新春放談「スズキくん・都立家政は三鷹」
(スタジオ内に穏やかな新春の光が射している。壁が破れているということだ。隙間を縫って流れ込む商店街の有線放送は、祝詞的なサウンドを延々流している。)
「うーーーーーーん・・・アレ、もう朝か。」
スタジオの床に倒れていたスズキくんが起き上がって云った。
誰の気遣いか、一応毛布が掛けられている。
「結局おやじは帰って来なかったな。どーれ、もちでも喰おうか。」
その瞬間背後から現れた古本屋のおやじが、振りかざしたピコピコハンマーで襲い掛かった。連打。連打。連打の嵐である。
「喰うんか!!まだ喰うんか!!
どんだけ喰うたら満足するねん・・・!!
日本を全部食い尽くすまでか??コノ、喰うかい上人!!」
攻撃から身を庇いながら、スズキくん、平然と、
「あぁ、お帰りなさい。ネタの仕入れはいかがでした?
そういえば築地市場の移転問題、一年先送りになってたみたいですね。」
「・・・それどころではないぞ。」
登場早々テンション全開で、さすがに疲れたおやじは、肩で息をしている。
「江ノ電は崖崩れで、鎌倉から不通だ。」
「われわれ、江ノ電を愛する者には心配な情報です。」
「・・・本気だろうな?流山電鉄ではないぞ。
しかし、崖もよくこのタイミングで崩れる気になったものだ。犠牲がなくて幸いだが、保線夫さん達の休み返上を狙ってるとしか思えん。」
「保線夫は見た。」
「(無視して)激動の2012年を見事総括し終えたと思ったら、あッという間に2013年がやって来てしまい、正直、私も動揺を隠せないのだが。
ちなみに、実家に新春の挨拶で電話したところ、うちの母親は今年が2014年だとばかり思い込んでいたな。」
「親子揃っていい加減な家系なんですね。」
「まったくだ。呆れて物も言えん。
こちとら、終夜運転の山手線をホテル代わりにしていたもので、まだ眠いんだよ。都会は一晩中電気が点いてて便利だなー。」
「なにか浮かれたこと、したかったんですね。虚しいなァー。」
「田舎者の典型だよね(笑)。型どおりの正月を一回ハズしてしまうと、どう行動したらいいのか、解らなくなるんだ。
“儀式は重要だ”と、稗田礼ニ郎も述べとる。」
「あ。いま思いついたんですが、礼次郎ではなく礼ニ郎なんですよねー。いずれにせよ、次男。
こりゃシャーロック・ホームズの実家みたく他に長男がいて、政府秘密機関の実力者として君臨しているって裏設定ですよね?」
「兄の方が実は頭がいいのなー。勉強もスポーツもより出来る。」
「で、頭が上がらないんで悔しくて、クスリに逃げたりして。」
「そういう動機か、あのモルヒネ。」
おやじは合点の相槌を打つ。
「そうそう。ヤク中なんてそんなもんです。プロテインで強化したって一生悦ちゃんには頭が上がらないんですよ・・・ところで、正月早々ダベってばかりでもしょうがない。
なにかネタ、ないんですか?」
おやじは溜息をついた。
「ある。」
「ありますか?」
「ある。
迎春のお慶びムードを一気に払拭してくれる、飛び切り景気の悪いやつがある。」
「嬉しくないなァ・・・」
スズキくんは揉み手する。「ネタは新鮮なんでしょうか?」
「もちろん、古本の深海に朽ちて横たわっておるわさ!
超古代の遺物さ!意味なしオーパーツさ!
敢えてサルベージする価値などまったくない、本物のガーベイジ野郎さ!」
「ヒャッホォォ---ッ!!
畜生、こいつを待っていたんだ!!」
(つづく)
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