古賀新一「恐怖の材木少女」 ('88、ひばり書房『いなずま少女』収録)
微妙ないい話というのは始末に困る。
実例を挙げよう。
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「クラス会ですっかり遅くなってしまったわ。」
宵闇迫る神社の横を制服を着た少女がひとり通りかかる。クラス会。中学生ぐらいのくせに?古賀先生お得意の、頭で拵えただけのストーリー展開は既に全開だ。
鬱蒼と茂る木々。背の高い石燈籠。土塗りの白壁の前に来たとき、真っ黒いぐにゃぐにゃした影が映る。
「はっ!」
振り向くと、アルムのおんじ似のじいさんが笑いながら立っている。見事な白ひげ、茶色いちゃんちゃんこ。微妙に猫背なのが怪しい。
「アラ、おじいさん。いまごろ、どこ行くの?」
実の祖父らしい。
「釣りじゃよ。」手に持った魚籠と竿を持ち上げて見せた。
「いつもの川でしょ?あそこは危ないから、気をつけてね。」
「わかっているよ。フフフフフ。」
行ってしまった。
「変ね。夜間徘徊癖かしら。こんな時間に釣りに行く必然性がまるでわからないわ。」
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おじいと別れて自宅の前まで来ると、「おいでおいで」をしている奇妙な枯れ木がある。
「ああッ・・・!!」
その木の洞(うろ)に巨大な目玉が見えた気がして、極度にビビり出す主人公。いきなり家に飛び込むと、巨大な鉈を持ち出し、木を伐り始める。
発狂したような娘の行動を慌てて制止にかかる父。母親もエプロン拭いながら台所から出てきた。夕食時だというのに何をやってるんだろうかこの家族。
「お前、この木はもう三百年もたっとる由緒ある枯れ木なのだぞ。それを伐ろうだなんて、この罰当たりめが!」
「そうよ、おじいさんも毎日水をあげて大事に丹精してるのよ・・・!」
三百年間。枯れ木。
狂った両親の説得も聞かず、鉈で巨木を叩き斬る主人公。あぁ、すっきり。狂った人間を狂った論理で説得しようというのだから、暖簾に腕押し。それにしても鉈一本とは凄いきこり能力。
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すると、由緒ある巨木の呪いであろうか。みるみる枯れ木人間に変身してしまう娘。
枯れ木人間って何?誰も見たことがない生き物なので非常に説明し難いのだが、少女と木の根のハイブリッド。ワンピース着た女の子が枯れ木な状態。
これではなんの説明にもなっていない。
「地面に根が張って歩きづらーーーーーい!!」
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枯れ木少女が夜の町に飛び出して、通行人を次々と嚇かしながらノロノロ歩いていくと、前方には都合よく濁流渦巻く川が。周囲はいつの間に渓谷と化している。マンガの背景って本当不思議。
川をおじいが溺れて流されていく。
長い人間の生涯によくあるありふれた日常的な体験だ。諸君も枯れ木人間に変身したら、素敵な溺れるおじいに出会えるかも知れないよ。ファンタジー。
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もうオチは見当ついたと思うが、おじいは突如現れた枯れ木に抱きつき溺死を免れる。しかし激流は勢い止まらず、そのまま滝壺へドボン。
枯れ木と一緒に滝くだり。
じじいを助けた主人公は、失神から気づくと元の人間の姿に戻っている。善行を施した所為か。これも功徳というものか。傍らで永久に首を捻り続けるおじい。
「わしは確かに枯れ木に摑まっていた筈だが・・・?」
「しかし、こりゃどう見ても孫だ。」
「どうなっとるんじゃ、わいわいわい!!!」
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結局誰も主人公の変身を信じてはくれず、庭に転がる(自分で切り倒した)枯れ木を眺めながらしみじみとした感慨を漏らす。静かな夕暮れ。
「いつも大事にされていた枯れ木は、おじいさんの生命を救ってあげたいばかりに・・・」
「きっと、そうだ。
あのとき、わたしの身体に、枯れ木の魂が乗り移っていたのかも知れない・・・。」
美しい幕切れだ。しかし。
枯れ木の魂。
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