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2012年11月 4日 (日)

イジー・バルダ「笛吹き男」 ('85、ダゲレオ出版)

 ドイツ表現主義の絵が動く!それも木彫りで!
 という、好きな人には堪らない作品。私はスチールを見たときから気に入って、先日ようやく中古のDVDを入手した。以降、毎日観ている。
 汚穢と腐敗のハールメンの街に、謎のダークヒーロー笛吹き男が現れ、美女を殺した奴らを鼠に変えて退治する・・・!という明確なアウトラインを持った物語で、まともな台詞は一切ないのだけど、非常に俗っぽくて解り易い。50分ちょっとは、あっという間だ。
 笛吹き男のビジュアルはちょっとマカロニ・ウェスタン入っていて、マントに頭巾で暗い目つき。復讐に赴くときには当然の如く、重低音のギターが鳴り響く。薄倖の美女(悪漢どもにレイプされ殺害される)は如何にもお人形さんらしい可愛らしい造形で、事件のすべてを見守る釣り船のじいさんは笠智衆そっくり。ちょっと太めだけど。
 正義はいつでも笛を吹いている。
 という意味では、『笛吹き童子』『快傑ライオン丸』や『ジャーマン+雨』の系譜に連なる正統派の笛ロマンなのかも知れないのだが、それよか何より注目したいのは木彫り。
 やっぱり木彫りである。
 本当にせっせと彫っている。登場人物ばかりでなく、背景の都市までなんと木彫りだ。これには軽く驚かされる。ジョージ・パルの「黒人少年ジャスパー」シリーズもヘッドは木彫りだったが、ここでは悪人達なんか全身木彫り。ブロック感丸出し。で、木って素材は実は非常に重いじゃないですか。倒れないようにする為だと思うんですけど、妙に下半身がでかくて頭が小さい。そういうピンヘッド体型の、異様なデザインの人形ばかりが大量にぞろぞろ出てくるんですよ。
 で、背景は歪みまくっている。
 家とか屋根とか、ぐるぐる渦を巻きまくり。凄い。機材とか照明を見ていると、なんかNHKのスタジオとそんなに変わらないんじゃないかと思えるんですけど、デザインの狂いっぷりが半端ない。カッコいいんですよ。つまりは。
 悪魔が来たりても、やっぱ笛でしょ。
 そういう意味で、学校での笛教育を見直さなくっちゃいけないよ。アルトリコーダーは誰が吹いても難しい。やっぱ、そこから始めないとね。

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