セルジュ・タンドル&レジス・ロワゼル『時の鳥を求めて』 ('12、飛鳥新社)
驚いた。感動的な傑作である。
“泣けるファンタジー”という安直な括りを進呈するのは作者達に対し大変失礼ではあるが、単行本が売れることだし、ここは勘弁して貰おう。
誰もがファンタジーを読んで泣きたがっている。
誰もが現実から救ってもらいたがっている。
便宜的な救済を否定して、無へ、登場人物それぞれの人生へと回帰するこの物語の結末は、そういう安直なファンタジーがやたら跋扈する状況とは無縁だからこそ感動的なのだと思う。
長編『時の鳥を求めて』は、「ラモールの巻貝」「忘却の寺院」「リージュ」「闇の卵」の四巻から構成され、それぞれの巻数が50~60ページ。読者は連続物として200ページ強を読むことになる。
これは例えば、さがみゆき『恐怖の人形寺』と同じページ数だ。さが先生の本は一冊十五分程度で読みきることが出来るが、『時の鳥』は情報密度が濃いので非常に時間が掛かる。お勧めは一日一巻分を読んで、4日で読了。1コマたりと飛ばし読み出来ない構造になっているので注意。
とはいえ物語の基本構造はドラクエなんかに同じ。「勇者が試練を突破し宝物を得る」の繰り返しで出来ている。定番。ジェイソンとアルゴ探検隊。
だが期待しないで読み進めていくと、思いがけなくアクションしてくれる場面あり、コントだってあり。多芸で器用な作者の語り口を発見することになるだろう。
この時点で、「第一印象で舐めて御免なさい」と素直に詫びを入れとくべきだ。
確かにヒロインの顔は鼻ペシャで不細工(でも、巨乳)。
ヒーロー役たる筈の剣士は、文句の多い老人。
あとの主要キャラは全員、ルチャみたいな仮面を被っている。
すべて思い切り変。ハズシている。
だが、これが実は作者の意図した設定なのである。類型的な物語を語るときは、敢えて類型を持ってせよ。ならば、規格外の物語を紡ぐにはハズした人物を持ち出すしかないではないか。意外と用意周到なのである。フランス人。
論より証拠。最後まで読み通していただければ、上記の要素がうまいこと活かされ、嘘っぽい物語に確かな手応えを与えていることに納得される筈である。
しかしドラクエは最初からマップが完備だが、『時の鳥』にそれはない。“千々石の国”だの“泡沫のとばりの国”だの、国名も解りにくいこと夥しい。
地図と、あと目次。このふたつは装備して欲しかった。
最後の作者インタビューは完全読了後に読むこと!ネタばれします!
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