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2012年11月13日 (火)

ジーン・ウルフ『警士の剣』 ('81、ハヤカワ文庫SF724)

 一見ファンタジーに見えるものが実はSFであって、SFとして解釈しようとするとそれは煌びやかな架空世界を舞台にした寓話だったりする。さらにタチの悪いことに、そうした非現実的なおとぎ話こそは、われわれの住む現代社会の矛盾・軋轢や歴史を反映したものに他ならないのだ。
 (例えば巨大都市ネッソスの現在位置が南米ブエノスアイレスであるらしいという情報を演繹してみたまえ。なんで主人公の旅が北に向かうほど熱帯に近づくのかわかるだろう?)
 すなわち、ここに書かれたことは実際に起こった出来事。写実性がいささか眼に余る。
 あるいは、物語はあくまで純然たる虚構であって、象徴としての独自性を保ち続けている。神秘と寓意を失っていない。だから読者の無意識に有効に働きかける。
 相互に矛盾した、以上のいずれもが真実となりうるような物語。それは複雑に組み合わせた合わせ鏡の連なりのようなものだ。反射され受け渡される鏡像はあくまで直線を走り抜こうとするのだが、その軌跡は組み合わせの数の多さにより多様に歪んで行方知れずになりかけている。
 それでも辛うじて見えるものを拾って行けば、迷宮の出口に辿り着けるかも知れない。
 かくて辿り着いた結末が別の迷宮の始まりだったとしても、われわれは作者の手腕に喝采しこそすれ、決して貶めるものではない。

 『新しい太陽の書』四部作は、やはり第三巻『警士の剣』が一番面白い。

 ここに到る経緯を知るために第一巻・ニ巻を読み、その後どうなったかを知るために第四巻を読むがいい。だが、親切かつおせっかいな私は、この第三巻のあらすじだけを書いてしまおうと思う。
 これを読んでなお本編を手にとってみたい御仁がいたら、ぜひお目にかかりたいものだ。

【あらすじ】


 地元のネッソス工業高校を中退したセヴェリアンは、着の身着のまま隣り町のスラックス校に転校して来る。さんざん鳴らした腕っ節を買われ、番長の用心棒に雇われたのだ。
 かぶき者の衣裳を着て、町のゲーセンなどに幅を効かすセヴェリアン。
 だが悪事は長いこと続かぬもの、番長のオンナに手を出してフルボッコにされ、ほうほうの体たらくで裏山に逃げ込む破目に。
 辿り着いた山奥の民家で、出された握りめしをパクついていると、野犬が襲ってきた。
 野犬の口を上下に裂いて殺し、“ネッソス校一のワル”の称号は伊達じゃないことを見事証明したが、そんなケチなプライド保持のために、一家の主婦は惨殺され亭主は犬のエサになった。さすがに責任を感じ、ひとり残された赤ん坊を背負ってさらに山奥へ逃げ込むセヴェリアン。官憲の手が廻ったのだ。非常線が張られ、レーザー槍を持った兵隊が山狩りを開始している。
 自分より強そうな相手とは決して戦わないのが信条という、正直すぎる主人公。さらに逃走を続け、人里離れた山奥にある、見捨てられたテーマパークの廃墟へと迷い込む。そこには世界番長選手権を片手で制したことがある伝説の大番長が眠っていた。大番長は肉体の若返りのために、強健な若手の肩に自分の首を移植し再起を図ろうとしている。
 あやうし!セヴェリアン!
 大番長は、連れていた年端のいかぬ赤子をライターで炙って焼き殺し、おのれの凶悪さを軽くアピール。
 抵抗虚しく展望台に追い詰められ絶体絶命の窮地に陥るが、ちょっと待った。大番長のアタマはジェット機を頭突きで落とすくらい強力だが、若手の方はそれほどでないかも。そこで隠し持っていたとんかちで後頭部を思い切り殴ると、血を噴いて悶絶。死んでしまった。
 片方のアタマが死ぬと、肉体も死ぬ。かくして世界タイトルを再び狙っていた伝説の大番長は倒されたのであった。
 しかし、山に籠もっていても碌なことがない。少なくとも婦女子にはモテない。
 
遂にこの世の真実を悟ったセヴェリアンは県警が網を張っている側とは反対の山を降って、土人の村に辿り着く。土人達は腕っ節の強いセヴェリアンを大歓迎。村一番の奴隷娘を献上する。山での窮乏生活から酒池肉林の天国へ。浮かれたところへ、村外れの空き家に住み着いたオール阪神・巨人の退治を依頼されホイホイ引き受けてしまったから、さァ大変。奇声を発する阪神はともかく、巨人はやたら凶暴で、宇宙人を味方につけている。
 バックに宇宙人。背後に暴力団が介在している方がまだマシだ。
 それでも調子に乗ってるセヴェリアン、村人を組織しにわか軍隊を創り上げると、トラウトマン大佐よろしく夜明けに奇襲をかける。幸い、宇宙人はベンツでファミレスを探して流していってしまって留守だった。
 奇声を上げてあっさり倒される阪神。遂に始まるセヴェリアン対巨人の一騎打ち。巨人はロケットパックで空中に舞い上がり、上空から襲い掛かる!
 が、身軽に避けると勢い余って池にポシャンと突っ込んでしまった。
 これが巨人の最後だった。

          (完)

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