『劇画ブルース・リー』 ('74、ケイブンシャ エコーコミック)
私はこの本をリアルタイムで記憶している。親戚のお兄ちゃんの、部屋の片隅にあったものだ。
サッカーのペレのポスターの貼ってある、その部屋をいまも鮮明に思い出すことができる。ベッドと縦長ファスナー式の衣裳ケースだけある部屋。薄いカーテンはレースの白で、ブロック塀ひとつで道路に接しているので喧しくて、日当たりは極めて悪かった。
蔵書は殆どなかった。活字もマンガも含めて。(でも、エロ本ぐらいはどっかに隠してあったんだろう。)中学の部活でサッカーをやり、現在は車の修理工場をやってるその従兄弟とは、その後親族間の事情ですっかり疎遠になってしまったが、お陰さまで、幼少期の記憶はすっかり温存されたままだ。まったく変化していない。
今でもあの家のどこかには、表紙の色褪せた『劇画ブルース・リー』が転がっているのではないかと思ってしまう。
小学生にとって劇画とは大人の読み物であり、初めて読んだときには暴力やカラテ※、理不尽な死といった、押し寄せるアダルティーな要素に気分が悪くなった。
今回何十年ぶりに読み返してみたら、内容のスカスカ具合に頭痛がしたのだが。
※注釈・カラテ。「プロレス以外の格闘家」=「カラテ家」、という大雑把すぎるくくりは確かにあった。
この表紙に描かれている4人の人物が俄かに同一人物とは信じがたい。
登場するのはお馴染み4本のドラゴン映画だ。無謀にも180ページ程度の中に、映画をよっつも盛り込んでしまったのだ。わかりやすく換算すれば、ひばり一冊分ってことだ。物凄く意欲的な試みである。編集した人間は真の天才に違いない。
『ドラゴン怒りの鉄拳』
1908年、上海。横暴極まる日本人スズキのでかい口ひげに怒りの鉄拳が炸裂!ポロリ、糊代わりに張り付けていた米粒が落ちた。まさに、口ひげ危機一髪!
『ドラゴン危機一発』
製氷工場の氷の中に葬り去られる、可哀相な最下層労働者。子供心に物凄いおそろしいシーンだと思ったが、実際見ると犠牲者の顔なんかハッキリ描いてなかった。影だけ。
でも、ドラゴンパンチを受けた若手が、塀に人型の穴をあけて倒れるという、ショッキング過ぎる名場面はバッチリ収録!なんでだ!その直後「気をつけ」の姿勢で倒れている若手の無念そうな死に顔が見どころ。あとは一切見なくていい。
『燃えよドラゴン』
二十世紀映画史に残る大傑作を超コンパクトに圧縮!まるで迫力なし!死んだ牛の死体でマイムを踊るが如き、動きとセンスの欠如が素晴らしい。鉄の爪を装着した憎らしさNo,1の敵ハンが、近所の八百屋のおっさんにしか見えない。
単に出てきただけのジム・ケリーとローパー捜査官のご苦労様っぷりに、伏線破りのマジックを感じる。「決していい子になんかなるなよ!」こいつは愛のメッセージだ!
『死亡遊戯』
ジャバが出るかとワクワクしてたら、映画本編と全然関係ないブルース・リーの伝記マンガだった。つい読んじまった。知ってる情報ばかりだってのに!やられた!マジで一本とられたぜ!さっそく映画館へGOだ!
「ドラゴンの王者ブルース・リー!」
一見ムチャクチャなコピーに見えて、吠えろドラゴン・片腕ドラゴン・嵐を呼ぶドラゴン・パチンコドラゴン・パンクドラゴン・・・あらゆるドラゴン業界の頂点に君臨し続ける男の称号であるからして、これはこれで理屈は合ってるのであった。
で、ふと奥付見たら、この本、16刷り!売れてんじゃん!
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