アラン・ムーアヘッド『恐るべき空白』 ('63、ハヤカワ文庫NV)
オーストラリア。へんな国。アボリジニとカンガルーの故郷。
奇妙さはどこから来るのか。地図を拡げて面積を比較してみよう。例えばヨーロッパあたりと。
でかい。
オーストラリア、無意味にでかい。
そして、人口密度は低そうだ。国の大半が砂漠やら平原だから。隣の人になかなか出会えなそう。でも家の庭は広い。バカな子供が迷子になるくらいに。
もと流刑地。クラスに何人か、先祖が海賊だったやつがいる。
加えて、オージービーフの大味さ加減。やはり尋常でない。
かつてこの地に赴いた探検家達は、内陸に海があるのではないかと夢想した。誰も足を踏み入れたことのない砂漠の彼方に、豊富な水を湛えたこの世の楽園があるのではないかと。
オーストラリア大陸を縦断するルートの開拓。
その探検を支えたのは、ひょんなことからあぶく銭を掴んだ奴らだった。
1850年代ヴィクトリア州バララットで発見された金鉱は、世界産出量の三分の一を占めるまでに急成長し、州都メルボルンには新興の富裕層すなわち成金野郎どもが形成されるに到った。
お陰で探検隊は空前の豪華かつ大規模なものとなったが、残念ながら現場慣れした人間がひとりもいなかった。隊の行動は支離滅裂。せっかく遥々持ってきた貴重な資材をどんどん捨てながら荷を軽くし、ひたすら先を急ぐ。なにやってんだか。
飢え。乾き。壊血病の恐怖。果てしなく続く砂漠。草木も生えない苛烈な大地。そのくせ降ればどしゃ降り、大洪水。原住民の襲撃。
それでも隊長以下3名は根性でオーストラリア北岸へと辿り着く。
やったぞ、任務を果たしたぞ、と喜び勇んで4ヶ月ぶりにベースキャンプへ戻ってくると、待っている筈の守備部隊は愛想を尽かして数時間前に撤収したばかりであった。
怒りのあまり、隊長は憤死。
残された隊員達もひとり、またひとりと倒れていく。
あぁ、誰かこのピンチを救う者はいないのか。
そこに敢然と立ち向かった男がいた。マッドマックスその人である。
(次回へつづく)
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