武富健治『狐筋の一族』 ('12ミリオン出版)
一読、それと解る傑作。
だいたい表紙カバーの不吉感からして尋常でない。暗黒が蟠る。絶叫する。こちらを見ている。裂帛の気合いで念を送る。人間の顔。顔。顔。
実のところ、実録マンガも『鈴木先生』も私はまったく知らないのだがこの本には強烈に惹きつけられた。うわべだけの物事が多過ぎる。虚飾というやつは剥いでも剥いでも捲れる、玉葱の皮のようなもので、ほんとうの真相というのはどこか違う場所に埋まっているんだろう。あの山の奥で発見された別の他殺遺体のように。
「また、死体が一個増えちまった。」
汗を拭いながら刑事が言う。強烈な陽射し。焙られた人体は急速に発酵しひどい臭いを放ち始める。その重たさを。その空気を。確かに届く嫌な感じを。吐き気を催す現実を。
われわれは腐りかけの死体を見ていたのだ。あの夏。呆然と、皮膚に痒みを覚えながら。いつまでも。
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