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2012年12月

2012年12月31日 (月)

年末年始特番「スズキくんの逝く年・クル年」

(セットは特に組まれていない。
剥き出しの壁から鉄パイプが幾つも飛び出した殺風景なスタジオ。コンクリートの床は湿っており、色の悪い茶褐色の水溜りがある。)

(曲が流れ、終わったところだ。Gyaoで六曲連続で視聴していたらしい。)

 「・・・はァーーーい、というわけで今年の大ヒット、きゃりーぱみゅぱみゅちゃんで『つけまつげつけかえ疑獄』でしたーー!!
 ぱふ、ぱふ!」

 東急ハンズで購入したパーティーキットを身につけたスズキくん、浮かれている。

 「わざと『酢めし疑獄』みたいに言うな!間違えるだろが!」

 おやじ、今回は能動的に突っ込みに徹するつもりなのか、阪神タイガース応援団長のコスプレをしてやる気を出している。
 「いけーーー、江夏!カッ飛ばしたれや!!!」

 「あんた、ムチャクチャですよ。」

 諌めるスズキくんも学生服に、目玉がボイィ~~~ン!のメガネ着用だ。

 「この番組、無理やり今年を纏めるって始まりましたけど、早くもネタ枯れが懸念されておりますよ。
 だいたい、あんた、現代に生きてないでしょう?何時代の人か知らないが。」

 「むむ。失敬な。ひとを天地(あめつち)分かれる前の住人みたく言うな!!だれが原生林歩いとるっちゅうねん!
 だれが、ヘイ!ミスターダイナソアー!やっちゅうねん。」

 「解りにくいボケですが、ポリ~スの歌詞ですな。“Walking on Your FootSteps”。あんたにとって音楽の歴史は1983年のシンクロニシティーコンサートで終わってるんだから、ま、しょうがないでしょう。
 ぱふ、ぱふ!」

 おやじ、メガホン片手に凄んだ。

 「だから慌てて、ぱみゅぱみゅちゃんを観て来たんじゃないか。2012年をこれで語れるぞ。もう、コレ、総括リンチ・姐御しちゃうぞ!」

 「よく知らないものを例えに使うのは、いい加減、火傷しちゃうからおよしなさい。」
 
 スズキくんは、ふざけた格好の癖にもの凄く真面目な、謂わば小林完吾アナのような口調で、
 「それで、ぱみゅ観て何がわかったんですか?」

 「・・・あ、いや、中田ヤスタカが曲書いてるんだなって・・・」

 「中学生でもわかるわ・・・!!
 そんなもん・・・!!」


 メガネを外し、いきなり席から立ち上がった。

 「大体あんたのブログ、大半の情報が憶測と嘘だらけじゃねーーーですか?!なに考えてるんですか?
 もっと真面目にやってください!!
 世の中には、驚くほどバカげた本を真剣に読んでる奴だって存在してるんですよ!
 どんなバカ映画にだってひとりぐらい、真剣に愛するファンがいるんです。それを創った監督とか・・・」


 「その監督の両親とか・・・」

 「そういうみなさんの虚しい愛に少しでも報いるため、このページはあるんじゃないんですか?!
 世界の平和を訴えていきましょうよ!原発完全撤廃とか、萌えアニメが好きな外人を殺すとか、もっと他にやること、ある筈でしょ?」


 おやじ、ゆらりと席を立つ。

 「あの・・・どちらへ・・・?」
 「番組の途中ではあるが、ぱみゅについては既に語り尽くしてしまったようだ。これから築地へ行って、新ネタを仕入れてくる。
 ・・・へぃ、らっしゃい!!
・・・らっしゃい・・・!!
・・・らっしゃい!!!・・・・」


 喚きながら出て行ってしまった。
 シブガキ隊『スシ食いねェ!』の12インチバージョンを物真似しているらしい。

 「エエイ、勝手な人だ。困ったな・・・」

 「どうします?局長?」
 腕組みするスズキくんに若手が寄ってきて訊いた。
 
 「こういうときはアレだ、『ファニーとアレクサンデル』を流せ!朝までノンストップでリピート放映だ!どうせだれも観るもんか。
 そのうち、おやじも帰ってくるだろう。」

 若手は深く頷いた。
 「へい!らっしゃい!!」

(画面暗転する。映画が始まった。)
(薄暗くなったスタジオの隅から、スズキくんの熟睡する寝息が聞こえる。彼は外国の映画は登場人物を全然覚えられないので、極端に耐性がないのだ。)

(つづく)

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2012年12月27日 (木)

塚本俊昭『SF宇宙最終要塞』 ('78、芳文社コミックス)

 有名なSF業界の裏法則を紹介しよう。
 タイトルに“SF”のニ文字が入っている作品は、すべてダメである。
 
かの高名なるスタージョンの法則(“SFの99%はクズ”)よりも実践的で、確実に役に立つのが、この法則である。本当だ。ちょっと考えてみたまえ。只でさえ曖昧模糊として実体がよく解らないジャンルだというのに、そこを敢えてわざわざSFなどと表看板に銘打たねば世間に流通すら出来ない作品など、二流のバッタもん、粗大ゴミに決まってるではないか。
 「SF西遊記」。
 「SF水滸伝」。
 ・・・
いや、これらは結構面白かったな。(石川英輔は凡庸だが憎めない作家である。)
 
 「SF・レーザーブラスト」。
 「SF・巨大生物の島」。

 映画ばっかりじゃないか。しかも駄目な映画揃いだが、嫌いになれんな。

 「SF英雄群像」。

 駄目だ。斯界に雄たる名作ではないか。しかも、これ小説ではなくエッセイだし。
 諸君を微塵も説得できる材料が見つけられなくてごめんなさい。
 
 ・・・と。
 以上で早々に話を終わりにしてもいいのだが、せっかく不憫な感じのマンガを拾ってきたので、もう少し続けることにする。どのくらい不憫かというと、母に捨てられ身を売る程度だ。もちろん生まれた子の顔も見ないで死んでいかねばならないのだ。花街という名の戦場で。

【あらすじ】

 SFマガジン主催のコンテストで入賞。真崎守のアシスタントを勤めた経験あり。銀ぶちメガネの二十代青年
 根っからの生真面目さを感じさせる作風は、ワンアイディア一発のみに勝負を賭ける王道中の王道。但しマンガジャンルの王道ではなく、当時の日本SF界の。
 ほら、“日本が沈没する”というアイディアだけで出来てる話があったでしょ?あの人が当時日本SF界のドンでしたから。“首都が消失する”あたりでコケちゃいましたけど。“木星が第二の太陽になる”とか。万事その傘下。
 物語の力点が一個の奇想に依っており、それを軸にすべてが組み立てられる。それはいいんだけど、作者の力量が足りないと人間ドラマが明らかな付け足しに見えてしまう。不憫な感じになる。イイ人なんですけど、結局やらせてもらえない。可哀相過ぎて涙が出ます。若手はつらいね。

 
これは短編集である。

 ●「北極点炎上」
 静止衛星軌道上にエネルギー衛星を打ち上げて、太陽熱を集めて電力に換え、地上基地へレーザーでお届け。宇宙規模のヤマト便。
 でも、そのレーザーの焦点がずれて北極点を溶かし始める。巨大な氷山が幾つも流れ出して大騒ぎに。アメリカ第七艦隊が出撃し氷山をミサイル爆撃で砕いてまわる。ごくろうさん。
 「民家が近くになければ、核兵器で一瞬のうちに蒸発させられるんだが・・・」
 やはり米軍はこわかった。

 ●「富士噴火大作戦」
 首都圏を襲う巨大地震が予知された!さっさと逃げりゃいいものを、日本政府はクルクル博士の無謀なプランを極秘裏に採用。富士山に地震エネルギーを集約させて噴火させる!すると地震は見事消滅!って、こどもか?
 最終的に計画を完遂させた技術者が、郷里静岡の孤児院に帰り、

 「ありがとう、富士さん・・・」
 
 と、昇る曙光に照り輝く山麓を見ながら手を合わせて終わり。根本的に考え方がおかしい。歪んでいる。やはり政府は信用できない。

 ●「ヒットラーの帰還」
 映画『アイアン・スカイ』と同じ話。ベルリン陥落直前にヒットラーが打ち上げた軍事兵器が還ってくる!地上を核爆撃、ニューヨーク消滅!モスクワ壊滅!
 得意満面、嘲笑うヒットラーだったが、既に死んでいたのだった。
 「俺はナチ、死んでもナチ!」の名台詞が心に残る。
 
 ●「輪廻の風」
 城達也のジェットストリーーーム!が加速し、文明を薙ぎ倒す。通常FM電波で流れている筈の番組がなぜか地上に下降し、風速100mの暴風となって日本を襲うのだった。最終的に、首都圏はすっかり更地になり千葉県に併合されてしまった。
 それでも、呑気に番組は続行するのだった。

 ●「超兵器の墓場」
 海底火山の突然の爆発!ちょうどタイミングよく原子力潜水艦が近所を航行していたので、深海深く沈めてやったぜハッハッハッ。
 核兵器はいつ爆発するかわからんから、諸君、戸締りには注意したまえ。

 (この話は何が言いたいのかサッパリ意味不明である。だから何?と聞いてみるしかなくなる。)

 ●「巨獣世界」
 遺伝子操作で巨大化した、象ほどもあるブタが人間を襲う!ちょうどタイミングよく自然界の神秘のパワーにより人間のベイビーも巨大化!取っ組み合って海へと消えるのだった。
 無許可でブタの遺伝子をいじくったクルクル博士は、世論の非難を一身に浴びて、投獄され処刑された。進みすぎた先駆的科学の使徒はこうして人知れず葬り去られていくのだ。
 みんな、反省しろよ。

 ●「月を飛ばせ」
 1982年4月------惑星直列により、地球全土で前代未聞の大暴風が巻き起こる。こうなったらもう、人類の叡智を総結集して惑星の一直線並びを解消するしかない!とりあえず・・・月を火星にぶつけるなんてのは、どうだ?
 正気とは思えない計画が実行され、世界各国が保有する核兵器のすべてが月面に集められた。一斉に点火し月の軌道を揺り動かそうというのだ。そんな世界が団結して危機対策に当ろうというとき、一国だけ自国の兵器の供出を拒んだ国があった。みなさん御存知のあの国である。
 仕方がないので、集まった分だけで月面に大爆発を起こしてみたら、月は内部からマグマを噴き出し、そのエネルギーで暴走を開始!地球壊滅の危機迫る!
 残された希望は、あの国のあのお方の慈悲に縋るしかない!まさに手に汗握るサスペンス、これは傑作だ!
 
 ●「神のメッセージ」
 イスラム某国が某国と突然の和解!宗教問題が絡んで事態は緊迫するが、実はこれぞ神から人類へ一方的に宛てられた突然のラブレターだったのだ。
 モハベ砂漠に落下した全長20メートルの巨大な石版には、「ずっと すきでした つきあって く だ さいと書いてあった。無視すると、非常にやばいことにシ×イ半島が消滅してしまった。

 ●「宇宙最終要塞」
 地球上のすべての兵器を積んだ巨大戦艦がアルファケンタウリへ向けて出航する。永久に戦争を根絶する為にはやむ得ない処置だったのだ。戦艦の頭脳はコンピュータで自動制御され、人間は誰も乗せない造りだった。
 しかしそれから数年後、なぜか勝手に戻ってきた宇宙戦艦が大騒ぎの国連本部前広場に着陸。艦首砲塔が開くと、無数の花がこぼれ出たのでみんな驚いた。手品か。
 実はこの戦艦、他の惑星で進化した超銀河知性体・喜納昌吉「すべての武器をガキに」のメッセージを実現すべく介入し送り込んできたものだったのだ。
 その後人類は、武器を手にしたガキどもの猛攻に遭い絶滅した。応戦しようにも最早手元には何も残っていなかったのだ。
 その総てを宇宙の遥か高みから見下ろす嘉手苅 林昌の存在があった・・・。

 以上、人類に警告を与えようとして見事失敗している短編の数々を紹介してみた。
 主人公らしい主人公を立てず、ワンアイディアのみで押し切ろうとする試み自体、面白いんだけど、いささか程度が低いように思う。
 (月を動かそうとか、ダイレクトに安い発想はそれなりに感動的だが。)
 隙あらば人に有り難い教訓を垂れようとする奴の本なんか、全部燃やしちまえ。

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2012年12月24日 (月)

『人類SOS!』 ('63、TRASH MOUNTAIN VIDEO)

 人類は未知の何かに脅かされている。考察を深める為に映画を観るのは有効な手段である。あるいは、単なる暇潰しか。でも同じことだ。
 三連休、たいした外出もせずに自宅で映画を観まくった。リストアップしてみよう。

 ①松井良彦『どこいくの?』
 人類はゲイの危機に晒されている。育ての親の工場長(おっさん)によるセクハラ。嫌気がさして飛び出したが、バイクで撥ねた彼女がニューハーフだった。取調べの刑事までチンコをしゃぶってくれと迫る。悪循環が止まらない。死ぬしかない。

 ②ラルフ・バクシ『クール・ワールド』
 アニメキャラとセックスしたら死刑!ラルフ爆死の危険な妄想炸裂!マンガで出してるきみ!萌え系抱き枕を持ってるきみ!爆死が殺しに行くぞ!要注意だ!

 ③ヴィンセント・プライス『地球最後の男』
 ロケーションが最高。ミュータントの新人類が単なるビート族にしか見えないあたり、時代である。町外れのゴミ焼き場で死体をガンガン焼きまくる。火葬場はやはり家から離れているに越したことはない。
 
 ④『人類SOS!』
 今回いろいろ書いているすべてのテーマが内包された超問題作!これ一本で六本分くらいのおいしさ!『SOS』といってもピンクレディーではないのだ。波止場に飛行機が墜落する。電車が停止位置で止まれずに駅舎に激突する。すべて運転手が盲だったから!なんて当然すぎる結果なんだ!院長が突然窓から落ちて死ぬシークエンスが大好き。

 ⑤『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
 実写じゃなくちゃいけない。呪われてなくちゃいけない。で、実話じゃなくては。なんかないか。よりリアルな実話怪談を求める観客のニーズに応えたこの映画、説明があんまり下手くそなのが却って本物っぽい、という人の盲点を突いてヒットしたのである。魔女裁判で処刑されたババア。水から青白い手が出て少女が攫われた。内臓くり抜きの猟奇死体5名。変質者による十代少年少女の大量虐殺。三名の大学生が行方不明。脈絡なさ過ぎ。載せすぎのケーキみたいだ。

 ⑥『28日後・・・』
 やっぱりゾンビが全力で走ってはいけない。まして、ここでのゾンビの呼び名は“患者さん”である。あんな元気な病人があるものか。主人公が病院で覚醒すると、廊下に車椅子が転がっている。そこが『人類SOS!』へのオマージュになっている。さらなる続編『28年後・・・』の完成を待っているぞ。

 ⑦黒沢清『回路』

 ひたすら泣ける映画である。やはり波止場に飛行機が墜落する。そこが『人類SOS!』へのオマージュだ。きみたちは、間違っちゃいない。
 
 ・・・さすがに疲れた。
 だが、まだまだ未見のDVDは山と積まれている。いい加減同じ映画を何度も観るくせは辞めたらどうだ、と自分を叱咤してみる。そしたら全部レンタルで済むだろうに。

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2012年12月22日 (土)

武富健治『狐筋の一族』 ('12ミリオン出版)

 一読、それと解る傑作。
 だいたい表紙カバーの不吉感からして尋常でない。暗黒が蟠る。絶叫する。こちらを見ている。裂帛の気合いで念を送る。人間の顔。顔。顔。
 実のところ、実録マンガも『鈴木先生』も私はまったく知らないのだがこの本には強烈に惹きつけられた。うわべだけの物事が多過ぎる。虚飾というやつは剥いでも剥いでも捲れる、玉葱の皮のようなもので、ほんとうの真相というのはどこか違う場所に埋まっているんだろう。あの山の奥で発見された別の他殺遺体のように。

 「また、死体が一個増えちまった。」

 汗を拭いながら刑事が言う。強烈な陽射し。焙られた人体は急速に発酵しひどい臭いを放ち始める。その重たさを。その空気を。確かに届く嫌な感じを。吐き気を催す現実を。
 われわれは腐りかけの死体を見ていたのだ。あの夏。呆然と、皮膚に痒みを覚えながら。いつまでも。

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2012年12月19日 (水)

アダム・グリーン『フローズン』 ('09、ブロードメディア)

 寒いよう。
 意外かも知れないが、私はスキー場が大好きだ。ブーツだ、ウェアだ、深夜仮眠所だ、リフト券だのICチップだのそもそものチェーン着脱だの、手順がやたら複雑怪奇で面倒臭いのがいい。散々手間隙掛けさせておいて、滑り降りれば一瞬だ。急スピードで変転する風景。乾いて皮膚を刺す空気も、グラスをかけてもなお眩すぎる直射日光も、雨に変わりドブドブになる春先のボタ雪も素晴らしい。
 だが、さすがに歳を喰って面倒臭さが限界を越えてしまい、そもそも一緒に行く友人も周りには居なくなって、こうしてスキー場が舞台の、地味で低予算にも程があるパニック映画を観ては、

 「そうそう、あるよねー。止まったリフトに取り残されて一昼夜。あるある。」
 「凍った素手で鉄を掴んで皮膚がベリベリ。あるある。痛いよねー。」
 「リフトから飛び降り、複雑すぎる骨折。骨が膝から飛び出した。あるんだよー。」
 「で、待ち受けていたオオカミの群れに喰われる。あるある。」


 と、煎餅喰いながら暖かい部屋ですっかり楽しんでしまった。
 一緒にスキーに行った友人の彼女(初心者でした)が山頂付近の上級者コースで骨折、救急部隊が駆けつける騒ぎになったことがあり、赤い十字マークの担架で麓まで運ばれいった。あのときの担架を誘導するスキーヤー2名の速度はあり得ないほど速かったなぁー。
 雪山とは、本来人間が普通には暮らしてはいけない環境なのである。(炭焼き以外。)そんな場所に置き去りにされたら死ぬだけだ。あたり前ではないか。

 でも、いつかまたあの雪だらけの場所へ、また行ってみたいと思うのだ。実際死ぬほど面倒臭いのに。
 あ。今じゃなくていい。

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2012年12月16日 (日)

京極夏彦『魍魎の匣』 ('95、講談社ノベルズ)

 「ボク、会社を辞めます!
 あんたらのクソ采配には、もうウンザリだ!
 これからは自由の旗のもとに生きてやるんだ!」


 息急き切って断言したスズキくんの顔を見上げ、古本屋のおやじは溜息をついた。

 「ふぅーん。そりゃ、いいね。」
 読みかけのチェスタトン『四人の申し分なき重罪人』の頁を置いて、タバコに火を点ける。色褪せた背を見せて書架に並ぶ数々の名作たち・・・例えば、真木のり子『扉をあけると魔女がいる』やなんかを背景にして紫煙がゆっくり漂い始める。

 「真木といえば、断然よう子ではなくのり子だろ。
 そりゃ当然、きみが飽くなき探求の道を歩もうとするのを決して咎め立てする気はないんだ。人生、楽ありゃクロード・チアリですよ。
 っていうか、そもそも名刺に刷ってあるのは職業・怪奇探偵だろ!エッ、会社員だったの実は?!ショックゥーー!」

 「なにを空々しい。
 あんたの部下でしょーーーが。」

 
 「そうなのか。ちっとも気づかなんだ、知らなんだ。」
 おやじは明らかに不精で伸ばし過ぎの頭を掻いた。

 「むー。きみは職場で川島のりかずの話が出来る貴重な人材だったんだがね。」
 (背後で罵声が飛んだ。「それだけかい!」)
 「しかし、考えてみたまえ。広い世の中で、偶然のりかずを知る人間が出会う確率は何パーセントあるんだろうか。40?30?・・・10%以下か?
 それを、きみが初対面から事もなげに、ひばり・のりかず・日野日出志、と次々当たり前に口にするもんで、これは現在世間では相当に流行っているのかと。」

 「そんなワケない。」

 「遂に日本の常識となったのかと。
 マンガの実写映画化ブーム、『DEATH NOTE』の次は『地獄変』かと。『妖怪人間ベム』の次は『けもの喰いの少女』かと。」

 「ないない、絶対ない。」
 
 「でも考えてみれば、きみが入社して直後にこのブログが開始されている訳だから、ひょっとして浅からぬ因縁がありますよ。最大の功労者のひとりですよ!」

 「あんたが勝手にボクが主演の連載始めたんでしょーーーが!
 お陰でボクのセーターの着ずっぱり疑惑とか、パチンコの戦績公表とか、完全に個人情報だだ漏れ状態ですよ!しかも、最近はメタボ、メタボって・・・」

 「現在のスズキくんは、衣裳を含め、かの猿飛肉丸に酷似しております!」

 「なにが“衣裳を含め”だ・・・!!」

 「まぁ、まぁ。
 ・・・という訳で、長年借りていた京極夏彦、返すわ。悪かったよ、全然読んでなくて。きみが辞めると聞いて、記念に慌てて読んだのだ。」

 「あ、どーーーも。」
 思わず低姿勢で受け取るスズキくん。趣味のジャンルに限っては、まだまだ好青年のイメージでいけるようだ。
 「でも面白かったでしょ?間違いないでしょ?」

 「この本、発売当時から話題になっててさー。“新本格”って推理小説の薄いブームが当時ございまして、細い波に乗ることなら誰にも負けないDって男が、ノリノリで薦めてくれてたんだわー。
 だがオレは、あいつの薦めるものは読まない。聴かない。だいたいペリー・ローダンを全巻読んでる男だぜ。『竹馬男の犯罪』とか、吉村達也『惨劇の村』5部作とか、本当に酷かった。だから、奴の大推薦作だった『魍魎』も今回初めて読ませて貰ったのだ。」

 「ボクはもともと荒俣の『帝都物語』とか、あの辺から活字の道に入ったもんで。京極のコレなんかは初読で随分と感激したもんです。伏線が見事にバシバシ嵌まっていくでしょ?最後までテンション落ちないで突っ走ってくれますし。」

 「造りが丁寧だよね。ネタの出し惜しみもない。出来ることは全部やるって感じ。万人向けの優れたエンターテイメントになってると思う。間口狭い世界を逆手にとって、ジャンル読者以外にも吸引力のある物語をやっている。とても賢い。
 しかし、個人的な好みを言わせて貰えば、
 なげーーーーーーんだよ、コレ!!」

 「(笑)」

 「こんなに長い必要ある?っていう。しかも、そこには明確な計算が働いていて、この本はおそらく版型や書影からまずイメージされてるんじゃないかと思う。
 やはり、量だろ。圧倒するなら。他の誰もやれない分量でまず勝負をかけてやろうと。面白い話なら、誰も多めに喰っても文句はつけない訳だし。
 一方で例えば、リアル「押し絵と旅する男」をやれないか、ってアイディアがひとつあって。ありゃ短編ですが。その具体的、科学的な実現方法を考えてくうち、展開として箱男・箱女、猟奇殺人って連想がグングン拡がってきて。そこを基点にして話をどれだけうまく転がせるか。それも徹底的に。って基本の方向性が纏まって。
 あとの風呂敷は可能な限りデカくしよう。ただし、話は必ず根幹のシンプルなアイディアに戻ってくるように。ここが重要なんだけど、緻密に組み立てたつもりでもうまく戻ってこれないことは多々あるんだ。小説ってのは常に作者を裏切る生き物だからね。
 その点、『魍魎』はうまく戻って来れていて、しかも読後感がちゃんと、原点の乱歩の短編「押し絵と旅する男」とイクォールになってるんだ。その点は見事。あのテイストはよく再現できてると思うよ。愛情深いね。
 しかし、お前、だったら同じく短編でやれよな!!」

 「そこは許せないんだ(笑)」

 「人外はチラッと姿を見せて、すぐ闇に消える。クトゥルーか、ってくらい。
 荒唐無稽な話だからこそ、嘘を表面に出しすぎない。長編の場合、そういう気遣いが要る。
 高橋Qちゃんみたく、日常的に見慣れてくるとお化けに見えなくなるんだよ。
 そのへんは流石、よくお解りで。非常識なものを扱って、破綻がないのは作者がちゃんと手綱を取れてる証拠です。」
 
 「なるほど、そういうもんですかねー。

  ところで、このページでのボクのキャラクター使用継続の件ですがねー。
 今度忘年会も兼ねてジックリ打ち合わせたいと思うんですが、ご予定は如何でしょうか・・・?」



 (年末特番へつづく)

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2012年12月15日 (土)

カート・シオドマク『ドノヴァンの脳髄』 ('43、ハヤカワ書房SFシリーズ)

 やっぱり脳が好き。

 いや、つかみには何の意味もないのだが。
 かつて小学生の私はこの本が怖かった。マジ、ビビっていた。トリフィドの襲撃にも怯えていたのだけれど、元をただせば「全人類がある日突然盲目になる」という基幹のアイディアの方が遥かに優れて怖かった。あの本を読んだ者はみな、「記録的な未曾有の大流星雨が来ても、自分だけは観ないでとっとと寝てしまおう」と決心する筈だ。こういう考え方は結構のちの人生の運不運を左右する。
 『ドノヴァン』も同様に、子供にも解る根源的な恐怖心を刺激する書物である。人間が他人の脳に乗っ取られ自由にされてしまう。しかも、相手は人間ではない、怪物なのだ。
 脳だけになった億万長者は人倫を踏み越えた存在となり、平気で殺人を犯そうとする。「妻と性の営みを持とうとするかも知れない」と主人公が怯える場面は傑作である。傍から見ると、普通に夫婦がやってるようにしか受け取れないが、これはレイプなのだ。

【あらすじ】

 猿の脳をいじって悦に入っていた地方在住のバカ医者・パトリックが、偶然飛行機事故で瀕死となった億万長者のオペを自宅で行なうチャンスに恵まれる。彼は、迷うことなく頭蓋を切開し脳を取り出すと水槽に入れて血液循環ポンプのスイッチを入れた。
 感覚器官を奪われ外界との交信を絶たれた脳は、たまたま配線がショートした電気ショックを喰らって、異様なテレパシー能力を発達させ始める。見たこともない灰色の器官の成長に驚愕する主人公。やがて彼は脳の強力な支配を受け、死亡した大金持ちウォーレン・ホレイス・ドノヴァンとして行動するようになる。
 (傍目には物凄くずうずうしい田舎医者にしか見えない。)
 常に無線LANが繋がっている状態になったバカ医者は、ドノヴァンの隠し口座から預金を引き出し、相続人達をけちょんけちょんに貶し、一本5000円の葉巻をくゆらせ高級ウィスキーをガブ飲み。突如ハイパーな高城剛状態になった夫に看護婦の妻は当然不審の目を向けるが、その原因がサッパリ解らない。唯一パトリックの共同研究者のじじいだけが事件の真相を知っていて、「Oh・・・神よ!」とか思っている。
 さてドノヴァンの脳は、無限の大事業の一環として生前やり残した究極の恩返しを実践しようとする。かつて使っていた闇社会に詳しい弁護士を雇い、ある死刑囚(恩人の息子)を無罪放免すべく関係各所に手を廻し始めた。ドノヴァンが最初の事業(エロ写真の通販)を始めるにあたって回転資金を踏んだくったのがこいつのオヤジで、オヤジは失意のうちに鴨居に縊れて死んだのだ。結構細かい性格のドノヴァンは、それを意外と悔いに思っていたというのだから、世の中わからない。
 しかしこの死刑囚がまた最低の奴。28歳無職で一度も正業に就いた経験のない第一級虞犯青年。死刑理由も、母親を自動車で轢き殺した。それも一回轢いて、顔を轢いていないのに気づいて戻ってきてご丁寧に顔面を中心に再度轢き直したという最悪のものだった。
 助かる筈のない相手を無罪にしようと躍起になる田舎医者に、弁護士の疑念は募り陪審員の買収は中止。ドノヴァンの怒りは完全にメーターを振り切って、唯一の犯行の目撃者である十三歳の美少女を轢き殺そうとする。轢き逃げには轢き逃げを。ハンムラビ法典もビックリだ。
 からくも悪魔のたくらみは失敗するが、助手席の妻にバッチリ目撃されてしまった。
 海岸沿いに車を飛ばして人気のない場所まで来ると、今度は妻の首を絞めようとする。全方位で無差別殺人鬼と化した自分に戦慄するパトリック医師だが、身体は完全にドノヴァンの支配下にあるため、瞬きひとつ己の意思では出来ない。最悪。
 誰も悪魔を止められないのだろうか?

【解説】

 結構、ドノヴァンが好感の持てるオヤジに描かれている点に驚いた。
 建てまえばかりの連中の中で、こいつだけ本音で生きてる感じがする。研究ばかりの青年医師。欲求不満の妻。鬱々した共同研究者のじじい。碌でもない人間揃いの中で、ドノヴァンだけが究極の行動派だ。ハードボイルドの探偵みたい。彼が活躍し始めると話が俄然面白くなるのだ。
 昔受けた恩義に酬いるという行動基準の義理堅さにも感心。
 どんなに邪悪な超能力を駆使していても、本体が剥き出しの脳だけに水槽を倒されると物凄く弱いところも素敵。キャラが立っている。

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2012年12月 9日 (日)

黒沢清『地獄の警備員』 ('92、ディレクターズカンパニー)

 それにしても、これは一体何を語った映画だったのか。
 解らなかった人、廊下に立ってみて貰おうか。そしたらビルの照明がガシャンって全部落ちますよ。影だけがすべてを飲み込む。そういうお話。
 だから、勿論ホラーなんだよ。安心して。難しいことは何もないんだ。

【あらすじ】

 時代はバブル全盛期。これだけで充分にホラー。
 総合商社に入社した期待の新人は、学芸員資格とか持ってる真面目な娘。化学の単位とかもちゃんと取りました。元素記号全部云えます!水兵、リーベ、ボクの船。
 
こんな小詰まらない女に絵画売買のような超高額博打をやらせる会社もどうかしているんだが、そこはそれ、バブル期だから仕方がない。電話で売り注文、買い注文。ファックス流してはせっせとセザンヌ、モネ、シャガール買い付ける。楽しそうなお仕事だ。
 勿論、黒沢清の人間性は変わらないから、何故かビルの屋上に位置する、あの『回路』の植物店と同じく、淡々楚々としてるんですけどね。イケイケとは対極の。店長、やっぱり大杉漣だし。
 この頁をスマホで閲覧してくれてる利便性重視のスクロール猿に親切ついでにもう一言申し上げておくと、1992年の日本にインターネットの概念は存在しない。だからTELEXが出てくるの。電話とは別回線の。自分達の乗っかってる常識の土壌が、いかに細分化され捲り掘削され尽くした危うい基盤の上にあるか、とくと思い知れ。当然ネットオークションなんかまだないんだよ。e-Bayもないよ。
 そんな幻想の超古代のニッポンに、兄弟子と愛人を殺害し精神鑑定で無罪になった元・力士が突然現れ、夜遅くまで法定外残業していた人々を殺しまくります。
 この設定だけで純朴な人達は目が点になると思いますけど、殺害方法も輪をかけて無茶で、基本は金属の警棒で撲殺。熱湯をかけて仕上げ。事務ロッカーに叩き込んで強力ボディーアタック。鉄の処女状態になり、ダラダラ流れる鮮血。
 眉を顰めるあんたの顔が眼に浮かぶようだぜ。
 とにかく、殺す。
 全員、殺す。

 さんざん殺しまくっておいて、「なんで殺すのよ?」とヒロイン(学芸員)にキレられると、
 「知りたいか?それを知るには勇気がいるぞ・・・」と逆に恫喝。ということは、この方、とあるトンデモない理由によりビル一個丸ごと殺人事件を敢行している勇敢な方であることが観客全員に理解され背筋を凍らせてくれるのでありますが、ハテわかります?
 『CURE』の間宮がなんで次々人を殺すのか?それとまったく同じことなんですけど。
 
 ・・・あ。この問いかけ、無理に答えなくていいですよ。
 真剣に回答しようとすると、あなたは殺人鬼と同じ立場から発言するしかないことに。また怪物が一匹増えてしまう。

 答えは、「殺せるから」ですね・・・。

【解説】

 ご安心ください。警備員は自殺しました。バブル経済も崩壊です!確かに大杉店長は惨殺されましたけど、諏訪太郎は無事生き延びましたから!
 洞口依子とお家に帰りましょう。それだけで充分幸福じゃないすか。心底よかったじゃないすか。確かにあの警備員、終始軍服のようなロングコートを羽織っているんで、『帝都物語』の加藤賢崇にしか見えませんでしたけど、いいじゃないすか!枝葉末節ですよ!ホント、洞口さんの笑顔に救われましたよ!無表情でしたけど!いいんですよ、コレで!

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2012年12月 8日 (土)

ジョルジュ・フランジュ『顔のない眼』 ('60、IMAGICA)

 ピエール・ブラッスールの顔が高間教授に似ている。黒田硫黄の。
 単にネタ元なのかも知れないが、だから何だ。面白くもない。
 首にナイフを突き立てられ泣きながら倒れるおばさん含め、しかし、すべてズッぱまりのキャスティングである。
 刑事、二枚目、狂った娘。受付嬢役に到るまで受付顔の人をわざわざ探してきている。やはり、映画は顔である。それに気の利いた楽しい小道具類。
 モーリス・ジャールの音楽がとても心地良い。深夜映画っぽい気分を盛り上げてくれて、最高だ。

【あらすじ】

 交通事故で顔がグチャグチャになった娘が再起をかけて、カンバック!犬神家の佐清とタッグを組んで世界タイトルに挑戦するが、見事失敗。皮膚が無くなり筋組織が剥き出しのグロテスク顔はさすがに相手ボクサーも打てなかったが、ボディが空いていた。
 教訓。アタマ隠して尻穴調教中。 

 それにしても、おばさん役の女優さんは熱演。感心した。顔の皮を剥ぐ手伝いをするという極端にアホくさい役なのに、真の女優魂がスパークしている。
 人間、どこに天職が転がっているかわかりませんなぁー。

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2012年12月 3日 (月)

池田敏春『湯殿山麓呪い村』 ('84、角川映画)

 すべてのバーターが負のベクトルを描く。素晴らしい映画だと思う。
 もともと解りにくい因果が三世代に渡って勝手気侭に折り重なり(しかもその内ひとつは江戸時代)、復讐の経緯も殺人動機も、「なんかスッキリしねぇなァー」と思って油断していると、登場人物がとにかくドンドン死んでいく。
 それも、小学生の子供が首吊り自殺したり、売春婦が壁にアタマをぶつけて死んだり。『オーメン』シリーズかというくらい、次々理不尽な死を遂げるのだ。
 社長は脳に独鈷杵を撃ち込まれて即死。和尚は井戸に放り込まれ刺叉で腹を串刺しに。横浜で浮浪者が服毒状態で凍死すれば、未亡人は日本家屋に火を放ち無理心中未遂で焼死。回想篇では、戦時中疎開先の村での強制レイプ飼育で屈辱の自死を選んだ母娘。江戸時代では生きたまま土中葬にされ、苦悶のままミイラ化する男。(その愛人はやはり首吊り。)時代・性別・年齢・職業の貴賎を飛び越えてとにかく死にまくり。
 陰惨な死体行列の連鎖にいい加減うんざりしてきた頃に、絶妙なタイミングで女子中学生がカレシと交通事故死。オーバーラップして主人公で探偵役の永島敏行が無実の罪を着せられ、雪深い東北の山中で遭難。凍死してしまう。なんだ、これは。登場人物が全員死んでしまったぞ。
 なるほど、確かに呪われている。
 これはもう呪いの仕業としか言いようがない。

 この映画に関する一般的な感想は「感情移入できない」「暗い映画」「意味不明」とのことらしいのだが(一応リサーチしました)、そういう人は描かれる出来事はすべて他人事で、実際におのれが呪われた人生を送っているという自覚がないのだろう。
 あなたの人生もやっぱり巨大な負の傾斜の上にあり、日々滑り落ちて行く。
 何をやっても、無駄である。
 何をやっても、ダメである。

 そういうグローバルかつ公正な認識に立てば、これは実に娯楽映画らしい純粋な娯楽映画だ。役者達のなりきりっぷりもいい。池田敏春の演出は過剰に演技に入り込みすぎで、観ていて楽しい舞台演劇的で濃密な空間を作り出している。自然体の演技なんて薬にしたくもない!そんなあなたにお勧めだ。
 美術も無駄に頑張っており、特に眼窩にうじ虫を集らせたミイラの仕上がりはお見事!スタッフに誰か『サンゲリア』の好きな奴がいたんだろうなぁー。あれに倣って、撮影用のうじ虫は勿論本物を使用!でも、一匹も殺してません!
 それにしても永島瑛子はなぜ、ああも貧乳の胸をはだけたがるのだろうか。文芸映画でもアクションでも毎回必ず脱いでいるのだが、この映画でもやはり脱いでいた。誰も要求なんかしてないのに。これも一種の呪いと考えていいだろう。
 この映画での彼女が『ナイト・トーキョー・デイ』での菊地凛子に酷似していることも、同じく何かの呪いだ。

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2012年12月 2日 (日)

セルジュ・タンドル&レジス・ロワゼル『時の鳥を求めて』 ('12、飛鳥新社)

 驚いた。感動的な傑作である。

 “泣けるファンタジー”という安直な括りを進呈するのは作者達に対し大変失礼ではあるが、単行本が売れることだし、ここは勘弁して貰おう。
 誰もがファンタジーを読んで泣きたがっている。
 誰もが現実から救ってもらいたがっている。

 便宜的な救済を否定して、無へ、登場人物それぞれの人生へと回帰するこの物語の結末は、そういう安直なファンタジーがやたら跋扈する状況とは無縁だからこそ感動的なのだと思う。

 長編『時の鳥を求めて』は、「ラモールの巻貝」「忘却の寺院」「リージュ」「闇の卵」の四巻から構成され、それぞれの巻数が50~60ページ。読者は連続物として200ページ強を読むことになる。
 これは例えば、さがみゆき『恐怖の人形寺』と同じページ数だ。さが先生の本は一冊十五分程度で読みきることが出来るが、『時の鳥』は情報密度が濃いので非常に時間が掛かる。お勧めは一日一巻分を読んで、4日で読了。1コマたりと飛ばし読み出来ない構造になっているので注意。

 とはいえ物語の基本構造はドラクエなんかに同じ。「勇者が試練を突破し宝物を得る」の繰り返しで出来ている。定番。ジェイソンとアルゴ探検隊。
 だが期待しないで読み進めていくと、思いがけなくアクションしてくれる場面あり、コントだってあり。多芸で器用な作者の語り口を発見することになるだろう。
 この時点で、「第一印象で舐めて御免なさい」と素直に詫びを入れとくべきだ。

 確かにヒロインの顔は鼻ペシャで不細工(でも、巨乳)。
 ヒーロー役たる筈の剣士は、文句の多い老人。
 あとの主要キャラは全員、ルチャみたいな仮面を被っている。

 
 すべて思い切り変。ハズシている。
 だが、これが実は作者の意図した設定なのである。類型的な物語を語るときは、敢えて類型を持ってせよ。ならば、規格外の物語を紡ぐにはハズした人物を持ち出すしかないではないか。意外と用意周到なのである。フランス人。
 論より証拠。最後まで読み通していただければ、上記の要素がうまいこと活かされ、嘘っぽい物語に確かな手応えを与えていることに納得される筈である。

 しかしドラクエは最初からマップが完備だが、『時の鳥』にそれはない。“千々石の国”だの“泡沫のとばりの国”だの、国名も解りにくいこと夥しい。
 地図と、あと目次。このふたつは装備して欲しかった。
 最後の作者インタビューは完全読了後に読むこと!ネタばれします!

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