『80年代悪趣味ビデオ学入門』 ('13、洋泉社)
かつて同じ洋泉社から『悪趣味洋画劇場』が出たときは、熱かった。これは時代の差である。
誰もが知る映画の外側には膨大な未踏領域が広がっており、そこに実は映画の秘密があるのではないかと人は記憶をほじくり返し、墓を暴くのに熱中したものである。
『映画秘宝』も『マンガ地獄変』も、詰まるところはこうした精神の産物だった。葬り去られた映画。マンガ。そこには確かにお宝だってあったし、そうでないものもあった。
いずれにせよ、未知のものが確かにそこにあって、われわれは単純にワクワクした。昔の話だ。
現在、誰も知らない(当然未DVD化の)VHSビデオばかりのレビューを集めた本書のあとがきで、田野辺尚人は冷徹に宣言する。
「この特集は死体の山だ。
はっきりしておくが、『昔はよかった』なんて少しも思っていない。消えてなくなってしまったものを記録しただけ。
残酷だけれど、それが結論だ。」
たぶん、夢はもう終わったのだ。
それでもわれわれは生きていかなくてはならないし、こうした不憫な映画は依然として重要だ。のんきに“サイテー!!”とか、言ってられなくなったってだけの話だ。
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