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2013年1月15日 (火)

『カンニバル!ザ・ミュージカル』 ('96、TROMA VIDEO)

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 前略、佐藤師匠。

 先日は新年会にご参加いただきまして、有難うございました。年々なんだかんだ理由をつけて欠席する不逞のやからが増える中、師匠は希望の星です。シューティング・スターです。おいおい、それじゃ落ちてるよ。
 
 別れ間際の上野の駅で、集団就職で東北から上京した一団が旗振る洪水に揉まれながら、私が師匠に申し上げました言葉は、

 「これから帰って、人喰いミュージカル映画のレビューを書きます!」
 
 だったのでありますが、そしてその際小生慣れぬメチルアルコールに脳細胞が激しく損傷気味に浮かれておったものと記憶しているのですが、
 残念でした。
 お楽しみの映画はいまひとつ冴えない出来でありましたので、ここに慎んでご報告させていただきます。以下よろしければ読んでやってください。

 師匠はTROMAビデオってわかりますか?悪魔の毒々モンスターは?カブキマンなんて知ってたりします?
 トロマってのは、80年代からあるインディーズ系の映画製作会社で、銭金の亡者ロイド・カウフマンっておっさんがやってる、下賎な映像業界では知らぬ者がない弱小プロなんですけど、「駄目」「くだらない」「安っぽい」「大学生の宴会芸みたいなバカげた笑い」をポリシーに、実は確固とした影響を裏に表に業界全体に与え続けている、結構難儀な存在なのでございます。
 よく考えてみてください。
 「駄目」が社風ってどういうことなんでしょ?
 一般社会の通念からいけば、ありえない筈です。われわれ全員、只でさえ厳しいんですから。それでも、そういう特殊なマイノリティーがあまつさえ生き延びて、しかもくだらないものを形容する際の代名詞として、事情通の間では「トロマっぽいノリ」などといった具合に限定枠内で通用しちゃってるのが、(ごく狭い範囲ですけど)現実だったりします。

 抽象的表現はやめて、師匠でも絶対観てる範囲での「トロマ的ノリ」の実例を挙げましょう。
 『ロボコップ』(’86)。ドーーーン。
 後半、山場のひとつで、廃墟の工場でギャングたちをロボコが掃討する場面。いささか隅っこっぽいですが、ゲーハーのチンピラおやじがドラム缶の産業廃液を引っ被ってドロドロに溶けるシーンをご記憶でしょうか。
 溶けてグログロの怪人に変身したおやじは、その後、ご丁寧に警察車に撥ねられドピャッと砕け散ってしまいます。わざわざ見せなくていい(不快になるだけ)ような、細かくて、かつ残虐でマンガ的でくだらない描写を必ず盛り込む。
 この精神、完璧な「トロマ必要主義です
 ※註・トロマ的要素は映画を面白くする上で必要条件であるとする主張。もしくはその主張を掲げる一派の略称。

 『ロボコップ』あと『トータルリコール(旧)』辺り、いずれもヴァーホーベン監督、間違ったハリウッド映画の文法を吸収し忠実に再現して見せた結果ではないか、と私は勝手に睨んでます。
 ※続註・すべての原点、トロマ悪夢の大ヒット「悪魔の毒々モンスターThe Toxic Avenger」は1984年の公開です。
 此処に滅多やたらと散見される、明らかに行き過ぎた残虐描写(『トータル~』での目玉串刺しとか)は、いずれも極めてトロマ的でして、これがまた、オランダ映画界から上京してきた成り上り者ヴァーホーベン監督自身がもともと持っていた変態的持ち味(嗜好)と、偶然ピッタリ波長が合ってしまったんじゃないかと思うのです。そして、性根の歪んだ人間の常として、娯楽映画には自分が楽しめる要素を必ず入れる。それがどんなにドン引きされようと、娯楽の基本はまず自分自身へのおもてなし第一。
 これがまた、さらに映画とは首が飛んだり手足がもげるのを鑑賞するものである、とする特殊趣味の持ち主たちのハートをガッチリ捉え、本家トロマの属するマイナー市場へプラス効果として還元される。マイナスがマイナスを呼ぶ悪夢のフィードバック奏法byニール・ヤングとして、昨今まで生き延びてきたのではないのか。
 
 でも、現在。2013年の特殊趣味の人民(圧倒的少数派)は最早それに飽食し辟易し、ネクストレベルの何かを求めてしまっている。そんな気がしたのが、'96年トロマからリリースされたトレイ・パーカーの長編デビュー作『カンニバル!ザ・ミュージカル』を観たウンベルの感想だったのであります。

(新年会続きで朦朧とした文章でごめんなさい。しつこく、つづく)

【あとがき】

 つづく・・・って、この文章、既に完結しちゃってるじゃん!
 おしまい。

 『カンニバル!~』の内容に興味のある奇特な御仁は、自分で観さらせ。

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