで?ほんとうに・・・?

 
人間性の根幹に対する本質的な問いかけと言っていいでしょう。あなた、どうですか。」

 「いや・・・どうですかって・・・困ったなァ。」
 スズキくんは金髪の頭を掻いて、
 「ま、あの、ボクは到ってノーマルですんでよくわかりませんが。でもあんた、抜ける・抜けないの話するとき、いちばん輝いてますな。最高の笑顔をしてますよ。」
 
 「いやァ、それほどでも。」
 
皮肉に気づかないおやじは、素直に照れた。
 「抜ける・抜けないだけで今日までずっと頑張ってきましたから!恐縮です!」

 彼方に聞こえる大地を揺るがす轟音の響きに、スズキくん、残された時間を心中で密かにカウントしながら、

 「さァ、それじゃ、まだ三条作品を一本も読んだことにない幸運な読者諸君のために、『寄生少女』のあらすじを駆け足でご紹介!」
 「ところどころ意味不明な箇所が混ざるだろうが、そこは実は、われわれにもまったく理解できていないのだ!
 質問されても全然答えられない自信だけは100%以上あるんで、ひとつ、そこんとこ、ヨロシク!!!」


【あらすじ】

 「へび人形」
 廃屋に置き去りにされた薄汚い袋詰めの人形。棒状の手足に丁寧に学生服が被せられ、ボタンが止まっている。頭部だけが奇形のへびと化している。牙の生えた口だけ大きく開いて、シャーシャー息を吐きながら盛んに蠢く。目はない。
 その正体は冥界からお戻りになったクラスメート・裕太くんであり、それを証拠にへびみたいな頭部に牙が幾つも並んでいて、人間など、溶かしては軽く丸呑みにしてしまうのであった。(裕太くんには生前から人間を溶かして丸呑みにする癖があったのだろう。おそらく。)
 主人公美夕は、可愛い子猫やらニワトリなんかを捕まえてきては、どでかいハサミで頸切って裕太くんに献上する不毛な毎日を過ごしていたが、最終的に自分も溶かされ呑み込まれてしまって、ジ・エンド。
 ちなみに、意外にお茶目な裕太くん、動物も人間も頭部は必ず食べ残してしまうので、廃屋の床はやたら生首だらけになるのがグー。

 (「・・・いきなり、なんすか、コレ?」
 「この短編集は全編この調子でカッ飛ばしてんだよ!次ッ!」)


 「真夜中のイタズラ」
 あゆ、りかたんは仲良し女子高生コンビ。
 ある晩間抜けなあゆが、寝ている隙に謎の誰かに身体にイレズミを彫られてしまう事件が発生。あゆはまんざらイヤでもないらしく、謎の人物と毎夜楽しく遊ぶのだと言う。怪しんだりかたん、あゆのネグリジェ(透け素材)を着て入れ替わって待ち受けていると、果たしてヤバいおめんを被った男が深夜昆虫片手にやってきた。
 見たことない昆虫の尻から出る怪しい液を飲まされて、本来正気な筈の、りかたんまでがみるみるアンピュティーな精神状態に陥り・・・・・・。

 (「で、この後どうなるんです?」
 「シーツでぐるぐる巻きにされ、縄を掛けられて、夜の町をおみこしみたく担がれてパレードだ!山下達郎もビックリだ!」)


 「友情怪談」
 文化祭でお化け屋敷をすることになり、いじめられっ子の美羽が晴れてお化け役に選ばれました!パチパチ!ついては記念として、この生理食塩水の注射を顔やら手足にブチブチ打たせてくれまいか?オッケーーーーッ!!
 でも、いつの間に食塩水が農薬にすり替えられていたんで思わずドッキーーーン!!大ショック!美羽は精神崩壊して本気でバケモノ(毒々モンスター系)に変身して近所で暴れまくります。お化けって実在したんだ!人間の心の闇とかそんな穏当な隠れ家なんかじゃなくって、現実に!この地上に!そんな陰惨な地獄絵図のさなか、真の友情と三条先生の意外な暖かい救いの手が・・・ファンタジー感動大作!

 (「・・・本当に?」
  「ウソは書いてない。実際このとおりの内容だよ。ま、大作の割りに20ページしかないけどな!」)


 「マミーちゃん」
 包帯だらけのクラスメート・海ちゃんの秘密は、皮膚に直に産み付けられたジガバチの卵でありやした。帯状に太腿を一周する卵は孵化寸前!表皮を破ってぶちぶち出てくる蜂の子たち!片目は既に見事、蜂の巣と化しております。あわわイテテ。読者をむず痒くする描写を連発させておいて、最後お約束の巨大蜂登場で落とす構成が奇跡を呼ぶ12ページ!

 (「これは痒い。ボク、意外と皮膚弱いんですよね・・・」
 「へー、意外!ツラの皮は厚いのに?」
 「・・・殺しますよbyフリーザ・・・」)


 「変身させて」
 “舞子は殺人犯の娘です。
  だから、いつもひとりぼっちです。”

 ・・・美しいポエムのように始まる物語は、美貌の男性教師に憧れた女生徒・舞子がなんとペガサスに変身!目隠しに皮の胴着着用のその姿は、立派にSM騎乗プレイにしか見えないが、それはともかくめくるめく教師と生徒の禁断のインモラルな世界へ!と思いきや突如そこへ仮面を着けた教師の姉が乱入!麻酔薬注射を眼球に突き立てる。実は全身をガンに冒された姉の生命を救うため、男性教師は教え子を次々と誘惑。騙して自宅マンションに連れ込んでは、怪しげなガン特効薬の実験を繰り返していたのだった。
 狂った実験の結果、舞子は全身の細胞一個一個までガンに冒され死に果てるが、姉は完治。喜びにキャッキャッ言いながらまぐわい出す姉弟を、お約束通り生ける癌細胞の塊りと化した犠牲者達が襲い、律儀に生首を切り取るのであった。

 (「なんか、話の展開が早すぎ・・・」
 「うむ。全身が癌細胞になってしまえばかえって健康、という誤った医学知識がこの作品を生んだのだ。」
 「明らかにそれ以前の問題だと思うのですが・・・」)

 
「催眠あそび」

 恋人の不治の病を治すべく、悪魔のいけにえに志願する女子高生・結衣。その結果実際やってるのがブタの残飯を食ったり、公園でチンピラに犯されたりだったりするのはご愛嬌。
 地道な努力の甲斐あって見事悪魔に憑依され変身した結衣は、クラスメートの顔面をガブリ食いちぎると、背中に生えてきた蝙蝠の翼で夜空へ飛び立ち、二度と帰って来なかった。恋人はその後病気で亡くなった。

 (「・・・結局なにが言いたいんですか、この話は?」
 「悪魔はみだりに呼んではいけません。・・・ってカンジ?みたいな?」
 「・・・今度、半疑問形つかったら拷問加えますんで!」)


 「蟲病院」
 ♪ム~シ、ムシムシ、ムシ病院!
 早くも脳に蛆が湧きそうになっておりますが、再び“不治の病の恋人が病院にいる”シリーズ!長いよタイトル!
 謎の病で恋人を亡くした詩音ちゃんは、頑張って看護学校に進み、生前カレシのいた病院へ実習にやってきました。過去のトラウマに対し正面からぶつかることで克服しようという、見上げた向上心の顕れであります。
 でも実際やってるのは、注射の練習と称して腕がぼろぼろになるまで血管に針を突き刺す、単なるプレイなんですけどねー。中島某の「ファイト」を歌ったりして自室で独り練習に励む姿は既に立派なクルパーさんの仲間入りです。あばあば。
 そんな詩音ちゃんに待っていたのは、死んだと思われていた恋人との再会!
 恋人は、実は人に言えない伝説の奇病、“イケメンだけど首から下が巨大なイモムシの幼虫になっちゃってゴメンナサイ”病にかかって、今日まで病院の地下室に適当に隔離されていたのです!何年も!ビックリ!ひょっとして暇なのか、この病院?
 身体はでかいムシでも、顔はまだまだ憂いの翳り深いイケてる状態なんで、うっかりキスしちゃった詩音ちゃん、期待通り奇病に感染して巨大イモムシ完全体へと進化しちゃいます。でも、ま、いっか。両者イモムシなら問題ないっしょ。
 そこで駆け落ち決行、雨の日に病院を抜け出して裏山へ逃げ込もうとするニ匹のでかいイモムシたちでしたが、近所の小学生に捕まってビニール傘の尖った先をボコボコに突き立てられ、緑の血を噴いて絶命しちゃうのでありましたー。残念。

 (「手の込んだ嫌がらせとしか思えない話ばかり、よく続きますね!」
 「・・・だろ?オレが感心したのは、特にその点なのだ。この作者は本気だ!」)
 

 「デリバリー彼氏」
 素敵な彼氏をデリバリー!その資金獲得の為ならチョイ悪おやじを何人殺しても平気!チキチキ、NTカッター取り出して学生らしさ全開の惨殺スタイル!彼氏をレンタルするため目標に向かって着実な努力を重ねるアイちゃんでしたが、でも、「そいつ、人間じゃない!」
 夢の彼氏の正体は、舌に釘とか打たれたヘンな人形!目玉がボイーンと飛び出して古典的なスタイルのオチがつきます。最終的にワープでおしまいです。

 (「なんですか、ワープって?」
 「この世の外側へズビィィィーーーン!!!って飛んでっちゃうんだよ、人形の奴。少女をしっかり抱いて。」
 「・・・う~~~む・・・」)


 「シャカシャカぴえろ」
 問答無用の傑作!スタジオぴえろなら知っているだろうが、シャカシャカぴえろって一体何?その質問に一切答えを出さない、凄すぎる名作がドカンと登場。
 マラカスを振っている間だけ自在に動くピエロが街角に。面白がってマラカスを振りまくりピエロを操って、いじめられっ子・舞子ちゃんが憎っくきクラスメイトに血の粛清!なぜか草刈り鎌振り回して指先切断!喉笛カットスロート!微妙にマニアック過ぎる殺し技が冴え渡る!
 でも、これだけ動けるピエロは実は盲目で、行き当たりばったりに舞子の目玉を刳り貫いて、お手玉します。景気の本格回復を予感させる縁起いい感じでジ・エンド。

 (「・・・いい加減、飽きてきてるでしょ?」
 「このピエロが近所に実在するという作者の告白が一番ショッキング!絶対会いたくないよ、こんなピエロ!」
 「あっちもそう思ってますよ、きっと」)


 「彼氏はケダモノ」
 またも、死んだ恋人が蘇ってきたよ!ハッピー!
 
今回の彼氏は、なんというか全身に蛆が湧いて腐り切ってます。顔の真ん中に深い割れ目がありまして、左右に開くようです。中から極太の男性器に酷似した毛深くてゴツゴツの舌が飛び出します。んで、トクントクン毒だかなんだかわからん液体を犠牲者に注入!
 実は、こいつが意外にグルメで困る・・・という教訓的なお話。

 (「解説が駆け足になっちゃってるけど、これなんか普通に面白いオチマンガの傑作!」
 「・・・本気ですか?」
 「だって凄すぎだよ、この題名!見りゃわかるけど、ケダモノですらないんだよ、この彼氏!」)


 「寄生少女」
 タイトルチューンでは、満を持して腸内に巣食う鉤状虫が大登場!ダイエットは女子共通の悩みだよネ?思い切り喰ってガンガン痩せする都合良すぎる減量法、それが寄生虫ダイエットだ!痩せられるなら、全身サナダ虫の巣になってもオッケーだ!眼窩を喰い破って虫の頭が顔出したって、そいつが産卵して孵化して、太腿から腕から蛆まみれの穴ぼこだらけになったって、しまいに顔面が崩壊し完全にでかい虫の口に変身しちまったって、ともかく痩せてしまえばこの世は天国!超ラッピー!
 あ、でも、しまった!壊死した組織が紫いろに膿んできた!腸にガスが溜まって腹がせり出し、気味悪いブクブクの身体に!あ、既に死んでるのか、あたし。
 ダイエット見事失敗でふりだしに戻る。

 (「普通に鬼畜な読者だったら、この本の題名や惹句から“虫→少女→触手陵辱”系とか想像するじゃない?
 ところが、あにはからんや、実は古賀新一先生の『幼虫』『ヒルが吸いつく』とかみたいな正統派のホラーテイストなんだよ。ゴリゴリの。」
 「正統派ねぇ・・・」
 「ひばり書房のダメな個性をフルスクラッチでリビルドしたような新しさを感じる。」)


 「きりきり同盟」
 不良グループにいじめられていた亀を現金支払いで助けた女子高生・土屋あゆみは、自分へのご褒美としてリストカットを実行する。あぁ、気持ちイイ。でも切った後にはすんごい罪悪感。生きてる。あたし生きてる。十七歳。生きるってこういうことなの、黒澤?
 その後、携帯電話から指令を送ってくる謎の女ともみんBモードに唆され、Webサークル“キリキリ同盟”のオフ会に参加したあゆたんが、いつもの感じでザクザク腕を切り始めると、周りもノリノリで切りつけてくる。ああ、この人達、微妙に畑が違う趣味の連中だったんだ。
 翌日の新聞に“狂気の切り裂きカルト集団逮捕”の記事が。あゆみは切りつけられて身体のパーツはかなり欠損してしまったが、集中治療室でともかく生き延びていた。よかった。

 (「締めはサイコもので勝負!」
 「なにがどう勝負なのか、ボクには理解できませんが・・・」
 「周りのやつらより主人公がともかく狂ってるワケですよ。三条先生の作品はどれもそうじゃないですか。で、腕に覚えがあるキチガイが出てきて、狂気で対決!」
 「包丁人味平とおんなじですね。」
 「この話、さりげなく、治療室で重態の主人公が過去の名場面を回想するという凝った構成。で、最終的に“よかった”で落とす極悪エンディング!」)

 
 ・・・かくて全話ひとしきり流し終えたおやじ、大きく息を吐いた。姿勢は依然地面に埋まったままだ。
 太陽はすっかり西に傾いて、雲がかかっている。荒廃した大地に影が流れる。
 かすかに出てきた風に、埃りまみれのおやじのズラが揺れる。

 「いやー、長かったわ!三月が四月になるくらい、長かったわ!」

 「それはアンタの執筆期間でしょ。短編集、なにも全話解説することないじゃないですか。日本の特撮マニアじゃあるまいし。あの人たち、なんで“全話収録”とか“パーフェクトガイド”とかいう響きに弱いんですかね?」
 「知り合いのDって男も、同じ病気だよ。」
 スズキくんは嘆息した。
 「しかし、このブログをあらためてマジマジ読んでみると、本当、誰が得するのかわからん記事ばかりですね。どういう編集方針なんですか。」

 「地獄で流通するミニコミ誌をイメージしてるんですよ。あと、学級の壁新聞。」

 「お。そろそろ、時間だ。」
 
 わざとらしく腕時計を眺め、スズキくんが言った。
 いつの間に地面を揺るがす爆音があたり一帯に響き渡り、耳を聾せんばかり。話に熱を入れていたおやじも、ようやくこれに気づいて、

 「なんだ?なんだ?コレ、なんの音よ?
 ヨハネが世界の終末に吹き鳴らすラッパみたいな感じ?」


 「正確に突っ込めませんけど、吹く人はヨハネじゃなかった気がします。では。」

 ふわりと空中に浮き上がった。
 気がつけば、スズキくんの髪の毛はまだ金髪のままだ。

 「・・・バッハハァァーーーィ!!」

 叫びながら高速で飛び去っていく雄姿を見上げ、地上で首まで埋まったおやじは、ひとり愚痴る。

 「あのヤロ、こないだまで無職だったくせに、随分羽振りよくしやがって。
 気に入らん。二度とコロッケパン半分分けてやんない。やるもんか。」


 と、不吉な気配に気づいて見上げると、巨大な水の壁が間近に。5センチ距離で。
 近すぎ。

 「ぬな?!ぬな、ななな・・・??」

 前振りから随分時間を掛けて、破壊された海浜公園の防波堤を越えて侵入してきた袖ヶ浦の冷たい海水が、高さ5メートルを越す巨大な水の壁となっておやじのところにへ到着。
 崩れ落ちる総重量数千トンに及ぶ水のカーテンに押し潰されながら、おやじ最後に叫んだ。

 「・・・『クリープショー』かよ?!
 ちくしょう、おぼえてろーーー!!!・・・」


 あとには、渦巻く波涛がゴウゴウと。白い渦を巻いた。

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2013年3月22日 (金)

ドリヤス工場『あやかし古書庫と少女の魅宝②』 ('13、一迅社)

 あらゆる期待にすべて応えた素晴らしい第二巻である。
 展開が不自然だ、話を端折りすぎ、等々批判する声はあろうかと思う。第一巻での能力者対能力者で一話完結という構成はあっさり無くなり、最大の敵は二巻の途中から登場し、そのまま大長編マンガの如き盛り上がりで最終決戦にもつれ込む。国際神秘骨董協会はむしろ味方といえる立場にシフトし、主人公を援護する。
 第二巻でより色濃くなるのは、水木というより川崎ゆきおとの類似だ。コマ割りなんかそっくり。古色蒼然たるメカのディテールや、櫻画報からの明らかな引用である協会側の機動隊風キャラ、そして往年の冒険小説を思わせる王道なストーリー展開。パロディーの多用と、微妙に感じるゼロ年代風味。本家ゆきおよりエンタティメントに徹することにためらいがない。
 これで文句を言うやつは人でなしだと断言する。
 
あっけなく終わってしまったことを不満に思うなら、確かに作者の意図は達成されたのだ。
 物語の目的は、見事完結し、かつまた続いていくものだから。

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※こんなに有り難味のないヒロインのヌードは近年貴重だ!

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2013年3月20日 (水)

『劇画ブルース・リー』 ('74、ケイブンシャ エコーコミック)

 私はこの本をリアルタイムで記憶している。親戚のお兄ちゃんの、部屋の片隅にあったものだ。
 サッカーのペレのポスターの貼ってある、その部屋をいまも鮮明に思い出すことができる。ベッドと縦長ファスナー式の衣裳ケースだけある部屋。薄いカーテンはレースの白で、ブロック塀ひとつで道路に接しているので喧しくて、日当たりは極めて悪かった。
 蔵書は殆どなかった。活字もマンガも含めて。(でも、エロ本ぐらいはどっかに隠してあったんだろう。)中学の部活でサッカーをやり、現在は車の修理工場をやってるその従兄弟とは、その後親族間の事情ですっかり疎遠になってしまったが、お陰さまで、幼少期の記憶はすっかり温存されたままだ。まったく変化していない。
 今でもあの家のどこかには、表紙の色褪せた『劇画ブルース・リー』が転がっているのではないかと思ってしまう。

 小学生にとって劇画とは大人の読み物であり、初めて読んだときには暴力やカラテ、理不尽な死といった、押し寄せるアダルティーな要素に気分が悪くなった。
 今回何十年ぶりに読み返してみたら、内容のスカスカ具合に頭痛がしたのだが。
※注釈・カラテ。「プロレス以外の格闘家」=「カラテ家」、という大雑把すぎるくくりは確かにあった。 

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 この表紙に描かれている4人の人物が俄かに同一人物とは信じがたい。
 登場するのはお馴染み4本のドラゴン映画だ。無謀にも180ページ程度の中に、映画をよっつも盛り込んでしまったのだ。わかりやすく換算すれば、ひばり一冊分ってことだ。物凄く意欲的な試みである。編集した人間は真の天才に違いない。 

 『ドラゴン怒りの鉄拳』
 1908年、上海。横暴極まる日本人スズキのでかい口ひげに怒りの鉄拳が炸裂!ポロリ、糊代わりに張り付けていた米粒が落ちた。まさに、口ひげ危機一髪!
 『ドラゴン危機一発』
 製氷工場の氷の中に葬り去られる、可哀相な最下層労働者。子供心に物凄いおそろしいシーンだと思ったが、実際見ると犠牲者の顔なんかハッキリ描いてなかった。影だけ。
 でも、ドラゴンパンチを受けた若手が、塀に人型の穴をあけて倒れるという、ショッキング過ぎる名場面はバッチリ収録!なんでだ!その直後「気をつけ」の姿勢で倒れている若手の無念そうな死に顔が見どころ。あとは一切見なくていい。
 『燃えよドラゴン』
 二十世紀映画史に残る大傑作を超コンパクトに圧縮!まるで迫力なし!死んだ牛の死体でマイムを踊るが如き、動きとセンスの欠如が素晴らしい。鉄の爪を装着した憎らしさNo,1の敵ハンが、近所の八百屋のおっさんにしか見えない。
 単に出てきただけのジム・ケリーとローパー捜査官のご苦労様っぷりに、伏線破りのマジックを感じる。「決していい子になんかなるなよ!」こいつは愛のメッセージだ!
 『死亡遊戯』
 ジャバが出るかとワクワクしてたら、映画本編と全然関係ないブルース・リーの伝記マンガだった。つい読んじまった。知ってる情報ばかりだってのに!やられた!マジで一本とられたぜ!さっそく映画館へGOだ!

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 「ドラゴンの王者ブルース・リー!」
 一見ムチャクチャなコピーに見えて、吠えろドラゴン・片腕ドラゴン・嵐を呼ぶドラゴン・パチンコドラゴン・パンクドラゴン・・・あらゆるドラゴン業界の頂点に君臨し続ける男の称号であるからして、これはこれで理屈は合ってるのであった。
 
 で、ふと奥付見たら、この本、16刷り!売れてんじゃん!

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2013年3月18日 (月)

バリー・レヴィンソン『スフィア』 ('98、ワーナー)

 つ、つまらん。
 瘧に罹ったように全身を震わせながら、一番面白かった場面を探すと、物理学者テッドが無惨な死を遂げる場面。不測の事態で深海300メートルの基地は爆発寸前。誰もアワアワしている最中、運の悪い男に向かって、天井から排気ダクトがガーンと落ちてきて後頭部を強打。「ゲッ!」と床に崩れ落ちる。すると金網越しに絶妙なタイミングで炎がブォーッと噴き出してきて、顔面から丸焼け。人間バーベキュー。
 そういや、異常発生した大量のクラゲに刺されて死ぬ黒人女ってのもいたな。珍しいけど、異様に地味で報われない死に方だった。絵にしたら最も面白そうなダイオウイカ出現の場面を、海底に舞い散る無数の卵の描写のみで押し通すというのは、なにか確固たる演出のポリシーがあったのだろうか。意味なくダスティ・ホフマンやシャロン・ストーンを揃えて予算なくなったか。
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 しかし人間の願望をかなえる黄金の球体って、それ、ストルガツキー兄弟の『ストーカー』(原作の方)じゃん!クライトン!

 『レインマン』も撮るし、傑作『ディスクロージャー』も撮る、信頼できない器用さの男バリー・レヴィンソン監督作品。

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2013年3月17日 (日)

水野良太郎『劇画U.S.A.聖女伝マリリン・モンロー』 ('73、朝日ソノラマ)

 有態に言って、水野良太郎の絵はかっこいい。
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 余分な描き込みを排して、さらにパンチが効いていて、人物やら構図が大胆で、鮮烈。ガイジンの顔がデフォルメなしでちゃんと描け分けられるのも、実は驚異的。どのキャラがどれかってのが速読しても充分見分けがつくってことだ。なかなか、こうはいかない。
 相変わらずペダントリーを駆使し奇を衒った滝沢解の原作モノだろうとサラサラと読めてしまう。
 この読み易さの秘密はなんだ。
 ある時期までのアメリカン・コミック最大の特徴である、筆とスミベタ。ダイナミックな描線。
 良太郎先生はアメコミの基本を忠実に実践し、たまに背景にトーンを貼ることはあっても、殆どをブラックアンドホワイトで押し通す。躊躇なく、最小限の資料をチラ見したりしながらも、筆とペンとは常にノンストップで走らせて、かなり凄い速度でジャンジャン描いているんじゃないかと思われるんですよ。でなきゃ、あぁならない。本当にうまい人はスピードをあげても線が荒れない。構図がブレることもない。
 水野先生の絵柄って、わが国での扱いにおいては本来イラストレーション系の絵の筈なんです。そういうイラストレーター、何名かいますよね。でも、それら類似品とは明らかに違う。
 止まって見えない。ちゃんとマンガの絵に見えてる。だから普通にマンガを読む速度で読める。良く考えると、あたり前の事なんだけどね。だって、もともとマンガが発明した絵柄なワケですし。
 でも、それを高度なレベルで肉体化できてる人って、実際、本当に少ないんだ。
 ウソだと思うなら真似してみ。凄いことやってんですよ。平然と。

「夜ごとモンローを夢見て
 そそり立つ男根をつないだとしたら
 /おそらく天国の入り口まで届いたにちがいない!」
(本書P.101)

 こういう万事大風呂敷な滝沢のト書きに、旋回する渦状星雲を一発スマートに描き込んでおしまいにする辺りなんざ、グッときますね。かっこいい。
 『キャプテン・フューチャー』の挿絵は、問答無用で絶対に良太郎が最高!と思う方は必読。
 われわれは少数派なんですってさ。

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2013年3月 2日 (土)

いのうえだいすけ『悪魔(サタン)の墓標』 ('76、高橋書店マイコミックス)

 井上大輔と云えば、マッドネス「シティー・イン・シティー」とか、腐れロボのお歌の作曲者として有名であるが、今回で採り上げるいのうえだいすけはまったくの別人。別人二十面相。
 そんなこと、子供に指摘されなくたって解るって?
 うるせぇ。くらえ。

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 ※主人公のロンT、茶色ってのが渋い。

 だいすけは、手塚プロ出身者。
 ディズニーを仮想敵とした安心のお子様向けブランドメーカーとしての手塚先生ではなくて、暗く破壊と殺戮への情熱を滾らせていた頃の手塚。その傘下のプロダクション。描き文字と背景に露骨な影響が感じられる。
 取り上げられることも多いので、マンガの神様にもそういう暗黒傾向の作品があったことを知っている人は結構いるだろうが、それにしてもこの時期の代表作(と勝手に認定)『ガラスの城の記録』は極端だった。家族全員が精神異常で殺人狂。一応未来の話なので、光線銃とか冷凍睡眠カプセルなんかも出てきた気がするけど、SF設定を持ち出しても救いがあるような話ではなかった。
 ひたすら、肉親同士の殺し合いを見せられ、うんざりした頃に白ページ抜きで(未完)の文字が飛び込んでくるし。
 おっさんの顔面がレーザー光線で吹っ飛んだり、またしても近親相姦だったり、なんかもう全篇そんな感じ。(原本を所持していないので、実は二十年以上前のうろ覚え。)

 しかし、不毛過ぎる『ガラスの城の記録』(と、それに代表される虚無的かつ残虐な手塚作品)は、かの川島のりかず先生にも大いなる影響を与えているように思う。特に初期作品なんか、露骨にキャラクター造形まで真似している気がする。(例・『血塗られた処刑の島』『悪魔の花は血の匂い』)但しのりかず、アニメ的センスは皆無なので、フラット過ぎて、失敗した70年代少女マンガ風絵柄にしか見えませんが。
 だから、本家・手塚プロから残酷マンガ業界に都落ちしてきた、いのうえ作品を紐解くわれわれは、「あれっ?なんか、のりかずに似てる・・・」と、場末で起こる必然的シンクロニシティーに戸惑うことになるのだ。

 マンガの神様は、偉大だ。
 だが、神様だけが偉大なわけではないのだ。


 安直な未来都市設定。オカルティズムへの興味。考えが足りない残虐描写。これらが『ガラスの城の記録』という手術台の上で、偶然出会う。
 素晴らしい。完璧だ。
 だが、しかし。あとで詳しく述べるが、『悪魔の墓標』には、のりかずには存在しない大きな要素が存在する。幕切れで、主人公にご都合主義極まれる“救い”が用意されているのだ。これには心底ガッカリさせられる。そもそも宇宙規模での善と悪の対立図式は永井豪にこそあれ、手塚マンガにはなかろうに。
 
 とはいえ、意味なく凶悪性を剥き出しにする本作もまた、まったく読まなくていいマンガの歴史に刻まれるべき、完璧なトラッシュ作品であると言えよう。
 繰り返す。
 まったく読まれなくていい作品だと断言できる。

【あらすじ】

 
冒頭、ビルの谷間でひとりの男が惨殺死体で発見される。全身バラバラにされ、遺体は現場一帯にばら撒かれるようにして散乱していた。
 夥しい血糊と形状不明なまでに引き裂かれた臓器の破片の山を見ながら、鑑識医は途方に暮れている。

 「むうう・・・この切断面は刃物やなんかじゃない。
 まるで、巨大な腕で、細かく千切っては放り投げたみたいだ!」 


 
医者の大げさな表現に思わず苦笑するベテラン警部・蟹江K三。
 そこへ、若手が口を出す。

 「・・・警部ッ!被害者の身元が割れました。
 所10三、中学教師です。勤続十数年、素行は到って平凡。勤務先での評判も上々で、身辺のトラブル等も報告されておりません・・・!」

 「ふん、きわめて堅物の先生ってとこか・・・。
 こりゃぁ・・・悪魔の恨みでも買ったかな?」

 緊迫する現場に、忍び笑いが漏れた。

 日本警察の上部組織として(FBIのように)国際警察ニュウ・ポリスが君臨する近未来。
 主人公レイは、生まれたての赤子のように首の据わりが悪い、このニュウ・なんたら云う胡散臭い組織の新人メンバー。でも勤務地は単なる都内らしく、捜査内容だって普通の警察と大差ない。ご大層な上部組織などまったく必要ないように見えますが、あなたはどう思いますか?

 ともかく、開巻早々の殺人事件、こりゃあ経験の浅い若者が難事件に遭遇し張り切る話かと思いきや、早々に上司に休暇取得を言い渡され、なんでか実家に強制送還。
 捜査開始早々、いきなり実家に帰される刑事は嫌だ。警察手帳も泣いている。
 ま、ともかく、ひさびさの休暇には違いないので、意気揚々自宅に帰ると、実家はいつも通り。平穏無事。無病息災。出迎えるパパ。ママ。妹。
 この、妹の存在がうざったいレベルで強調されており、勘のいい読者諸君ならば「あぁ、コレはひょっとして・・・あのパターン・・・」と、開巻早々にネタばらしにお気づきになるかと思います。
 思いますが、ここはグッと堪えて。
 この作品、詰まるところ“Who done it?(誰が殺ったか?)”型ミステリーとして展開していくしかなくて、それ以外に物語を転がすネタが全然ない。おまけにぜんぜん容疑者不足。
 そんな、永遠に乾燥期のゴビ砂漠みたいな不毛な話からオチを奪ってしまうという暴虐行為は、そりゃもう、坊主から賽銭全部を取り上げるようなもの。
 あんた、坊主の恨み、怖いでしょ?ハゲが暗闇からコッチ見てますよ。じーーーーっと。粘液質の瞳で。どう?

 だったら、黙んなさい。

 実家に帰ったレイは、そりゃ若いし暇だし飲みたいし。「ちょっち、行ってくるわ!」と近所のバカと連れ立って飲みに行く。年末年始でもあるまいに、金もなければ女もいらない。へべれけ酔いどれ、オールナイトロング。ハードコアだ。
 一緒に遊びたくてぷりぷり怒る妹(この時点で既におかしい)を実家に置き去りにして、夜の繁華街を気ままに遊び歩く。

 「おーーーし!!じゃ、次の店行くぞォーーー!!」
 
 肩を組んだ友人Aは調子よく怪気炎をあげるが、自らセーブし「ちょっと、待った。その前に、小便。小便。漏れる漏れる・・・」

 「おい、おい、オレはこれでも一応警官なんだぜ・・・!」
 ニヒルに唇を歪めるレイに、友人A、

 「てやんでーーー!!てめー、バッキャローーーめ!!矢でも鉄砲でも持って来やがれってんだ!!こなくそ、コンチクショウ」
 雑居ビルの裏手で壁に向かい、傍若無人にジャブジャブ放尿し始めた。

 のどかな水音が聞こえて来る。
 呆れ顔で苦い笑いを浮かべるレイ。

 「・・・?」

 と、その瞬間。巨大な風音がバサリ。
 ビルの谷間を真っ黒い影が横切り、何だと顔を向けた瞬間、小便途中の友人Aの身体は真っ黒い巨大な腕に掴み上げられていた。

 「の、わわわわーーーーーーッ!!」

 「お、おい・・・!!」
 
 身長3メートルを越す真っ黒い巨躯に、尖った耳。背中には、蝙蝠のように真っ黒くて巨きな羽根が。血のような網目を張り巡らし真っ赤に染まる。
 耳まで裂けた唇からは真っ白い牙が突き出し、何か腐ったような硫黄の臭気が辺り一面に立ち籠めている。

 「うわッ!!悪魔だ!!こりゃ、紛うことなく完璧に、悪魔そのものだ!!」

 悲鳴と共に、頭上高く持ち上げられ無造作に放り出される友人A。余りの怪力に、人体は破裂しバラバラに砕けて散らばる。まるで粘土細工の人形みたいだ。

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 人間の尊厳を軽ァるく踏み躙る突然的な暴力の嵐に、二の句も接げないレイ。呼気も自然荒くなる。そんな気弱な主人公に追い討ちをかけるように、

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 変わり果てるにも程がある友人Aの亡き骸!!理科の標本(または人体図鑑)に酷似しているが、使われてる臓器はこれぞ本物!とってもジューシー!!フレッシュ!!スライ!!
 
 「臓物見本市か・・・?これは、臓物の見本市なのか・・・?!」

 さすがに堪らずゲロり始める主人公を、憎々しげにねめつけると、悪魔は高笑いを響かせながら高層ビルの谷間へと忽然と姿を消してしまった。
 おおきな真っ黒い翼を背後に靡かせて。

 通報し駆けつけた地元警察に細かく事情聴取されるレイ。しかしニュウ・ポリスのメンバーだと知れると扱いが変わった。そうそう、こういうのが楽しくて受験戦争勝ち抜いてきたのよ。
 それにしても。
 目の前で友人を惨殺され、しかも非現実的なビジュアルの犯人をしっかり目撃するという異常な立場にたたされた主人公。これはもう休暇なんざさっさと取り消し、プレデターの仕業とは誰にも信じてもらえず孤独な捜査に身を投じるしかない。刑事ドラマの基本中の基本でしょ。
 と思いきや。保釈されるや休暇再開。
 
 翌日、何食わぬ顔で妹と映画を観に行った。
 
 これだけでも許しがたいが、しかも観ていた映画が、これ。↓

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 レッドスネークカモンでお馴染み、『怪奇!吸血人間スネーク(’73)』!!!
 身悶えしながら単行本のコマに最大級の突っ込みを入れまくるウンベル。この映画の内容を知ってる人は一緒に突っ込もう!呪われた実験の結果誕生した蛇人間がマングースの餌にされてしまう不憫すぎる名作だ。
 ※【注釈】完全に事実誤認。このスチールは「蛇女の脅怖」('66、ハマープロ)である。なんで間違えたのか不思議。(2015.10記)
 
 なんでコレなんだ。
 数ある怪奇映画の名作たちの中から、なんでコレを選ぶんだ。
 手元にこれしか資料がなかったのか。
 まさか、特別な思い入れでもあるというのか。だとしたら、どんなんだ。
 上野の映画館で観てて、隣に座った浮浪者のオヤジにちんちん吸われたとかか?


 数多くの疑問符を投げかけつつ、本編のあまりのつまらなさに途中で「帰る」とゴネ出した妹(※正常な反応である)を連れて表に出ると、向こうからやってきた女が、
 「アラ?」
 と急に立ち止まった。

 あにはからんや、それは昔の女だった。かつてのレコ。お子様用ブロック玩具。それはレゴ。もとい。
 それはかつてジュクで鳴らしたハクいスケだった。
 ※注釈:以上のセンテンス、現代語に訳すと、“昔新宿近辺を闊歩して交遊活動領域としていた、見るとむしゃぶりつきたくなるほどイイ女だった。”
 要はナオン、ナオンの野音である。美女ありき、ってことだ。C.L.ムーアの。

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 この女の名前は、セシー。まぁ、セシルよりモアセクシーって程度の軽い意味。
 手塚風の目玉の入れ方であるが、本家に比較して随分ちっこい。
 全体にジョージ秋山の匂いが強く感じられる。都会的でアダルティーって路線だが、エロさが希薄すぎ。『ピンクのカーテン』度が低し。なんでかなって、まじまじ見たら、首が異様に太いんだこの女。
 ジョージが女体描写でよくやるくねくね線(勝手に命名)もうまく使いこなせていないね。アレは、“この線こそがエロいんだ!”と強く思い込んでいないと出せない必殺光線だよねー。女のボディラインは劇画期の手塚的。いや、石森章太郎だな。
 そんなうざい女が、ジョージの服着て喋ります。

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 でました、ジュクであります。
 余りに不自然なアクションなんでちょっと解りにくいですが、コマ右下一角を占めていてて、動作の流線がついてるのは、この女の左手です。(左利きなのだろうか?)
 ポーズも不安定だし、女らしい細さとか繊細さがまるで感じられない。とりあえず描いてあるだけの手です。女の表情が石森のフランソワーズ調でこなれてる、たぶん描き慣れてるだけにこの異物感はひときわ異様です。
 あんまり無骨な手なんで、最初背後の男がこの女の乳房を鷲摑みにしようとしているのかと思った。
 (・・・しかし、こんな寄り道を延々しているので私のレビューはなかなか進まないな。すいません。)
 
でも、調子に乗ってもっといいますと、背後の男、ガチャ目です。前髪が不自然に太く一本垂れていますので、かなり面白い状態になっています。ついでに言いますが、こいつが実は主人公です。

 あとで(たぶん)詳しく述べますが、この主人公、手塚プロが無理やりダイナミックプロから借りてきた状態なため、画面のいたるところでかなり面白い表情を繰り広げてくれます。
 主役がいちばん描けてない。ロングが特にやばい。なんでしょ、これは?まぁ、意あって力足らずな表現ってことなんでしょうけど。
 でも、やるときゃやる。

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 ビルの谷間で、突如生首吹っ飛ばされるセシー。
 「オマエの役目はそんだけかい・・・!!」
 
って大声で突っ込みたくなることうけあいの安さ。お手軽さ。うんうん、常識的展開としては大間違いだと思うけど、そのやりすぎで大雑把な感じ、先生は嫌いじゃないぞ。やれば出来る子だ。

 もちろん、犯人は悪魔。耳まで裂けた口のにくいヤツ。
 毟り取ったセシーの生首をかぁーるくお手玉にして、血しぶきを浴びせながらレイに投げつけてくれます。高笑いしながら去っていく悪魔を見ながら、
 「あいつは、いったい・・・?!」
 
などと、超絶間抜けなことをぼやいていた主人公は、通報で素早く駆けつけた警官隊にまたも取り押さえられ、今回は本物の第一級容疑者として本庁へ引き立てられていってしまいます。
 いかにニュウ・ポリスの栄え抜きメンバーとはいえ、二度も殺害現場にひとり居合わせるだなんて、露骨に怪しすぎる。子供にだってわかること。

 今度こそようやく、ホントようやく、濡れ衣を着せられた警察官が、汚名返上のためにひとり孤独で野獣のような捜査を開始する(そして、いしだあゆみを抱いたりする)千葉真一主演の本格刑事ドラマに突入か・・・?
 と思わせておいて、やっぱり違う。
 プラスチックな留置場でふてくされるレイのもとへ現れたのは、ヒゲの、恰幅のいい上司だった。モロ70年代手塚キャラ風、まるでマンガのような先輩警部はレイの身元を保証したうえで出獄させると、図書館へ向かった。

 「こ、これは・・・?!」
 意味が解らず首を捻るレイの眼前に、ドサドサーッと分厚い本の山を積み上げ、
 
 「今わかっている手掛かりは、たったひとつ。
 犯人は、やたら悪魔っぽい人相風体ってだけだろ?
 だったら、その手掛かりを洗え!それしかないなら、そこから徹底的に調べるんだ!」


 おまえは『セブン』のモーガン・フリーマンか?
 なんだか根本的に履き違えている気がしないでもないが、かなり趣味的に悪魔研究に没頭するふたり。案の定、碌なことがわからず、一日棒にふっただけだった。
 ある意味ハードな仕事を終え、喫茶ルノアールの大型ソファでくつろぐふたり。
 レスカをチュチュウ啜っていると、突如レイが家族全員を悪魔に縊り殺される不吉すぎる幻覚に襲われる。
 慌てて席を立ち、ハイヤー飛ばして実家に戻ってみると、実家は血の海。

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 「なんじゃ、こりゃぁーーー!!!」

 母親の生首を前にし、松田優作の見事な物真似を披露するレイ。パパもママも五体バラバラに引き千切られ、恐怖の表情を浮かべて絶命しているのだった。
 そんな『ブレインデッド』の一番派手な場面より大量の流血、臓物の山を見せられ二の句も接げないふたりの傍らで、内臓の山が動いた!
 すわ悪魔出現かと、ふところのレーザー光線銃(一応未来ですから、この話)を取り出し構えるレイたちを尻目に、現れたのは血まみれ、ホルモンまみれの妹!

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 「おにぃちゃん、おしっこ・・・・」

 「・・・萌えェェ~~~!!!


 と、警部とレイは声を揃えて叫ぶしかなかった。

【解説】

 あとの展開はもうお解りだろう。

 舞台は先輩警部の家に移り、警部の妻が心身ともにショック状態にある妹を優しく看護する。警部は見るからに厳ついが、妻は若くて美しい。こりゃ夜の生活もさぞかしゲヘヘと下賎な空想に浸る間もなく、妹は魔王サタンである正体を現し、十歳の少女からあっという間に猿之助も驚きの早変わりで凶悪な悪魔の姿になってしまう。
 ビリビリ破れるパジャマと下着。全国のロリコンさんたち、いらっしゃい。
 

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 先輩警部は無惨に八つ裂きにされ、それを目の当たりにしたレイは、凶暴な怒りに駆られて、衝動的に最愛の妹を撃ってしまう。(しかも顔面。)
 
 「・・・撃ったわねぇ~~~」
 「おにいちゃん、あたしを・・・撃った~~~」


 山崎ハコの数千倍凶悪な恨み節を聴かせながら、みるみる復元していく悪魔の頭部。怒りがエネルギーを倍化するのか、ちょっと巨大になり過ぎ。
 悪魔の逆襲を受け、なんとなくその場にあった槍に喉首を貫かれ、見事絶命するレイ。ちょぃと見上げてみると、悪魔はやっぱりデカかった。ちょっと、デカ過ぎ。

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 まさに「なんてこった・・・」って状況である。漫★画太郎の作品に酷似したシチュェーションだ。悪魔のあたま、屋根を絶対突き抜けている。
作品が完結しないうちに主人公が突然急死する展開も画太郎マンガのギャグっぽいのだが、しかし。
 死んだ主人公が全裸で宇宙空間を漂っていると、神だかなんだかわからん存在(宇宙意識・・・?)が前触れもなく話しかけてくる!・・・って展開、まだガタロー!

 「そなた・・・ダイナミックプロに来ませんか・・・?」

 「エッ・・・?!」


 ここから、まことしやかに宇宙の黒歴史を語り出す、なんだかわからん存在。

 「天地開闢以来、この宇宙の支配権を廻り、手塚プロとダイナミックプロとが争ってきました。
 幾つもの惑星が誕生し死滅し、再び生まれる。その戦いこそが空間のエントロピーを生じさせ、すべての生命誕生の根源となったのです。
 稀にさいとう・たかおプロってのもありましたが、あれは所詮大人の読者限定。やはり、マンガの王道は少年マンガ。ってテラさんも言っとりましたです。」


 「・・・誰だよ、テラさんって?」

 「一回死んだあなたこそ、まさにダイナミック魂の継承者にふさわしい。
 さァ、蘇れ!
 一度死んだキャラが同じ作品内で蘇るのは、作品を変えてスターシステムをとるしかない手塚プロには決して真似できない、ダイナミックな専売特許なのです!」


 ビカビカ、ビカーーーッ!!!

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(※槍の刺さっている位置が瞬間移動するミラクルが!↓) 

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 強烈にどっかで見た感のあるキャラへのメタモルフォーゼ。
 最早宇宙規模での神と悪魔の戦場と化した他人の家のリビングルームでは、血肉を分けた兄と妹の不毛すぎる戦闘が、『聖魔伝』をリサイズして保存したかのようなちっちゃいスケールで繰り広げられるのでありました。

 真の結末を知りたい人は、ご近所の書店へGO!まず売ってないけど。

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