黒沢清『地獄の警備員』 ('92、ディレクターズカンパニー)
それにしても、これは一体何を語った映画だったのか。
解らなかった人、廊下に立ってみて貰おうか。そしたらビルの照明がガシャンって全部落ちますよ。影だけがすべてを飲み込む。そういうお話。
だから、勿論ホラーなんだよ。安心して。難しいことは何もないんだ。
【あらすじ】
時代はバブル全盛期。これだけで充分にホラー。
総合商社に入社した期待の新人は、学芸員資格とか持ってる真面目な娘。化学の単位とかもちゃんと取りました。元素記号全部云えます!水兵、リーベ、ボクの船。
こんな小詰まらない女に絵画売買のような超高額博打をやらせる会社もどうかしているんだが、そこはそれ、バブル期だから仕方がない。電話で売り注文、買い注文。ファックス流してはせっせとセザンヌ、モネ、シャガール買い付ける。楽しそうなお仕事だ。
勿論、黒沢清の人間性は変わらないから、何故かビルの屋上に位置する、あの『回路』の植物店と同じく、淡々楚々としてるんですけどね。イケイケとは対極の。店長、やっぱり大杉漣だし。
この頁をスマホで閲覧してくれてる利便性重視のスクロール猿に親切ついでにもう一言申し上げておくと、1992年の日本にインターネットの概念は存在しない。だからTELEXが出てくるの。電話とは別回線の。自分達の乗っかってる常識の土壌が、いかに細分化され捲り掘削され尽くした危うい基盤の上にあるか、とくと思い知れ。当然ネットオークションなんかまだないんだよ。e-Bayもないよ。
そんな幻想の超古代のニッポンに、兄弟子と愛人を殺害し精神鑑定で無罪になった元・力士が突然現れ、夜遅くまで法定外残業していた人々を殺しまくります。
この設定だけで純朴な人達は目が点になると思いますけど、殺害方法も輪をかけて無茶で、基本は金属の警棒で撲殺。熱湯をかけて仕上げ。事務ロッカーに叩き込んで強力ボディーアタック。鉄の処女状態になり、ダラダラ流れる鮮血。
眉を顰めるあんたの顔が眼に浮かぶようだぜ。
とにかく、殺す。
全員、殺す。
さんざん殺しまくっておいて、「なんで殺すのよ?」とヒロイン(学芸員)にキレられると、
「知りたいか?それを知るには勇気がいるぞ・・・」と逆に恫喝。ということは、この方、とあるトンデモない理由によりビル一個丸ごと殺人事件を敢行している勇敢な方であることが観客全員に理解され背筋を凍らせてくれるのでありますが、ハテわかります?
『CURE』の間宮がなんで次々人を殺すのか?それとまったく同じことなんですけど。
・・・あ。この問いかけ、無理に答えなくていいですよ。
真剣に回答しようとすると、あなたは殺人鬼と同じ立場から発言するしかないことに。また怪物が一匹増えてしまう。
答えは、「殺せるから」ですね・・・。
【解説】
ご安心ください。警備員は自殺しました。バブル経済も崩壊です!確かに大杉店長は惨殺されましたけど、諏訪太郎は無事生き延びましたから!
洞口依子とお家に帰りましょう。それだけで充分幸福じゃないすか。心底よかったじゃないすか。確かにあの警備員、終始軍服のようなロングコートを羽織っているんで、『帝都物語』の加藤賢崇にしか見えませんでしたけど、いいじゃないすか!枝葉末節ですよ!ホント、洞口さんの笑顔に救われましたよ!無表情でしたけど!いいんですよ、コレで!
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コメント
加藤保憲ですね。
投稿: | 2013年10月 9日 (水) 21時02分